暗闇の中、僕の目の前に七色に輝く光源が現れた。それは、ゆっくりと近づき、目の前でなんと・・・・鳥の形に変わっていった。
「な、何だ・・・?」
「失礼します、コウリュウ使いの樋室ジン様」
「うおわっ、しゃ、喋った!?」
ジンは驚きのあまり、ビクッとして後ずさった。神獣使いになってから、大概のことでは驚かなくなったジンだが、これはさすがに驚くほかない。その鳥はそんな様子のジンなどおかまいなしに話を続ける。
「私の名はアマノシラトリ。神像世界の神、ウツノイクサガミ様の使いでやって参りました」
「え、は、はあ・・」
「あなた様のこれまでのご活躍に、ウツノイクサガミ様は大変感心なさっております。そこでこの私、アマノシラトリを是非ともあなた様のコウリュウの『護神獣』として仕えさせたいとの思し召しでございます」
「あの・・・ご、ゴシ・・・何ですって?」
「『護神獣』でございます。おや、ご存知ありませんか?」
「え、はい・・・」
「そうですか・・・では、簡単にご説明いたしましょう。所でこれまでで、二体以上の神獣をお使いになっていた方を見たことはございますか?」
突然言われ、これまでの戦いを鮮明に頭の中でたどっていくジン。そして、その結果。
「いや・・・いなかったと思うけど」
「そうですか。まあそのような方はあまり多くはないので仕方がないでしょう。つまり、神獣には直日、禍津日とは別に、二つの分け方があるのです。ひとつは主神獣。これは使いの最も信頼している神獣、たとえばあなた様でいうギドラが該当します。もうひとつは先ほど言った護神獣。これは主神獣、並びに使いの方を御守りする、いわば護衛の役割を担う神獣です。まあ必ずしも、二体目以降が護神獣というわけではないのですけど。・・・ご理解頂けましたか?」
「・・・・・・・・・・」
最初のときの恵さんほどではないが、僕は目が点になった。
「・・・・・・・あの?」
「・・・・!あ、ああうん、わかったわかった!・・・・・なんとなく」
「そうですか。では、これより先、私はあなた様の護神獣。何なりとご命令を申し付けください」
アマノシラトリのその言葉が終わったと同時に、不意にジンの視界は暗闇から解き放たれ、体の自由が戻ってきた。それと同時に、ギドラは勢いよく起き上がった。
「な、何だと!?まだ生きていたのか!」
完全に勝利を確信していた関沢が、驚愕の声を漏らす。
「勝負は・・・これからだ!」
ジンが叫ぶと同時に、ギドラの咆哮が空を揺るがした。そこには、ついさっきまでジンと話していたアマノシラトリの姿もあった。

振り下ろされる巨大なハサミを、コングが受け止める。エビラは、気力を振り絞るように咆哮しそのハサミに更に力を入れる。コングが押された。地面に倒れこむ。ここぞとばかりに左バサミをコングの喉元に突きつけるエビラ。
「私の勝ちです・・・・・真船さんの事はあきらめて、おとなしく帰ってください」
「・・・・・・そいつはどうかな」
「・・・・・・・・?」
その時、一瞬後ろから咆哮が聞こえたかと思うと、エビラは遥かビル街まで吹っ飛ばされた。崩れるビル郡。エビラはそれにあっという間に飲まれた。
「いやー、危ない危ない。」
キングコングは無事なことを見せ付けるかのように悠々と立ち上がる。そしてその隣には、エビラを吹っ飛ばした張本人―――ゴロザウルスが立っていた。
瓦礫を振り払い、よろよろと起き上がるエビラ。
「ご、ゴロザウルス!?・・・という事は・・・」
雫はバッと振り返る。二体が闘っていた戦場。そこには、突っ伏したまま動かないジラの姿があった。
「・・・・・・・!!」
声もなく、ただ驚くだけの雫。
「あんなイグアナごときに負けるゴロザウルスではない。さて・・・次はお前の番だ」
儀礼の消えた深い声で、古江は雫を指した。それと共に力強く咆えるキングコングとゴロザウルス。
「・・・・・・・・・・・」
しばらくして、雫はゆっくりと古江へ向き直った。そして、静かに睨みつける。その瞳には、輝く何かがあったという。
「依代展開!海底魔獣ダガーラ、氷河獣マグマ!!」
エビラの両サイドに、光が集まっていく。その光景は、まさに神秘的だった。
「ふ、数を揃えた所で、所詮敵ではない。行け、キングコング、ゴロザウルス!」
古江の言葉に、始めの頃の少しふざけた様な色はなくなっていた。そして・・・・
―――――二人の最期の闘いが、始まった。
コング、ゴロが地を揺らしながら走る。迫る二匹に対し、ダガーラは輝雷衝撃波を放った。しかし、二匹は軽やかにかわす。それと同時にエビラとマグマが突っ込んだ。エビラがゴロザウルスに、マグマがキングコングと衝突する。マグマがコングに噛み付く。唯一にして最大の武器であるその長く鋭い牙は、コングの皮膚を易々と貫いた。もがき苦しむコング。だが、倒れるにはまだ早い。コングはマグマの牙を手にとると、渾身の力を込めてそれをへし折った。一気にのけぞるマグマ。さらにコングは、その折った牙の片割れをマグマの眼に思い切り突き刺した。マグマの張り裂けるような絶叫がこだまする。そこにダガーラが割ってはいった。お構いなしに突っ込むコングに、噴射毒撃波で応戦する。黒い光の奔流が、コングの胸にヒットし、コングは仰向けで倒れこんだ。
ダガーラはマグマの傍へと歩み寄った。マグマは苦しみの声をあげながら横たわっている。眼からはどす黒い血が流れ続け、その姿はとても痛々しいものだった。それを見たダガーラはマグマの眼を優しく舐めた。マグマがか細い鳴き声を立てる。それに呼応するように、ダガーラも小さく鳴いた。

