荷電粒子と物質との相互作用(3) 重荷電粒子

五十鈴「重荷電粒子っていうのは、陽子とかα粒子みたいな電子よりも重い荷電粒子のことよ。重荷電粒子については制動放射によるエネルギー損失を無視できるのが電子との大きな違いね。制動放射の確率は粒子の質量の2乗に反比例するから…」

七海「質量が電子の1800倍ぐらいある陽子でも、無視できる?」

五十鈴「(コクリ)」

五十鈴「だから重荷電粒子については放射阻止能は考えなくていいわ。衝突阻止能については『ベーテの式』っていう次のような式があるんだけど…」

z:重荷電粒子の原子番号
e:電気素量
v:重荷電粒子の速度
m:電子の質量
n:物質1 cm3中の原子数
ε0:真空の誘電率
Z:物質の原子番号
I:原子の平均励起エネルギー

五十鈴「こんなめんどくっっさい式覚えなくていいわよ!阻止能は z2 に比例v2 に反比例するって覚えとけば試験問題は大概解けるわ!」


五十鈴「ついでに重荷電粒子の質量Mに比例、エネルギーEに反比例することも覚えておくといいわ。」

七海「そりゃあ、速度・エネルギーが低かったり重い粒子のほうが止まりやすいもんね。」

五十鈴「飛程Rについてはほぼその逆で、衝突阻止能の逆数を運動エネルギーについて積分すると飛程になるから、こんな感じになるわ。」


五十鈴「阻止能と飛程については毎年出題されてるから、何に比例で何に反比例っていうのは覚えておかないとダメよ。私も試験前ここだけは毎日10回ぐらい頭の中に書いてたわ。」

七海「分かった、ちゃんと覚えとくよ。」

五十鈴「重荷電粒子は止まる直前に一番電離が多くなるわ。速度が遅くなってからのほうが電離の機会が増えるからね。」

五十鈴「飛程を横軸に、電離の数を縦軸にとってグラフにすると、ある程度飛んだところで急激に電離が多く起こって、ピークができるわ。これが『ブラッグピーク』。これを応用したのが陽子や炭素イオンC12+を使った放射線治療よ。」


七海「へえー、そうだったんだ!もっと教えてよ!」

五十鈴「生物学核医学と粒子線治療でまた詳しく話すわ。」

五十鈴「あと『W値』については覚えといたほうがいいわね。これは荷電粒子の電離作用によって、気体中で1対のイオンと電子をつくるのに必要な平均エネルギーよ。W値は放射線の種類・エネルギーにあまり依存しないわ。」

七海「『ある気体のW値はその気体のイオン化エネルギーの2倍程度』って本に書いてあるけど、何でなの?」

五十鈴「エネルギー E の荷電粒子が気体中で相互作用しながら飛んで行って、止まるまでの間に生成したイオン対の数が N だったとすると、W=E/N の式で1個のイオン対が生成する平均エネルギー、つまりW値が求められるわよね?」

五十鈴「で、相互作用は電離だけじゃなくて励起で終わることもあるから、エネルギーを使ってもイオン対が生まれないこともあるわけよ。それを含めて平均すると結局、1個のイオン対を作るのにはイオン化エネルギーの倍ぐらい必要になるみたいね。」

七海「あぁそっか、言われてみればそうだね…励起のことすっかり忘れてたよ…」

五十鈴「気体の原子番号が大きくなるほどイオン化エネルギーは小さくなるから、当然W値も小さくなるわ。W値に関する簡単な表を載せておくから参考にしてね。」

最終更新:2018年07月04日 01:44