一向に留まる所を知らない炎の中、長い髪をなびかせながら平然と歩いていく一人の姿があった。霧島麗華だ。
(私のやるべきことは終わりましたし、巻き込まれない内に退散するとしますか)
どこか遠くで銃声が絶えず鳴り響く中、そんなものはお構いなしにと霧島は出口へと足を向けた。が、そのとき。
突然、何かに腕を掴まれた。反射的に身構える霧島だが、そこにいたのは…
「か、河原田さん?」
「何やってるんすか!周りの状況見えてます!?ほら、早くこっちに…!」
河原田は、らしくもなく声を荒げてぐいぐいと霧島の腕を引っ張る。頼りなさそうに見えるくせに意外と力があって、霧島はそれに逆らうことができない。
「ちょっと、出口はそっちじゃ…!」
「出口なんてとっくに塞がれちゃってますよ!」
ずるずると足がもつれそうになりながら引きずられていくと、やがて広い空間に出た。まだ火の手もあがっていない、静寂に包まれた空間だ。しかし、霧島はそんなことには全く気づかなかった。目の前にある巨大なそれに、目を奪われてしまったからだ。
「これは…」
格納庫の3分の1は占領しているであろうそれは、仄暗さに彩られて、静寂な鋼鉄の風格を鎧のように纏っていた。
あの時、ラドンに大破され見るも無残な姿だったソレは、今こうして再び輝きを取り戻した姿を見せつけた。
―――空中戦艦、コンスタンティノープル
「外に出たら、すぐ降ろしてもらうよう伝えますから」
河原田はそれだけ言うと、まだ呆気に取られている霧島を艦内へと引きずり込んだ。


「サキ…ねぇ、サキってば!」
早足に足場の悪い道を進んでいくサキを、私は足がもつれそうになりながらも必死に追いかけた。
私の声では、サキは止まらなかった。無表情のまま(後ろからでは見えなかったが、そうであるような気がした)少しも乱さぬ歩調で瑞穂准将の待つM機関を目指している。
「ねぇってば、聞こえてるんでしょ? …ちょっと、何無視してんのよっ!」
私が語尾を荒げると、サキは突然ぴたりと動きを止めた。感情も見せず、ぴくりとも動かないその姿はさながら石像のようだった。
「……何?」
抑揚のない声と共に、彼女の顔が私に向けられる。その瞳に光はなく、冷たく研ぎ澄まされた視線は、青い丸い月をたたえる夜の冷たさを孕んで、私の心臓を真っ向から刺し貫いた。
―――これは、誰…?
少なくとも、私の知っている有賀サキは違っていた。M機関入隊試験で出会った彼女の微笑み。そう、例えばそれはゆみの持っているような暖かさがあった。それに、引っ込み思案で、どこか頼りないところがあって、慌てる姿は見ていないと危なっかしくて、それで…
「用がないなら、早く進む…」
やっぱりだ。これは違う。
―――貴女は誰…?
あれから一年。一体、彼女を変えたものは何なのだろう。…私は、何も変わっていないというのに。相変わらず泳げなくて、相変わらず尾崎を追いかけていて
―――相変わらず、助けられてばかりいて。
そのとき、一瞬の思考を遮って、雑音にも似た通信が割り入ってきた。私のではない、それはサキのほうだった。
『少佐、そちらにヤツが向かっております。十分警戒して…』
しかし、そこまで言って通信はぷっつりと途絶えてしまった。
「ヤツ…?」
私が疑問を口にした途端、それまで私達のすぐ横に堂々と構えていた高層ビルが一瞬にして鉄屑の雪崩となって消え失せた。そして、それは私が目を瞑る間もなく、私の疑問への答えを啓示していた。
初めに見えたのは、月に映える鋭利で巨大な二振りのカマ。殺意だけに研ぎ澄まされた、深い蒼に染まった体は禍々しさに満ちていて、見るもの全てに恐怖を植えつける。
そして、裂けた口ように顔の端から端までを占める、鋭利な単眼。血のように紅い、凶器の視線が、私達を虫けらのごとく見下し、睨み付ける。
「が、ガイガン…」
擦り切れるような、金属音の咆哮が夜空に染みる月を切り裂く。それは、私が一瞬感じた絶望を、さらに深い所へと押し込むような、ひどく醜悪で、禍々しいものだった。
不意に現れた脅威を前に、私は呆然と立ち尽くすことしかできない。いや、ただ体が動かないだけかも。立ちはだかる威圧と、刺々しい体から漏れ出す瘴気に押しつぶされているせいで。サキは顔色ひとつ変えずにガイガンの前に立ち尽くしている。私と同じように、ただ絶望に打ちのめされているのだろうか。
そこまで冷静になって、私は始めて自分達がとらなければならない行動に気がついた。
―――逃げないと。一刻も早く。
私は、無我夢中でサキの腕を引っつかんだ。
「何ボサッとしてるの!?逃げるよ!」
でも、どこまで逃げればいいの?
ガイガンの目の届かない所…遠い、遠いどこか―――いや、追ってきたら意味がない。M機関の本部…? いや、もっと遠く……ガイガンが絶対に追ってこれない、どこか遠くへ。