一方エビラの方もまた、苦戦を強いられていた。クライシスシザースはことごとく空を切り、オキシジェン・アブソーバーもビルを溶かすだけだ。スピードがまるで違う。
「まるで狙いが定まらない・・・・一体どうすれば・・・。・・・・・・・・!」
後ろからのカンガルーキック。いつの間に回りこんだのだろうか?
「きゃあっ!!」
エビラが倒れこむ。そこへ更にゴロザウルスは追い討ちをかける。脚で腹を蹴り上げて仰向けにすると、エビラの武器でもある左ハサミに噛み付き、そして・・・引きちぎった。エビラの苦しむ姿が、雫の瞳に映り、焼き付けられる。
「エビラーっ!」
ゴロザウルスは左ハサミを吐き捨てると、エビラの目の前まで歩み寄った。ゴロの顔が、雫の眼前まで迫る。ゴロの表情は、まるで幽鬼のようだ。だが、すぐにエビラの右ハサミがゴロとの距離を創ってくれた。ゴロが後ずさったのと同時に一気に起き上がるエビラ。
「エビラ・・・・大丈夫?」
エビラは頷いた。そして、再びゴロザウルスへ向かっていく。たとえ片手を失おうとも主人を守る。その想いだけが、エビラの体を突き動かしていた。そして、その想いが通じたかのように、クライシスシザースはゴロザウルスの尾を切り裂いた。ゴロザウルスの声が上擦る。そしてゴロザウルスがひるんだその瞬間こそ、最大のチャンスだった。
「オキシジェン・アブソーバー!!」
エビラのハサミに紫色の塊が形成される。そしてそれは、ゴロザウルスに向かって一直線に進んでいった。しかし、勢いが弱々しい。片手を失ったために、生成されるミクロ・オキシゲンが半減し、威力を弱めてしまっていた。
「お願い・・・・届いて!」
少女は祈るような思いで、その光景を見つめていた。

巨体が横たわっていた。だが、キングコングではない。マグマだ。さらに蹴られたためにさっきと場所は違う。ダガーラはマグマを守るように輝雷衝撃波を撃ち込み続けた。しかし、キングコングにはもはや当たらない。完全に見切られている。コングが一気にダガーラの目の前まで近づく。そしてアッパーを浴びせた。のけぞるダガーラ。更に顔面にハンマーフィストを叩き込む。ダガーラは地面にめり込んだ。しかし、それでもまだ終わらない。コングはダガーラの尻尾を引きずり出して掴むと、勢いよく振り回した。ジャイアントスイング。ダガーラは意識が飛びそうだ。だが、立ち上がろうとするダガーラに今度は背中から馬乗り。再び地面に伏す。そしてダガーラの背を殴り続ける。満身創痍のダガーラ。
「他愛無いなあ!このデクノボー!」
勝ち誇るコングと古江。その時、ダガーラの水棲生物特有の背びれが赤く発光し、キングコングを吹き飛ばした。それはダガーラの『縦列毒撃砲弾』。背びれに毒素を溜め込み、潜水艦の対空ミサイルのように一気に放出する技だ。吹き飛ばされたコングはうつぶせのまま動かなくなった。
 ダガーラは、弱りきった自分の体を引きずりながらマグマの元へ歩み寄る。マグマは眼を閉じたままグッタリと横になっている。ダガーラは鼻先で体をつついた。だが・・・・その体は、完全に凍り付いていた。何度ゆすっても、その体は微動だにしない。そして、マグマの体は徐々に崩れていく。光の粒子を空に振り撒きながら。それは雪のように、綺麗で、切なかった。それもまただんだんと消えていく。だが、ダガーラは空を見つめ続けていた。その空が暗闇に戻ったその後も、動くことなく。ダガーラの視線には、虚空の空がゆらゆらと歪んだまま浮かんでいた。
――――――ダガーラが小さく、ないた

その時突如、それまで全く動かなかったキングコングがバッと起き上がった。この世のものとは思えない、恨みがましい表情でダガーラを睨みつける。それに気づいたダガーラは慌てて身構えるが、先ほどの縦列毒撃砲弾で力を消耗してしまったせいで思うように体が動かない。
「よくも僕をコケにしてくれたな・・・この罪は重いぞ・・・・・」
ゆっくりと迫ってくるコング。
「仲良く消えな!このくたばり損ないの魚野郎!」
コングが拳を振り上げた。ダガーラは死を覚悟する他なかった。
―――だが、コングの動きが止まった。そして刹那、閃光が走ったかと思うと、キングコングは左肩と右足の付け根の対角線に沿ってぱっくりと引き裂かれた。その時ダガーラが見たものは、コングの裂け目の間から視界に現れたエビラと雫、そして白骨と化したゴロザウルスだった。
ゆっくりと、ふたつになった巨体は崩れていった。

彼らの闘いが終わった同時刻。
「こちらスピップ号、谷原!誰か応答してくれ!―――おい、誰か!」
「こちら管制室、なにかあったのか?」
谷原の声は完全に引っくり返っていた。一体何が起こったというのだろうか?
「スピップ号の表面に謎の・・・・・・・」
「・・・・・スピップ号応答せよ。・・スピップ号!」
そこから聞こえたのはなにかがうねるような奇妙な音。そして・・・通信は終わった。

――――それはついに、すぐ近くまで来ていた・・・。

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最終更新:2007年05月06日 21:54