【ミステリーツアー】と聞いて、あなたは何を想像する?
謎解き・お宝探し・時刻表の盲点をついたトリック・密室殺人・全身黒タイツの男・たまたま居合わせた迷探偵等が想像できるのではないか。
そんなミステリーツアーに急遽参加する事になった私。
元々は、友人K(以降、Kと呼ぶ事にする)が一人で行くつもりで申し込んだみたいだが、
急にロサンゼルスへの出張が決まり、キャンセルするのも勿体無いから、自分のフリをして参加してくれないかと。
Kは、旅行案内書と封筒を手渡してきた。旅行案内書に目を通す私。封筒には10万円入っていた。
「この金は自由に使っていい。もちろん代金も既に振り込んであるからさ」
「なぁ、頼むよ。それと・・・。」
別に予定があった訳ではないし、何よりも昼食がとても魅力的だったので、了承したのだが、
それがあのような結末になるとは、この時の私は知る由もなかった・・。
ツアー当日。教えられた集合場所に行き、私はKとして受付を済ます。
受付時に一枚の紙を貰った。旅行案内書に書かれていた内容と殆ど変わらなかったが、
移動手段は【バス】のみだという事が判明した。
今の時刻は7時45分。8時に出発し、夜の21時に解散する。一応、日帰りみたいだな。
待合室には、若いカップルから年配の夫婦、屈強な男など様々な人がいた。
ここにいるという事は、彼らは皆、参加者なのだろう。
出発時間となり、参加者全員がバスに乗り込んで、バスは発車した。
最初の目的地、その次の目的地までは特に気になる事もなく、普通に楽しんでいたのだが、
次は昼食という所で、私はある事に気がついた。
「バスに空席がある・・?」
確か、出発した時は満席だったはずが、何故か1/3位が空席になっている。
不審に思って、添乗員に聞いたところ「体調を崩されて病院に行った」、「途中で用事が出来てお帰りになられた」との返答・・・。
いやいや、それなら何故、いなくなった彼らの荷物がバスにそのまま置かれているのだ?
鞄など貴重品が入っているようなものはなかったが、
お土産として買ったと思われる袋がそのまま残されている。
もしも用事が出来て帰るのであれば一度バスに戻ってお土産も持って帰るのが普通だと思うが。
そういえば、私の席から通路を挟んで対照の位置に座っていたおばさんは、
最初の目的地である「黄昏ビール」の工場見学後、何か怯えたような顔でスマートフォンを見つめていたな。
そのおばさんの前の席にいたサラリーマン風の若い男は、
スマートフォンを見ながら何かブツブツと言っていたり・・。
まあ、こづかいも貰って、タダで飲み食いしに来ているのだから、
文句言っても仕方ないか。
色々考えているうちに昼食会場の高級レストランに到着した。
私がこのツアーに参加しても良いと思ったきっかけが、ここでの昼食だ。
バイキング形式なので、好きなものを腹いっぱい食べられるのはもちろんのこと、
和食、中華、洋食、各種デザートなど、50種類近い品が用意されていたのには驚きだ。
私は皿を持って、先程まで参加者がいなくなったのを何故かと悩んでいたのを忘れる位、沢山の料理を食べていった。
その中でも、特に気に入ったのは、用意されている生肉を選ぶと、シェフが最適な焼き加減に焼いてくれるサービスだ。
肉は一切れ単位で焼いてくれて、部位によっては、塩で食べたり、タレをつけて食べたり、そのまま食べたり・・。
あぁ、ここに住みたい。ずっと、肉食べていたい・・。流石に無理だけどな。
一応、食べ放題の制限時間は決まっているので、デザートも頂くとしますか。
こちらも一口サイズにカットされているものが多かったのが非常にありがたかった。
お腹いっぱいになり、出発時刻まではまだ時間があるが、私はバスに戻って休む事にした。
気づいたらバスは既に出発し、次の目的地まであと少しという所まで来ていた。
ふと、二つ前の席に座っているカップルがイチャついているのが座席の隙間から目に入ってきた。
くそっ、こんなところでイチャイチャしやがって!
