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蒼く光る時代




 風を使ってどこまでも俺は飛んでゆく。大空のかなた、虹の上、海のど真ん中、ミツルの部屋・・
「って、最後のひとつはおかしいだろ!完璧に変だろ!」
あぁ、また一人で瞑想にふけっていたら、外界から突っ込みが・・
「普通に突っ込むし!ていうか人の部屋に来て瞑想するな!」
失礼な。用があったから来たのに・・
「じゃあ、先に用件を言えよ!」
なんで、ミツルは俺の考えてることが解るんだ・・?
「全部、口から出てんだよ。」
なるほど。云いえて妙だな・・
「いや、まったく関係ないし。で、用事って?」
「これ増やして。」
「ったく。それを先に言えよ。」
いかにも面倒だと言いたいような顔をしながらも、充は俺が差し出した紙に光珠を向けた。
「増やすのはいいけどさ、一気に二十枚にしたらすごく破けやすくなるぜ?」
「別にいいよ。ステルス作るだけだから。」
「なっ、それくらいなら買ってこいよ・・」
ミツルの魔法は物をいくらにでも増やすことができるが、増やせば増やすほど一つ一つの性能が落ちてしまう。彼はそのことをひどく気にしていて、そのため、あまり魔法を使おうとしない。
「はいよ。できたぜ。」
「サンキュー。ミッチー愛してるよ。」
「おまえの愛なんかいらないし。だいたい、なんで毎晩、俺の部屋に来るんだよ?」
「俺がミッチーを愛してるからに決まってるじゃん。」
「お前、今すぐに北部前線に行って来い。」
その一言ともに俺はミツルの部屋を追い出されてしまった。
    • また本当のことを言えずに誤魔化してしまった。まぁ、ミツルへの愛から訪れているのも本当なんだけれど。

 時々、考えてしまうことがある。俺はこの場所で普通に生活していていいのかと。あんなことをした俺に生きる権利はあるのかと。
「うるさいな、俺はどうせ奨学生だよ!」
ある時、そのことを考えながらボーっと蓮池のそばで寝転がっていたら、草の向こうから怒声が降ってきた。
「なんだよ、お前らのだってたいした魔法じゃないくせに!」
頭を上げると、生真面目そうな少年が叫びながら蓮池に石を投げつけていた。
奨学生か・・家が貧しいんだな。
「お兄ちゃん、そんなに石を投げつけたら蓮が可哀想だよ。」
もうひとつ声が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、少年のそばにまだ六歳くらいの女の子が立っていた。
「あ、ごめん。でも、どうしても腹立たしくて・・」
「うん。・・ふえっ」
少年の謝罪に対して女の子は相槌をうちながらも、その声はしだいに泣き声に変わっていった。
「え!ちょ、どうしたの?!」
少年も突然のことに驚いて焦った声をあげている。
「ふえっ・・あのね、パパと離れ離れになっちゃったの・・」
迷子か・・。この学院に出入りしている人の子供だろう。
「そ、そっか。あっ泣かないで!ほら見て!お花が増えていくよ!」
少年は魔法を使ってか、近くに咲いていた花をとって増やしていった。それを見た女の子も、はじめは泣きながらも段々と笑顔になっていった。
「あ!パパ!」
しばらくすると、女の子の父親らしき人が走ってきた。
「本当にありがとうございます。娘が無事でよかった・・あの、君の名前は?」
「普通科のミツル・カイドーです。」
父親は彼に何度もお辞儀をしながら、女の子と共に去っていった。
「さて、俺もそろそろ帰るかな・・」
「普通科のミツル・カイドー君?ミツルだから、ミッチーと呼ばなきゃね。」

