第十二話
真っ白な地面を彩った紅はとても痛々しいが、どこか美しくも見える。なぜこんなことが起こったのか。
――― 一気に気力を跳ね上げた優馬は軽くカオスを斬り倒してしまった。本当に一瞬の出来事であった。優馬が持つマスターソードもまた、真っ白だった地面同様に紅く彩られている。
リンク「よくやった。正直、本当にその無名の剣で世界最強の斬撃に勝ってしまうとは思わなかったぞ…。」
そう言うと、リンクはカオスが持っているマスターソードを手に取る。
カオス「…オ…オレはまだ負けてねぇ…。まだ…ま…だ戦え…る…!!」
リンク「嘘をつくな。今にも死にそうだ。猿でもわかる。」
カオスに冷たい視線を向けるリンク。思わずカオスは黙り込んでしまう。そしてマスターソードを優馬に差し出した。
カオス「…ぐっ…。」
リンク「よし、たった今からお前をマスターソードの所持者として認めよう。これから本格的な剣術をお前に叩き込む!…覚悟はできてるな?」
優馬「…は、はい!!」
―――東京都、地球防衛軍vsX星人の激闘が幕を空けようとしていた。そこに少し遅れて、沙織と隼人が合流した。
熊坂「遅いぞ!放送が聞こえなかったのか!?」
沙織「…!…すいません。」
隼人「うわ、すっげ…。なんだあの大軍……!!」
隼人が視線を向けた方向には東京の市街地に犇くデストロイア幼体の大群。その上には、X星人の母船が浮かんでいる。
熊坂「これほどの相手はファイナルウォーズ以来だな。」
隼人「先輩!オレたちも戦功をあげるぜ!」
左手の平に右手の拳を打ちつける、いつもの隼人の戦闘準備万端合図。沙織もそれに続きガトリングメーサーガンを構える。…しかし。
熊坂「そうしてもらいたいのは山々なんだがな、お前らや成宮・北原は先の
メガギラス撃退で弱ってる。本来ならお前らは、大きな戦力だが今回ではバックアップに回ってもらうことになったのだ。」
沙織「それじゃあどうするんですか!?」
すると熊坂は親指で右側を指した。―――そこにいたのは。
隼人「――!!あ、あんたたちは!」
沙織「あれが…尾崎真一さん…!」
隼人「先輩たちならともかく…なんでてめぇらまでいるんだよ!」
和也「…なんでって…。お前らみたいな雑魚には任せられない任務だからだ。」
隼人「なんだと、てめぇ!」
和也「やる気か…?」
トゲメリケンを装着し、今にも殴りかかりそうな隼人。和也も鞘に収まっている名刀・村正の柄を軽く握っている。それを慌てて制止しようとする周り。
鈴菜「か~ずや♪まぁまぁ、穏やかにいこうよ。最近、らしくないよ?ニャハ♪」
大輔「今は目の前の敵に集中する時!無駄な兵(?)をここで消耗するわけにはいかん!」
沙織「……ほら、隼人も。」
熊坂「まぁ、こいつらでは片付かなくなった問題が起きた時にはお前らや成宮たちにも連絡をする。その時をしばし待ってろ!」
玉木「…熊坂さん、そろそろ行きましょう。こうしている間にも被害は広がってしまいます。」
熊坂「うむ。……では諸君、簡単には死ぬな。足掻いて足掻いて足掻きまくるのだ。もし死ぬのであれば、壮絶な最期を遂げること!要するに、奮戦せよ!」
一同「了解!!」
熊坂「よし、……地球防衛軍、攻撃を開始する!」
一同「了解!!!!!」
熊坂「行けっ!!」
一気にデストロイア幼体の群れの中に突っ込んでいく自衛隊やミュータント・
機龍隊。史上最大の合戦が幕をあけた。東京の街は、ほぼ全壊しており辺り一面には灰色の廃墟が広がっているだけである。(作者がいうには、この風景が一番最終決戦っぽい。)
―――心中の世界
リンク「では具体的な訓練法を言う。」
優馬「…。」
カオス「さっさとしてくれよ。こっちは暇で仕方ねェぜ。」
リンク「そのまま暇なことを祈るよ。」
カオスはまるでそこら辺にいるオヤジのように真っ白な地面にだらしなく寝転がっている。いつものような殺戮を楽しむ彼ではないような光景である。ちなみに先ほど優馬につけられた傷はリンクの能力によって、癒えている。
リンク「まず武器だが、お前はマスターソードを使ってオレにかかってこい。それに対しオレは、お前がさっきまで使っていたトアルの剣で応戦する。見事オレに一太刀でも浴びせることができれば、今度は単なるマスターソードの所持者ではなく地球の未来を担う真の勇者として認めてやる。」
優馬「え、マスターソード使って大丈夫なんですか?」
リンク「なめるな。実際オレはマスターソードを最後の戦いにしか使っていない。それまではずっと、トアルの剣で戦っていたのだ。トアルの剣は使い慣れている。それに、今のお前の実力ではマスターソードの真価を発揮することはできん。だから鍛えてやると言っているのだ。」
