「グロウベルグ」


当初、ここグロウベルグに足を踏み入れるつもりはまったくなかった。
内陸部の詳細な測量までは計画していなかったし、それに第一、船乗りだった私は、山登りを大の苦手としていたからだ。
だが、今や私も故国から探検の資金援助を受ける身。
愚かな計画とは思いつつも、その意向を無視するわけにはいかなかった。
どうやら我がスポンサーはこの天然の要害に、トーチカを構築したいらしい。
灰色山という名から想像していたより、山道には緑も多く、長閑な景色を楽しみはじめた矢先だった。
にわかに落石が起こり、私は両脚を折ってしまった。
人里離れた山道でだ。
楽観的にも私は最期を覚悟した。
痛みで気を失ってから、どれぐらい経っただろう。
笑い声で目覚めた私の目に、虫の翅で飛翔する子供の姿が一瞬映った。
折れていたはずの脚は治っていた。
当地はトーチカ構築に不適、と私は報告書に記した。
天晶762年 グィンハム・アイアンハート
最終更新:2010年02月23日 20:54
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