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ブルーブルー/グリーングリーン




昔から、あまり物欲がなかった。
まだ幼稚園の時分、みんなが競って集めた美少女戦士のカードをねだった記憶はないし、嫌いな食べ物もなければ特に好きな食べ物もなかった。
もちろん与えられれば受け取る。
ただ、それを欲するという行為に縁がなかった。

つい一ヶ月ほど前に両親から誕生日祝いにもらったipodは、妹があんまりにもうるさいので(母の了解をとってから)あげた。友達にはなにやってんのよ、晶子は優しすぎる、と笑われたが、私は決して人より優しいわけではない。ただ、別に今のMDでも十分だと思ったから、そして妹がうるさいから。
そう、『回避』行動をとっただけだ。

その私が、これまで十六年間生きてきた中で、おそらく初めてではないか、という感情に襲われている。
『回避』行動なんてもちろんとるものか。
これは『私』の。絶対。
と言っても、それは簡単に手中に落ちてくれそうにはない。
それ以前に、今までなにかを『自身から進んで得る』というアグレッシブな行動に出たことのない私は、こういったことに関する作法がまるでわからなかった。

あぁ、神様。私は今までなにかをねだったりすることはありませんでした。
これからもねだったりしません。だからお願いです。
笹川先生を私にください。


「先生」
目の前の白い山は動かない。
無視された。
「先生」
「・・・・・っくぅ・・・・」
山はかすかに動いたものの、小さくうなっただけ。
手の中のことに集中しているらしい。まったく私の存在を無視している。
「先生」
「・・・・・・うわっ!っ・・・・あーあぁ・・・」
白い山が動いた。
ずるずると背を伸ばし、黒い髪がてっぺんに現れて、その山は成長をとめた。そしてくるりと振り返る。多少汚れた白衣が小さく翻った。
「・・・唐澤。おかげさまで俺は今日も美しいグリーンを見れなかった」
まぶたを平らにした男性は恨めしそうに私を睨んだ。私はその視線を大して気にもしない。
つんと鼻をそらして、白いつるつるの床を滑って先生の横に並び、その手の内を覗きこんだ。そこには青い液体の入った試験管。
「あーらら。『絶望の青』ですか」
「俺は最近毎日これを見ている気がするよ」
まるでゴキブリかなにかでも見るような目つきで、先生は試験管を見下げた。もちろんそこには捕らえられたゴキブリではなく、単純に絵の具の青を水で溶かしたような、単純な美しさの青い液体が揺れている。
私は笑った。
「私のせいですか」
「唐澤が突然声をかけなかったら今日は『輝く草原』が見られたのに」
嘘付け。私が声かけてから五秒後に失敗したくせに。
「突然じゃないですよ。三回かけました、声」
三本の指をびっと先生の目の前に突き出すと、反射的に先生は避けた。危ないだろうが、としかめっつらそのままに水道へ試験管を移す。蛇口をひねると、白い水が勢いよく陶器の洗い場をたたく。試験管をその水圧にさらすうちに、青い液体は薄くなり、やがて消えていった。
「もったいない」
「もったいなくない。僕はもう『絶望の青』は見たくない」
試験管洗いで丁寧に洗う先生。そこまで青がお嫌いですか。
「え、でもきれいじゃないですか。青色」
先生のネクタイも青色ですよ、と言うと先生は苛立ったようで、乱暴に蛇口を閉めた。閉まりきらずにちょろちょろと流れつづける水に気づかず私に向き直り、ぐっと手の試験管を握りしめる。
「そういうことをいってるんじゃない。俺はブロモチモールブルーの青色になるって言う結果が嫌」
「先生、蛇口」
「ん?あ、あぁ」
先生は慌てて蛇口を閉めた。ちょろちょろと言う音が消える。代わりに私の忍び笑いがもれる。
「どうでもいいこと言ってるからです」
「・・・・唐澤にはわからんだろう」
はいはいわかってますよーと適当に返事をして私は机に腰かけた。

