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 同時刻、某国――



 「形番不明の茶色い虫みたいなヤツがいる」
 「噂に聞く“向こう見ず(レックレス)”のガブスレイ、か?」
 「ソロとはいいカモだ」


 それはこっちの台詞だ。
 通信を傍受しながら、彼女は軽く心の中で毒付いた。


 此処は紛争地域。


 近年のモビルスーツを始めとする人型兵器の流通により、テロはその過激さを増していた。
 都市には幾つもの防衛戦が存在し、戦闘兵器の個人売買も法で禁止され、個人の所有するMSも持ち込みを禁止。
 数少ないコレクターが所有するものは、銃刀法のように扱うことが不可能な状態にされ、完全な観賞用。
 そこを徹底することが、新しく独立した国の平和を保つ上で不可欠なこと。
 しかし、蓄えられたテロリスト達の戦力は予想を上回っていた。


 そんなわけで、緊急戦力である傭兵団(マーセナリー・ギルド)にお呼びがかかる。自分の住む極東では需要はなく数も殆ど存在しないが、こちらでは彼らの存在はとても重要なものだ。
 本来、極東の地に居住する自分になぞに声がかかる筈もないのだが、そこはコネと情報力さえあればどうにでもなる。そして、自分はこの二つを備えている自信がある。
 “わざわざこちらまで出張ってくる物好きな黄色野郎”と罵られること多数。それが“Reckless Tide!!”の常連っぷりというか、そう言うものを表している気がしてならない、と彼女は思った。
 ――勿論、それだけで名前を売っているつもりは毛頭無いが。


 「さて、と」


 私は暢気なことに、あの自分の何時も住んでるあののんびりした生活のことを考えていた。
 そう言えばもうクリスマスなんだよな。あの料亭やあの艦隊でも何か催し物とかやってるんだろうか。
 騒戯屋は……どうだろう。クリスマスには無頓着な連中だ、何もやるまい。
 あの微妙に知名度の高い洋菓子店ではクリスマスケーキの注文が殺到してるんだろうか。蒼津は会計に身を費やし、手伝いに動員された冥土は台無しにし、水蔵はフルタイム動員に駆り出され、つるねぇも珍しく忙しくなるのだろうか。


 レーダーの光点が近づくが、もうそちらに意識は向いていない。かと言って、自分の戦場以外の居場所に思いを馳せていたわけでもない。私は既にMA形態で砲弾の嵐を掻い潜る中――微かに見える敵機だけに集中していた。人型が四、内EWAC搭載の索敵機が一。
 ――やはり、敵の射程が長い。これならフェダーインランチャーのが良かったかもしれないが、そんなことを言っていても仕方がない。
 肩部メガ粒子砲の照準を先持ってロック。まず、狙う相手を間違えないこと。
 このフレキシブルに動く砲塔は機体を横転させたとしても斜線から標的を外しはしない。
 威力こそまともなものではないが、拡散する為に対MS戦において中距離からの目くらましとして有効だ。
 さて、まずはこいつの射程内に潜りこむところから始めよう。横転を繰り返し、時には機首を上げ急上昇しながら、回りくどく、それでも着実に。
 加えて、上昇した状態からではなく、なるべく地表に接する飛行で攻撃できるのが望ましい。


 オーケー、来た。
 まずは狙いを定めた索敵機に、有効射程への突入と同時にメガ粒子砲をばら撒く。
 目くらましだが、標的は明らかに怯む。斜線に多少重なる他の三機も多少ながら。
 この機体のメガ粒子砲は全くのこけ脅しとは言え、出力が出力ならと思うと確かに動揺はする。
 ――安心しろ、その程度で落ちはしないぞ。


 高速に、先程の有効射程を半分ほど。
 だがここくらいになるとこの拡散メガを無視して敵も狙いを定めてくる。
 接近はこちらにとって絶好の攻撃のチャンスだが、それは相手にとってもまた同じことだ。
 ここでとっくに有効射程内だった、機首に取りつけられたC型フェダーインライフルの火力を投入する。途端に、また敵の火線が乱れる。
 やはりそれなりに名前の売れている(らしい)私に対する恐怖も相まって、とても脆い。
 急ごしらえの戦力などこんなものか。やはり兵器を兵器として、必要な殺しの道具をその場で覚えた付け焼刃でしかない。
 弱い。弱すぎる。兵器を扱うことを叩き込んでいる自分にとって、あまりにもあまりにも。


 気づけば既に、バレルロールで遥か上空。――こう言う空対地の上で一対多数ではヒット&アウェイは有効な戦術の一つだ。
 この機体をガブスレイのカスタムタイプとして特徴付ける肥大化したクローには、EWAC機の電子戦に特化したメインカメラ――ひしゃげた頭部が無残に掴まれていた。
 クローを開閉する。頭部が落ちていく。実質被害としても演出としても悪くない。
 そう思いながら、宙返りから急降下。


