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雲ひとつない青空。そんな透き通った天気の下であるにも関わらず、その男の表情は曇りきっていた。尾崎真一。かつてこの星を侵略者から守った今や伝説的な英雄とも呼ばれる存在である。そんな彼の新たなる任務が、富士山麓での事件だった。

数日前。
尾崎は、いつものように上官である熊坂に呼び出されていた。
「2年前の、X星人の件はもちろん覚えているだろうが、その際犠牲になったアンギラス、ラドン、キングシーサーのことは知っているか?」
「ええ、まあ。富士山麓でゴジラに戦いを挑んだ結果、敗れたというあの怪獣達ですか」
「ああ。・・・それで今回、お偉いさんがたの意向で・・・・三匹の捕獲が決定した」
「・・・何ですって?」
尾崎が怪訝な顔をする。だが、熊坂もまた同じ表情だった。
「我々にもこの任の意図はわからない、だが・・・・我々ではこの決定は覆せない。悪いが尾崎、これからすぐ現地に飛んでくれ。後で『お偉い学者さん』が迎えに来る」

そんなわけで、尾崎は今富士山麓の地に立っている。視界には三匹の怪獣が横たわったままでいる。これまで気絶していたか、あるいは既に絶命しているのかはわからないが、この日までここにそのままの状態で倒れていることがまるで奇跡のようだった。そのせいなのか尾崎の心には、一握りの不安が突き刺さっていた。そんな曇ったままの尾崎に、一人の女性が駆け寄ってきた。
「尾崎君!・・・・・ねえ、尾崎君てば!」
一瞬物思いにふけっていたのか、ようやく尾崎は彼女の存在に気づく。
「美雪か・・・・・」
音無美雪。その容姿端麗さに反し、彼女の正体は分子生物学者である。そして彼女もまた、2年前の事件に大きく関わった人物の一人だった。尾崎の反応に、美雪はプッとむくれる。
「私じゃ不満なの?」
わざとらしく怒ってみせる。・・・・だが、尾崎は言い返すこともなくジッと視線の先を見つめていた。
「・・・どうしたの、顔色悪いよ?」
険しい表情の尾崎に、美雪が心配そうに声をかける。
「・・・ああ、大丈夫。ただちょっと・・・嫌な予感がするんだ・・」
「嫌な・・・予感・・・・・?」
そういって美雪も三匹の方に視線を寄せる。その澄み渡った空に穴をあけるように、何かオーラを放ったような違和感。それが、二人の目には映っているようだった。
そんな時、遠方から二人を呼ぶ声が飛んで来た。
「そこのお二人さーん!そろそろ始めるぞー!」
よく通る熊坂の声。それに反応して、二人は顔を見合わせる。
「・・・いくか」
「うん」
並んで歩いてくる二人。それを見たほとんどの人がクスクス笑い出す。しかしもちろん、尾崎にも音無にも、何のことかさっぱりわからない。それを見兼ねた尾崎の同僚のミュータントがため息混じりに呆れるように指摘する。
「尾崎・・・・気持ちはわからないでもないが・・・いちゃつくのは帰ってからにしような?」
「な、何勘違いしてるんすか!」
必死に否定する尾崎。だが、誰がどう見ても桃色空気が漂っているようにしか見えない。無理もない。二人はこの任務が終わった後、『結婚』するのだから。

尾崎の不安を跳ね返すかのように、作業は極めて順調に進んでいる。音無は怪獣のM塩基除去作業に取り掛かっている。今回彼女がこの任務に呼び出された理由はそれだった。しかし、M塩基に何か問題でもあるのだろうか・・・?仮の定義だがM塩基はX星人のテレパシー能力によってそれらを操るために植えつけられたもの。しかし、今やX星人は存在しない。ならば、何者かに操られる心配もないはずであり、美雪がここに来る理由もないはずである。いやむしろ・・・そのテレパシーを解析し、逆に怪獣を楽に操るという方法だってあるだろう。だとしたら、何故・・・?
そんなことを思っている間にも、作業は無事終了し、怪獣達は特殊クレーンによって搬送用トレーラーに乗せられていった。
「この様子なら、何事もなく終わりそうだな・・・」
さっきの同僚が呟いた。だが・・・・その傍ら、尾崎はやはり浮かない表情である。
「どうした?さっきから暗い顔して・・・。ずっとそんな調子じゃ、女の子が逃げてっちゃうぞ?」
「え?・・・・・ああ、まあな・・・」
空返事で返す尾崎。どうやら話しは耳に入っていないようだ。

だが、その数分後・・・・尾崎の『嫌な予感』は、見事に的中した。
突如山麓に響き渡る爆発音。そして次に地響きが襲った。
「な、何!?」
同時に通信が入る。それは、悲鳴にも似た声だった。
「き、緊急事態です!怪獣が・・・・が、が、『ガイガン』が現れました!」
「ガイガン・・・!?」
ガイガン。X星人が送り出した侵略の尖兵。金属質の悪魔・・・・しかし、X星人の滅び去った今、何故現れたのだろうか・・・?
「被害多数!救援を要請されたし!・・・うわああああっ!!」
「どうした!応答しろ!搬送班!・・・くそっ」
「いくぞ!!」
ただならぬ様子に尾崎は真っ先に外に飛び出した。そして、絶句した。・・・いや、絶望した、といった方が正確かもしれない。

それまで澄み渡っていた青空は―――ガイガンによって、埋め尽くされていたのだった・・・。
漆黒に覆い尽くされた世界。その中で、逃げまとうミュータント兵士達、作業員。戦う者もいるが、妖しく閃くカマ・・・ブラッディトリガーの前には、なす術もない。
だが、悪夢はそれだけではなかった。その爆音で、アンギラス、ラドン、シーサーの目が開いた。自分達が閉じ込められていることに気づいたのか、激しく暴れ始めた。巨大生物の荒々しい暴走。トレーラーの防壁は紙切れのように頼りないようだ。そして、ガイガンの一体がそのトレーラーの2台を切り裂いた。同時に、自由になったラドンとシーサーが遥か遠方に去って行く。
「何て事・・・・・・」
後から追いかけてきた同僚が思わず言葉を漏らす。その時、尾崎ははっとした。そう、この中のどこかに・・・・美雪がいる!
一気に飛び出す尾崎。
「美雪――!!」
「ちょっと、尾崎君!?」
ギガリュームクラスターの雨の中、必死で尾崎の視線が泳ぐ。その時、尾崎の眼前に巨大な足が振り下ろされる!
「!!」
そそり立つ壁のように行く手を阻むガイガン。同時に尾崎のメーサー小銃が火を吹いた。だが、その金属質の肉体には傷一つ付かない。今度は、ガイガンがブラッディトリガーを振り下ろす。風を巻いて襲い来るカマ。尾崎は後ろに跳んでかわす。ぎりぎりでカマは地面にめり込んだ。
だが・・・・その鏡のように光るカマに、信じられない、信じたくないようなものが映し出された。それは自分、そして必死にこちらに向かって走ってくる美雪、その後ろには、自分の目の前にいるものと同じ――――ガイガン。そしてそのガイガンのカマが、閃いた。
まるでスローモーションのような光景。そして・・・・カマの中に消える、命―――。
ガイガン達の擦り切れるような咆哮、爆音の中で・・・・その男は絶叫した。

「みゆきいいいいいいいいいいいっっ!!!!!!」











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最終更新:2007年10月02日 21:57