荷電粒子と物質との相互作用(2) 電子

五十鈴「電子はマイナスの電荷を持っているから、飛んでいる周囲にある電子と反発して電離します。だけど飛んでいる電子自身もものすごーく軽いから、反発によって進路を曲げられるの。だから直進するよりかはフラフラと曲がりながら飛んでいくわ。」

七海「お姉ちゃんみたいだよね。」

五十鈴「どういう意味よ」

七海「旅行に行くと毎度のように『どこでも裏路地には面白い物があるものなのよ』とか言って入ったら道に迷って闇雲にあっちこっち彷徨うじゃん。」

五十鈴「さて何のことかしら…」

七海「次こそはさせないからね。元の道に戻るどころか気づいたらめちゃくちゃ遠いとこに来てるんだから…」

五十鈴「遠い所と言えば、そのフラフラ飛ぶ電子が一番遠い所まで届いた時の距離を『最大飛程』というわ。」

七海「…」

五十鈴「電子のエネルギーを E [MeV]とすると、その飛程 R [g・cm-2]は次のような式で表されるわ。」

R=0.542E-0.133 (0.8 MeV<Eの場合)
R=0.407E1.38 (0.15 MeV<E<0.8 MeVの場合)

五十鈴「ちなみに電子の遮蔽を考えるときはR=0.5Eっていう式を使っていいわよ。」

七海「なんで?」

五十鈴「さっきの2つの式を使うより値が大きくなるから、それに合わせた遮蔽をすればより余裕ができて安全でしょ。時にはそういうガバガバ算も必要よ。」

五十鈴「さて、電子に対する阻止能についてだけど、前に述べたように電子は電離・励起以外に制動放射によってもエネルギーを失うから、放射阻止能を考慮する必要があるわ。」

七海「電子のエネルギーが高いほど、あと物質の原子番号が大きいほど制動放射が起こりやすいんだよね。」

五十鈴「制動放射の確率は物質の原子番号の2乗に比例するから、電子の遮蔽はできるだけ原子番号の小さい物質、例えばプラスチックやアルミの板ですべきね。」

五十鈴「ついでに言っておくと、制動放射によって発生するX線は、電子の曲げられ具合がマチマチだから、決まったエネルギーは持たない『連続スペクトル』よ。」

五十鈴「放射阻止能 Srad と衝突阻止能 Scol の比はこんな式で表されるわ。E は電子のエネルギー[MeV]、Z は物質の原子番号、m は電子の質量、c は光速度よ。」


五十鈴「それともう一つ、後方散乱と言って、電子は物質に入射した後、散乱された結果Uターンして入射した方向に戻っていくことがあるのよ。後方散乱の確率は物質の原子番号に比例するわ。」

七海「お姉ちゃんもちゃんとすぐ元の場所に戻ってくれればいいのに、そこは電子と違うんだね。」

五十鈴「分かったわよ次からは自重するからもうその話は終わりにして頂戴。」


五十鈴「あっ、そうだ(唐突) チェレンコフ光について話すのを忘れてたわ。」

七海「青白い光とかっていうやつ?」

五十鈴「それ。荷電粒子って真空中では光速度を超えることは出来ないけど、例えば水の中では光速度は真空中の75 %ぐらいになるのよね。」

五十鈴「そうすると電子やμ粒子みたいな軽い荷電粒子は、水中ではその速度を超えることができるの。その時に出る光が、チェレンコフ光。この目で見ると吸い込まれそうになるくらい神秘的よ。」

五十鈴「水中でチェレンコフ光を発生する電子の最低エネルギーは、264 keVよ。たまにこれを計算しろっていう問題が出るけど、こんなもの覚えてしまえばいいわ。」

七海「へえー…私も1度でいいからチェレンコフ光見てみたーい…」

五十鈴「コバルト60でγ線照射をしている施設に見学に行くと、プールに沈んでいる線源からのチェレンコフ光を見ることができるわ。ちなみに核融合炉に飛び込んでもチェレンコフ光は見られないわよ。」
最終更新:2018年07月04日 01:41
添付ファイル