この理科準備室は薬品の換気の為か、窓がいやに大きい。その窓から見える木はまだ青々と茂っていて、暦の上では秋と言うことがまったく実感できない。その上今年は例年以上に暑いらしく、秋になるとクリーニング屋の袋から取り出すカーディガンも私の腰で縛られたまま、その役目を果たす機会はまだ一度もやってこない。
見下ろすと、学園祭のクラス準備に生徒が奔走している姿が見えた。ゆっくり歩いているのはごく少数で、近所の量販店から失敬して来たのであろう段ボールを何枚も担ぎ、えっちらおっちら働きアリのように歩いている。
あぁ、やっぱり大道具係にならなくてよかったなぁ。だってあんなのにかり出されたら、ここにこれなくなってしまう。
「はーあ・・・」
思考が近い現実に引き戻された。ため息の方を見ると、先生はまた白い山になって今度はコーヒーメーカーをいじっている。まるで今日一日ずっとマラソンして、やっと家に帰って初めて出す声のようだった。
そして愛しいものの名を呼ぶ。
「俺の『輝く草原』・・・」
まだ言うか。
私はいつものことながら眉をしかめた。
ブロモチモールブルーはPHによって色が変わる。黄色から青に変化するのだが、その中間地点のPH7ラインで緑を迎える。それ以上、ほんの0.01滴でも垂らせば溶液はたちまち青に変わってしまう。その緑を出すのは大変難しく、授業の実験でうちのクラスはとうとう一班も成功が出なかった。
先生はこの幻に近い緑を恥ずかしげもなく『輝く草原』と名づけている。そしてその一線を変えてしまった、彼からすると失敗作が、『絶望の青』なのだ。
先生はこの『輝く草原』がお気に入りで、放課後帰る前にいつもこの実験をしてから帰る、という執心ぶり。
ただ、ここしばらくは失敗に終わっているらしい。
「はーぁ・・・ったく、唐澤。おまえ、クラスの練習は?」
おまえのクラス、『ヘルススプレー』の劇だろ、と言って先生はコーヒーメーカーから離れた。愛しいブロモチモールブルーを両手で持って戸棚にしまう。
あぁ、ブロモチモールブルーになりたい。
先生の手自らによって丁寧に戸棚の右から三番目に収められたただのビンにさえ、私は妬く。
苛立ちが自然と足をぶらぶらさせた。
「ありますよ。そりゃあ」
「行かなくていいのか?」
「教室いったら選択授業から帰ってない子の方が多かったんで、まだ始まんないっぽいです」
嘘だったりする。友達の明美にトイレと言付けてトイレを通り過ぎ、この理科準備室にやってきたのだ。明美にはトイレ=笹川先生だと以前から告げてあるから、しばらく戻らなくても上手く言ってくれているだろう。まぁ第一、モブの一人なんていなくても誰もなにも言わないと思うが。
「おまえ、なに役?」
「町人Cです」
「台詞は?あ、ない?」
「“ご飯は食べたの?”ってレイシーに言います」
「レイシー?」
「主人公。」
「そーか。・・・そういやどっかの『ロミオとジュリエット』やるクラス、もめてるらしいな」
「あぁ、なんか・・・らしいですね。もう片付いたみたいですけど。」
「ふーん。おまえのクラスは?もめてる?」
「ぜーんぜん。みんなノリノリで怖いぐらいです。あ、優勝したらなんかおごってください」
「担任におごってもらえ。俺はこのコーヒー飲んだら帰るからな、おまえも出ろよ」
「・・・はーい」
どす黒い、ちょっと艶めいた液体の入ったフラスコをゆすった先生に飲むか、と聞かれて私は首を横に振った。
この部屋には砂糖やミルクなどは存在しない。先生がブラック派だから。
「ガキ」
いつもの台詞で、いつものように、笑われた。目を伏せて、口角をあげて、先生は小さく笑う。
「十月八日の誕生日きたら十七歳です。結婚できますよ。既に」
「コーヒー飲めるようになったら結婚しなさいお嬢ちゃん」
「じゃあ」
”飲めるようになったら、先生、お嫁さんにしてくれます?”
その言葉をぐっと飲み込んだ。危ない危ない。言いたいのは山々だが、客観的に見てキモ過ぎる。そりゃ言ってうんいいよって言ってくれるんなら、言う。キモくても何でも。一晩中言って婚姻届に判を押してくれるなら、晩中でもぜんぜんいける。
しかしながら、私から見て、先生にまったくその気は見受けられないわけで。今の私は『放課後に実験邪魔しにくる一生徒』としか見られてないのは明白なわけで。
「“じゃあ”?」
先生は言葉に詰まった私を促すように視線を向けた。
「・・・練習しときます。毎朝」
「ん。がんばれ」
「旦那さんが・・・ブラック派だったときの為に、ブラックで」
「慣れないやつが朝っぱらからブラックで飲んでたら胃に穴あくぞ」
気づけよ、馬鹿。


