第九話

隼人「さ~て、帰ろ帰ろ。」

そう隼人がいうとプール掃除を終えた少尉たちは、ぞろぞろと水中訓練場から出て行った。その中に一人だけ、伊織が取り残される。

伊織「・・・・後片付けは・・・・・!?(静かな怒り)」

伊織はしぶしぶ、室内に散乱したデッキブラシやたわしを片付け始めた。


―――東京湾

そこはもう既に地獄と化していた。立花兵の大量の屍が地面を覆い尽くす。戦車などの兵器も相手に切り裂かれ、使い物にならなくなっている。生き残っていたのは指揮官と指揮官補佐、数人の兵だけであった。

立花「くそ、援軍はまだか!」
広瀬「M機関に連絡はしてあります。もう少し頑張りましょう准将。」

この二人は立花准将(たちばなじゅんしょう)に広瀬中佐(ひろせちゅうさ)だ。2001年にはゴジラ攻撃隊の指揮官的存在として活躍した。前述してあるように、立花防衛軍は地球防衛軍の主力である。その部隊を壊滅させた敵とは・・・・?

広瀬「塵も積もれば山になる・・・・とはこのことですね。」
立花「・・・そうだな。数匹なら楽勝なんだが・・・。」

二人はそう言うと前方に視線を向ける。そこには東京湾上空を埋め尽くすほどの大量のカマキリが飛んでいた。「カマキラス」である。

立花「しかし、前に出現したよりも小型だな。数多とはいえ、あの体型でここまでの被害を出すとは・・・!」
広瀬「でもおかしいですよね?カマキラスはかつて数回出現し、全てが死亡しています。死んだはずの怪獣がどうして・・・・!?」
立花「憶測は無用だ。黙って目の前の敵を討て。今はそれしかできん。」

――東京湾付近

成宮「あっ!あれはなんだ!?」
北原「?・・・あっ・・・!」

成宮の指が指した方向には大量の小カマキラスとそれを応戦する立花たちの姿であった。

北原「急ぎましょ!」

そう北原奈菜が言うと二人は一気に飛躍した。地獄から数十m離れた地点から、たった一度のジャンプで地獄に降り立った。

成宮「・・・ふう、オレたちもまだまだ現役だな。」
立花「む、援軍か。」
広瀬「助かりました。さぁ、我が軍とともに敵を討ちましょう。」
北原「なるほど、これだけの数じゃいくら小型カマキラスでも一軍勢で撃波するのは難しいかもね・・・。」
成宮「立花准将、広瀬中佐、あなた方はそこで見ていてください。もう満足に戦えそうにないので。」
広瀬「無茶だ!二人だけであの数をやれると思っているのですか!?どうみたって1000はいます!我々も残った軍勢で戦います!」
成宮「甘く見てもらっては困ります。それに今のあなた方が支援しようとしたところで、逆に足手まといです。」
広瀬「・・・しかしですね!」

怒る広瀬の肩に立花准将の手が乗ってきた。思わずはっとする。

立花「二人を信じろ。それに・・・・」

立花は視線を成宮と北原に向ける。

立花「・・・ミュータントというのは、我々普通の人間のように簡単にはくたばらん。」

力強く広瀬に言った立花。確かにミュータントは素手で怪獣と戦えるほどの体の強固さを持っている。さらに言うならこの二名は、M機関の中尉の中でも群を抜く戦闘力を誇っている。小型のカマキラスの攻撃程度では死ぬことはないだろう。

成宮「攻撃を開始する。・・・いけるか?奈菜。」
北原「いつでもOK!」

背中合わせの二人。カマキラスの大群も二人に気付き、次々と地面に着陸してくる。成宮と北原は今、完全にカマキラス大群の円陣の中にいた。完全包囲されている。しかし、二人の表情は何一つ変らない。それどころか、口元にわずかに笑みを浮かべていた。

成宮「・・・行くぞ!」
北原「うん!」

背中合わせの状態からそれぞれ向いていた方向にいたカマキラスの大群の中に潜り込む。
一匹のカマキラスが、成宮に向かってカマを振る。成宮はそれを腕のアーマーで受け止めると飛躍。そのカマキラスの顔面に飛び蹴りを叩き込む。細々した鳴き声を発しながら吹っ飛ぶカマキラスのカマが別のカマキラスの頭部に突き刺さり、頭を蹴られた一匹とカマが頭に刺さった二匹は地に伏せ動かなくなった。さらに腰のメーサー小銃で一匹のカマキラスを狙う成宮。トリガーを引くと閃光が放たれた。最初に狙ったカマキラスを貫き、閃光はその後ろにいた5・6匹を一気に貫いた。メーサー銃の餌食となった七匹も死亡。

