少女の腕には6つの依代。そして、クモンガを取り囲む6匹の神獣。
ダガーラの口から発せられる黒い渦、輝雷衝撃波。クモンガは跳んでかわすが、そこには大ウミヘビが待っていた。飛び掛る長い巨体。締め付けられ、そのまま地面に叩きつけられる。さらにマグマが牙を食い込ませた。クモンガが悲鳴を上げる。
「トドメっ!オキシジェン・アブソーバー!!」
エビラのハサミから紫の塊が地面をえぐりながら迫ってくる。クモンガはボロボロになりながらもそれを跳んで避けた。クモンガの眼下には少女の神獣軍。落下予想地点に集結している。だが、それが天啓となった。クモンガが野太い黄色の糸を網目状に形成した。
強縛・デスクロスネット!
ネットは神獣達に覆いかぶさり、身動きを封じた。ひしめき合う神獣軍。
「くっ、こんな糸!」
しかし、エビラのハサミでも、マグマの牙でも糸には切れ目ひとつできない。それを尻目にクモンガが毒針を閃かせた。それは大ダコの頭に突き刺さり、大ダコは泡を吹いて動かなくなった。更に次の獲物へ毒針を構える。しかし、突如クモンガの足が何者かに引っ張られた。それは海に潜んでいたムーバの触手だった。そのまま海中へと引きずり込まれるクモンガ。ムーバは無数に生えた触手でクモンガを叩きつける。泳げないクモンガはムーバのなすがままにいたぶられる。
(クッ、クモさ・・・モゴモゴ)
クモンガは糸を吐いて必死に抵抗した。しかし、水中ではまったくの無意味だ。ムーバがクモンガを叩き落とす。海底に没すクモンガ。眼から光が消えていく。さらに容赦なく触手を伸ばすムーバ。クモンガは空中高くまで投げ飛ばされた。もうクモンガには何の力も残っていない。砂地に横たわる。
後ろでデスクロスネットが裂ける音がした。エビラとマグマがついに切り裂いたようだ。エビラはクモンガの目の前で止まった。
「・・・・よくもここまで・・・このウジムシがあっ!」
エビラはハサミを振り上げた。恵は必死にクモンガに呼びかける。
「クモさん!クモさんっ!」
しかし、クモンガは動かなかった。動けなかった。
「クライシス・シザース!!!!!」
「!!」
恵の目の前でハサミが閃いた。


しかし、恵は突然空中に投げ飛ばされた。突然の事で、自分にも何が起こったかわからない。それは、クモンガが最後の力を振り絞ってハサミから救ったものだった。どんどん自分のいた頭から離れていく恵。そして・・・恵の目の前で、クモンガは閃光に飲まれ、真っ二つに切り裂かれた。

砂浜に転がり落ちた恵はジッと蹲ったままだった。エビラはすぐ後ろにいた。それでも、恵は動かなかった。砂が、わずかに湿っていた。
エビラはもうクライシスシザースを構えている。

初めてわかった。戦うとは常に死と隣あわせという事を。
今まで何度も戦いを見てきて、初めて今日それがわかった。
自分は馬鹿だ。いつもジンには色々言っておいて、自分は何もしてない。
私ってば、自分勝手で、馬鹿で・・・・
私は守られてばかりいた。この前も、ついさっきも。そして、自分のために、命がひとつ消えた。そう思ったとき、いつかジンも同じように消えてしまうような気がした。
そんなのは・・・・もう嫌だ。
…力がほしい。もうこんな思いをしないために。自分だけじゃなく、自分の周りの人を守る力。そんな力が、ほしい。
だが、そんなことを願っても、もう無駄だと分かった。自分は、もう死ぬ。もう自分のために死ぬ人も、いなくなる。そう思った。
その時、クモンガの体の裂け目が激しく発光した。