―――だが、その危惧の想いは、想像もつかない形で裏切られた。
「……どいて」
その瞬間。全身を、鳥肌が駆け巡った。
私の手を振り払い、サキはガイガンのほうに目を向ける。それは、戦うものの目。
…だが、そんなことはどうでもよかった。
「何、それ……?」
力なく言葉を発す私の前に、酷く血生臭い匂いを孕んで、銀鉄のそれは姿を見せた。
右肩から突き出た銀色の突起、それに連なって聳える、鈍い銀色―――ガトリングの銃口。
それらは全て、サキの白く綺麗な肌を突き破り、『生えていた』。
当のサキは、何故驚いているのかわからないといった様子で私を一瞥する。
「…どいてと、いった」
呆然と立ち尽くす私の横を冷たくすり抜け、サキはガイガンの真正面に対峙した。
「これより、攻撃を開始する。…『EXMA』部隊は目標を包囲」
サキの令と共に、音もなく現れる全身を分厚い装甲で覆った男達。それらは瞬く間に散らばり、ガイガンを取り囲んでいく。肩の装甲には、はっきりと描かれた鷲のシンボル。それは誰もが知っている、M機関の象徴。だが―――
この連中は、一体…?
私の目がおかしくなっていなければ、この武装集団はM機関に所属していることになる。だが、少なくとも私は、一度たりともこんな物々しい凶器に身を潜めた連中を見たことはない。それに、サキも……
私の憂い想いも虚しく隅に追いやられ、サキは今、攻撃の指示を武装集団に与えてようとしていた。

ガイガンの装甲は硬い。本来ならば、戦艦級の火力がなければ貫くことは不可能に近いだろう。―――しかし。
「……一斉攻撃」
この部隊―――『EXMA』ならやれる。武装と肉体、その双方を極限まで高められた強化ミュータント部隊。さらに、命令にも忠実だ。国木田少将の指示の元秘密裏に結成されたこの部隊は、まさに理想の―――最強の部隊だ。
彼らの銃弾の嵐に、ガイガンの体が一瞬揺らいだ。どうやら、従来よりも高性能であることは確かだったようだ。怜も、驚きのあまり口を開け放ったまま呆然としているようだった。
軋むような咆哮をあげながらよろめくガイガンに、私は右腕=ガトリングを突きつける。それに気づいたのか、ガイガンは無理やり体勢を変え、右腕のカマを勢いよく振りかぶる。
「あ、危ないっ!」
後ろの怜が叫んだ。だが…私は、それくらいではひるまない。冷静に、ガイガンのカマの付け根へ銃弾を打ち込む。吸い込まれるように軌跡を描き、銃弾は次々爆発していく。これにはさしものガイガンものけぞることしかできなかった。
『隊長、実戦テストは成功ですね』
「……ん」
体とガトリングとの奇妙な一体感には、今だ慣れないが……私は、自分が変わったということを実感した。
「そのまま、陣形を崩さず、一気に、畳み掛ける…」
攻撃を邪魔され、怒り心頭のガイガンは裂けた単眼を激しく発光させ始めた。恐らくは、拡散光線の発射態勢であろう。だが、それを易々と許すほど、この強化部隊は甘くはない。四方八方から放たれる銃弾。それは攻撃的である深蒼の体に次々炸裂し、炎でほのかに上気した夜空を更に紅く染めていった。
ただ立ち尽くすことしかできないでいる怜を横目に、私は確かな想いを確信していた。
―――これでようやく、苦しみから解放される…と。


