憂友日和




 僕はこれでも2年1組の委員長だ。
うちのクラス委員は影がものすっごく薄い。だから僕のことを委員長だと知る生徒もあまり多いとはいえない。しかし!二学期といえば学園祭!まさにクラス委員が主役といえるこの期間ぐらい、僕の言うことを聞いてくれてもいいじゃないか!


「みっち~!うちのクラス、お化け屋敷から喫茶店になったから!予算もっともらってきて~!」
「…神木龍君…君には常識というものがないのか?決められた予算内で行事を行うということが学園祭なんだよ?それと僕の名前はみっち~だのではなく、海藤充だ。」
「のり悪~。シャーないじゃん。学園祭くらい、みんなモテたいってうるさいんだもんよ~」
 あ~っ!もう、何なんだよっ!こう言えば、ああ言うし、ああいえば、こう言う。彼、神木龍のことは、だいたい入学式のときから苦手だ。僕が入学の言葉を読んでいる時に、みっち~などと知り合いでもないのに大声で叫びやがったのだから。それ以来、僕は彼のことをできる限り避けて行動するように心掛けた。なのに…。世の中腐れ縁というのは確実に存在する。僕とはまったく思考回路が異なるといっていい彼と僕は二年連続で同じクラスなのだ。
そんな理不尽な原因のひとつは、今時珍しい進路別ではない、うちの高校のクラスわけ。戦前から続く、おっとり、のんびりを身上とする、うちの学校だからこそなせる業だ。
「んじゃま、ヨロシク!」
 ~っ!何がヨロシク!っだよ!人の話を聞かないのもいつものことだ。あぁ神様、僕は学園祭までに、いったいどれだけこいつに悩まされるんでしょう?無神論者なのに神様に頼ってしまう今日この頃。

「海藤君…学園祭のことなんだけど、時間ある?」
「うん。大丈夫だよ。」
奴、神木龍のことに悩んでいる僕に話しかけてきたのは、うちのクラスの副委員長、平真澄さんだった。長い黒髪がきれいで、伝説の旧生徒会長を彷彿とさせる。
「結局、喫茶店になったんだけど、神木君がそれならコスプレでやりたいって言い出したの。」
「あいつなら言いそうだな…」
「…そうね。でも、女子のコスプレ要因が一人足りなくて、神木君が指名してるの。」
「誰?」
「……海藤君。」
 や、やつは何を考えているんだ!僕にコスプレをやらせるだと!ふざけるんじゃないっ!今回ばかりは僕でもキレるぞ!
「平さん、神木が今どこにいるか知ってる?」
「確か、神社に行くって言ってたけど…」
「わかった。ありがとう。」

 そして僕は全速力で裏山にある神社へと走っていった。
すると、そこには神木だけではなく、うちのクラスの大多数が集まっているのが見えた。準備でもしてるのか?
「神木よぉ、それはヤバくね?」
「そおだよぉ。いくら海藤くんだからってさぁ。」
僕のことが話されているようだ。
「そか?海藤だからこそヤリガイがあるんだって。」
「でも海藤君、絶対に怒ると思うよぉ。」
「それでもイイじゃん。あいついっつもツマンネェ顔してるし、たまには怒らせてもさ…」
気づくと僕は神木の言葉を遮ってみんなの中に立っていた。
「やぁ。神木。わざわざ、僕を指名してくれてありがとう。」
「みっち~!俺のためにこんなところにまで!俺のジュリエットはみっち~しかいないよ!」
「ふざけるな!ツマンネェ顔してる僕をからかって楽しいか!」
「あ・聞こえてた?」
「なにをするつもりか知らないが、君に顔のことをとやかくいわれる筋合いはない!」
「イイでしょ。現実そうなんだから。俺はみっち~が楽しそうにしてんの見たことないし。それにたかが顔で、そんなに怒らなくてもさぁ。」
そのとき、僕の理性がすでに限界に達していたのか、それともあまりに彼の言葉に反応していたからかは分からない。しかし、僕は学校という社会で絶対にはやってはいけないことやってしまった。
「君のことなんか大嫌いだっ!」
みんなも呆然と僕のことをみつめている。人気者を敵にまわす、その禁忌をおかした僕のこれからのような静寂が続いた。
「へぇ~。俺にそんなこと言うんだ。海藤は。」
僕は神木のその言葉と静寂に耐えられなくて、気づいたときには来た時よりも速いスピードで神社から逃げていた。


それから二週間がたった。もうすでに学園祭まで残すところ一日。夜には前夜祭が行われる。みんなが明日の学園祭の気分に浮かれまくっている中、僕の気分は最低だった。
神木に啖呵を切ってからというもの、クラスの誰もが僕を痛々しい目で見るからだ。そして僕自身も小学生みたいな発言をしたことが恥ずかしくてしかたなかった。
「海藤君…」
そんな陰鬱とした気分の僕に話しかけてきたのは、またもや平さんだった。
「神木君があなたを呼んでるの。ステージの前に来てって。」
…ついにお呼び出しか。僕の人生でおそらく、忘れられない出来事のひとつとなるだろう。

廊下を歩いていると放送が聞こえてきた。
「ただいまから前夜祭をはじめます。皆さんステージに集合してください。」
今から始まるのか…ん?なのにステージにお呼び出し?普通、そんなところに呼び出すものか?
そうこう考えているうちに僕はついにステージにたどり着いてしまった。
と、その時、僕は目の前が真っ暗になり、大勢の人にどこかに運ばれていた。耳にはなんの音もはいってこなく、不安でしかたない。そして、僕はどこかにおろされたらしかった。
「すぅー」
誰かがマイクに向かって何か言おうとしているらしい音が聞こえた。
「せぇーのっ!」
パーン・パン・パン!
「みっち~お誕生日おめでとう!ハピバ!」
僕の視界は急に明るくなった。あまりにも急すぎて一瞬、視界が真っ白になったくらいだ。でも、気づくと隣に神木がいて、ステージの前にはクラスの子をはじめ、たくさんの人が手にクラッカーを持ってたっていた。
「え…誕生日?僕が?」
「そ・みっち~前夜祭の日が誕生日なの絶対に忘れてると思って、みんなでサプライズ・パーティしたってわけ!」
「神木…僕のこと嫌いになったんじゃないのか?皆も…」
「あ・あれはさぁ、俺の思考能力が幼児なみだったからで…俺、何も考えずに言っちゃったんだ!ゴメン!」
「そぉだよ!俺らお前のこと嫌ってなんかねぇよ!」
「もともと、海藤君、絶対に怒るって言ったのにヒミツにしろって言う神木君が意地張ったせいだしねぇ。」
「平!言ったら意味ないじゃん!」
 平さんまで…皆さん計画的ですこと…
「ロミジュリやるクラスとヘルススプレーやるクラスに話つけにいったのは誰だったかしら?」
「ま・成功したしイイってことで! な、みっち~?」
「う、うん。ありがとう。」
「キャー!みっち~に感謝されちゃった!よし!みんな、明日のコスプレ喫茶も頑張るぞ!」
「やっぱりコスプレしなきゃダメか…」
「そりゃもちろん!みっち~はちなみに和服美人ね♪」
…僕の人生、これからもこいつのことで悩みが多そうだ


僕はこれでも2年1組の委員長だ。
僕のことを知る生徒はあまりいないだろう。
でも、僕のことを知ってくれている生徒もいる。
たとえば…神木龍とかさ。
最終更新:2007年11月18日 18:28