第8章:白虎と朱雀
「はぐれ神獣?」
坂本が取り出した腕輪を二人はまじまじと見つめた。
「ああ、この中には昨日見つけた玄武のガメラがいるんだけど、どうやらその主人はガメラを具現化させた後、死んでしまったようでね・・・」
「すると、この神獣の新しい使い手を見つけなきゃならないんですね。」
「そう。ただ、ガメラのほうも承諾しなければパートナーとして成立しないんだけど。とりあえず身近な所から当たってこうか。・・・恵ちゃんとかどう?試しに一回戦ってみない?」
「えっ!?」
恵はすごい勢いで両手を左右に振った。
「冗談じゃないです!私なんかが戦うなんてとても・・・。それに、亀とかぬるぬるしたのは、ちょっと・・・・」
「そっか・・・・・仕方ない、あいつに相談するか・・・」
「・・・・・・あいつって、誰ですか?」
二人は首をかしげた。
「・・・二年前の事件は覚えてる?」
「横浜で巨大生物が戦ったっていうやつですか?」
「そう、その時俺の
バラゴンと、当時ははぐれだったギドラ、そしてもう一匹『モスラ』という蛾を使っていた奴がいてね。そいつなら誰かアテがいるかもしれないと思って。」
そんなわけで僕たち三人はその人の家の前にいる。その家は昼間なのにどこか薄暗い感じで、人を寄せ付けないオーラを放っている。ぶっちゃけ本当にここなのか疑った。さらに、中で待っていた例の人も、家以上に何者も受け付けない出で立ちで、目のやり場を失ってしまった。恵さん曰く「目つきが恐い」。
「よ、久しぶり、聖」
「・・・何の用だ。」
陽と陰のような二人。普通に話しているのが違和感に感じて仕方ない。いや、普通でもない気もするが。
男の名は聖優一(ひじりゆういち)。この人はさっきの話通りモスラという神獣を使っているらしい。やたらと背が高く、常に誰かをにらんでいるかのような鋭い目つきをしている。
「禍津日が動き出したのは確かなんだが・・・まだ理由がはっきりしないんだよなあ。で、相談なんだけど・・・」
「・・・・初めに言ったはずだが、俺が貴様に協力するのは『アイツ』を倒す力を得るためだ。直日も禍津日も関係ない。よって、それに関する相談は受けん。帰ってもらおう。」
「まあそう連れない事いうなよ。実はさ、昨日ゲンブを見つけたんだが・・・どうも使い手は死んじゃってるらしくてさ。それで代役を探してるんだけど・・・誰かよさそうな奴知らないか?」
「ゲンブだと・・・?また余・・・」
言いかけて聖は手で口を覆った。
「ん?何か言ったか?」
「・・・・いや。しかしゲンブは気難しい性格だ。並の人間では操縦できないだろう。」
「やっぱいないかー・・・。お前なら、アテがあると思ったんだがな・・・」
ジンと恵はまともに話も聞かず家から外にでていた。今日も空は晴れやかで、そよ風が季節の移り変わりを感じさせる。
「もお、あの人ナニ?見るからにツンケンしちゃって・・・」
「まあまああの人だってそういうつもりじゃ・・・」
「何よ!?ジン君あの人の肩持つワケ?しんっっじらんない!」
「肩持つって・・・。」
その時、二人の目の前のビルが突如崩れた。しかも、これまた突如降ってきた岩がぶつかって。二人は瓦礫を必死に避けながらすぐそばの更地に駆け込んだ。
「いきなり何なの!?」
「僕が調べてくる。恵さんはここにいて。」
ジンは走りながら叫んだ。
「ギドラ!!」
ジンの周りに粒子と雷が収束し、竜の姿を形成する。
同時刻。岩の発射元。
「いくら作戦とはいえ、こりゃちと人使いが荒いんじゃないか?うん」
この男は古江強(ふるえ つよし)。愚痴る彼もまた神獣使いである。古江の足元では彼の神獣キングコングが絶え間なく岩を投げ続けている。
「コング、もうちょっとであいつらが来るはずだ。頑張れ!うん」
キングコングは勇ましく吼えた。そこへ、ギドラが奇襲の引力波を仕掛ける。しかし、コングはそれを瞬時に察知し、岩でそれを粉砕した。
「お、ようやく来たみたいだな。うん」
「あなた、禍津日ですか!?」
「いかにも私は禍津日だが?」
「いったい禍津日の目的は何なんですか!」
「威勢がいいね、うん。だが長話は無用。行け、キングコング!」
言うが早いが岩を投げつけるキングコング。ギドラはそれを噛み砕いた。コングの突進。ギドラも走り出す。衝突。土煙が二匹を包み込む。しばらくの沈黙。
やがて出てきたのはコング。続いてギドラが引力波で土煙を吹き飛ばす。しかし、息もつかぬままコングの岩石が襲う。腹部に直撃し、よろけるギドラ。さらに岩石ラッシュ。ギドラは手も足も出ない。
そこへ、坂本と聖がようやく姿を現した。
「お前と一緒に戦うのは久しぶりだな。」
「・・・・・ふん。」
依代展開!
