第十話

――優馬らが足を速め、およそ三分。血生臭い臭気が三人の鼻を襲った。その猛烈な臭いに思わず、三人は鼻を手で覆った。立花兵たちの屍の臭気である。そしてもう少し走ってみれば、地面にめり込んでピクついている成宮和村と浜辺に打ち上げられた魚のように砂浜に倒れている北原奈菜の姿があった。そしてそれを眼下に誇らしげに叫ぶメガギラス。小カマキラスたちも陣形を組み直し、成宮と北原を囲んでいる。それを見た優馬の心中で『ある感情』が煮えたぎった。

優馬「――――!!」

そろそろメガギラスもトドメを刺したそうである。とりあえず視線を自分の近くに倒れていた北原に向ける。北原を囲んでいたカマキラスたちはどうぞどうぞとばかりに、道(?)を開けた。北原は目を覚まし、今の状況を見極める。しかし彼女にここから逃げ切るだけの力は残っていまい。―――ここまでか。死を悟った北原はその場で動けず静かに目を閉じた。メガギラスがハサミを開かせ、腕を北原に伸ばした。――その時宙に血しぶきが舞った。しかしその血は、北原の血ではない。――自分は死んでない?そう思い北原が目を開ける。そこには片腕を切断され、わめくメガギラス。そして血で汚れたマスターソードを掲げた優馬の姿だった。

優馬「大丈夫ですか?北原さん・・・。」
北原「・・・優馬・・・くん・・・?」

同時に沙織と隼人が成宮を囲んでいたカマキラスたちを一掃し、成宮も助かった。彼の意識は朦朧としていてしばらくまともに話すこともできなさそうだ。それを見た優馬。ここにくる前煮えたぎった『ある感情』が、―――爆発した。

優馬「・・・・けんな・・・。」
北原「・・・???」

声が小さすぎて、北原は優馬の言葉を聞き取れなかった。・・・そして―――。

優馬「アアアアアアアア!!ふざけやがって!このカトンボォッ!!!」
成宮「・・・うっ・・・・。なんだ・・・・?」

叫ぶ優馬。さっきまでの彼とはまるで別人。髪は逆立ち、茶色の瞳は真っ赤な朱色に変化。口元には今まで彼が見せたことがないような笑みが浮かんでいた。・・・そう。これは―――。

隼人・沙織「―――!!!」
沙織「卒業試験の時の・・・あれ?」
隼人(・・・まさか、この気は・・・!!)

状態変化―――

優馬「ヒャハハハハッ!!なにが起こったか知んねぇけど、この優馬とかいう奴、マジでキレてるみたいだぜ。まぁとりあえずオレの勘だけどよ、そこの片腕無しの虫けらをやればぁ・・・いいんじゃねぇのかぁ!?」
成宮(・・・なんだ、あれは・・・・!?)
北原(・・・この感じ、武器庫に武器を選びに行った時と同じ感覚・・・・・。)

次の瞬間、変貌した優馬は超スピードで片腕の無いメガギラスに迫る。慌てて逃げようとするメガギラスに容易く追いつく。なっ!?といった感じの表情を見せるメガギラス。そして、もう片方の腕をマスターソードで切り落とす。木霊するメガギラスの悲鳴。優馬の顔面は返り血を浴びて血だらけである。しかし笑みを浮かべた表情を全く変えていない。両腕を失い、メガギラスはもう逃げることなど忘れ、狂ったかのように優馬を叩き落とそうと翼を闇雲に振り回す。しかし、まるで戯れでもしているかのように優馬は翼をヒラリヒラリとかわす。そして一瞬の隙を突き、マスターソードをメガギラスの顔面に突き刺す。刺された瞬間、メガギラスの暴威はピタリの収まりそのまま光の粒となって風に吹かれ、いずこへと飛んでいった。優馬は地面に着地。そして高らかな笑い声を響かせたあと、今度は砂浜に群がるカマキラスを殺し始めた。その恐ろしさに残ったカマキラスたちは怯えて、逃げていってしまった。―――ほんの数分の惨劇。全てを見ていた沙織たち。

沙織(・・・こんなの・・・・こんなの・・・・!!)
隼人「やばいぞ、あれ。止める?沙織さん?」
沙織(―――優馬じゃない。)

次の瞬間、沙織は暴れ続ける優馬のもとへ駆け寄った。

隼人「ああ!おい、沙織さん!?」
成宮(・・・いかん・・・!)