神様仏様。
私はなんでこんな先生とか、フラスコでコーヒー飲むのが好きとか、ブロモチモールブルー命とか、わけわかんない邪魔オプションのついた人間を好きになっちゃったんでしょうか。もっと無難な人なんてこの学校に山ほどいそうなのに。もっと素敵なオプションのついた人は沢山いるのに。あのみんなのアイドル神木君とか。隣のクラスの蜂巣君とか。
でもね、神様。好きになっちゃったんです。
他の男はもう有象無象に見えるんです。あの戸棚に並んでる薬品のビンみたいに。
私にとってのブロモチモールブルーは笹川先生なんです。
だから神様、世界中のブロモチモールブルーから緑色を消すか、私に先生をください。

「ほら、さっさと教室行け」

「明美、明美」
袖を引っ張られた。なに、と傍らを見やると、友達の晶子が口元はニヤニヤ、目は上目使いと言うなんともアンバランスな顔で私を見ていた。
「トイレ、私、トイレね」
「あ、うん」
「分かってる?トイレ、ト・イ・レ!」
「?一緒に行こうか?」
「違うって!ほら、私前に言ったじゃん!」
「え?あぁ!」
そこで私は思い出す。以前、晶子が暗号じみたことを言っていたことを。単刀直入に言えばいいのに。『笹川先生に会いに行く』って。しかし晶子にはこのばかばかしいことさえ、恋愛のエッセンスの一つなのだろう。
「OK、OK。『トイレ』ね。いってらっしゃい。上手く言っといてあげる」
「あーがとー!」
小声で言って、晶子はそろっと教室から出ていった。目を教室中央に向けるが、幸い誰も晶子の脱走に気がついていないらしい。演出の子は相変わらず台本を丸めて振り回しているし、主人公の子は同じ場面を壊れたレコードみたいに繰り返してなんか違うなぁ、と端から見たらぜんぜん分からない違いに悩んでいる。進行状況からすると、『町人B』の出番はまだまだ。ひまだけれど、特に用事も無い。
晶子がいなくなって、私の隣にはぽっかり一人分の穴があく。並行移動してその穴をふさぎ、私は劇に熱をいれている子達の奥、壁一面をふさいでいる黒板を見た。六限の現国の板書がそのまま残っている。掃除当番が掃除する間もなく練習が始まったから当然と言えば当然かもしれない。餅月先生の字は達筆すぎるのか、書道の心得の無い私には読みづらくてたまらなかった。
晶子はもう理科準備室についただろうか。
友人の嬉しそうな顔と共に笹川先生の顔を思い浮かべようとして私はあせった。
笹川先生って、どんな顔だったっけ。
一年のときに化学を受け持ってもらっていたが、もう半年も前のことだ。今物理を習っている先生の顔に、その地位はきれいにすりかえられている。
まぁ、いっか。
笹川先生なんてどうでもいい。第一、晶子には言えないが、なんであんな冴えない男が良いんだろう。今まで大して自分の欲というものがなさそうだった晶子が二学期のはじめ、
「明美!私、好きな人ができた!」
こそこそと言ってきたのがこともあろうに評判のマッドサイエンティスト先生だった。不細工ではないが、特にカッコ良いわけでもない。フラスコでコーヒー飲むし。あれなんか薬品混じってそうで嫌。
あんなやつより、杉谷先輩のほうがずっと良い。
杉谷先輩のほうが。