ふと目を覚ますと、そこは漆黒に埋め尽くされた空の中だった。
「…気がついたか」
意識が虚ろなまま、私は声のするほうへと目を向ける。
「ユイ…先輩……?」
そこにあったのは、安堵の表情を浮かべる根岸ユイの姿だった。よく見ると、体中灰だらけになって、服もところどころ裂けている。その姿に、私の意識のもやは一瞬にして吹き飛んだ。
「先輩、その体……あたっ!?」
それと同時に、自分の体の痛みも甦ってくる。
「動かないほうがいい。何、見た目ほど深刻な傷じゃない…すぐにでも立てるようになるはずだ」
ニッと笑ってみせるユイ先輩。でもなんだか少し無理をしているようにも見えた。
―――そうか、あの時倒したと思って、不意打ちを食らって…
あのマシンに撃たれた背中をさすってみると、案外傷は浅く、また痛みも徐々に和らいでいるようだった。
「それで…今、どうなってるんです?」
あの殺戮マシンのことが気になった。倒せていなかったとなれば、当然コンスタンティノープルへ向かっていることになる。いや、ひょっとするともう既に…。それだけではない。
ユイ先輩がここにいるということは、さっきまで戦っていたX星人は…?
それに、この周りの喧騒は何なのだろう。夜空の中を、兵士や消防隊の怒声が飛び交う。
…M機関にだけでなく、何か別の場所にも事件が起きたのだろうか?
なんだか―――すごく、嫌な予感がする。
そして、ユイ先輩は少し間をおいてから静かに口を開いた。
「……ガイガン撃破の指令が来た」
――――――え?
その瞬間、体が凍りついた。
「が、いがん……?」
何かの間違いだと思った。だって、ありえない。炎の中を我が物顔に蹂躙していたその鋭利な姿が、一気に甦ってくる。私が、ガイガンと、タタカウ…?
「場所はここからすぐ近く…大戸高校の近隣」
「!?」
おおと、こうこう…?
最初、意味がわからなかった。頭を打ち付けられたような感覚に、私の中の言葉が全て叩き落されてしまったようだった。
途端、私の中に飛び込んでくるイメージ。それは―――
―――美里ちゃんが、みっきーが、そして健太君が…あの巨大で冷徹なカマの中に、消えていく瞬間―――
稲妻のような衝撃が、一瞬で全身を駆け巡った。
「…行きましょう!!はやく…はやく、ガイガンを倒さないと……!」
私は、食いつくようにユイ先輩の眼前まで飛び起きた。だが、それは後先も考えずに飛び出してしまった意見だった。
―――行ってどうする? あの日のトラウマも、克服できていないっていうのに。ガイガンの名を聞くだけで、この小さな体は震え上がってしまうというのに。
それからユイ先輩は、とんでもないことを口走った。
「……ガイガンには、お前一人で向かってもらう」
…気が狂いそうだった。
「な、何故!?」
「私にも、やらなければならないことができた…」
やらなければならないこと? それは、他でもないガイガンの討伐ではないのか。それ以外に大切な事など、私には全く考えられなかった。
「…イヤですよ……私。一人で、なんて行けません…」
自分でも、声が震えているのがわかった。
「…重要な事なんだ。上手くいけば、この戦いを終わらせられるかもしれない」
背中を向けて、ユイ先輩は呟くように言った。おそらく、確証がなかったからだろう。
「何ですか、ソレ……。『命令には絶対』なんでしょ!?だったら来てくださいよ!そんなの命令無視と一緒じゃないんですか!」
沈黙。ユイさんは答えてくれない。
「黙ってないでなんとかいって下さいよ、この嘘つきっ!!」

