メガギラスはビルに叩きつけられ、瓦礫の下敷きとなった。ギドラが雄たけびを上げた。
バラゴンの男はそれを見て驚く。
「コウリュウ!何故こんなところに!?」
さらに驚いたのは、ギドラの上から降りてきたのがさっきの子供たちという事だ。
「大丈夫ですか?」
「いや、それより・・・・・どうしたんだ、この怪獣は?」
「え、なんか突然現れて・・・最初は逃げようと思ったんですけどなんかぜんぜん襲ってこなくて、そしたらトンボに襲われてた友達を助けてくれて・・・」
「・・・・・・そうか、つまり、君だったのか・・・。」
「・・・・はい?」
男は妙に納得した。ジンにも恵にもさっぱり意味が分からない。
その時、瓦礫が吹き飛び、メガギラスが再び飛び立った。
「まだ生きてたのか!?」
それを見て、ギドラがジンに呼びかけるように吼えた。ジンもなんとなく、本当になんとなくだが、呼んでいる事がわかった。ジンはギドラの下げている真ん中の頭によろめきながらも飛び乗った。(乗った、というより登った、に近い)
「ジン君・・・・」
ギドラの咆哮。メガギラスもそれに呼応する。
メガギラスの超高周波。しかしギドラはびくともしない。ギドラの噛み付き。しかし空を切る。相手は異常なまでに素早い。今度はメガギラスのマッハ4からなる翼カッター。これは効いた。ギドラがよろける。すかさずメガギラスが尾をギドラに伸ばす。腹に刺さった。ギドラがもがく。メガギラスを剥がそうと両羽に噛み付く。メガギラスは動きを封じられた。さらにギドラはそこから電撃波を送る。メガギラスは全く動けない。ギドラがメガギラスを投げ飛ばす。メガギラスは地面に叩きつけられるが、すぐに体勢を立て直す。今度はハサミ攻撃。右の頭が挟まれた!右の頭が悲痛な声をあげる。それを助けるように左の頭がメガギラスの腹に頭突きを入れる。メガギラスが喘ぐ。ギドラが追い討ちをかける。しかしはずれ。更にメガギラスを見失ってしまう。三つの首を振るギドラ。しかし、メガギラスはどこにもいない。その時、ジンが叫んだ。
「後ろだ!」
ギドラが振り向くと、翼を紅蓮に光らせたメガギラスがいた。何か出す気だ。ギドラが噛み付こうとするが、距離を置かれていて間に合いそうもない。メガギラスが何かを発射した。高周波エネルギー球。・・・避けられない!ギドラは爆音と共に煙に包まれた。
「ジン君っ!」
立ち込める煙。メガギラスはこれで終わったと思った。しかし・・・
一瞬後、煙の中に黄金の光が差し込んだ。ギドラはダメージは受けていたが、確かに立っていた。
だが、メガギラスは次のエネルギー球をチャージしている。このままでは第二波もまともに喰らってしまう。
(くそ、こっちにも何か武器があれば・・・!)
その時、ギドラの周りに光の壁ができた。
「これは・・・!」
「空気中の静電気が、ギドラの周りに収束しているんだ!」
メガギラスがエネルギー球を放った!
ギドラが咆哮する。再び煙に包まれるギドラ。しかし・・・・
「・・・・・壁が・・・盾になったんだ・・・。」
ギドラの光の壁はメガギラスのエネルギー球を完全に消し飛ばした。
「今だああっ!」
今度は光壁がメガギラスへと超高速で放たれる!メガギラスは何もできず木っ端微塵に吹き飛んだ!
ジンが地に着くと、ギドラは光の粒子になって消えた。ジンは一息。それにしてもなんだったんだ、今のは?でも、今、僕が乗ってたのは前にテレビで見たことがあったような?