はじめて見たのは、五月。今でもはっきり覚えてる。
ゴールデンウィークにもかかわらず提出プリントを忘れたために休日出勤と相成った私は一人でとぼとぼと登校した。プリントを渡して帰るだけ。登下校の計五十分がすごく無駄な気がした。いや、実際無駄だった。その帰り道、十字屋にでもよって帰ろうかと考えていた私の目に、ふとグラウンドが映った。サッカー部が他校と練習試合をしているらしく、ボールに群がる男子の姿が見える。
空をつき抜ける怒鳴り声、砂埃。
がんばれよー。
他人事の私は心でそうつぶやいた。その時、だった。
グラウンドで、一人。そう、一人が、私の目にとまった。一瞬で私の目はその人を拡大した。私はフェンスにしがみついた。汗があごから落ちていた。ちょっと走っては戻り、時にはダッシュする。結局試合が終わる頃、私の指にはフェンスの痕がくっきりと刻みついていた。
その人が、杉谷修也先輩だった。
次の日にはクラスのサッカー部員に聞き込み、名前と、そして彼女がいない、と言う情報を入手した。あんなにカッコいい人に何で彼女がいないんだろうと思ったが、いてもらっても嫌だったので普通に喜んだ。
晶子には、なんとなく言えなくて。それは晶子に好きな人がいなかったと言うのも有るし、恥ずかしかったのと実らなかった時のことを考えるとやっぱり言えなかった。
自分でひそかに暖めた恋だった。
今思えば、なんて乙女だったんだろうか、自分は。今まで周りの恋をした友人にはさっさと告っちゃえ!とびしびし言っていた自分が、こんなにも臆病で小さな心を持っているとは知らなかった。
よく遅刻すること。今でも幼なじみと仲が良いこと。先輩のことは何でも知りたかった。廊下ですれ違えば一日が幸せだった。できる限り、帰るときはグラウンド側を通って帰った。朝のニュースの星座占いで、相性が良い星座に先輩の星座があがったときは、特にわけも無くどきどきしていた。

そしてその日は突然来た。ミンミンとセミが鳴き始めた日。
その日は体育が六限で、晶子は直接帰るということだった。体育館シューズを持って帰るのが億劫で教室に戻ることにした私は汗をかいた髪をくくりあげて更衣室を出た。クラブの時間は既に始まっていて、渡り廊下に人気は無く、自分のローファーの音がやけに響く。
後ろから、走る音が聞こえた。振り向いた。杉谷先輩だった。瞬間、私の心臓が大きく鼓動をはじめた。準備ができてない。あせる私をおいて、ユニフォームではなく制服姿の先輩は私をすっと追い越していった。
「あ、あの!」
ぴたっととまった大きな背。振り返った顔には驚愕が張りついていた。猫みたいだった。声をかけた自分に、さらにあせる。先輩は自身を指差した。
「・・・俺?だよな?」
「え、は、はい、あの、・・・きょ、今日はサッカー部は」
「あー、うん。今日は顧問が出張だから、休み」
先輩はかばんを持ちなおした。すごい。私、先輩としゃべってる。私の言葉に、先輩が返してくれている。馬鹿馬鹿しい事に私は感動していた。
「あ、あの私」
「ん?」
脳の片割れで、鐘の様に言葉が鳴る。私が以前人に対して言っていた言葉を、今度は私に。
脳のもう片方が戸惑っているうちに、口はその言葉に従った。
「・・・・・・・・・・・・す、きです」
「え・・・・・あ・・・・・お、俺?」
「・・・すみません、こんなこと、突然。し、知らないやつに言われても、怖いですよね。すみません」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
先輩はあーとワックスで立てていた短い髪をガリガリとかいた。そして私に目を向ける。と、思ったが違った。私の後ろ、渡り廊下の奥の奥。それよりもっと、遠いところを見た。その目に、私は絶望を予感した。
そして。
「ごめん。俺、今そういう系考える余裕ねぇんだ」
「・・・は、い」
声が自然に震えた。唇をかみしめる。泣くな、泣くな。こぶしを握りしめる。泣くな、泣くな。
「えっと・・・・わるい。友達と待ち合わせしてっから。ありがとな」
じゃ、と手をあげて、先輩はまた走っていった。あたりまえだけど、一度も、振り返らずに。

