第9章:沖縄

広大な海に隣接するように建てられた小屋と呼ぶには大きすぎる家。その家に電話の音が響く。
「はい、白神です・・・ああ、芹沢君か。」
「お久しぶりです、白神先生。」
芹沢は電話に向かって御辞儀した。
遺伝子工学の権威、白神博士(しらがみはかせ)。芹沢の教授だった彼は、『抗核エネルギーバクテリア』(通称ANEB)を始めとして様々な功績を残した、科学者界では伝説と呼ばれる男だ。
「何年ぶりだろうねぇ。ああ、そういえば君のだした本、大変興味深かったよ。何だか、時代はもう若い者達のような気がしたよ。
「そんな事ないですよ。まだまだ博士には敵いませんよ。」
その時、ふいに芹沢の声が落ちた。
「・・・ところで、今週の日曜そちらに伺ってもよろしいですか?できれば3日程泊めて頂きたいんですが。」
「?それは構わないが。どうしたんだね急に」
「ええ、少しばかりそちらに用事がありましてね。」
「そうか、では用意しておこう。」
「では、お願いします。」
芹沢が電話を切ろうとした時、白神がそれを止めた。
「ああ、そうだ。芹沢君、真船君を覚えとるかね。」
「・・・はい、確か水棲生物の研究をなさられていた・・・」
「その真船君なんだが・・・先日、行方不明になったらしい。」
「・・・本当ですか?」
「ああ、どうも何者かに追われているらしい。私の同期の山根博士が最後に電話でそう聞いたそうだ。芹沢君も、こちらに来るときは道中に気をつけたほうがいい。今の世の中何かと物騒だからね」
「はい、わかりました。では」
電話を切る音が、低く響いた。
「・・・・真船か。奴も早く消す必要があるな・・・」

春にも関わらずギンギンと照りつける太陽の下で、一隻の船が波を立てて進んでいく。側面には赤い文字で『丸友観光』と書かれている。どうやら観光船らしい。乗客は若いカップルや家族、それにたくさんの中学生だ。その中にはジンや恵、その他もいた。
「それにしても修学旅行が沖縄だなんて、学校も奮発したよね~!」
実はジンのクラスに大河内明日香(おおこうちあすか)という大河内財団の実子がいて、学校の修理代を肩代わり、さらには寄付金までも贈呈し、学校側の予算が大幅に膨れ上がり、そのため修学旅行の予定を急遽変更、沖縄となったらしい。それにしても、どこにでも金持ちはいるもんだ。
「去年は冷夏でろくに海も楽しめなかったし、この修学旅行で盛り上がろうぜ、なあジン!」
ダイは子供のようにはしゃいでいる。実際まだまだ子供だが。
「でも一応修学旅行だし、あんまり遊んだりはできないんじゃないかなあ・・・」
ショウは考える事も小さい。
「・・・元気なクラスだ、まったく・・・」
中野は妙に落ち着いている。大方クールな自分がカッコイイとか思ってるに違いない。ちなみに本名中野照慶(なかのてるよし)。
そんな中、ジンはどこか浮かない表情だった。心配に思った恵が声をかける。
「どうしたの?ジン君、元気ないよ?」
「・・・・坂本さん、一人にしても良かったのかな・・・」
確かに、表面上は気にしていないようでも、かつての仲間に裏切られて気にしないはずは無い。そんな坂本をほったらかして、こんなところへ来てもいいものかとジンは不安だった。
「・・・大丈夫よ。あの人は子供じゃないもの、今はウジウジしてる場合じゃないって、きっと思ってるわ。」
「・・・・うん。」

沖縄:海辺
海や砂浜は中学生で大混雑。潮風や海の音も感じる余裕なく学生達は思い切り沖縄を満喫している。
「やれやれ、結局こうなりましたか・・・」
校長の本多猪四郎(ほんだちょしろう)は疲れたように溜め息をつく。
「まあまあ、たまには良いじゃないですか、校長センセ。」
ジンのクラス担任、水野久美(みずのくみ)は笑って言う。
「こちらは私共に任せて、校長は休まれてはいかがですか?」
「そうですか、ではそうさせてもらいましょう。たしかホテルは・・・」
「ホテル『赤イ竹』です。ちなみにこのホテルも大河内財団の所有物ですわ。」
静々と割り込んできたのは大河内明日香。ふりふりのフリルを満載し、後ろには日傘を持った黒服の男が(お約束のように)付いている。
「大河内さん、何から何までいいのかな?」
「ええ、構いませんわ。丁度お金をしまう場所に困っていたところですから。」
明日香はおしとやかに微笑んだ。校長は少したじろぐ。
「そ、そう。いや、本当にすまないね。では、後は頼んだよ。」

