結局、僕は恵さんの家にいる。身内はすべて行方不明か死亡。ここ以外、行く当てもなかった。二人とも親がいないからちょうどいいと恵さんは言っていたが・・・。
(そういえば、恵さんの親は何でいないんだ?)
だいたいそんな話、初めて聞いたぞ。小学校からずっと一緒にいたのに。恵さんにも、引き取ってくれる親族はいないのか?
「ん?何、どうかした?」
「あ、いや別に・・・・。」
国会議事堂、軍事会議室。
「名古屋は完全に壊滅状態です。すぐに救助隊を要請しましょう。」
「すでにやっています。」
「しかし、どうしたものか・・・この損害は。」
「これは国家予算にも大きく影響しますね。」
「巨大生物の一匹は海へ、他二匹は所在不明だそうだがどういうことかね黒木君?」
黒木はこんな状況下でも冷静に応える。
「途中、もう一匹の巨大生物が現れたために迎撃に失敗しました。ですが、次回は必ず、生物を撃退してみせます。そのために現在、新たな対巨大生物兵器を開発中です。」
この言葉に会議室はざわつく。しかし、これは議長のカンにさわった。
「黒木君、きみは軍資金が国民の税金から出されている事を知っているか?この事件で我が国は多大な出費を負った。そんなときに、君はそんな金の使い方ができるのかね?」
「はい。」
「しかし、このままでは名古屋、静岡への援助金さえままならない。それでは市民の生活が・・・・!」
黒木は力強く言い返す。
「その市民を守るために、確実に巨大生物を撃退する兵器が必要です。現地で戦っていない方が、私のやり方に口を挟まないでいただきたい・・!」
「・・・・・・!」
(今度こそ、必ず・・・!)
「あ~あ、学校もジラに壊されちゃったし、ヒマだなあ・・・。」
ジラは上陸時、真っ先にジン達の通う学校を破壊していた。
「よし、じゃあ買い物行こう!ほしいものがあるんだ」
恵はご機嫌で準備を始めた。
名古屋市内、某デパート。ただ、二人はすでに廃墟と化している事を忘れていた。
「あ、そういえば・・・・」
「・・・・だったら次よっ!」
愛知県市内、某デパート。だが、ジラの騒ぎのせいか、入り口には『休業』の二文字がでかでかと貼られている。
「ぬうう、だったら!!」
静岡県市内、某デパート。だがここも、
バランが通過した事もあって荒れ果てていた。休業どころか、入り口が瓦礫で埋まっている。
「ううう・・・・。」
恵は今にも泣き出しそうだ。
「・・・・もう一つ隣の県に行こう、きっとやってるから、ね?」
「あううう・・(半ベソ)」
山梨県内、某デパート。
「や・・・・やった・・・・。(満開)」
恵の表情に、ようやく華がもどる。ジンも一安心。すっかり夜になってしまったデパートは、明々と照らされている。
「ジン君、行こ行こっ♪」
恵はジンの手を引っ張る。
「海上自衛隊より、緊急通信が入っています。」
「つなげ」
緊急通信。この言葉が陸自に緊張を走らせた。
「こちらイージス艦隊旗艦『ひえい』艦長の曽根崎です。大変な事になりました。」
「こちら陸上自衛隊第三特務隊准将、立花だ。どうした、何があった。」
曽根崎の声は明らかに震えていた。さらに、バックでは砲撃音が聞こえる。立花にも緊張が走る。
「現在、静岡港で未確認巨大生物と交戦中。一匹は水棲生物、もう一匹は恐竜アンキロサウルスに酷似しています!」
「よし、俺が今すぐ援護に向かう。」
「了解、早急にお願いします。」
通信は爆発音の途中で途切れた。その場が静まり返る。
「お前ら、何ボーっと突っ立ってやがる!!今すぐ『さつま』を発進できるようにしろ!それと、通信科は自衛隊特別本部長の黒木特佐にただちに連絡しろ。『あれ』を使う時がきたってな。」
