当初、ここグロウベルグに足を踏み入れるつもりはまったくなかった。 |
内陸部の詳細な測量までは計画していなかったし、それに第一、船乗りだった私は、山登りを大の苦手としていたからだ。 |
だが、今や私も故国から探検の資金援助を受ける身。 |
愚かな計画とは思いつつも、その意向を無視するわけにはいかなかった。 |
どうやら我がスポンサーはこの天然の要害に、トーチカを構築したいらしい。 |
灰色山という名から想像していたより、山道には緑も多く、長閑な景色を楽しみはじめた矢先だった。 |
にわかに落石が起こり、私は両脚を折ってしまった。 |
人里離れた山道でだ。 |
楽観的にも私は最期を覚悟した。 |
痛みで気を失ってから、どれぐらい経っただろう。 |
笑い声で目覚めた私の目に、虫の翅で飛翔する子供の姿が一瞬映った。 |
折れていたはずの脚は治っていた。 |
当地はトーチカ構築に不適、と私は報告書に記した。 |
天晶762年 グィンハム・アイアンハート |