「ジンく~ん!」
恵さんが駆け寄ってきた。後ろにはさっきの男もいる。とりあえず一段落だ。・・・・でもまだ全部片付いたわけじゃない。色々と説明してもらわないと・・・、あのヒトに。
戦いが去った戦場には冷たい静寂が訪れた。
「四神獣・・・なんですか、それ?」
恵は首をかしげた。
「んー、中国に古くから言い伝えられている四体の神秘的な生物・・・って所かな。南を守る『朱雀』、東の『青竜』、西の『白虎』、北の『玄武』。聞いた事はあるでしょ?」
「はい、一応・・・でもそれがこの怪獣達とどういう関係が?」
「つまりこの怪獣、バラゴンは四神獣の一匹『白虎』なんだ。他にも後三匹の四神獣がいる。ただしどこにいるか、覚醒しているかは、今のところ分からないけどね。」
「え、じゃあ僕が乗ったあの怪獣は?それに、あの巨大トンボだって・・・。」
「君が呼び出したのは四神獣を守護する神獣、『黄竜』のギドラ。黄竜は自分の守護するもの、つまり神獣か日本が危険の時、または君が本当に必要とする時に現れる。2002年は日本が危険にさらされたため、今回は君がその子を助けたいという強い思いに反応して現れたんだ。そしてあのトンボ、メガギラスは禍津日神(マガツヒノカミ)と呼ばれる神獣。神獣の世界、神像世界(シンゾウセカイ)と呼ばれる世界にはさっきのメガギラスのような災いをもたらすとされる神獣、禍津日神と、バラゴンやギドラのように、災いを浄化する存在とされる神獣、直日神(ナオビノカミ)というのがいて、二つの勢力は昔から争いあっているんだ。で、今回その災いとしてあのメガギラスがやってきた。だから私はそれを浄化するためにここへやってきた。ただ、今回謎なのは禍津日神がなぜ実体化したかというところなんだ。普通、神獣は普通のヒトには見えない。神獣は霊みたいなものだからね。実体をこの世に召還するには依代(ヨリシロ)という神が現れるときの媒体、つまり受け皿となるものが必要で、それを通してこの現世界に姿を実体化する事ができる。さらに直日神に属する神獣はその神獣に対し専用の依代が必要なんだ。・・・まあどちらにせよメガギラスが実体化したことは非常に不可解なことなんだよ。禍津日神使いがいるのか、いるとしたらどんな目的で実体化させたのか、または何かの現象で実体化してしまったのか。私はこれからそれを調べようと思う。それから、もしまた禍津日神が現れたときのために他の直日神使いを探しておこうと思う。今回みたいにバラゴンがピンチになった時、必ずしもギドラが助けてくれるとは限らないからね。で、君はどうする?私としては黄竜使いとして協力してほしいところだけど、一応君にも今の生活ってものがあるだろうし、なによりまだ子供だからね。無理だったら素直に無理といってほしい。」
「・・・・・・いや、協力します!」
ジンの回答は意外と素早かった。
「・・・・軽はずみな回答なら今すぐ撤回してほしい。常に危険が伴うだろうし、へたをすれば死んでしまうかもしれない。それでも君の意思に揺らぎはないか?」
「はい。」
しばらく考えて、男は頷いた。
「よし、じゃあこれからは戦う上での仲間だ。私は坂本虎馬(サカモトコウマ)。」
「樋室神です。」
「ジン君だね。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
二人は堅い握手を交わした。
「あ、そうだ。」
ふと、ジンは思い出したようにある場所へと走った。それはバラゴンの前だった。
「・・・さっきはありがとう、バラゴン!」
バラゴンは機嫌良さそうに啼いた。
「さて、帰ろうか、恵さん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・あのー・・・。」(もしかして・・・。)
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「もしもーし?」
「・・・・・・・・・・・・・・・はっ!」
今までの話があまりにチンプンカンプンだったらしく、放心状態だったらしい。やっぱりどっかいっちゃってたな、この人。
「あ、僕にはそのヨリ・・・何とかは必要ないんですか?」
「黄竜の場合は君の『気持ち』が依代となるんだ。だから、物体としては君に依代は必要ないよ。」
ひび割れた夜のアスファルトを二人はゆっくりと歩いていく。ヒトは非難してしまっていて、夜の静けさに拍車をかけている。おかげで二人の足音はやけに響いた。
「あの、ジン君・・・」
恵は足音にかき消されそうなくらい小さな声で言った。
「何?恵さん。」
今度はちゃんと振り向いてくれた。恵は少しホッとした。
「どうしてジン君、あんなに早く答えられたの?私なら悩んじゃう。ていうか断っちゃうかも。」
一応聞いてはいたらしい。ジンは少し間を置いて答えた。
「・・・・・・だって、もう恵さんをあんな目にあわせたくないから。」
「ジン君・・・・・。」
「・・・・なーんて、ちょっとカッコつけすぎ?」
「・・・・・もう、バカあ。」
最終更新:2007年03月04日 08:42