第十一話
気が付くとそこに広がっていたのは、自分以外誰もいないし何も無い、純白の空間。
優馬「・・・ここは・・・?」
そう。本当にそこには、自分以外何も無かった。――すると。
???「そうか、きたか。そろそろくる頃だとは思っていた。」
不意に背後から闘志溢れる若者と思われる声が聞こえてきた。振り向く。そこに立っていたのは、上下一体の銀の衣服の上に緑衣。金髪で耳は鋭く細長い。右手には『ハイリアの盾』と呼ばれる防具。そして、左手には『マスターソード』が握られている。
優馬「・・・あなた、まさか・・・!」
???「そう、今お前が思っている通りだ。」
―――『破邪剣聖(はじゃけんせい)・
リンク』―――
優馬「・・・大昔、マスターソードを手に幾千の魔物を一人で掃討したという豪傑・・・!!」
リンク「ああ、その通りだ。しかし私は負けた。最後に見事な一撃を食らってしまってな。・・・忘れもしないさ。最後の相手は紅い短髪で鼻は魔女のように高かった。背中にはマント。そして怪しげな紫のオーラを纏った大剣・・・。」
優馬「・・・???」
リンク「私は確かに死んだ。しかしそれからは君の心の中に住んでいたんだ。」
優馬「・・・心の・・・中?」
リンク「そう、この空間は君がとても悲しい時に寝ると夢の中に現れる、『心中の世界』。つまり、ここは君の心そのものさ。」
優馬「オレは沙織さんを斬って、それを悔やみながら寝た。だから夢の中にここが出てきたってわけか。・・・考えてみれば小さい頃、よく真っ白な空間の中に自分ひとりだけがいる。っていう夢を何度か見たことがある。」
リンク「そして今回に限って私が君の前に現れたのには、ちゃんと理由がある。」
優馬「?」
リンクはそう言うとたすきのように体に掛けていた「もう一つ」の剣を優馬に差し出した。
優馬「・・・これは?」
リンク「・・・『トアルの剣』。剣士界では剣士になったばかりの下級者が持つ物だ。」
優馬「剣士になったばかりって・・・ていうか、オレのはマスターソードだろ?」
リンク「これのころだろ。」
右手に握っていたマスターソードを振り上げるリンク。と同時になにやら黒い影が、リンクが上げたソードを取った。その正体は・・・。
優馬「お前・・・!!」
(カ)優馬「よう。・・・・ヘタクソ。」
優馬「なんでお前がここに出てくるんだよ!?」
リンク「優馬よ、お前は自分がカイザーの力の持ち主だということは知っているだろ。カイザーの力というものは、所有者によって違う。あそこに立っているのはお前のカイザーの力を「形にしたもの」だ。」
優馬「なんだって!?」
リンク「現に、お前が憧れている尾崎真一はカイザー化すると体に金色の気を纏う。あれもカイザーの力を形にしたものの一種だ。名は『精霊王(せいれいおう)・スレイプ』普段は金色霧状の人間といった姿をしている。」
優馬「それとトアルの剣となんの関係が?」
リンク「・・・カイザーの力を使う者としてお前が相応しいのか。今からそれを試す。」
優馬「え?」
リンク「今からそこに立っている変貌時のお前と戦ってもらう。戦うといっても殺してはいけない。今のお前は自分の意志に関係なくカイザー化してしまう。それを防ぐために、今からあやつを戦闘不能状態までにし「従わせる」んだ。」
優馬「だから!トアルの剣はなんのためだよ!!」
リンク「今のお前にマスターソードは使いこなせまい。この戦いはマスターソードを使うあいつにお前はトアルの剣で応戦する。そして見事勝利できたならば、マスターソードの所持者としてお前を認め、正しい戦い方を教えてやる。」
優馬「そんな勝手な!」
(カ)優馬「なにダラダラ話してんだよ!さっさと始めるぜ!この『暗黒魔神(あんこくまじん)・カオス』様が、相手してやらぁ!!カオスはリンクさんに与えてもらった名だぜ!」
優馬「――!!!」
――時同じくして。任務司令室。
熊坂「
田村沙織の様子はどうだ。」
玉木「はい。今様子を見てきましたら、傷は内臓にまで達していたとのことです。しかし医療班による迅速な手当てで彼女は無事、手術を終了されました。」
熊坂「・・・そうか。裕太、オレは信じているぞ。『熊坂あっての
玉木裕太』ということをな。」
玉木「・・・急にどうしたんです?熊坂さん。」
熊坂「いや、なんだか嫌な胸騒ぎがしてな。」
玉木「・・・熊坂さん・・・・?」
熊坂は机上で手を組みながら、窓の外を見つめた。
ギイィンッ!!
剣と剣がぶつかり合う音。マスターソードを持つカオス相手に、トアルの剣で立ち向かう優馬は完全に圧倒されていた。
優馬「くっ、何度も受け太刀しているけど、する度に全身が痺れる。こんな剣じゃ受けきれない。マスターソード・・・ここまでとは・・・。」
カオス「おいおい逃げてるだけかよ!興醒めだぜ。もっと楽しませてくれると思ったのによ。」
今まで優馬の後ろで追いかけていたカオスは次の瞬間、優馬の目の前にいた。
カオス「おら。」
そして顔面を蹴飛ばす。真っ白な地面に倒れ込む優馬。続いてその顔面を踏みつけるカオス。楽しんでいるかのように高らかな笑いを響かせる。
カオス「ヒャ~ハハッハッ!!弱すぎて話しになんね~!なあリンクさんよ、ここでオレがこいつ殺して、オレが本体になっちゃえばいんじゃないの?え?ヒャ~ハハハハッ!!」
リンク「・・・・。」
腕組みをしながら、戦況を見守るリンク。特に助けるとかそういう感情はないようである。
優馬(くっ。だめだ。何合も剣を打ち合ってるから腕が痺れて動かない・・・。オレは所詮この程度だったのか?)
