2002年、横浜にゴジラ出現、
バラゴン、モスラ、キングギドラと死闘を繰り広げた後、三聖獣は封印、ゴジラは水中に没した。
その当時、ニュースでも大きく取り上げられて、僕の周りでも随分と話題になったけど、僕のいる愛知にはさほど実感もなく、世間からもこの事件はすぐに忘れられていった。
「おい、ジン!早くしろっ!」
「ああ、今行く。」
僕は樋室神(ヒムロジン)。中三で、部活はやってない。周りの奴らは小さいのがショウで、背が高いのがダイ、自分が一番中野(ナカノ)、吹奏楽の天野恵さん(テンノメグミ)と美穂(ミホ)ちゃん。特に美麗で成績バツグンな恵さんは僕の憧れの人。普段はこんなメンバーでつるんでる。
「最近ヒマだな~」
「受験生がヒマとか言うなって」
「勉強はツマラン!!」
「恵、勉強やってる?」
「ん~、部活のほう忙しいから、あんまり・・・」
「ミホちゃんは?」
「え、ちょっとだけ。昨日は教科書の索引作ったけど・・・そのくらいかなー」
(なんスか、それ?)
僕はいま、進路に困っている。これといってやりたい事もないし、成績も中の下。何とかしたいと思っても、いつも後回し。・・・これからどうなるのだろうか。はっきり言って自分の未来など全く想像できなかった。
「じゃあ、また明日な、ジン」
「あ、おう」
僕の家だけ皆とは方向が違う。僕は手を振った。みんなはどんどん小さくなって地面と空の間に消えた。
「あーあ、どうしようかなあ、進路・・・」
――――この日も、何事もなく過ぎていく・・・はずだった。
「立花准将!」
「どうしたー、広瀬二尉。」
立花准将。2年前の横浜でゴジラ迎撃作戦の指揮を執った男。少し前までは英雄と呼ばれていたが、世間の目が薄れていったためか、仕事さえ少なくなっていた。
「大変なんですよ!」
「なんだ、うちの娘にコレでもできたか?」
立花は小指をピンと立てた。ちなみに娘は由里というニュース番組『デジタルQ』のキャスターである。
「そんなんじゃないですよ!今日、名古屋市で巨大な生物反応が確認されたらしいです!」
「ほう・・・な、なんだとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
立花はソファから跳ね起きた。
家まであと数百メートルというところで、近くの家のテレビだろうか、少し割れた声のニュースが聞こえた。
「こんにちは、『デジタルQ』の立花です。今日未明、愛知県名古屋市内で巨大生物の生体反応が確認されました。これにより日本政府は急遽自衛隊をイラクから帰国させ、今後の生物対策を発表しました。・・・・・」
――――――――巨大生物?なんだ、それ?・・・・ああ、そういえば昔、横浜で巨大生物が出現したとかなんとかで騒がれた事もあったっけ。ふーん、また出たんだー。名古屋市かー・・・ってここか!?ジンは慌ててあたりを見回した。・・・しかし、もちろんあい変わらず静かな街並み。巨大生物のキョの字も見当たらない。そりゃそうだ。そう都合よく現れるわけが・・・
しかし、数十メートル先で異変が起こった。地震でも全く揺らぐ事がなかった巨木が
ジンの目の前で音を立てて地に伏したのだ。そして、その先にいたものは・・・。
「も、もしかしてもしかすると・・・」
2メートルほどの大きな体、大きな眼、六本の足、異形の口。そしてカマ。・・・・・古代昆虫、メガヌロンだった。
「で、出たーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
総毛が逆立った。猛スピードで来た道を逆走する。
(ヤゴが、でかいヤゴが!なんだ、あれは!やばいよ、殺られる!)
無我夢中で走った。途中で足がもつれそうになっても踏みこらえた。さっき恵さん達と別れたところまで来た。後ろには・・・・いない。意外とあっさり捲いたらしい。
(とりあえず別の道から・・・・)
しかし、前を向いたジンの目の前にはさっきまで後ろにいたはずのヤゴが!
「だあああ!いつの間にい!」
ジンは闇雲にそこらにあった石やら枝やらを投げつけまくった。しかし、・・・
メガヌロンが飛び掛った。
ああ、死んだな、多分。くそ、まだ20歳にもなってないのに・・・まだ早いだろ・・・。ちっ、もうちょいましな人生送ればよかった・・・
…あれ?死んでない、のか?
おそるおそる目を開くと、メガヌロンは消えていた。いつの間に?いや、消えたんじゃない。これは・・・・・
代わりに目の前にいたのは、日光さえ塞ぐほどの大きな体つきをした生物だった。デカ耳に角、鋭い牙。体長は何十メートルもある。僕の直感からすると・・・多分ヤゴは喰われた。でなきゃ一瞬で消えたりしない。そして・・・僕は今、かなりやばい状況にいるんじゃないか?
……しかし、逃げようとした僕に意外なモノが『降りかかってきた』。
「君い、大丈夫だった?」
……言葉だ。この馬鹿でかいのが喋った?それも日本語?いや、この際何語かはどうだっていい。なんだこいつ!どうなってんだ?
