中性子と物質との相互作用

五十鈴「お次は中性子についてなんだけど…」

七海「荷電粒子じゃないから飛程とか阻止能は関係なくなっちゃったね」

五十鈴「荷電粒子であれば、物質中では周りに電子がたくさんあるから一様に電離・励起によるエネルギー損失があるんだけど、電荷を持たない中性子は直接電離をすることはないから、エネルギーを失うためには原子核とぶつかるしかないのよね。」

七海「ビリヤードみたいな感じかな?ぶつかる相手が自分と同じくらいの質量だったら、ぶつかった自分は遅くなって、代わりに相手がぴゅーんっと飛んでいくような感じで」

五十鈴「そうね。中性子と同じくらいの質量のものと言えば?」

七海「陽子!」

五十鈴「というわけで、単独の陽子とぶつかるのが一番のエネルギー損失になるわ。水素1Hの原子核は陽子1個だけだから、中性子を減速するのに一番効果があるのは水やプラスチックといった水素を多く含む物質よ。」

五十鈴「逆に鉄とか鉛とか、重い原子核に当たってもほとんど減速しないわ。ビリヤードの球をボウリングの球にぶつけたとして、ボウリングの球は微動だにせずビリヤードの球は跳ね返るってイメージすれば簡単かしら。」

五十鈴「散乱された中性子と反跳原子核の運動エネルギーの総和が、散乱前の運動エネルギーの総和と変わらない、つまりは運動エネルギー保存が成り立つ時、これを『弾性散乱』というの。」

五十鈴「中性子が原子核と弾性散乱した時に、原子核が得る反跳エネルギー E は…」


五十鈴「で表されるわよ。mMはそれぞれ中性子、原子核の質量、θは重心系での中性子の散乱角、En は中性子がはじめに持っていたエネルギー。」

七海「逆に言えば、E は中性子が原子核と弾性散乱した時に失うエネルギーだね。」

五十鈴「中性子のエネルギー損失が一番大きいのはcosθ=-1、つまりθ=180°の時ね。」

五十鈴「対して、中性子のエネルギーの一部が原子核の励起に使われて、運動エネルギーが保存されない場合を『非弾性散乱』というわ。励起した原子核は主にγ線としてエネルギーを放出して安定になるのよ。」

五十鈴「で、絶対覚えておいて欲しいのは『熱中性子』についてよ。熱中性子のエネルギーは大体0.025 eV、速度にすると2200 m/sぐらい。」

五十鈴「熱中性子の『熱』っていうのは、その周囲にある原子(分子)の『熱』運動のエネルギーと同じぐらいって意味よ。核反応の話のところでまた詳しく話すけど、中性子の中でも特に熱中性子は核反応を起こしやすいわ。」

五十鈴「熱中性子による核反応は、その遮蔽や検出にも用いられるわ。遮蔽にはカドミウム検出にはヘリウム3(3He)三フッ化ホウ素(BF3)の比例計数管が用いられるわ。」
最終更新:2018年07月04日 01:35
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