沖縄、石垣島。
都市は爆炎と煙に包まれていた。その中心に聳え立っているのはギドラ。そして、獅子の形相をした神獣、『キングシーサー』。
キングシーサーは威嚇するように耳をピンと立てて吼えた。
 * * * * * * * * *
「アレ・・・何?」
美穂が指差した先にあったものは、巨大な紅い塊だった。岩のような形だが、その表面はぬるぬると湿り、それに絡みつくように木の根のような管が何本も張り巡らされている。
そして、それは脈打つように鼓動していた。
「これは・・・・」
………心臓だ。だが、こんなデカイものって・・・?
そのとき、背後に気配を感じたジンはすぐさま振り向き戦闘体制をとる。
足元では、既に何者かにやられた美穂が気絶して横たわっていた。
「美穂ちゃん!」
「ほう、さすがに戦闘慣れしてるじゃないか?」
洞窟の暗闇から姿を現した男。サングラスをかけ、下から上まで黒のスーツを着ている。
「あなたはもしや・・・!?」
「ああ、禍津日さ。ついでだから教えてあげよう。俺の名は関沢新一。職業は作家、好きな食べ物は・・・・」
「あ、あの?」
「おっと、余計だったか。」
「・・・・・・」
「まさか直日もコイツを狙ってるとはな。どういう意図があってかは知らないが・・・そいつは俺たちのモンだ。」
ジンには何を言っているのか分からなかった。だが、この馬鹿でかい心臓が禍津日に渡ったら、何かまずい事になるに違いないという事ははっきりわかった。
「この心臓は絶対渡しません!」
「言うと思ったよ・・・ならば、実力行使で・・・。」
来たまえ、『狂乱獅子キングシーサー』!

* * * * * * * *

ギドラとシーサーの戦いは夜通し続いた。
キングシーサーのタックル・ブレイク。強烈な衝撃がギドラを包む。よろけているそのスキに、さらにシーサーがギドラに仕掛ける。フライング・シーサー・アタック。高高度からの鋭いキックの衝撃がギドラを突き刺し、ギドラは地面にうつぶせになって倒れた。
「・・・・うぐっ・・・・・!」
「どうやら、私の勝ちかな?」
「・・・・まだまだ・・・!」
関沢の言葉に反応してギドラは勢いよく立ち上った。
引力粉砕波!
光の壁がシーサーを飲み込む。・・やったのか?しかし、光の壁はシーサーの目の前で消えた。いや、シーサーの『眼』に吸い込まれた。
「えっ!?」
「フ・・・驚いたかね。シーサーの眼球は、ビーム攻撃を吸収し、撃ち返す事ができるのだ。それも10倍にしてだ。・・・どうだね、驚いたか?ん?ん?」
「え・・・はあ」
「フ、そうか・・・やれ、シーサー。」
プリズム眼球!
今度は自分たちを光の壁が襲う。ギドラは吹っ飛ばされ、家屋に激突する。
「今度こそおしまいだな」
「・・・・・・」
ギドラは動かない。シーサーの狂ったような歓喜の咆哮がこだまする。