あ、いやよく見ると・・・・・ヒト、人だ。頭の上に。
その人は生物の頭の上からひょいと飛び降りた。
「怪我はなかった?」
「え、あ、はい・・・」
「そう、なら良かった。」
「あ、あの・・・」
ジンは頭上を仰ぎ見ながら言った。
「ああ、大丈夫、こいつは君を襲ったりしないよ。」
「ほ・・・本当ですか?」
「ん、本当。」
ジンはホッとした。あの光る角は見ているだけでも痛さが伝わってくる。
「じゃ、俺はそろそろ行くから。他のヒトに見つかるとマズイんでね。」
生物は一度吼えてから地面を掻き毟って地中に消えた。
「あ、あの!」
「ん?」
「・・・・・・ありがとう・・・・ございました・・・・。」
「・・・・・・。お礼ならあいつにいいなよ」
「こんばんは、『デジタルQ』の立花です。今日午後4時ごろ、愛知県名古屋市内にヤゴのような巨大生物が現れ、3人が死亡、6人が怪我をしました。これにより政府は名古屋市全体に非難命令を出し、自衛隊を派遣しました。・・・・・・・・」
その夜、街を巨大なトンボが覆った。
「撃てーっ!」
自衛隊の機関銃が火を連ねる。しかし、トンボはすばやくかわす。
「くそっ、なんてスピードだ!」
「三宅隊長、敵の数が多すぎます!ここはいったん引いた方が・・・」
その時、隊員がトンボの尾に刺された。その隊員は一瞬で血の気が引いた。
「うわあーーーーーーーーっ!」
「猪原っ!くそ、撤退するぞ!」
さらに巨大トンボは逃げ遅れた住民を次々と突き刺した。
その中にはジンもいた。避難命令にも気づかず、気づいた時にはだれもいなかった。さらに親は海外出張中で、ますます気づく事ができなかったのだ。トンボの飛び交う中を突っ切るジン。幸い気づかれてはいないらしい。
「今日は災難日みたいだ。・・・・ん?」
その時ジンの視界がすぐ脇の公園にそれた。どうやらトンボの拠点らしい。たくさんのトンボが詰め寄っている。そこのすぐ近く、トイレ内に誰か隠れている。あれは、見覚えがあるぞ。いや、いつも見てる。・・・・・・恵さんだ。なんであんなところに?それは分からないけど、あんな所にいたらトンボのエジキになっちまう!ジンは後先考えずトンボの中を突っ走った。
「恵さん!」
「じ、ジン君!来ちゃダメっ!」
僕は飛び交うトンボの下を無我夢中でかいくぐった。僕がトンボに気づかれず恵さんのところにたどり着けたのは運が良かったからだと思う。
「大丈夫?恵さん!」
「ジン君、なんて無茶を・・・」
「そんなことより、今は早くここを離れよう!」
だが、出口に向かった途端、トンボが眼前に飛び出してきた。もしやワナだったのか?
(頭のいい奴らめ・・・)
僕は中にあったモップやらなにやらを振り回して出口にわずかな隙間をつくろうとした。
トンボがわずかにひるんだ。今だあっ!僕は恵さんをひっぱって外に出た。出てきたと同時に今ここにいる全てのトンボがこちらを向いた。しかも完全に囲まれている。これはどうにも抵抗のしようがない。トンボがダイブした。だめだ、殺られるっ!
しかし、突如目の前の地表が砕けた!そしてトンボ群を吹き飛ばした。目の前の光景に唖然とする二人。だが、ジンにはなんとなく何が起こったかわかった。今日の昼間も同じ事があったからだ。そして確かに、あの時のデカ耳と角の巨大生物は眼前にいた。
「君たち大丈夫?」
「あ、昼間の・・・。」
「あ、君かあ、いやあ、災難続きだったねまったく。」
「あ・・・まあ。・・・・じゃなくって、何であなたがここに!?」
「ん、一応駆除にきたんだけど。」
「駆除って・・・・大体何者ですか、あなた?」
「あれ、前言わなかった?」
「言ってません!」
「えっ・・?」
(いや「えっ・・?」って・・・)
「っと、それどころじゃなかった。君は、はやくその子と安全なところに!」
「わかりました。行こう、恵さん。・・・・恵さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・あのー・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「もしもーし?」
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ!」
どうやら今まで気を失っていたらしい。カンゼンにどっかいっちゃってたな、この人。
「バラゴン!」
地中から現れた生物―――――――バラゴンは男の呼びかけと共に咆哮した。
再びトンボがバラゴンの周りを囲む。しかし、バラゴンは口から炎を吐き、トンボをなぎ払った。公園に火の雨が降る。だが、それだけでは数が減ったように見えない。今度はトンボ群がバラゴンを覆う。そして一斉に尾を突き刺した。払いのけようとするバラゴン。しかし、相手は金魚の糞のようにしつこく追い回してくる。バラゴンが地中に潜った。これではトンボは追ってこられない。すかさず地表に飛び出し炎を吹きかける。これにはトンボもたまらず後ずさった。