―――乾いた音が、頬に焼けるような痛みを走らせた。

「あ……え…?」
家城は、何が起こったかわかっていないようだった。自分でも正直、何故こんなことをしたのかわからなかった。気づけば私は、家城に手を出していた。
「………!」
何を荒くなっているのだろうか、私は…。命令に背くとわかったから? それとも、嘘つきと言われ、頭に血が上ったからか。
―――いや、そのどれでもない。
「頼む…今は、わかってくれ」
それくらいしかいえない自分が情けなかった。とうとう、家城も黙り込んでしまう。だが、あのまま喋らせておけば、きっと彼女は言葉を発すごとに恐怖を膨らませていっただろう。
―――今は一刻も早く、あの霧島麗華を確保しなければならない。黒幕でないにせよ、何らかの間諜活動をしていたことはまず間違いないはずだ。そうすれば、必ずこの騒動の発端を突き止められるはずに違いない。―――だが。
「恐いのなら…逃げてもいい」
「…え?」
「さっきまであのマシン…ノーヴとたった一人で戦ったんだ。逃げたって、誰も文句はいえない」
すまない――― 私には、せいぜいこうしてほんの少し肩の荷を降ろしてやることくらいしかできない。―――すまない。
「…はい」
家城の返事は、小さくも力のある声だった。
「……国木田少将に見つかるとまた五月蝿い…早く行け」
「…はいっ!」
はっきりとした2度目の返事。そして、同時に騒がしい足音が聞こえてきて、それもすぐに小さくなって聞こえなくなった。
「ヒーローごっこ、か……どっちが、だろうな」
嘲るような笑みをひとつ吐き捨て、私は今直紅蓮に染まるM機関本部に向き直る。
「さて…行くか」


「…全く、なんてザマだ」
臨時駐屯所に入ってくるなり、国木田はそう毒づいた。
「あらあら、何を怒ってらっしゃるんですか?♪」
そんな様子にも動じず、神崎瑞穂はいつもどおりの柔らかな微笑みを向けた。
「何を怒っているか、だと?見て分からないか、この状況だ!無能なクズ共のせいでM機関本部はほぼ壊滅、都市にまで相当な被害が出ている…」
国木田は、怒りに任せて机に拳を叩きつけた。
「市民に被害が出たら何の意味もないだろうが!何のためにM機関を組織したと思っている! …とんだ、役立たず集団だな」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ♪ そんな時のために『EXMA』を組織したんじゃないですか」
だが、タイミングを計ったように悪い報せが飛び込んできた。
「『EXMA』隊より入電! 撤退命令を要請してきています」
「何!? 馬鹿者、そんな命令だせるか!!」
「国木田さん、時には引く勇気も重要だと思いますけど…♪」
なだめるような声で、瑞穂は既に通信機に手をかけていた。だが、国木田はそれを握りつぶすように制止する。
「こんな無様な結果で終わらせてたまるか…!まだコンスタンティノープルに怪獣共もいる!出せるものは全部出せ! …徹底抗戦だ」
目を血走らせる国木田には、周りは何も見えていないようだった。


まるで地獄絵図だった。先ほどまであれだけ勇壮に戦っていた強化ミュータント兵達が、今や物音に怯えるネズミのようにただただ逃げ惑っている。もちろん逃げ切れるわけはない。ある者は踏み潰され、ある者はカマの餌食となり、ある者は光線の中で燃え尽きた。
サキもまた、動揺を隠しきれないでいるようだった。同胞達が襲われている中、ぽかんと口を開けて立ち尽くしていることしかできないでいるようだった。
そんな唖然としているサキを、ガイガンの血塗られた眼光が捉えた。どろりと向けられる、射るような視線。しかし、サキはそれにすら気づかない。
今度こそ、迷わず取るべき行動はひとつ。
「もう、やっぱり何も変わってないし…ほら、ボーっとしてないで!」
しっかりと握ったサキの腕には、さっき私の手を振りほどいた時の力強さはどこにも残っていなかった。まるで人形の腕を掴んでいるような感覚だった。
振り下ろされるカマ。私はサキを引っつかんだままガイガンのカマの届かぬ場所へと滑り込んだ。間一髪。すぐ背中に、金属製のカマがコンクリートに突き刺さる音が響く。
振り返ると、ガイガンは獲物を仕留め損なって地団駄を踏んでいた。サキもなんとか無事だ。
だが―――ガイガンは、希望など与えてくれなかった。
ガイガンの血染めの単眼が激しく発光する。拡散光線を撃つつもりだ。それで、確実に私とサキを仕留める。
逃げられない。逃げようにも、範囲が広すぎる。それは、拡散光線兵器であるワイドショットを使っている私が一番よく知っていた。
ここまで、なのか…?
そして―――閃光は放たれ、弾けた。