 それが俺とミツルの出会いだ。急に草むらから出てきて、名前を変な風に呼んだ俺を彼は沈黙でもって迎えた。しかし一瞬の後・・
「俺の名前はミツル!ミッチーなんて呼ぶな!」
こうして俺たちの関係ははじまった。
「あの時のミッチーの顔はすごかったなぁ。」
「お前、また人の部屋で変なこと考えてるんじゃねぇよ。」
寮の部屋数と人数の関係でミツルが通常は二人部屋なのに、一人で使っていると聞いたときから俺は毎晩、彼の部屋を訪れるようになった。
彼に俺のしたことを聞いてもらうために。
「お前さぁ、ホントになんで俺の部屋に来るの?別に特別科に友達いるだろ?」
    • 今夜こそは言おう。いつもみたいに誤魔化さずに。
「俺さ・・人を殺したことがあるんだよね。」
ミツルは何も言わない。まぁそれが普通の反応だとは解ってる。
「まだガキの頃にさ、能力が上手く使えなくてっていうかこの魔法を能力だとも解ってなくて、魔法で人を殺したんだ。」
「誰を?」
「親父。酔って母さんを殴ろうとするのを見てさ、気づいたら魔法を発動させてた。」
「・・・。」
「ものすごい突風を親父の顔にぶつけたんだ。気づいた時には親父の顔は潰れてて、そばで母さんが泣き叫んでた。それから母さんは今でも俺のことを怖がってる。」
沈黙が漂う。俺はミツルの顔を見ることができなくて下をむいて話を続けた。
「それで俺に能力があることがわかってさ、そのことを聞きつけた伯父さんが俺をこの学院に入学させたんだ。」
話は終わった。でも、ミツルの反応が怖くて、顔を上げられない。
「何で俺にそんな大変なこと言うんだよ?もっと精神治療してる人とかに話したほうがいいと思うぞ。」
ミツルは本当に心配そうな顔で俺にそう言った。
「っ・・それはお前だから聞いて欲しかったんだ!お、俺に初めてちゃんとした魔法の使い方を教えてくれたから!」
「は?俺がいつお前にそんなことしたよ?」
「初めて会った時に。女の子に魔法で花を増やしてあげてるの見てさ、こんな風に魔法って使えるんだって初めて思ったんだ。」
「あんなこと・・誰だってやってるだろ?」
「そうかもしれないけど!俺にとっては初めてだったんだ!」
ミツルは納得がいかないという風に顔をしかめた。俺だってよく分かってないんだ。あの感覚。でも俺はミツルに俺がしたことを聞いてもらおうって思ったんだ。
「俺は・・俺には生きる権利ってあると思うか?」
「はぁ?そりゃ誰にだってあるだろ。俺にも、親父さんを殺したお前にも。」
っ・・ミツルはやっぱり人を殺した俺を嫌いになるのだろうか。
「だから生きろ。お前は親父さんのことを一生、忘れずにこれからも軍人になって魔法をつかうんだ。」
「ミ、ミツルは俺のこと嫌わないのか?」
「人を殺したくらいで嫌いになってたら、軍人なんて全員嫌いになってるよ。いつだったかに、北部軍営を転移させて味方を殺した黒髪のやつに比べたら、おまえなんかたった一人殺しただけだし。」
「ミツル・・」
「そ、それにさ、奨学生って理由で嫌味を言われてた俺にまともに声をかけてくれたのお前がはじめてでさ・・その、嬉しかったんだ。」
やばい。泣きそうだ。俺の罪が赦されたわけじゃない。そんなことわかってるのに、ミツルに過去の俺を認めてもらったことが今、こんなにも嬉しい。
「ありがとう。ミッチー。話、聞いてくれて。お礼に俺の愛をあげるね。」
「・・お前の愛もたまには受け取ってやるよ・・リュウ。」

 北部戦線はまた激しさを増したようだ。俺も最終学年になったら徴兵されるのかもしれない。そして多くの人を魔法で殺すのだ。
「ミッチー!また紙きれちゃった!増やして!」
「あぁもう。またステルスじゃないだろうな?」
でも今はこの日常を楽しもう。いつか今が過去になっても大切にしていられるように。生きることが苦痛になったとしても、そのひとつひとつの大切な記憶たちが俺にとっての光になるはずだ。
「おい、リュウ、できたぞ。」
「お、さすが仕事が速いねぇ。実は蓮池でステルス大会やってるんだ。」
「・・またステルスかよ。よく飽きないな。」
「何を言う!ステルスには男のロマンが詰まってるんだぞ!」
こんな些細な会話も時がたてば過去になる。
でも、俺たちがこの学院にいることは変わらない。
この蒼く光る時代をミツルと過ごしているということも。




光を求め 歩き続ける
君のその情熱がいつの日か
誰かにとっての 光となるでしょう
誰かにとっての 兆しとなるでしょう
最終更新:2008年08月16日 23:53