 相手はもはや烏合の集。残るは既にたったの二機。
 先程ヘッドオン――戦闘機戦での真正面での打ち合い――で仕留めたヤツが、その二機からそう遠くない位置に転がっていた。
 ほぼ真後ろの上空位置で、相手はおたおた機を旋廻している。背部迎撃武装が無いと公言しているようなものだ。
 高速で変形シーケンスを起動。上半身を起こし、脚部のクローを展開した中間形態を取る。クロー内臓ビームサーベルを展開し、ギリギリで減速――


 綺麗に真上から突き刺す形で、三つ。
 そしてその状態からすぐさまフェダーインライフルを抜き放ち閃光、四つ。


 被弾ゼロ。スコア四機中四機。
 交戦と呼ぶには、あまりにも呆気ない。


 「続いて敵影確認……やれやれ、ずっとこんな調子か?」


 ややつまらなさそうに一人ごちる。
 『油断するな、二波もこうとは限らない』――と合いの手を入れてくれる普段は突っ込み役の青年は居ない。
 こんなことなら一緒に連れてくるべきだったか。いや、今のこの仕事はいいが……本命の方はちょっと関わらせるわけにも行かなかったんだっけな――?
 本命も捨ててバカ騒ぎしてれば良かったかな。


 再び、バーニアを一転集中させる航行形態も兼ねるMA形態へと変形する。
 ――えーと、ここらへんの地域って何語だったっけ? 仕事で使う言葉以外の文法や発音は本当に拙いからなあ。本格的に勉強すべきか。でも、まあ別にいいか。
 そう思いながら、おもむろに通信回線を開く。



 「諸君。諸君らもぶっちゃけこんなお祭り騒ぎで浮かれてる日にテロとかしたくないのだと思う。少なくとも私にはダルくてできない」



 「クリスマスって文化がないなら他の日でもいい。とにかく今日はお祭り騒ぎの日を思い浮かべ、その日にお祭りに行きたいのに人殺すような仕事をしてると思え。想像できたかな?」



 「アワれでアワれで死にたくなった奴は前に出ろ。八つ当たり純度二〇〇パーセントのクリスマスプレゼントをくれてやる」



 一方的に通信を切る。何となく、敵機の足並みが乱れたような。
 きっと『お前らホントはやりたいんだロ、祭りテロを』とか『クリスマスがないから他の日にするべき』とかそんな意味になってたかもしれないくらい自信は無かったが、まあそれはそれで吃驚するだろうしまあいいだろ。
 それでもやはり、胸の奥の後悔――いや、その二文字は私の辞書になどいややっぱり後悔――は収まらない。


 ……………………。
 ちっ、と舌打ちする。私にこんなキャラはガラじゃない。
 溜息をついて少し考え心機一転。
 砲火のド真ん中を急加速する――唯の一言気合を入れ。



 「せめてもの憂さ晴らしと行くか」



              ◆            ◆



良い年末を。良い年明けを。



              ◆            ◆

【洋菓子の日常編 ちょっとアレな用語集】


九野 月流子 / くの つるこ :勢力――洋菓子店『Moonflow』店長、『Reckless Tide!!』代行勢力長
 洋菓子店『Moon flow』の店長。通称つるねぇ。
 見れば明らかに学校に行っている年。
 何故学校に行っていないのか、何故店長なぞをやっているのか、お店をどうやって手に入れたのか、身寄りは居ないのかなど様々な疑問点があるが、あまり気にされない。気にすると消される、気にすると記憶を消されるというのが影の噂最有力候補。
 極めて奔放。自己の利益を追及することもできるが、面倒なのであまりやらない。手に入る利益を放棄する姿勢の方が面白いと笑ってるのが彼女である。
 奔放と言うか、唯のバカなのかもしれない。そして、その取り組みごと次第ではただの気狂いでしかないのかもしれない。全部ひっくるめてよく解らないがまんべんなく適当な奴が最終評価。
 アリスの想いについては承認を出しているが、何処まで本気かは不明。
 そんなわけで、蒼津に迷惑をかけている。寧ろ迷惑をかけたいだけなのかもしれない。
 賽とは店長と客の以上の関係。
 現代兵器戦適正は持たないのは確定しているが、人外戦の適正ははっきり公言していない。案外戦闘適正はゼロなのかもしれない。


アリス・クライン  /  ありす くらいん :勢力――洋菓子店『Moonflow』常連客、『Reckless Tide!!』工作員
 人形師。温室派魔法使い。ブクレシュティとの関係は密接。
 自立人形を常に連れていたり話しかけている為、近所界隈では変人のレッテルを張られている。
 親の資産でぬくぬく生活しつつも、人形や人形の服を売って生計を立てている。
 ガチ百合。鼻血が出るくらい九野のことが好き。店には毎日通っている。
 今まではストーカー紛いの行動“のみ”だったが、蒼津が同居してることを知ってから行動が活発化。
 勝手に蒼津を恋敵と認定し、妙な恋路を進んでいる。馬に蹴られて地獄へ落ちろ。
 蒼津とはバトること多数。そんなわけで、当然人外戦適正持ち。