成宮「思い上がるな、『虫』風情が・・・!」

一方の北原の武勇も見事なものだ。装備している二丁のメーサー小銃を巧みに操り、確実に数を減らしていく。するとその時、二匹のカマキラスが北原を腕の槍を閃かせ、挟み撃ちにしようとする。しかし北原はその場にしゃがみこむ。目標を失った二本の槍は、互いの体を貫き合った。その二匹は瞬時に息絶えた。さらに後ろから迫ってきた一匹を後ろ回し蹴りで蹴りつける。吹っ飛んだ一匹はそのまた後ろにいた大群に突っ込み、まるでドミノのように次々とカマキラスが倒れていく。

北原「槍の使い方、教えてあげよっか。・・・な~んて♪」
成宮「よし、その調子だ。」

すると東京湾の海面が突如、弾ける。思わず視線を向ける成宮と北原。そこにいたのは、燃えるような真っ赤な眼球。頭には角(?)。巨大な二枚の翼。両腕にはハサミ。尾には鋭く尖った突起物。今まで水中に身を潜めていた『メカギラス』はなにを手こずってるんだとばかりに、甲高い咆哮を辺りに轟かせた。

北原「・・・メ・・・メカギラス・・・!?なんで?2000年に倒されたはず・・・!」
成宮「・・・今頃、真打登場ってわけか。・・・上等だぜ・・・!」


―――M機関:任務司令室

熊坂「今回の君たちの任務は少尉の任務としては遂行難易度Aランクと言ってもよかろう。」
優馬「・・・そ・・・そんなにすごいんですか?」
熊坂「ああ。現場は東京湾。現在、小型カマキラスの大群+メカギラス一匹を立花防衛軍&成宮和村・北原奈菜が応戦している。」
沙織「・・・二人が!?」
熊坂「うむ。しかし立花防衛軍はほぼ壊滅。成宮と北原は奮戦中だ。しかし敵には大型獣が一匹。このままでは、成宮と北原も危ない。そこできみたちに・・・」
隼人「救援しに行けって言うんだろ?」
熊坂「・・・その通り。」
隼人「へっ、上等。戦いは相手が強いほど燃えるぜ。」

右手の平に左手の拳を打ちつけ、隼人は戦闘準備万端である。それに続き、優馬も背中のマスターソードの柄を握り締める。沙織もガトリング・メーサーガンを肩に置く形で構えた。

熊坂「よし、では出発してくれ。東京湾はここからそう遠くはない。急いで救援に向かうんだ!」
三人「了解!!!」


―――東京湾

成宮「・・・ちっ、速いな。」

メカギラスの戦闘力の中で突出して性能が良い「スピード」に二名は苦戦を強いられていた。中尉NO.1の成宮のパンチやキックは空を切るばかりで、メーサー小銃二丁の達人・北原の腕前もメカギラスのスピードの前では無力と化していた。すると次の瞬間、猛スピードでメカギラスが北原の背後に回りこむ。はっとする北原。振り向いて対処しようと思った刹那、メカギラスのハサミが北原の体を殴りつける。たまらず北原は吹っ飛び、東京湾の海面に叩きつけられた。

北原「・・・げほっ!」
成宮「北原!・・・・ぐっ!」

続いてメカギラスは尾で成宮を捕まえ上昇。そして地上数十mの地点から思い切り成宮を地面に向かって投げつける。土煙にしばらく包まれ、晴れた時には成宮は地面にめり込んで気を失っていた。メカギラスはまたも甲高い咆哮を轟かす。


―――目的地周辺

沙織「・・・!・・・今の声、聞いた?二人とも。」
優馬・隼人「この耳でしかと!」
沙織「まずい。成宮さんと北原さんの気力が、消えかかっているのがなんとなく分かる・・・!」
隼人「・・・!?マジかよ。・・・あの二人がやられたってのか?」
優馬「成宮さんたちから離れていていても、その実力を知らせてるかのようにいるとなんとなく空気が重いんだけど今はそれを全然感じない。」
隼人「・・・・!・・・急ぐぜ。このまま死なせてたまるかよ!」

三人はさらに足を速めた。
最終更新:2007年09月27日 20:04