穏やかな沖縄の青空に、一瞬眩い閃光が走った。
「今、何か光ったか?」
「日の光が、反射したんだろ」
一人の漁師の問いに、もう一人の漁師がつまらなさそうに答えた。いや、絶対何か光ったと言い張る漁師は、一生懸命に晴れ晴れとした青空を覗き込んでいる。

――――――沖縄上空
青空の中で、何かが動いた。鳥?いや違う。どこまでも続いているような長い胴体、そびえる角。その姿はまさしく竜を思わせた。だが、それだけではない。その竜=マンダと交錯する紅い影。血で染め上げたようなたくましい胴、四股から生える鋭利で、尚且つ巨大な翼。金色に輝く角。そして、太く長大で、さらに先端がハサミのように二つに分かれている。それは・・・悪魔だった。
「何なの、この神獣!」
マンダの頭上で恵は叫んだ。何度もぶつかり合う両神獣。その度、閃光が青空に浮かんでいく。
「ふ・・・ゴジラから溢れ出る怨念が、我が神獣をも変化させるとはな。・・・この竜は腕試しに丁度いい。行け、デストロイア!!」
その悪魔――――デストロイアは狂気の咆哮を上げた。


勝っていたはずだった。さっきまでは誰一人として勝利を疑っていなかった。それなのに・・・
「こちら第四メーサー部隊!本部、これ以上の戦闘は不可能です!撤退め」
言い終わる前に兵士は青白い光に飲まれた。
熱線砲の光がゴジラの胸に突き刺さる。しかし、ゴジラは平然とした表情で歩き続ける。さらにメーサー殺獣光戦車の攻撃。その攻撃に、ゴジラは動きを止めた。そして、凍りつくような眼差しで睨み付けた。兵士達は一瞬で体が動かなくなる。ゴジラは放射熱線でその部隊を瞬時に灰にした。炎が大地を包み込んでいく。その中で、消滅していく命。もはや戦場はパニックに陥っていた。空から呆然と立ち尽くす黒木たちは、この光景に絶句した。
「・・・・・・・。」
立花も立ち尽くしていた。もうゴジラは、二年前とは比にならない強さだったのだ。モニターの中では兵士達が逃げまとっている。火ダルマになっている者、潰された者、尻尾になぎ払われた者、爆発に消えた者・・・そこはまさに地獄だった。その炎のなかで、破壊神は天に向かって深く、唸るように吼えた。空虚な瞳が、月に照らし出される。
「あんなヤツ・・・・止められんのかよ!」
青木はパネルをドンと叩いた。

その時だった。黒い破壊神の前に、二つの巨体が立ち塞がった。破壊神はそれを静かに睨み付ける。二つの巨体。それはジェットジャガーとメカニコングだった。コングは威嚇するように鋼の胸を叩く。ジャガーはゴジラに向かって拳を構えた。ゴジラは動じる事もなく放射熱線を放つ。青白い光に包まれる二体。しかし、その鋼鉄の鎧には傷ひとつついていない。ジャガーが大地をゆらしながら突撃する。そしてとび蹴りを繰り出した。ゴジラはそれを尻尾で打ち返す。今度はコングの胸部に取り付けられた「フルメタル・ミサイル」が火を吹く。厚さ60センチの鉄板三つを貫く威力があるこのミサイルは、ゴジラの皮膚も見事に貫いた。初めて苦渋の表情を見せるゴジラ。さらにジャガーの回し蹴りが顔面に直撃し、ゴジラは硬い大地に叩きつけられた。それだけに留まらず、ジャガーはゴジラの尻尾を掴み、大きく振り回した。ジャイアントスイングだ。落ちたゴジラが地面を大きく揺らす。二体はトドメにかかった。コングのフルメタルミサイルが次々ゴジラに突き刺さる。ジャガーは両手をかざし、緑の熱線を発射した。爆煙に包まれるゴジラ。
「すごい・・・。」
黒木さえも思わず口にした。
炎が燃え盛る中、ジャガーとコングの機体がかすかに煌めきをみせた。

二人は廃墟の前で立ち尽くしていた。もはやそれはビルとしての原型を留めていない。唯一、『赤イ竹』と書かれたネオンの看板が転がっている事が、ここがあのホテルだとわからせた。
「・・・・・ひどい」
このビルだけではない。もはや沖縄は、どこも廃墟以外何もなかった。とりあえず二人は廃墟の周りを歩いた。どこまで行っても折れた鉄筋と崩れたコンクリートの壁。皆、この瓦礫の下敷きになってしまったんだろうか・・・?
だが、そんな二人の前に、人の群れが見えてきた。どうやら、辛うじて外に逃げ出したようだ。二人は少しホッとして、その人群れに入った。

青白い閃光が、メカニコングを吹き飛ばした。爆煙から姿を現す黒い体。破壊神はまだ生きていたのだ。怒ったメカニコングは起き上がるとブーストでゴジラに急接近する。コングのナックル攻撃。連続で放たれる打撃がゴジラの胸部へ叩き込まれていく。しかし、ゴジラはひるみもせず立っている。そしてメカニコングの顔に爪を突き立てた。コングのカメラアイが砕け、内部がむき出しになる。コングの動きが止まった。ゴジラの放射熱線。その閃光がコングを内側から爆発させていく。鉄塊がゆっくりと崩れた。
ジェットジャガーは緑の光線を放った。だが、その光線の照準は定まっていない。もはやパニックに陥っていた。ゴジラはゆっくりと近づくと、ジャガーの頭を掴んだ。もがき、喘ぐジャガー。ゴジラはジャガーの頭をねじ切った。
「最新兵器までも・・・なんて事だ。」
立花が静かに言った。残ったのはスーパーX、SXⅡ、ガルーダだけだった。


戦場にはまだ青白い閃光は消えていなかった。
「ちっ、いいかげんしぶとい野郎だ!」
「落ち着け青木。三機の攻撃を一点に集中しろ。それでヤツの強固な皮膚を破る!」
「了解!」
ガルーダ、スーパーX、スーパーXⅡはゴジラの正面に立つ。ゴジラは目の前の敵に激しく咆哮する。さらに放射熱線で邪魔な物を消し去ろうとするとする。だが、ファイアーミラーがそれを防いだ。しかし、ファイアーミラーも稼動に限界が来ていた。予想以上に強力な放射熱線にミラーが耐え切れないのだ。
「一気にケリをつけるぞ!!」
その戦場に現存するすべての砲塔が、黒い巨体に向いた。
「一斉攻撃!」
ガルーダの高出力メーサー、スーパーX、スーパーXⅡのカドミウム弾、バルカン砲が同時に火を吹いた。そして、ゴジラの腹部に殺到していく。悲痛な叫びと同時に、戦場すべてが爆煙に包まれた。砂塵と共に巻き上げられていく無数の残骸、兵士達の屍。そして、それは立花に迫っていく。
「・・・・・大和聖獣達よ。私はこの光景を、忘れはしない・・・決して」
散っていった命達を見据えながら、立花は敬礼した。そして、立花は黒い炎に飲まれた――――。

神獣達の戦う空よりも遥か遠くのそら。
音もないその空間で、不気味にうごめくものは静かに、その時を待っていた・・・・・。

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最終更新:2007年05月06日 21:52