「コウ」
不意に名を呼ばれて、彼は顔を上げた。
夕刻、自室への通路。 を済ませて
その行く手に、ディアーナが立ちふさがっていた。一呼吸おいて、コウは尋ねる。
「ディアーナ様。どうなされましたか」
「ディアーナって呼んでくれなくなったね」
身が固くなるのをコウは感じた。ディアーナの顔は俯(うつむ)きがちで、その琥珀(こはく)色の瞳だけがじっとコウを見つめている。
「急に…私に冷たくなった。母様が亡くなってから」
「いえ、それは…、……」
わずかに目線をさまよわせ、伏せる。再びその目を上げた時には、一瞬前に見せた揺らぎはどこにもなかった。
「ディアーナ様、あなたは今やラドウェアの女王であらせられます。これからは私も臣下としてふさわしい礼儀をと思い、」
「コウ」
ディアーナが遮(さえぎ)る。
「私は私だよ。女王になっても、私だよ…?」
「コウが一緒にごはん食べたり、森に連れていってくれたり、いっぱいほめたり叱ったりしてくれた……ディアーナだよ…?」(泣きそう)
目を閉じて眉寄せつらい顔
―――近衛として女王に敬意をと
―――子供扱いはもう終わりと
―――そう思っていたはずなのに
「その役目はもう終わりました。今のあなたはもう…」
「コウ…」
「寂しいよ…」
コウを斜めに見上げた瞳から、涙がぽろりと一粒落ちた。
「…………」
"あなたのため"などという言葉は何と軽いだろう。コウは(歯がみ?)した。そんな言葉は少しもこの娘の悲しみを和(やわ)らげはしないだろう。
―――俺はもしかすると、
ユハリーエ様の代わりとして仰ぐ君主が欲しかっただけなのだろうか。
―――俺の勝手な想いを、十四の少女に押しつけようとしただけなのだろうか…。
(
グラシル「ディアーナ様を、頼むぞ…」)
―――久しぶりだな、そんな風に人前で泣くのは。
―――残酷だな、俺のしている事は。
母親を失ったばかりの多感な娘に
『このままディアーナ陛下の近くに在りてその弱みとなるか、距離を置いて臣下として仕え守るか。二つに一つだ、選ばれよ』
―――俺の選択は間違ってない。だが
―――せめてもう少しの間、"父親"のままでいるべきだっただろうか
―――俺は
―――俺はいつだって精一杯お前の味方でいたいよ
―――多分、本当にお前の父親でいたかった
―――その気持ちは嘘じゃない
―――でもそれを今さらどう言えばいい
―――どうして何もかも過ぎ去ってしまってから、伝えたかった事に気づくのだろう
―――
カーディル、ユハリーエ様、グラシル殿……
―――いや
―――まだ遅くない
「私は―――この先もずっと、」
「今までと変わらずあなたのお側に仕え、あなたとラドウェアをお守りいたします。…どうか…」
深く頭を垂れる。
「どうか、それでお許しください」
「許すだなんて…」
「……わかった」
「なんだか「ふふっ「親離れ…みたい」
涙笑み
涙ふいて
「嫌われたんじゃないって…わかってよかった」にっこり
「今までどうもありがとう「近衛長コウ・クレイド・ヴェフナー「今まで通りに私を支えてくださいますか?」
(ユハリーエ回想)『どうかこれからも、わたくしを支えてくださいますか』
コウ「―――」口開けてぼーぜん
ひざまずいて
「はい……!」
最終更新:2014年01月02日 09:49