核反応(1) 核反応の種類

七海「原子核に粒子やほかの原子核がごっつんこして、新しい原子核ができたり、放射線が出てくるのが『核反応』だね。」

五十鈴「衝突される原子核を『標的核』、衝突してくる粒子あるいは原子核を『入射粒子』というわ。」

五十鈴「で、反応の結果できた核が『生成核』で、反応の副生成物として別の粒子がポロリしちゃうとき、それを『放出粒子』とか言ったりするわ。」

七海「ポロリって…」

五十鈴「『ドキッ!核子だらけの核反応大会(ポロリもあるよ)』ってやつよ!あぁもう想像したら興奮してきたわ!重水素とトリチウムがくんずほぐr」

七海「バカ姉!!」バシィ

五十鈴「痛ッ!?」

七海「真面目にやってよ!!もう!!」

五十鈴「ぶつことないでしょ!?」

七海「変なこと言わないの!!あと原子核は反応のたびにもっと痛い思いしてるの!!そのくらい我慢しなさい!!!」

五十鈴「うぐっ……はい…(七海がこんなことを言うのは珍しいわ…原子核の気持ちになって物を言うとはやるわね)」

七海(なんか私まで意味分かんないこと言っちゃったな…)


五十鈴「…で、例としてこんな反応を見てみましょう。」

五十鈴「これを式で表すとして、表し方の1つにはこういうのがあるわ。」

七海「化学反応式みたいだね。」

五十鈴「単純に、左辺に標的核と入射粒子、右辺に生成核と放出粒子を書くものよ。」

五十鈴「式を組み立てるときは、質量数だけじゃなく原子番号や中性子数をきちんと書くと分かりやすいわ。ちゃんと両辺で数の総和が同じになっているかを確認してね。」

七海「これ、α粒子はヘリウム4の原子核で、陽子は水素の原子核だよね?それぞれ『4He』、『1H』って書いてもいいの?」

五十鈴「別に構わないわ。分かればいいのよ。」

五十鈴「上の式をもっと簡略化すると、こんな風に書けるわ。」

五十鈴「この場合は、1文字で表記できる粒子なら()内には質量数とかは表記しないほうがスッキリするわよ。」



五十鈴「入射粒子と標的核が複合核を形成する反応を複合核反応というわ。そのままね。」

七海「複合核?」

五十鈴「核融合もこれに含まれるわ。例として重水素(2H)とトリチウム(3H)の反応を考えると…」


五十鈴「単純に考えれば、質量数2+3=5の粒子(5He)ができるわね。この単純にくっついた状態の核を複合核というの。でもこの状態はすごく不安定だから、中性子を放出して安定な4Heになるのよ。」

五十鈴「ちなみに、重水素の原子核をdトリチウムの原子核をtで表すことがあるわ。核反応を X(a,b)Y の形で表記するとき、()のところに入る場合によく使うから、覚えておいてね。」

例:
20Ne(d,α)18F

七海「そういえば、このあいだ問題を解いてたら『重陽子』とか『三重陽子』っていうのが出てきたんだけど、よく分かんなかったんだ。重水素やトリチウムと関係があるの?」

五十鈴「あぁ、重水素の原子核が『重陽子』、トリチウムの原子核が『三重陽子』よ。それぞれ『デューテロン』、『トリトン』って呼ぶこともあるわね。」



五十鈴「複合核がポロリせずに…」

(睨む七海)

五十鈴「ゲフン…粒子を出さずにそのまま生成核になる場合は、捕獲反応というわ。」

七海「なるほどね。捕獲反応は中性子を捕まえてγ線が出る、中性子捕獲反応が代表例だね。」

五十鈴「そうね。例として安定核種コバルト59(59Co)に中性子が当たって、コバルト60(60Co)ができる反応を考えましょうか。」

五十鈴「この場合、粒子が放出される代わりに60Coからγ線が出るから、反応式は59Co(n,γ)60Coと表されるわ。」

七海「60Coのγ線エネルギーっていくつだったっけ?重要なのは分かってるんだけど、つい忘れちゃうんだよね。」

五十鈴「1333 keVと1173 keV、なんだけど… (n,γ)反応の"γ"って壊変によるγ線のことじゃないから注意よ。」

七海「えっ!違うの!?」


五十鈴「これは核反応で生じた核そのものが励起していて、即安定になる時に出てくるγ線で『即発γ線』と呼ばれるわ。捕獲反応の場合は特に『捕獲γ線』と言うこともあるわね。」