「あの方達にはこちらに来て頂かないと困りますもの、ね」
明日香は遠くで遊んでいるジンを冷ややかに見つめた。

海岸線から少し離れた洞窟。外とは打って変わってひんやりとした空気で、暗闇が連なり、わずかに水滴が滴り不気味に和音を奏でている。そんな中に恵と美穂の二人はいた。
「ね~、もう帰ろうよ~!」
「恵は恐がりね。大丈夫だって!そんなんだと、怪獣見た時気絶しちゃうよ?」
「しないわよっ!(もう見まくってるし)ていうかしたっていいじゃない!」
その時恵が何かに足元をすくわれた。
「うわっ、な、何!?」
恵は何かに引きずり込まれる。冷たい。水・・・いや、地下水路?
「ちょっ・・・」
そのまま一瞬にして水路の流れに飲み込まれた。美穂はその事に気づかずどんどん進んでいく。
それからすぐ光が差し込んできた。
「ほら、大丈夫だったでしょ・・・って恵?」
後ろには暗闇ばかりが続いているだけだった。

とある孤島に聖はいた。モスラも羽を休めている。その時、後ろから声がした。
「こんな島を持っているとは、よほど金の使い道がないようだな。それにしてもインファント島とは小じゃれた名前だ」
後ろにいるのは古江とは別の男だ。
「貴様、許可なく人の所有地に上がりこむな。そもそも貴様は何者だ?」
「まあそう意気込むなって。私は禍津日の関沢新一(せきざわしんいち)だ。お前に渡すものがあってここへ来た。」
「渡すもの?」
聖は眉をひそめる。
「これだ」
そういって関沢が差し出したものは溢れるほど赤く輝く球体。
「これは『オルガナイザーG1』という。これには神獣の潜在能力を引き出す力がある。これをモスラに与えろ。さすれば新たな力が手に入ろう。」
「・・・・・」
聖は少し間をおいてそれを受け取りモスラに掲げた。すると、オルガナイザーG1はモスラに吸い込まれていき、やがて体内へと取り込まれた。

夜にも関わらずハイテンションな中学生達のおかげでホテルは大騒ぎ。
「あれ?恵さんと美穂ちゃんは?」
そういえば夕食の時も二人の姿が無かったと思い、ジンは一人外へと飛び出した。
すると、丁度向こうから息を切らしながら美穂が走ってきた。
「あ、美穂ちゃん!どこ行ってたんだよ。心配したんだから。・・・恵さんは?」
「・・・・ちょ、ちょっと来て!」
美穂はジンの質問を無視してジンを無理やり引っ張った。

「ん・・・・・?」
気づいた時、自分は砂浜で倒れていた。空はもう星空で、海は静かに波を立てている。
「ここ・・・どこ?」
まだ頭がぼんやりしている。そもそも何でこんなところに倒れていたんだろうか?
「・・・・・あっ、そうだ!たしか洞窟の地下水路に流されて・・・」
砂浜・・・ということは沖縄海岸に打ち上げられたのだろうか?恵は起き上がってあたりを見渡す。よく見ると見たことの無い木が不気味に生い茂っている。さらに、遥かにホテル『赤イ竹』がかすんで見える。と、いうことは・・・
「も、もしかして無人島に漂流!?」
顔が青ざめる。そのまま呆然と立ち尽くしていると、さらに背後から異様な視線を感じた。おそるおそる振り向くと・・・首の長いカメ、オレンジのザリガニ、うねうねしたイカがいずれも巨大な姿で恵のほうを睨み付けていた。
「うそ・・・!これって、神獣・・?」
三匹はゆっくりと近づいてくる。恵は逃げようとするが、足が震えて動けない。
「・・い・・・いや・・・!」

夜空に溶け込むような暗闇の洞窟の前に、ジンと美穂は立っていた。
「この中で恵が突然消えちゃったの。」
「・・・・ていうか何でこんな所に入ったの?」
「だって、私泳げないし・・・」
「・・・とりあえず行ってみようか。」
ふう、とため息をひとつついてジン達は暗闇の中へと歩みを進めた。
しかし、意外にもあっさり洞窟は出口をみせる。
「やっぱりいない・・・・」
ジンがもう一度引き返そうとしたとき、美穂が呼び止めた。
「アレ・・・・何?」

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最終更新:2007年03月25日 18:32