誰もいない教室に帰って、ロッカーにシューズを放り込んで、うずくまって、泣いた。
その日から、グラウンドの傍を通って帰ることは無くなった。

好きだった。好きだった。私の存在に気づいてもらえなくても。
好きだった。好きだった。ただ、そこに先輩がいてくれるだけで。
好きだったのに。

ミンミンとセミが鳴き始めた日。夏のはじめ。恋の終わり。


「ただいまー!」
晶子がこそこそ帰ってきた。埋めていた穴をあけてやると、するりと滑りこんでくる。
「んで?どうだった?」
「進展なーし。」
人差し指で×を作って、それでも嬉しそうに晶子は笑った。
私にもこんな時期が有ったなぁ、と私は孫を見るような気持ちで晶子を見た。私の恋は、もう終わった。あの後、先輩とすれ違うたび私を苦しめていた胸の疼きも途絶えて久しい。もう恋なんて、出来ないと思う。恋に対して、心の中が白い空洞を作ってしまっている。そこだけ、千切り取られたように。神は死んだ。
晶子は嬉しそうに笹川先生の行動を一つ一つ報告する。正直あの教師などどうでも良いが、なんとなく気持ちは分かるので相槌やらを交えながら聞いてやる。
「それでね、先生、コーヒーを」
「町人C誰?!もう下手から出てるでしょ?!誰?!」
演出の子が台本を振り上げて怒鳴っている。クーラーがきいている教室だというのに汗だくで。晶子は悲鳴にも近い返事をして慌てて教室の中央に向かう。
「はいっ!」
「もう、ちゃんと自分の出番のタイミングは覚えといてよ!」
「ごめんー!」
そしてまた劇の練習が流れ始める。町人Bの出番は次の場面だ。自分の台詞を頭で反芻して私は待った。
「唐澤、抜けてただろ」
突然の声。驚いて傍らを見やると、達山がにやりと笑っていた。
いつの間に来たんだカバディ部。
「トイレよトイレ。女の子にそんなこと聞かないでよね」
「トイレ通りすぎてたぞ、唐澤」
晶子の馬鹿。見つかってんじゃん。
「・・・・ちょっと用事、用事」
「ふーん。男?」
達山の癖に、鋭い。
「かもね」
「・・・・元気出せよ」
「は?」
言ってる間に頭をポンとなでられた。わけがわからない。でも、不意打ちだと思う。
「なにが?」
「いや」
達山が苦笑した。目を泳がせ、首をポリポリとかく。
「元気なくね?」
「だれが」
「おまえ」
「・・・・かもね」
ため息をついた。なぜこいつに気づかれたんだろう。自分でも言われてはじめて気づいたのに。
「だろ?ここは友達としてほっとけねぇかなぁと」
「ん、アリガト、アリガト」
「なんか余計なお世話って顔に出てるぞ」
「まぁね」
「カバディカバディカバディカバディ――――」
なんなんだと見ると、既に傍らに達山はいなかった。『カバディ』とつぶやきながら廊下へ出て行く後姿が見える。やっぱりカバディ部は分からない。
でも。
さきほどポンとされた頭を、髪を直すふりをして触れてみる。
やば、ぐっときた、かも。
いやいや!
確定じゃない。まだ、確定じゃない。
だってカバディ部とかそれも達山とか・・・ありえない、し。
それに、恋なんてもう、したくない。苦しいし・・・。うん。

緑、いまだ深き日。秋のはじめ。

恋の―――。
最終更新:2007年11月18日 18:28