「ん・・・あれ・・・・え!?」
エビラがハサミを振り下ろした時、もう死んだつもりでいた。しかし、目を開いた先の光景は、死とはかけ離れた、まったく別のものだった。立っていた。巨大な、頭の上に。
頭には、立派な角が数本そびえ、細く、長い身体が先を霞めるほどに長く続いている。恵は自分の腕を見た。覚えの無い光の腕輪がはめられている。だが、その腕輪は見覚えがあった。それは、坂本がガメラを見つけた後に見せてくれたもの。この中にはガメラがいる、と言っていた。そして、それが今、自分の腕にある。
「この子は・・・わ、私の・・・神獣・・・!?」
その神獣、『青龍=マンダ』は天を切り裂くように咆哮した。
「次から次へと・・・・!いくです、神獣達!」
少女の神獣達がマンダに飛び掛っていく。マンダはそれを舞うように避けていく。正面に大ウミヘビが立ちはだかった。二匹同時に突っ込む。交錯。絡み合う二つの巨体。しかし・・・大ウミヘビは自分を過信しすぎていた。本当ならば、今頃は敵との締め付けあいに勝っているはずだった。だが、大ウミヘビはたかだか10数メートル。それに比べ、マンダは300メートルを超えている。マンダにとって、大ウミヘビなどヘビとミミズの差だった。
バインディング・ブリーカー!
一瞬か細い悲鳴を上げて、大ウミヘビは地上へと落下していった。
今度はマグマを追う。マグマは、大ウミヘビが倒されたのを見て、すっかり逃げ腰になっている。マグマを捕らえるために地表に降り立つマンダ。そこへ、無数の触手が絡みついた。ムーバだ。海へ引きずりこまれるマンダ。そのままクモンガと同じように触手を叩きつける・・・・はずだった。しかし、マンダは恐ろしいほどに俊敏な動きでムーバに絡み付いていく。ムーバは逆に翻弄され、海中に身を沈めた。
海上に飛び出したマンダに突如飛び掛るダガーラ。マンダは間一髪身を翻し、ダガーラは海中に突っ込んだ。
「この役立たず共~!ちっ、仕方ないです。エビラ!」
鋭いハサミが構える。マンダもエビラを睨みつける。
クライシス・シザース!
閃光が、砂塵を巻いて襲い来る。だが、その滑らかで独特な動きのマンダにはかすりもしない。
マンダの体が黄金に輝きだした。エビラはクライシス・シザースを乱発するが、もはや悪あがきでしかない。マンダがエビラの至近距離まで詰め寄った。そして・・・
グリッダー・クロウ!
金色の閃光は、エビラの右バサミを切り裂いた。苦悶の表情で呻くエビラ。
「あ~もう!ここは一時退却です!エビラ、ダガーラ、マグマ!」
少女の命令と共に、三匹は海中へと身を滑らせた。
「・・・・・・終わった・・・・はあ」
戦闘の後の静寂が訪れた。恵はため息をつきへたへたと座り込んだ。
(私の・・・・神獣・・・)
正直いまでも驚いている。自分が戦うなんて、考えてもみなかった。ただ呆然とマンダを見つめる。見れば見るほど信じられない気持ちがこみ上げてくる。それ以上に生きている事が信じられない。彼らがいなければ、今頃は・・・・
「はっ!そうだ、クモさんは!?」
クモンガは、頭から胴にかけてぱっくりと割れ、ぐったりと砂浜に横たわっている。
「・・・・・・・・」
恵は下を向いた。しばらくの沈黙。お人よしのクモ、クモンガ。理由は分からないけど、この怪獣がいなければ、マンダに出会うこともなく死んでいたに違いない。
恵の足元に、雨が降った。
そこへ、マンダが恵を鼻先で静かにつついた。そして、苗かけるようにやさしく吼えた。
「・・・・・マンダ・・・・」
目の前でマンダが歪んで見える。恵はさっと後ろを向いて目をふいた。
…そして、微笑んだ。
「・・・・さ、帰ろっか。」
マンダも表情が和らいだ。そして、再び天に向かって吼えたのだった。


「関沢・・・・うまいことやってくれたようだな・・・。」
洞窟の出口で、芹沢はつぶやいた。目の前にはしっかりと鼓動を打っている心臓がある。
「…肉体なしでも生きているとは・・・さすが、破壊神の名だけはある。」
すると、芹沢は胸に着けた勾玉をかざした。勾玉は漆黒の光を発し、それは心臓の周りを取り巻いていく。
「水爆と怨念の肉体、我らの集めた怨霊で甦るがいい。」
それは、今までジラやデストロイアなどが殺した人々の魂だった。怨霊はだんだん心臓の周りで形となっていく。長く、強靭な尾。太い足、整然と並ぶ鋭い歯、爪、背中に生える背鰭。恨みを込めたような白い眼。そして爬虫類を超越したような姿。
「・・・・・・これが・・・・」
重々しい咆哮。それはすべてを押しつぶしそうなほど低い唸りを上げた。その魔獣のような姿は、ゆっくりと首を動かし、見るものすべてを睨みつける。まるで、この世界そのものを憎むかのように。
「・・・・ゴジラ・・・・・ゴジラ・・・・」
グウオアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン! 

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最終更新:2007年05月06日 21:50