優馬「…むっ。そこまで言うなら。……あとになって恨まないで下さいよ。」
リンク「……こい。」
マスターソードを両手で持ち、リンクに突進する。まずは縦に一閃。剣同士が接触し、激しい轟音が純白の空間に響き渡る。受け止められるのは当たり前。受け止められながらも、そのまま押し倒してしまおうとさらに力を篭める優馬。しかしリンクはピクリとも動かない。さすがは古の猛者。いくら世界最強の威力を持つこの剣でも素人が使うのでは最強の斬撃は繰り出せない。リンクはそのまま優馬を跳ね除けてしまう。後方へ、おっとっと(?)となる優馬。すぐに体勢を立て直す。しかし時既に遅し。リンクはもう真正面に立っていた。あまりの俊敏さに動揺してしまう優馬。
優馬「――!!」
リンク「……ぬるい……。」
そのまま無防備の優馬の土手っ腹をトアルの剣で横一文字に斬り裂く。優馬の腹部から多量の紅が舞い、再び白い地面は彩られる。
優馬「……がっ……はっ…!」
リンク「今のお前の剣では、虫一匹殺せん。…ただの棒振りだ。もっと刃に精神エネルギーを注ぎ込むように意識しろ。今の斬撃はまるで魂が篭っていない。マスターソードの最強の威力を十分に発揮するには、常に刃を研ぎ澄ませることが重要だ。それがマスターできて初めて世界最強の斬撃を己のものにできる。」
優馬「……魂を……篭める…。」
リンク「さっきお前はカオスを倒した。その時の剣はとても研ぎ澄まされていた。その時のようにやれ。」
カオス「……ケッ。カオスを倒したとかオレの前で言うんじゃねぇ。」
優馬「……そんなこと簡単に言いますけど、今までマスターソードを真剣に振るうことはほとんどなかったし……。」
考えてみればそうである。物資採取の任務の際では、作戦を練って
バラゴンに斬りかかろうとするが失敗に終わっている。最後に使ったのは和也たちとの戦闘の際。しかしいくら戦いとはいえ、さすがに同じ仲間を本気で斬り倒すことはできなかった。――改めて振りかえれば優馬はマスターソードで敵を斬ったことがメガギラスの片腕を斬り落としたこと以外全くないのだ。カイザー化中の殺戮はカオスがやっていることだから、優馬がやったことにはならない。
リンク「………イメージだ。」
優馬「――!」
リンク「全身の気力を一端、腕に集中させる。そして腕に溜まった気力を今度は己の手に握られているマスターソードの端から端まで流し込むイメージ。その状態を維持するんだ。」
優馬「……なるほど。」
マスターソードを正面で構え、優馬は目を閉じる。そしてリンクに言われた通りにイメージしてみる。成績の優秀さが関係しているかは分からないが、マスターソードに気力が行き渡っている感じを優馬はすぐに感じ取った。
優馬「――よし、いいですよ。リンクさん。」
リンク「早っ!もう少し時間がかかると思ったが……。よし。ならばその研ぎ澄まされた刃でオレを斬り伏せてみろ!」
優馬は跳び上がり、そのまま急降下。落ちてくる勢いで一気にマスターソードをリンクに叩き込む。しかしそれでもリンクは受け止めてしまっている。だが、先ほどまでとは違って体を少しピクつかせながら受け止めている。確実に優馬の斬撃はパワーアップしていた。リンクは優馬を跳ね除ける。しかしすぐに次の一閃が迫ってくる。今度は身を翻し、マスターソードをよける。マスターソードは純白の地面に浅く突き刺さる。慌てて引き抜こうとする優馬。しかしリンクはその隙をつき、トアルの剣でマスターソードを下から上に弾き飛ばす。宙を舞うマスターソード。思わず宙のソードを見上げる優馬。完全に無防備。リンクは優馬に向かってトアルの剣を突き出す。しかし、優馬はジャンプしそれをかわす。なに!?といった感じの表情をするリンク。そのままリンクの頭に『シャイニングウィザード』を叩き込む。のけぞるリンク。優馬は落ちてきたマスターソードをキャッチ。すかさず怯んでいるリンクに突っ込み、首すれすれでマスターソードを止める。驚きを隠せないリンク。
リンク「……やるな。」
優馬「ふーっ、ふーっ……!」
鋭気溢れる眼で激しく呼吸する優馬。
カオス「へぇ、リンクさんをここまで追いこむなんてな……。」
リンク「まさか蹴りがくるとは思わなかったぞ。」
優馬「………ははっ。」
リンク「まだオレは斬られてないが、この勝負、お前の勝ちと言っても過言ではない。」
優馬「ありがとうございます。」
リンク「………では、最後にお前に必殺技を教えてやろう。」
優馬「―――!?」
最終更新:2008年02月07日 12:48