静岡港の一角。そこに水柱が立ち上る。それは通信にあった水棲生物――――チタノザウルスだ。さらに、それを追うように恐竜アンキロサウルス――――――アンギラスが姿を見せた。その後ろでは、イージス艦隊旗艦『ひえい』、護衛艦『もりゆき』『はるゆき』『はつゆき』が砲撃準備にかかっている。
チタノザウルスが艦隊を睨み付ける。
「撃てーっ!」
艦隊がチタノザウルス、アンギラスに砲撃の雨を降らす。しかし、両怪獣は水中に潜ってそれをかわす。水中に陰影。『もりゆき』に向かっている。そして陰影はチタノザウルスに変わった。『もりゆき』に爪を立てる。しかし、アンギラスがチタノザウルスの尾に噛み付き、海面へ投げつける。チタノザウルスは一瞬宙に浮き、海面に水柱をつくる。『もりゆき』は間一髪のところを救われた。
「アンキロサウルスが・・・・我々を助けた!?」
しかし、間髪いれず今度は『はるゆき』に迫るチタノザウルス。
「『もりゆき』『はつゆき』、援護しろ!」
三艦の砲塔が同時にチタノザウルスに向けられる。
「発射!」
再び火を吹く砲塔。しかし、撃つのが遅すぎた。牙に、爪に無残に引き裂かれる『はるゆき』。そして、冷たい海の底へ沈んでいく。チタノは残りの艦隊に目を向ける。その時、海上が大きく盛り上がった。アンギラスの奇襲だ。チタノザウルスを押し倒すアンギラス。水しぶきを上げながら組み合う二匹。それをただ呆然と見守る艦隊。そこに、通信が入る。
「お前ら、何ボーっとしてやがる。攻撃再開だ!」
そこに現れたのは立花准将専用旗艦潜水艦『さつま』だった。
「削岩魚雷発射!」
艦首から放たれるドリル状の魚雷。それはアンギラスの足に刺さった。海が赤く染まっていく。アンギラスがもがく。その間にチタノザウルスは艦隊の真下を通過し、静岡に足を踏み入れた。しかし、立花は無視する。
「准将、怪獣が上陸します!」
「大丈夫だ、向こうは黒木が面倒見る。それより、俺達はこいつらをしとめるぞ。」
「しかし、この怪獣は・・・・!」
「色々言わずに仕事しろ。なくなった時に後悔するぞ。」
すっかりご機嫌になった恵の手には持ちきれないくらい大量の食器やら家具やら。これはジンの分だ。
(そういえば、僕の分は前の家にあったもんなあ・・・。潰れちゃったけど)
こういうあたり女子の方がしっかりしている、とジンはやけに納得した。
と、その時、避難警報が街に響き渡る。
「避難警報発令、避難警報発令。怪獣が街に接近しています。住民の皆さんは係員の指示に従って速やかに避難してください。繰り返します、住民の皆さんは・・・・」
市街は一瞬でパニックに陥る。路上には戦車が走り出した。
「ジン君、怪獣ってもしかして・・・」
「禍津日!?」
「ジン君は先に行って!私は坂本さんに知らせてくる!!」
「うん!・・・・あ、でも荷物どうしよう?」
「大丈夫!意地でも持って帰るわ!!」(なぜかガッツポーズ)
「わ、わかった・・・・。」
ジンは戦車の向かう方向へと走っていく。既に砲撃音が鳴り出している。
チタノザウルスを取り囲むように配置された戦車、メーサー群。さらに、上空には白と銀が眩しい最新鋭機の姿もあった。
首都防衛用最新航空兵器、ガルーダ。この新米兵器は、パイロットもまた新米だった。パイロット、青木一馬(あおきかずま)。今年から自衛隊に入隊。その後、ずば抜けた成績を叩き出し、今回晴れて最新鋭機のパイロットを一任された。
「よし、行くぞ!」
「砲撃を緩めるな!一歩たりとも動きを許すわけにはいかない!」
黒木の号令と共に、チタノザウルスに鉄甲弾、メーサーの雨が降り注ぐ。地上では水中のように思い通り動けないチタノザウルスはそのすべてをまともに受ける。
「よし、このまま一気に・・・」
しかし、突然チタノザウルスが尾に膜を張り出した。
「!?」
「何を始めるつもりだ・・・」
チタノザウルスは、尾を羽ばたかせ、そして竜巻を作り出した!
