突然、日曜日に遊ぼうってことになった。
特別何があるわけでもなく、ただ単に、たまにはいいんじゃないかってことで、そういう話になった。
「で、どうかな?開いてるといいんだけど」
栗色のツインテールを風になびかせながら、美里は由美子に顔を近づける。
一瞬ホケーっとしていた由美子は、理解するとすぐに笑顔を作った。
「うん、いいよ、いくいく♪」
「大丈夫?無理ならいーんだよ、『お仕事』とかあったら・・・」
「え?あ、大丈夫大丈夫、仮病使うから。ハライタとか」
「え、ちょっと・・・」
「やだなあ、冗談冗談♪日曜日は非番だもん、スクランブルなければ全然OKだもん」
由美子は笑う。美里もつられて笑う。でも、美里は知っている。彼女が無理して笑っていることを。でも、どうにもできない自分がいた。・・・なんだか悔しい。

「う・・・うれしいなあ。」
彼女の言葉は、今直オレンジの髪を撫でるこの風のように、ささやくように流れて消えた。
本当のことを知っていながら笑ってしまう私。

そんな私は、残酷だろうか?




ゴジラ ファイナルウォーズ リバース番外編
~戸惑いと遊んで~




日曜日、ゆみは本当に
楽しそうだった。

「美里ちゃんっ!」
なんて大声で手を振って、正直ちょっと恥ずかしかったけれど、真夏の太陽みたいな笑顔を見たら、そんなことはどうでもよくなって。
神奈川の10月は真夏みたいに暑かったけど、今日は気持ちのいい小春日和で。
「あ、見てみて、この服カワイー♪ちょっと観てこーよ!」
「えー?でも私そんなにお金ないし・・・」
「いいからいいから♪」
「んー・・・そだね、じゃあちょっと寄ってこ♪」
だから、そんなどうでもいい会話も、なんだか暖かく感じて。

何で突然、遊ぼうなんてことを言い出したかというと・・・
(いや、そうじゃない・・・)
こんな事、誰だって普通にやっている。
だから、ゆみを特別扱いなんてしたくない。


いつかは、私自信の事を言わなきゃいけないと思っているけど
―――でも、今日の幸せそうなゆみの顔を見ていると
今日だけは、余計な事を言いたくなかった。
自分がそういういやなひとだと思いたくもないし
何より、ゆみのこんな笑顔を、少しでも曇らせたくはなかった。

―――だけど、ゆみは



あっさりサイフをなくした

「あ、あれ?おかしいな、落としたかなあ・・・」
目を一杯に潤ませながら、それでも無理に笑おうとしているゆみ。
結局、私が守りたかった笑顔は簡単に曇っちゃったね。あはは・・・

「あーあ、あの服惜しかったなあ・・・」
ため息混じりに、私の横でシュンとなるゆみ。その目にはまだわずかに涙が浮かんでいた。
「・・・じゃあさ、カラオケ行こ、カラオケ!」
「え、でも・・・」
「大丈夫、お金なら私が全部出してあげるから♪だから、ね♪いこいこ!」
私はゆみの腕を無理矢理引っ張る。でも、それでゆみも少し落ち着いたみたい。
「うんっ♪」
次の瞬間には、もう元の笑顔に戻っていた。

なんだか、このまま放っておいちゃいけない気がしたから。
なんだか、どこか深い闇の中に、消えてしまいそうな気がしたから。

「二人で歩いた並木道♪」
「サクライロノキセツの中で♪」


それから、ゲーセン行ったり、食事したり、色々なことをした。
なんだか少しだけ、デートみたいだったけど、そんなこと言ったらレズとか百合とか言われちゃうよね。


夕焼けに包まれた公園。時折吹き出る噴水がまた紅い光りに反射してキラキラと輝いている。そこにあるベンチで、私達は並んで座っていた。
「ああ・・・もう終わりかあ」
ゆみが空を見上げてぽつんと呟いた。私がゆみの方を見ると、そのオレンジの髪は夕日にしっとりと溶け込んでいるようで、とっても綺麗だった。
「もーそろそろ暗くなるね」
私は立ち上がろうと足に力を入れる。
―――だけど。
ゆみのその繊細で、小さな手が、私の手をぎゅっと握った。
「もう少し・・・いる」
今度はしたにうつむいて、まるで子供が駄々をこねるように、こもった声でそう言った。
何故か、小さな涙を浮かべて。

でも
怪獣なんて物がいるこの時代で、いつかこの星に終わりが来ることを本当は、
うすうす気づいていながら
私の周りの失いたくない、いとしいものだけ
変わらないでいてほしいと思うことは・・・


駄々をこねる子供のように、愚かなことなのでしょうか?

「でも、今日よかったね。スクランブルなくって」
私がそう言うと、ゆみは少しだけ笑って、こう答えた。
「・・・えへへ、ホントはね。・・・携帯、置いてきちゃったの」
一瞬だけ、鼓動がはやくなった。
「そ・・・そう・・・・・・」
「久しぶりだったから・・・邪魔、されたくなかったの」
そう言うゆみの唇は震えきっていた。まるで、暗闇から現れる何かに怯えるように。
だんだん、鼓動がはやくなって行く。もし、最悪の事態でも起こっていたら・・・と。
「美里ちゃん・・・私、悪い子かなあ・・・」
なんだか、可哀想で。全てを彼女の押し付けている気がして。
だから、私は大声で言った。何の根拠もなかったけど、自信だけをもっていった。
「そんなことないよ!大丈夫だって。今日一日くらい、怪獣なんかどこにも出てこなかったよ!」
その時のゆみは

すごく、ものすごく、切ない顔をしていた。
「・・・そうだね。そんな日も、あるかもしれないね」
なんだか、こっちまで気が滅入ってしまいそうだった。
「だ、だって、遊ぶことくらい皆やってるじゃない!普通の高校生なら誰でも!」
「ふ、つう・・・の?」
「そうだよ、ゆみは何も悪くない!今日はみんな平和だったんだよ!
この街みたいに!」
立ち上がって力強く言い放つ私にゆみは、静かに微笑んだ。
「そうだと・・・いいね」

帰り道、夕焼けもすっかり星空に変わり、暖かな空気も肌寒いくらいになっていた。
「美里ちゃん、今日はありがとう。とっても楽しかったよ」
家への分かれ道、ゆみはまた笑顔で言った。でも、もうその笑顔は笑っていない。
喜んでもいない。
「ううん。私も楽しかったから。それじゃゆみ、また学校でね」
「うん・・・」
夜の夕闇の中へ、ゆっくりと消えていくゆみ。それが、闇の中へ飲まれていくような気がして。
「ゆみっ!」
つい、私は彼女の名前を呼んでしまった。
ゆみは、キョトンとした顔で振り返る。全く邪心のない、純粋な姿。
「が、がんばってね。その・・お仕事」
一瞬ホケーっとしていた由美子は、苦笑したように首をふるふると振った。



「もう・・・慣れたから」


その時、一瞬知らない人が立っていたのは、私の見間違いだろうか。



いとしいものが、変わらないことを望むのは、愚かなことだろうか。
私がまだ、子供なんだろうか?
だって、私は…

…ゆみはまだ17歳で、高校生で、ちょっと小さくて。
普通の・・・
普通の・・・



その日、お昼過ぎに突如現れたデストロイア完全体は名古屋港から上陸し、名古屋市を含む近隣8都市は、たっぷり夕方までかけて火の海と化した・・・。

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最終更新:2007年03月09日 18:15