形成されたその姿はしなやかで巨大な羽根に鮮やかな模様が彩られ、神々しさを放っている。
「聖巨蛾モスラ!」
「地低地神バラゴン!」
コングとギドラの間にバラゴン、モスラが割ってはいる。バラゴンの放射火炎。続いてモスラのボンバーラリアット。しなやかな羽根から織り成す攻撃に、キングコングは地に倒れこんだ。
「やった!」
「ま、三対一なら楽勝だな。」
「・・・・・・。」
戦いは圧倒的有利に進んでいった。
しかしその時、バラゴンの背後から光の渦が延びた。それはバラゴンの背中に突き刺さる。
「何が起きたんだ!?大丈夫ですか、坂本さん!」
近づこうとするギドラ。しかしさらに光の渦が行く手を遮る。その渦の先には・・・モスラがいた。
「なっ・・・!」
「聖、お前・・・!」
「・・・・・・」
「遅いぞ聖!!うん」
モスラはさらに光の渦・・・ビームパルサーを浴びせかける。二匹がのけぞった。今度は光の粒子を上空から降らすモスラ。その粒子が作ったフィールド内に稲妻が降り注ぐ。毒鱗粉=プレッシャーフィールド。二匹の皮膚が焼け爛れていく。キングコングも起き上がり、岩石攻撃を仕掛ける。なんとか地中に逃れるバラゴン。ギドラも引力波で鱗粉を吹き散らす。しかし、反撃できぬままさらに敵の攻撃を許してしまう。
瞬間速度マッハ80からなる体当たり、フラッシュ・ダッシュ。ギドラの巨体も一瞬で吹き飛んだ。バラゴンもキングコングのジャイアントスイングで投げ飛ばされてしまう。
「な、何故だ、聖・・・!」
「言ったはずだ。俺は『アイツ』を倒すために戦うと。禍津日はそのための力をくれた。俺はもう貴様と共に戦う理由はない。」
「・・・・そんな・・・!」
聖は冷たい表情で坂本を睨みつけた。
「さらばだ・・・・・モスラ変異、レインボーモスラ!」
聖の合図と共に、モスラの羽根が虹色に光り輝きだす。顔つきも変わり、額には三対の球体器官が現れた。
「スパークリング・パイルロード!」
変異したモスラの腹部から巨大な光の奔流が放たれる。二匹はその奔流に飲み込まれた。
キングコングとモスラは気づいた時にはもういなかった。僕たちの周りの大地は黒く焼け、真ん中でギドラとバラゴンがぐったりと横たわっている。
僕たちは、負けた。
「聖・・・・・。」
坂本は空を仰ぎ見た。赤みに染まったその空は、物寂しさを広く、遠く伝えているかのようだった。
「放て!」
自衛隊が一斉に火を吹く。しかし、紅い悪魔は何事も無かったかのようにゆっくりと近づいてくる。そして、その悪魔は自衛隊員に紫色の気体を吹きかけた。一瞬にして溶けていく自衛隊員。
「た、退避!退避―っ!」
隊長の悲鳴のような叫び声。しかし、そのとき隊員はすでに誰一人いなかった。
戦場の跡には白骨が幾つも転がっていた。
紅い悪魔デストロイアは満足げに天に咆哮した。
最終更新:2007年03月25日 18:32