高天原 冥土 / たかまがはら めいど :勢力――洋菓子店『Moonflow』従業員
 洋菓子店『Moon flow』の従業員。信じられないことに本名らしい。
 チェーンソーとショットガンを“こよなく操る”キャプテン・スーパースイート。
 店内の治安上昇に一役買っている。電源入ったチェーンソーの平でマナーに問題のある客をぶっ飛ばした伝説を持つ。
 蒼津とアリスの喧嘩に対する抑止力として大いに貢献中。
 生涯を賭けるに値する唯一無二の御主人様を真面目に募集しているが、なかなか見つからないようだ。
 人外戦に適正。


蒼津 / あおつ :勢力――洋菓子店『Moonflow』従業員・会計
 洋菓子店『Moon flow』の従業員。名前は不明。
 働いている様子から一般客からは無口と思われているが、実際そんなことはない。クールでビューティなだけである。
 キレてもクールだが、部屋の温度が落ちたりどうにもならない殺気を振りまくのでいっそ普通にキレた方が怖くないのではとまで言われる。
 店メンバーの口コミリアルレジェンド筆頭はダントツで冥土なわけだが、実はその冥土より強いことはごく一部の人間しか知らない。
 洋菓子店=九野宅には泊り込みというか、殆ど同居人。
 その為同時にアリスの激しい嫉妬の対象でもある・その原因にはあまり自覚がなかったりで、無駄な苦労を背負い込むこととなる。
 武器は本来二丁の自動拳銃を得意。しかし、九野が粗悪品のサタデーナイトスペシャルしか渡してこないので殆どその実力を発揮できないでいる。
 もちろん、人外戦適正持ち。


水蔵 火綯  /  みなくら かなえ :勢力――洋菓子店『Moonflow』従業員・菓子職人
 名前のみ登場。
 ミス・メドローアと言うやたら強そうな二つ名を持つ。
 普段は開店時間前に来てものすごい速度で洋菓子を作り置きしていってくれる人。時間の違いからアリスは一度もお目にかかったことがない。
 しかし、劇中ではクリスマス間近と言うことで残業に駆り出されるらしい。
 戦闘適正とか不明。


山茶花  /  さざんか :勢力――アリスの所有物・自律人形
 アリスの所有する女性型人形。赤ずきんのような容姿で、常にアリスと共にいる。サイズは普通の人形くらい。
 性格言動ともに極めて子供。アリスが大好き。
 マスターのアリスの影響(趣味?)を最も受けている所為か同性趣味。
 戦闘においては魔砲と呼ばれるレーザー攻撃を主力としたアサルトドールとして活躍する。


MAI / えむえーあい
 マジックアーティフィシュルインテリジェントの略。マジックAIと書くと現代人に理解されやすい。
 一文字入れ替えると宇宙人と戦える。
 魔法によって作られた人工知能で、自律人形と操り人形の違いを分けるもの。
 自律思考と言っても、基本的に戦闘中の移動・攻撃の支持は全てアリスが行っている。例外として自動攻撃型も存在。
 それらが指示以外の動きをする時は、術者たるアリスの身に危険がある時のみ。


魔術出力器  /  すぺるじぇねれーたー
 人間を始めとした生命体が魔法を扱う際、基本的に体内生成あるいは対外摂取した魔力から思念の集中を始めとした様々な方法で魔法を出力するのが基本だが、そのプロセスを代替する為の魔術機関。
 アリスの持つ人形は共通で浮遊能力、それとは別に最低一つの別個のスペルを有している。
 技術としてはかなり高度な部類。
 奥には厳密な設定が存在するが長すぎるので割合。


加速式魔力路  /  まな・さいくろとろん
 スペルジェネレーター、MAI共有のエネルギーゲイン。
 魔力を保存する有効な手段の一つで、加速器のように魔力を回転させることで保持する。性質上魔力は一箇所に留め置くことが難しい為、いっそ動かしたらどうかと言うのがこの保存方の起源と言われている。
 とは言っても、人形に搭載できるサイズともなれば容量は小さなものが主となる。基本的に、スペルジェネレーターから一回の出力+自律思考稼動・移動分の魔力消費2分前後で満タンから行動不能になってしまう程度。このことからスペルジェネレーターの消費に合わせて保持可能容量も設計されているようだ。
 どうやって連射をしているのかと言うと常にアリスが魔力を送っている為。一発撃ったらその瞬間再チャージされる。
 供給を切っても、魔法さえ出力しなければそれなりに動きっぱなし。

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最終更新:2006年12月24日 10:05