動かない自分の体に鞭を打ち、成宮は立ち上がった。そして彼も優馬の方へ駆け出した。

北原「ち、ちょっと、和村!?」
沙織「優馬!もう終わったのよ!?これ以上やる必要はない!さぁ、帰ろう?任務完了の報告を熊坂さんにしなくちゃ!」

泣きながら駆け寄る沙織。・・・しかし。

優馬「邪魔すんじゃねぇ、クソアマ~ッ!!」
沙織「―――え?」

気が付けば、マスターソードは沙織の腹部を切りつけていた。そう分かった。今まで悪魔のようだった優馬は普段の姿に戻り、今の現状を悟った。沙織が腹部から大量の血を出し倒れ込んでいる。そのすぐ隣には傷口を確かめる成宮。

優馬「・・あ・・・あ・・・。そ・・・ん・・な。」
成宮「くっ!思ったより傷が深い。少しキツイが急いで本部に帰るぞ!」
北原「わかった!」
隼人「おいおい、マジかよ。」
成宮「早く!北原は沙織と隼人と一緒に先に行け!立花准将たちも早く!」
広瀬「わかりました。」
立花(今まで忘れられてなかったか?・・・作者に。)

その言葉を聞き、すぐに飛ぶように帰っていった三人+立花と広瀬。静けさを取り戻した東京湾の浜辺に優馬と成宮が取り残される。
優馬「成宮さん・・・。」
成宮「・・・お前もそろそろ自分のことをよく知っておくべきだな。」
優馬「自分のこと?」
成宮「そうだ。さっきのお前の変貌はMスクールの卒業試験でも見られたそうじゃないか。」

はっとした。あの日。オレは隼人を試験だというのに、完膚なきまでに叩きのめしていた。その時は何者かに自分の体を支配されていた。

優馬「・・・変貌時、オレの体はなにかに憑依されたかのように、勝手に動いていました。・・・。」
成宮「さっさと本題に移ろうか。」
優馬「・・・?」
成宮「カイザーの力を持っているんだよ、お前は。」
優馬「!!!・・・カイザーって。」
成宮「お前も知っているだろ。カイザーの力とは、あの尾崎先輩(現在は大尉)や地球を攻撃してきたX星人たちの統制管がもっていた力だ。それはあまりにも強大で、世のミュータントたちが争ってまで手に入れようとした。手に入れることができれば世界征服も夢ではないらな・・・。」
優馬「ばかな・・・。オレはそんな力を。」
成宮「今までのお前の変貌を見ていると、お前のカイザーを呼び起こす引き金になるのは感情の高ぶり、強い「怒り」や「悲しみ」だ。」
優馬「そうだ。卒業試験の時は隼人を失格にさせたくないという悲しみ・・・なのかな?そしてさっきはあなたたちを痛めつけた怪獣たちに対する怒り・・・・!」
成宮「まあいい。今日は本部に帰って寝ろ。少し落ち着いた方がいい。そしてその力。お前なら、きっと良い使い方ができるはずだ。」
優馬「・・・・!」
成宮「先行くぞ。」

良い使い方。それをできるようにしよう。もう二度と、この力で仲間は傷つけない・・・!!そう優馬は、誓った。


―――任務司令室

熊坂「任務は・・・とりあえず完了か・・・。」
成宮「田村沙織のケガが軽くはないので、すぐに治療室に運んでおきます。」
熊坂「お前ら二人はいいのか?」
成宮「ここまで帰ってこれるぐらいの体力が残っていたので大丈夫です。」
熊坂「わかった。・・・そうだ。お前たちには最近立て続けに任務を遂行してきてもらったから、しばらくの間お前たちには休養をあげよう。ゆっくり体を休めるんだ。任務は他の小隊に任せる。」
一同「了解!」
熊坂「ところで、皆本優馬は?」
北原「今頃、自分の個室で寝てますよ。」
熊坂「・・・・そうか。」

――同時刻、優馬は個室でスヤスヤと深い眠りに落ちていた。
最終更新:2007年10月20日 12:36