無音の暗闇。そこにほんの少し踏み入れただけで、
この足は震え、この手は理性を失い、もがけばもがくほど息は苦しくなっていく。
その度、私は耐えられずそこから逃げ出してしまう。
「はぁ、はぁ・・・」

私のただ一つの苦手な物。それは・・・




ゴジラ ファイナルウォーズ リバース番外編
~激闘!スクールウォーズ!!スク水編~




「ええ~っ!?どうしたら泳げるか教えろって!?」
大戸高校の女子更衣室で、彼女の長い付き合いである家城由美子は驚愕の叫び声を上げた。
「う・・・そ、そこまで驚かなくてもいいじゃない・・」
うつむき加減で、今にも泣きそうなほど目を潤ませる和泉怜。今日は泳ぐとあって、いつも後ろ一点で縛ってあるつややかな黒髪を解いている。しかし・・・
「で、でも・・・和泉、今までまともに水の中入ったことある?」
由美子の親友、琴音美里も困惑したような表情でため息をついた。
…言わなくても誰にもわかっている。怜は、極度の水恐怖症なのだ。
小さい頃、海に遊びに行って泳いでいる途中ガニメに追い掛け回されて以来、何故か『怪獣』というものではなく、『水』というものに恐怖を感じてしまうようになってしまったのだ。・・・皮肉にも、M機関というものに憧れを抱いたのもこの時であったのだが。

「・・・で、その入隊試験に水中能力試験もあったってワケね」
「えー。でも、怜ちゃん水に足入れただけで顔がキューってなって・・・」
「冷や汗だらだらで、泳ぐ前から体びしょ濡れ」
「で、いざ入るとまったく進めず、代わりに下に沈んでくんだよねー」
「全く、いつもはバカみたいに人間離れな運動神経してるくせに・・・」
まるで面白おかしく言う二人に、怜は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「何よーぅ!美里だってこの年で注射が恐いくせにっっ!」
思ってもみないカウンターパンチに、美里の体が仰け反った。
「うっ!・・・あ、喋ってないで早く練習しないと!ほら行こう!・・・」
笑ってはいるものの、美里の目は完全に焦点があっていなかった。
メルトダウン寸前の怜、目が泳ぐ美里。そんな光景に、由美子はただ苦笑するしかなかった。

なにはともかく、ようやく三人はスクール水着に着替え、準備完了である。
太陽に反射する白い肌は、陽光よりもまぶしい。
「じゃ、まずは頭まで水に漬かってみよっか」
由美子が促し、怜が一歩前に出る。遂に怜とプールの、地球最大の決戦の幕開けだ。
まず、怜の足がゆっくりと、水の上に降りていく。そして、指の先端が水に触れた。伝わってくる冷たい感触。その瞬間、怜の顔がキューっと引きつっていく。更に体全体がプルプルと振るえだした。それにあわせるように、水面も小さく波紋を作り出していく。
「やっぱりダメかな・・・」
美里は見てられんとばかりに顔を手で覆いながらため息を吐いた。
その時、由美子が怜の真後ろに回りこんだ。そして・・・
「ほら、さっさと入る!」
「え!?ちょ、ちょ!」
必死の叫びも空しくかき消され、思いっきり背中を押し飛ばされた怜は、頭から水中に突っ込んだ。同時に、弾け跳ぶ水しぶきが太陽にきらきらと反射する。
それから水しぶきが止むと、怜の顔が現れる。
「ちょ、たすけ、助けてーーー!!」
両手でバシャバシャともがく。顔なんかもう真っ青だ。
「大丈夫、必死にもがいているうちにだんだん泳げるようになるから。がんばれ怜ちゃん!」
「ゆみ、たまーにとんでもなく恐いよね・・・」
単純で、という言葉はあえて飲み込んだ。
そうこういっている間に、怜の体はどんどん水に飲まれていって・・・見えなくなった。
「あれ?ならないね・・・」
座りながら、顎に手を当てて首をかしげる由美子。
「・・・っていうか和泉死ぬって!!」

「・・・・・・」
水揚げされた怜は、まさに漁師に釣られた魚よろしく肘まで地に付けてぐったりとしていた。
「・・・ダメじゃん」
「そりゃそうだよ!!」
何故だか、由美子は時々本当のバカになる。それ故、怜も美里も、今まで随分苦労してきたのだ。
「やめる・・・私、もうやめる・・・」
肩を震わせ、怜はそっと呟いた。今のは、多少しょうがないとしてもショックだったようだった。
そんな光景に、美里はまたため息をつく。
――――しかし、今までの呆れるようなため息とは違っていた。
「こらこら、何言ってるの。防衛軍、入りたいんでしょ?」
まだ青ざめた表情で怜は、こちらを覗き込む美里を見上げる。
「そんなモンであきらめちゃダメだよ。夢があって、それに向かって歩いていける・・・それって、すごいことなんだよ。だから、ね。もうちょっとだけ頑張ってみよう?
私も手伝ってあげるから」
天使のように微笑み、手を差し伸べる美里。それで、怜の顔色も暖かくなっていった。
「そうそう、私も・・・」
「はいはい、ゆみは黙っててねー」
「あう・・・」

「それじゃ、もう一度・・・」
怜たちがプールにもう一度入ろうとした、その時である。突如として生徒達の悲鳴が響き渡り、同時にプールの中心から巨大な水柱が轟音を立てて立ち上った。
「な、何!?」
そして水柱が収まるとそこには、人間大もある異形の昆虫の姿があった・・・。
                                続く

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最終更新:2007年03月09日 20:26