七海「うん? …あっ、よく考えたら1333 keVと1173 keVのγ線は、厳密にはβ-壊変でできた60Niからのγ線だったね。」

五十鈴「そうそう。壊変γ線よりむしろβ線のほうが先に出ると考えれば分かりやすいかしら。あとは、1H(n,γ)2Hのように、安定核種が核反応で生成する時にも出るから、壊変γ線じゃないことは分かるわよね。」

五十鈴「それから、中性子や荷電粒子が安定核種に当たって放射性核種になる現象を『放射化』というわ。もともと放射能がなかったものが放射能を持つようになるから、特に原子炉や加速器施設で大きな問題になるのよ。」



五十鈴「標的核がパカっと2つに分裂したら、核分裂反応ね。核分裂と言うと、もっぱらウランの核分裂かしら。」


五十鈴「核分裂は英語で"nuclear fission"。だから核分裂を式で表すときはfと書くこともあるわ。」

例:235Uの核分裂により137Csが生成する反応
235U(n,f)137Cs

七海「核分裂生成物のことを『FP』って言うんだ…」

五十鈴「専門的な話になるとまあまあ使うから、覚えておくと便利よ。」

七海「235Uの核分裂って、中性子が当たると起こるんだよね。」

五十鈴「そうね、特に熱中性子の場合で起こるのよ。核分裂は大概中性子を当てて起こすわ。陽子なんかで起こる核分裂もあるけど、中性子の方が手に入りやすいからね。」



七海「『核破砕反応』っていうのもあるみたいだけど、聞いたことないなあ…」

五十鈴「核破砕は入射粒子がかなりの高エネルギーの場合に、標的核が細かくバラバラになっちゃう反応よ。そうねえ、例えばジャパr…もとい『J-PARC(ジェイ・パーク)』での中性子の発生はこれを利用しているわね。」


七海「あぁー、あのおっきい加速器かぁ。そう言えば陽子を加速して水銀に当てると、原子核がバラバラになって中性子がたくさん出てくるんだったね。」

五十鈴「出てくる粒子の数が決まりきってる時は、反応式の()内にその粒子の数を書くわ。」

例:
12C(p,3p3n)7Be

七海「すごい式だね…これは陽子が1個入ったら、今度は陽子と中性子が3個ずつ出てくるってこと?」

五十鈴「そういうこと。」



五十鈴「ここまでは粒子が入射する核反応をみてきたけど、光子によって起こる核反応もあるわ。」

七海「光子も一応粒子と考えることもできるよね?」

五十鈴「そうね。まあその辺の詳しい話はここではやめとくわ。」

五十鈴「だいたい10 MeVとか20 MeVなんていう高エネルギーの光子が原子核に当たることによって粒子が出てくる反応を『光核反応』と言うの。」


七海「そんな高いエネルギーの光子を出す物質なんてあるの?」

五十鈴「RIから出るのはほとんどないわね。それよりも、加速器で作られた高エネルギー電子が物質に入射して出る制動放射線が主要かしら。」

五十鈴「光核反応では中性子や陽子が放出されることが多いわ。」

例:
9Be(γ,n)8Be

五十鈴「ちなみに上の反応は1.7 MeVのγ線でも起こるちょっと特別なやつよ。たまに主任者試験で出るわ。」

七海「制動放射線ってX線だよね?その場合"γ"って書いていいの?」

五十鈴「γ線に限らず光子は"γ"と書かれることがあるのよ。だからそれでOK。」

五十鈴「で、この放出された粒子が別の原子核に当たると放射化が起こるわ。だから高エネルギー電子加速器の施設なんかでは、光核反応による放射化が問題になるのよ。」

七海「ふーん…加速器を止めれば放射線の発生も止まるけど、RIが残っちゃうんじゃ気が抜けないね。」
最終更新:2019年05月10日 16:12