「立花准将、このままでは我が隊は全滅です。撤退しましょう。」
「まだだ、ここで引くわけには・・・・」
その時、一人の隊員が走ってきた。かなり息を切らし、肩で呼吸している。
「た、立花准将、大変です・・・、ま、町に・・・(ゼーゼー)新たな生物反応が・・・・それもかなり大型のようです・・・(ゼーゼー)。」
「ほう・・・な、なんだとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ジンと恵は夜中のハイウェイを必死に走った。もちろん徒歩で。この騒ぎのせいで車はまったく走っていない。
二人だけの時間のようにも思えた。
「あの、ジン君・・・」
「何?どうかしたの?」
恵の問いかけに、ジンは流すように返した。振り向いてもくれないし、止まってもくれない。声もなんだか殺気立っていて、恵は少し苦くなってうつむいた。
「さ・・さっきはありがとう・・・・」
「え、そんな・・・大した事ないよ。」
「ううん。そんな事ないよ。・・・・その、・・・ジン君、とっても・・・・」
その時
「止まって!!」
「きゃっ!」
ジンが急に恵を制した。恵は足のバランスを崩して転びそうになる。
「ちょっとジン君!急に止まんないでよ、バカぁ!」
「・・・ない・・・・・。」
「え?」
ジンと恵の先から、えぐられたようにハイウェイが消えていた。恵は下を覗いてみた。アスファルトが木っ端微塵だ。ついでに周りのビルやらなにやらも粉砕されている。そして・・・・・何か動いた!?それはゆっくりとジンと恵の前に姿を見せた。
「うわ、な、なんだこいつ!?」
「・・・・・・・・・・!」
巨大トンボの何十倍もある胴体。トンボにはないハサミ。鋭さの増した尾。
二人は来た道を戻ろうとした。だが・・・
超巨大トンボは甲高い唸りを上げて、マッハ4で周辺のビルごとハイウェイを吹き飛ばした。悲痛な叫びもむなしくかき消され、二人は冷たい地面へと吸い込まれていく・・・・・・。
「メガニューラ・・・数が多すぎる!」
バラゴンの上空にはまだ数百のトンボ、メガニューラが漆黒の空を覆っている。バラゴンがダイブしてくるメガニューラを角で5,6匹まとめて弾き飛ばす。その時、トンボの一角が割れた。だが、撃墜したわけではない。かわりにその穴に超巨大トンボ、
メガギラスが舞い降りた。耳をふさぎたくなるような甲高い咆哮。それと共にメガニューラが一斉にバラゴンにダイブする。バラゴンが倒れこんだ。男がバラゴンから振り落とされる。群がるメガニューラがバラゴンを次第に覆っていく・・・。
「バラゴン!」
しかし、今のバラゴンには聞こえない。
メガニューラが引いたとき、そこには動かないバラゴンがいた。だが死んでいるわけではない。気絶といったところか。そこへメガギラスが長大な尾を突き刺した。バラゴンから光の粒子、生命エネルギーがメガギラスへと循環していく。メガニューラはそれを見届けると、散りじりに飛んでいった。多分次の獲物を見つけるためだろう。
「ぷはっ!」
ジンはなんとか瓦礫の山から這い出した。
「恵さんは!?」
後ろの瓦礫を振り向く。塵の山。何も動く気配はない。まさか――――――
「ちょっと、何ボケーっと座り込んでるの?」
後ろからとぼけた声が聞こえた。恵はとっくに脱出していたのだった。ジンはあわてて取り繕う。
「あ、いや、瓦礫がいっぱいですごいなー、とか思って・・・。」
「ジン君て、結構お気楽なのね。今はそんな場合じゃないでしょ!」
「そ、そうだよね・・・」
恵は呆れ顔でため息をついた。それにしてもこの子、意外とタフなんじゃないか?
その時、メガニューラが恵の真後ろに舞い降りた!
「恵さん、後ろ!」
「え?きゃあっ!!!!!」
メガニューラの鋭い尾が、恵の柔な背中を貫いた。
「恵さん!」
「う・・・・・・・・・」
次第に恵の体から力が失われていく。しかし、メガニューラは恵の抵抗を楽しむかのように一向にトドメを刺さない。ジンはぶち切れた。
「やめろおおおおおおお!」
その時巨大な陰影がジンの後ろで揺らいだ。
メガニューラが『何か』に向かって一斉に襲い掛かる。しかし、その『何か』に次々となぎ払われていく。その『何か』は、メガニューラにとって、効率的なエネルギー源だったに違いない。しかし、メガニューラはただの1匹も残らなかった。
その『何か』が、メガギラスをバラゴンから引き剥がした。メガギラスはビルに叩きつけられ、瓦礫の下敷きとなった。『何か』は三つの首、二つに分かれた尾、暗闇を照らす黄金の体をしていた。そしてそれは・・・ジンと恵を乗せていた。
――――――黄金竜、『ギドラ』が覚醒したのだ
第一章:覚醒
最終更新:2007年03月04日 08:40