夜の闇が、これほどに心細かった事は、多分生涯で2度目だ。
一度は、父の殺されたあの日。そして2度目は、今―――。
炎は留まるところを知らず、絶えず不気味に燃え盛っている。その中に、ただ一人私は立っていた。無力な私が。
無造作に転がる、人間の死体。黒く燃える、炎。そして―――あの、悪魔の爪の閃き。
――― 一体、あの時と何が違うんだろう?いや、何も違わない ―――
結局、私は小さかったあの時と同じ、無力なまま。
ならば、あの時と同じように私はまた、大切な誰かを失うんだろうか…?
次々浮かんでくる友と仲間の顔。そして…
『現在、大戸市から出現したガイガンは防衛博物館付近でEXMA隊と交戦中。繰り返す、ガイガンは…』
死んでしまったミュータント兵の持っている無線から突然聞こえた、報告。
ぼうえい、はくぶつかん…?
その名には、聞き覚えがあった。それもつい最近だったはずだ。そう、たしか…あそこには―――
怜ちゃん――――――!?
私の体は、ついに凍り付いて固まってしまった。力をなくし、カクンとその場に堕ちてしまう。
体が、動かない―――どうして…助けに行かなくちゃ、いけないのに。恐いくらいが何? それくらい、怜ちゃんを助けるためならなんてことないのに。さっきだって、助けられたんだから。今までだって、助け助けられながらやってきたっていうのに。そう、今まで、今まで通りにやればいいはず…。
行かなきゃ、行かなきゃ……。
だが、無常にもこの体は呼びかけに応えてくれない。掌からブレードランスが落ち、カランカランと虚しい音を立てる。
遠くで、閃光と共に煙が上がったのが小さく見えた。だが、彼女の虚ろな瞳には、それが父を奪った閃光の記憶にしか見えなかった。―――ただの亡霊にしか見えなかったのだ。


「すいません、遅れました!」
空中戦艦コンスタンティノープルの操縦室に駆け込んできた河原田。後ろには、霧島も連れいている。入ってきた河原田に初めに飛び込んできたのが怒声だった。
「バカ野郎っ!!どこで油売ってやがった!?」
その張り裂けるような声の主の名はダグラス・ゴードン大佐。かつてのX星人との戦いで活躍したと言われている轟天号の艦長だ。根岸艦長の亡き今、艦長のいないこの船を動かせるのは彼を差し置いて他に存在しない…そのため、ゴードン大佐は艦長代理として艦長席に座っていた。
「すいません、野暮用に手間取りまして…」
「あら、野暮用とは私のことかしら?」
居心地悪そうに頭を下げて謝る河原田に、霧島はふん、をそっぽを向いた。そんな霧島を見たゴードンは
「河原田……お前、なかなか女を見る目あるな」
「何勘違いしてるんです、大佐…」

「大佐、例の侵入したマシンがそこまで来ています!」
「慌てるな」
なだめるような声で言うゴードン。そして、全てのシステムが一斉に正常値を示す。
「よし、コンスタンティノープル発進!」
河原田の握る操縦桿で、戦艦コンスタンティノープルは轟音を立てながら、ようやくその重い腰を上げた。
宙へ旅立つコンスタンに、突如ドアを突き破り現れたノーヴのガトリングが火を噴いたが、もはやその攻撃は鉄板に豆鉄砲を撃っているに等しかった。
「……くそっ!」
別のドアでは、霧島麗華を逃したユイが飛び立つ戦艦に向かって舌打ちしていた。

船は、黒煙と炎の先の世界へと向かい、羽ばたいた。その真下で、ゆみは瓦礫の陰に小さく、小さく蹲っていた…。








最終更新:2007年12月29日 19:59