竜巻に巻き込まれ、次々と宙を舞う戦車、メーサー車。
「くそ、野郎!」
青木がガルーダの機首に取り付けられた2対の高出力メーサーを上空から降り注がせる。連射!!チタノザウルスは怒って噛み付こうとするが、そんなものに当たるほど最新鋭機は低性能ではない。竜巻。だが、同じ結果。かわりに戦車が宙を飛んだ。
とある廃屋。人もよりつかぬそこに、人影があった。
「岩手野・・・いる事はわかってる。さっさと出てきたらどうだ」
「何度も言ってるだろう!ここにはおっさんはいない!あの戦いの後、はぐれちまったんだ!」
パトリックは手に汗を握り、必死で先に通させまいとする。
「・・・・貴様が岩手野を拾ったところをこいつは見ている。いいわけは無駄だ。」
「無駄です。」
パトリックの前には男と女。男は右目を黒い眼帯で覆っている。女はまだまだ二人には到底適わないほど背が小さい。子供だ。
「・・・・だったらみてみりゃあいいじゃねえかよ!この奥を!それでいなかったら、おとなしく帰れ!」
「・・・・・。」
男はパトリックを押しのけて廃屋の中へ足を入れる。そこには虚無の空間。灰色のホコリが部屋を飛び交うだけだった。
「見やがれ!誰もいないじゃねえか!」
「・・・・・・。」
「約束だ、さっさと立ち去れ!」
男はもう一度ぐるりと部屋を見渡して足を外へ向けた。
「・・・・行くぞ」
「パトリックバイバイです」
パトリックは二人が消えるのを最後まで見届けた
「・・・・・もういいぜ、おっさん。」
そういうと、廃屋の隅の床が外れた。この廃屋には地下があったのだ。中からは、あの武将ひげが出てきた。
「ふうう、すまぬう、米系い。」
「しょうがないだろ、神獣殺しちまったの俺だからな。・・・・・・だから米系はやめろって。それにしても、手塚はもう殺られちまっただろうな。」
「神獣を失ったものは、神獣と共にこの世を去る。これが禍津日の掟だからなあ。」
「くそっ、誰が決めやがったんだ、こんな掟・・・」
パトリックが毒ついた。その時、岩手野の顔がこわばった。
「ん、どうしたおっさん?」
パトリックが岩手野の視線を追った先にいたもの。それは消えたはずの眼帯の男だった。
「誰が決めたか・・・・そんなことはどうだっていい。そういうのは本質が問題だ。」
男の手には怪しく輝く冷たい拳銃。
「岩手野茨田儀。制裁の時だ・・・・。」
岩手野は糸の切れた操り人形のように動かなくなった。
「おっさん!」
「パトリック、貴様も落ちたな・・・。価値の失ったものをかばうなどと・・・」
「価値がないだと!勝手に決め付けんな!」
「パトリック、怖いです・・・」
「貴様にはこんな事ではなく、他にやる事があるはずだ。忘れたか?使命を・・・」
「っ・・・・!・・・わかってる」
「芹沢・・・・神獣はちっこいくせに、でかい野郎だ・・・・。」
男、芹沢は月夜の底に去っていく。パトリックが見守る夜の風には、血の臭いが虚しく絡められていた・・・・。
ガルーダの猛攻は、チタノザウルスを羽交い絞めにしていた。メーサーも一斉攻撃。
「よし、このまま一気に・・・・」
しかし、突如衝撃が起こり、青木の視界が揺れ始めた。
「な、何だ!?」
ガルーダのメインエンジンにメーサーが誤爆したのだ。体制を保てず、ビルに突っ込むガルーダ。
「くそっ、何やってんだ!」
ここぞとばかり竜巻のラッシュをかけるチタノザウルス。戦車、歩兵、重火器が紙ふぶきのように舞い上がり、雨のように地に落ちる。
コンクリートにべっとりと流れる血の川。所々に転がる死体や鉄屑。ジンはその真ん中に立っていた。ビルの隙間から、ヒレで覆われた巨体が吼えている。
「これ以上、犠牲は出させないぞ!ギドラ!!」
ジンの真上に、光の粒子が収束し、三頭竜の陰影を形成していく。
「黒木特佐!市街に新たな巨大生物が出現しました!!」
「・・・・こんな時に!戦車隊は水棲生物を攻撃!メーサー隊はその出現した生物を攻撃!」
ギドラの咆哮。チタノザウルスとの睨み合い。相手も敵と判断したらしい。先に仕掛けたのはチタノ。テイルハリケーンを浴びせかける。しかしギドラには何の効果もない。ギドラの電撃波。水を含む皮膚には効果絶大だ。
(今回は余裕かな・・・・)
しかし、障壁は思わぬところから放たれた。青い光の筋が黄金の体に突き刺さった。ジンは転げ落ちそうになる。
「な、なな何だ?」
メーサー機。冷たく重たい深緑の兵器。その矛先はギドラ。
最終更新:2007年03月19日 19:58