五十鈴「壊変によって放出されるエネルギーはQ値と呼ばれるわ。これは壊変前後の質量の差を考えればいいのよ。」
五十鈴「原子核が壊変して粒子を放出すると、娘核種と粒子の質量の合計は、壊変前である親核種の質量より軽くなってるの。その軽くなった分の質量が、エネルギーに変わったってことね。」
α壊変のQ値
五十鈴「単純に壊変前後の質量の差がQ値になるわ。」
七海「分かりやすいね!」
五十鈴「なんだけど、試験では質量じゃなくて原子核の結合エネルギーが与えられることも結構多いのよね。その場合の求め方は、壊変の前後が逆になるわ。」
五十鈴「娘核とα粒子にはこのエネルギーが分配されて、それぞれが飛んでいくことになるわね。」
七海「原子核はα粒子が飛んでいく反動を受けるんだね。」
五十鈴「α粒子の運動エネルギーEαが分かっていれば、娘核の運動エネルギーEDを求めることができるし、Q値からEαを求めることもできるの。」
五十鈴「式の誘導も簡単だから載せておくわ。」
五十鈴「ED、Eαを求める式に限って言えば、MDとMαはそれぞれの質量数を代入すればいいわ。」
七海「Q値と娘核の質量数が決まれば、α粒子のエネルギーはいつも同じ。だから線スペクトルなんだね。」
β壊変のQ値
五十鈴「七海、β壊変は3種類あったわね。」
七海「β-壊変、β+壊変、EC壊変だね。」
五十鈴「その3つには起こる条件ってのがあるわ。Q値の前にそれを話しましょう。」
五十鈴「考えるべきは中性原子、つまり陽子数=電子数よ。」
五十鈴「まずはβ-壊変の場合。壊変によって電子が1個放出され、原子番号が1増加するわ。」
五十鈴「親核種の原子番号が20だったとすると、娘核種の原子番号は21になるわけだけど、電子数は20のまま。」
五十鈴「でも仮に、放出された電子が娘核種の電子軌道に捕まったとしたら?」
七海「陽子数=電子数だ!」
五十鈴「てなわけで、単純に娘核より親核のほうが重ければ壊変できるわ。」
七海「あれ?ニュートリノは?」
五十鈴「あんなもんめちゃくちゃ軽いから無視よ無視!」
七海「そっか… それで、当然壊変後のほうが質量は軽くなるよね。」
五十鈴「つまり、親核の質量から娘核の質量を差し引くと、値は正になるはず。これがβ-壊変が起こる条件よ。」
七海「次はβ+壊変だね。」
五十鈴「じゃあ今度は原子番号8の親核種を考えましょう。」
七海「原子番号が7になるから、電子が1個余っちゃう… それに陽電子が出る…陽電子の質量は電子と同じだから…」
七海「電子2つ分質量が余っちゃう!」
五十鈴「そう!つまり親核の質量から、娘核とさらに電子2個分の質量を引いてもなお、値は正になる。」
五十鈴「言い換えると、親核と娘核の質量差が電子2個分の質量、エネルギーにして1.022 MeVより大きくないとβ+壊変は起こらないってことが言えるわ。」
五十鈴「最後はEC壊変。これはβ+壊変と同じく、原子番号が1つ減ることになるわね。」
七海「でも、軌道電子は原子核に食べられて、結局親核も娘核も陽子数=電子数になるね。だから条件はβ-壊変と同じだ!」
五十鈴「ここで大事なのが、原子番号を1個減らしたい核は、果たしてβ+壊変とEC壊変どっちをするかということね。」
七海「うーんと… EC壊変は質量差が0より大きければいいけど、β+壊変は電子2つ分大きくないといけないから、ECのほうがやりやすいよね。」
五十鈴「そうね。さらに言うと、β+壊変をする核種は必ずEC壊変もするわ。つまりこの2つは競合するのよ。」
五十鈴「対して、EC壊変をする核種がβ+壊変もするかというと、必ずしもそうではない。ECしかしないやつも結構あるわ。」
五十鈴「で、ようやくQ値の話だけど、これも質量差をエネルギーに換算すればいいだけよ。」
γ線放出
五十鈴「ここで覚えるべきは、γ線が放出されたときに原子核が受ける反跳エネルギーERの求め方、これだけ。」
五十鈴「光子のエネルギーは、運動量pを使うとEγ=pcで表されるから…」
七海「でもα壊変にしろγ線放出にしろ、反跳エネルギーなんてかなり小さいでしょ?」
五十鈴「かなりちっちゃい。特にγ線放出はね。」
五十鈴「でも時々求めろって問題が出るんだなこれが… それに化学のホットアトムのところでも出てくるからね。求め方はまた違うけど。」
最終更新:2018年06月12日 21:56