コンプトン効果

五十鈴「コンプトン効果っていうのは光子と電子がぶつかって、電子が飛んでいく。散乱された光子は散乱前より波長が長くなる、っていう現象よ。」

五十鈴「コンプトン効果の確率は物質の原子番号すなわち電子数に比例するわ。電子と衝突するわけだから当然よね。」

七海「エネルギー保存の式とか、運動量保存とか式がいっぱいあるんだけど...これ覚えないといけないの?」

五十鈴「式そのものより、式の意味を覚えた方がいいわね。丸暗記だと試験の時にど忘れしたりするから。」

五十鈴「その前にコンプトン効果の模式図を示しましょうか。」


七海「電子に光子が当たって飛んでいく、散乱された光子のエネルギーは、電子にエネルギーを与えたから変わるんだね。」

五十鈴「まず運動量保存を考えるわ。水平方向と垂直方向に分けて考えていけないんだけど、考え方はどっちも同じ。」

(入射光子の運動量)+(光子がぶつかる前の電子の運動量) = (散乱光子の運動量)+(コンプトン電子の運動量)

五十鈴「上の図のように、散乱光子が角度θの方向、電子が角度φの方向に飛んでいったとする。」

五十鈴「電子の運動量はpeとしちゃうわ。光子がぶつかる前の電子は静止してるとして、運動量は0。」

五十鈴「で、光子の運動エネルギーと運動量pの関係式Eγ=pcより…」


五十鈴「こんな感じ。入射光子の垂直方向の運動量は0ね。」


五十鈴「お次はエネルギー保存、これも散乱が起こる前後について考えるわ。」

(入射光子のエネルギー)+(光子がぶつかる前の電子のエネルギー) = (散乱光子のエネルギー)+(コンプトン電子のエネルギー)

五十鈴「ここでは相対論的なエネルギー保存則を考えるわ。」

七海「左辺はEγ + m0c2になるね。」

七海「それで、コンプトン電子の質量m、光速に近い速度で運動している粒子の質量は、相対論を考慮しないといけないんだよね。」

五十鈴「そうそう。相対論では、速度vで運動している粒子の質量は以下の式で与えられるわ。」


五十鈴「だから同様に右辺は光子がEγ'、電子はmc2になるわね。」

五十鈴「これを踏まえると、エネルギー保存の式は…」


五十鈴「そして、2つの運動量保存の式と、エネルギー保存の式を使って、Eγ'を求める式が導けるんだけど…」

七海「けど?」

五十鈴「めんどくさいから省略。」

七海「えぇー…」

五十鈴「式の導出までやらないと気が済まないのも分かるんだけど、実際導出しろって問題は出ません!」

五十鈴「過去に穴埋めで運動量保存の式を入れるぐらいの問題しか出てないから、運動量とエネルギー保存の式をできれば覚えておくぐらいでいいわ。」

五十鈴「導出はいずれコラムに書くかもしれないけど。」

七海「分かったよ… じゃあその肝心の式を…」

五十鈴「はい。これは絶対覚えてね。」


五十鈴「実際のエネルギーの計算では、m0c2=511 keVを代入することになるわね。」

七海「Eeが最大になるのは、θ=180°、光子が来た方向にUターンする場合だね。」

五十鈴「分かると思うけど、Eγ=Eγ'θ=0°)となることはあっても、Eγ=Eeとはなりえないから注意よ。これも意外と問題に出るんだわ…」

五十鈴「それともう1つ、覚えておいてほしいことがあるわ。」

五十鈴「散乱光子の波長λ'は、散乱前の波長λより長くなっているわね。その波長の変化Δλは次の式で表されるわ。」


五十鈴「hプランク定数h=6.63×10-34 J・sよ。」

七海「波長の差は散乱角θによってのみ決まるんだね。入射光子のエネルギーや入射した物質は関係ないんだ。」

五十鈴「h/m0cの部分を計算すると、2.43×10-12 m(2.43 pm)になる。これをコンプトン波長というわ。」

五十鈴「m0=9.11×10-31 kgc=3.0×108 m/sだから、代入してやれば求まるわよ。」

七海「えっ?それ単位がめちゃくちゃにならない?」

五十鈴「ならないならない。J(ジュール)はSI基本単位を用いて、kg・m2・s-2で表されるのよ。だからちゃんと単位は”m”になるわ。」

七海「あぁーそっかー… 基本単位でどうやって表すかなんて全然覚えてないや…」

五十鈴「単位に関する問題は毎年のように出てるから、これぐらいは覚えておいて損はないわ。」

五十鈴「ちなみに、kg・m・s-2=N(ニュートン)だから、J=N・mとも書けるわね。」
最終更新:2018年06月16日 02:08