その時、脳裏にある映像が浮かんだ。3年前のファイナルウォーズの時である。尾崎は先に見方を逃がし、自分は一人残って統制官と激闘を演じた。尾崎は圧倒的な力で打ちのめされようと何度も立ち上がり、ついには起死回生の猛攻で敵を攻め立て倒すことができたのである。
優馬(そうだ。・・・オレは尾崎さんに憧れてるんだ。こんなところで終われない・・・!!強くなって、みんなを守るんだ。――強く!)
踏まれていた頭を少しずつ持ち上げる。
カオス「お?」
リンク(優馬よ、立て!尾崎のように。そのお前の強さの源はそのカイザーの力なんかではない。・・・お前の強さの源は―――)
優馬(――強くなるんだ!!)
――強大なカイザーの力に耐える、お前自信の気力なんだ――
次の瞬間、優馬は飛び起きた。カオスは反動で飛ばされ白い地面に叩きつけられる。見てみればそこには、闘志に溢れる優馬が立っている。
カオス「ここまできてまだ気力が上がるか。やるじゃねぇの。・・・んじゃあ、こっからが本番だぜ!覚悟しろ優馬ぁ!!」
―――沙織の個室
隼人「え~と、大丈夫?沙織さん。」
沙織「え・・う、うん。・・・ていうかなに?どうして物資採取の任務以来、私に親切になったの?」
隼人「え!?あ、あの、よく考えてみれば沙織さんはすっと一緒に生活してきた仲だし!」
慌てて返答する隼人。それを見る沙織の顔は、呆れていた。
沙織「なんだかアンタも、よく分からない人ね。」
隼人「・・・い・・ぐっ・・・!!」
その時、会話を裂くように施設内に放送が響き渡る。
熊坂「緊急連絡!緊急連絡!ここ東京に謎の怪獣群が出現!M機関の諸君はもちろんのこと、残留した軍で立花防衛軍にも出動を命令する!」
隼人「なんだって!?」
沙織「・・・・と、とにかく外に出てみるわよ!」
――外部。東京の街はことごとく破壊されていく。それを見つめる地球防衛軍。
?「大変なことになったな。」
??「なんて数だよ・・・。」
??「今オレたちにできることは、戦うことだけだ。」
一番最初にしゃべった、片手に稲妻型の刀身の愛剣:「雷帝剣(らいていけん)」を持つ朝倉渚(あさくらなぎざ)。能力の中では特に指揮能力に優れ、そこを見出され現在大尉として活躍している。男勝りな性格である。
次にしゃべったのは武器もメーサー小銃も持たない
戸田一貴(とだいっき)。幼いころから空手を教えられ、今となっては空手の型だけで相手を倒すことができるほど強くなった。渚と同じく大尉。
最後は音にも聞く尾崎真一(おざきしんいち)。地球をX星人の邪から救った聖である。カイザーの力を有しているということは言うまでも無い。先の活躍が評価され、現在大尉。
そしてこの三人の大尉は数々の戦場をともに駆けてきた戦友である。チームワークの良さは、あの成宮&北原以上である。
一貴「見たところ、デストロイア幼体の幾万の大群だな。」
渚「それもそうだが、よく見ろ。あの球の形をした円盤を・・・!!」
そう言われ、目を凝らすとそこにはかつてのX星人が使用していた母船が浮かんでいる。それを見た一貴の背は凍りついた。
一貴「・・・・まさか、ま・・・またきたのか?」
渚「恐らく、前統制官の弔い合戦でもやるつもりなんだろう・・・。」
尾崎「くっ。この戦い、オレのせいで行われるのか?」
宙に浮いている母船の上には四人のX星人が立っている。まず左から。外見は金の短髪にお馴染みに黒い衣服。そして腕には、なにやら柄のようなものが取り付けられている。名を『
ジャッカル』というこの男、X星人の中では一番良識派。無駄な争いは好まない。続いて二人目は銀の長髪。そして黒い衣服。手には巨大な鎌が握られている。名を『
リカオン』という。非常に好戦的性格でなによりも戦いと血を好む。三人目は肩までの長さを持つ黒髪でサングラス。黒い衣服に手には巨大な爪が煌いている。『
コヨーテ』という名である。無口で寡黙。しかしリカオン以上に残忍である。そして四人目。全身をスーツで覆っており、黄色の髪。頭にはネコ耳らしき物。そして首・肩・胸・肘・腰・膝には猫の体毛が生えている。手には漆黒の鋭い爪もある。名を『
カラカル』というこの女、実は女性と猫の融合体である。
ジャッカル「ついにこの時がきたんだな。」
コヨーテ「・・・ああ、我々が地球を手に入れるときが・・・・。」
リカオン「おいおい、いつまでこんなとこにいるんだよ?さっさとおっぱじめようぜ?」
カラカル「早く暴れたいニャ♪」
熊坂「あれだけの大軍勢は始めてだ・・・。よしみんな、奮起しろ!我々でX星人を退ける!」
一同「おおおおお!!!」
――心中の世界。
カオス「あ・・・ぐ・・・・。」
リンク「上出来だ、優馬。」
優馬「・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」
真っ白だったはずの地面は紅い血の色で彩られていた―
優魔のトアルの剣は、確かにカオスを切り裂いていた・・・・・!
最終更新:2007年11月23日 12:45