あれ?、一つ前の席に座っていた二人組の可愛いおねえさん達はどうしたんだ?すごくイイ匂いがして、ちょっとタイプだったんだよなぁ・・エヘヘ。
確か、昼食会場には居たはずなので、ちょっと、添乗員に聞いてみると、
片方のおねえさんが体調を崩して病院に行き、もう片方のおねえさんはその付き添いとのこと。
もっともらしい回答だったので、それ以上詮索する事はなく、連絡先聞いておけば良かったと後悔していたら、
バスは次の目的地である「灯台の見える海浜公園」に到着した。
ここでの滞在時間は30分。お手洗い休憩みたいな位置づけだろうか。
バスを降りた私は売店に寄り、いかにも怪しい「鰯ソフト」というアイスクリームを購入してみた。
ベンチに腰かけ、鰯ソフトを食べながら辺りを見渡すと、看板に何か書かれている。
「この下に天然の洞窟あるYo!入場料100円(幼児は無料)。来た記念に是非!」
確かに、灯台の下の方に洞窟があって、ここからでも見えるのだが、明らかにヤバイ雰囲気を醸し出している。
こういうところには、全身黒タイツの奴が潜んでいる可能性だってある(某マンガではそういう展開多いでしょ?)
それにしても、この鰯ソフト・・・すごく不味い・・・。鰯を刻んだものが入っているようで匂いもちょっと・・。うっ、吐きそう・・。
別なのにすれば良かったと激しく後悔した。ネタには最適なのだが。
すると、バスの中でイチャイチャしていたカップル達が天然の洞窟の方へ向かっていく。
何だ?今度は暗闇の中で如何わしい事でもするつもりなのか?けしからんな。
ついて行ってちょっと脅かしてやろうかと思ったのもつかの間、まさかあんな事になるなんて・・。
彼らが洞窟に入って1分も経たずにドーンという大きな音がして洞窟から煙が!!
呆然と立ち尽くしていたら、さらに入口付近で爆発が起こり、洞窟の入口が崩れて埋まってしまったのだ。
私は慌ててバスに戻り、運転手/添乗員に事情を話したが「何言ってるの?この人」みたいな感じで全く相手にしてもらえない。
あのでかい音が聞こえなかったはずはないのだが、
バスにいた他の参加者達も爆発なんてあったの?と言いたそうな顔でこちらを見ている。
くそっ、こいつら全員ひっぱたきたい・・・。
結局、カップル達は戻らないまま、出発時刻となった。
バスが出発し、さらに空席が増えていく・・。
添乗員が携帯電話で誰かと会話していたと思ったら、先程のカップル達の行方について語りだした。
あのカップル達は「鰯ソフト」を食べて食中毒になり病院に運ばれたという話だった。
間違いなく「嘘」だ。私も「鰯ソフト」は食べた。とても不味くて、吐き気はしたが、今のところ体に異常はない。
「灯台の見える海浜公園」では、あのカップル以外にも何人かいなくなっているが、他の人の話は特になかった。
今までは参加者が居なくなっても何の連絡もなかったのに、カップルについては、先程バスの中で私が騒いだからだろうか。
もう色々あって、疲れた・・・。早く帰りたい。
このバスツアーも次の目的地で最後のはず。小さい土産店が多数集まって、集落のようになっている「お土産天国」という場所だ。
何とも胡散臭い名前だなと思っていたら、どんな品物があるか書かれた紙が配られた。
今まではこんな紙は配られなかったが、ここは全部説明するのが面倒になったのだろう。
体調が悪いとか何とか言って、次の目的地ではバスに残るのも考えたのだが、
残りの参加者は私も含めて10名で、皆、あれを買いに行く、これを買いに行く等と騒ぎ出したので、
一人でバスに残るのは危険だと判断し、
店の中に居ればいきなり襲われる心配もないだろうと、
到着したら真っ先にバスから降りて一番手前にあった骨董品店の中へ。
今のところ、他の客は誰一人としていない・・・? はっ、まさか・・・。
慌てて入り口に向かったが、扉が開かない!!閉じ込められた!
他の出入り口を探したが、スタッフルームは鍵がかかっている。
お手洗いは入れるが、そもそも窓すらない。ここからの脱出は不可能だ。
ガチャッ!
いきなり、スタッフルームのドアが開き、中から刃物を持った黒ずくめの男がジリジリと近付いてくる。
辺りを見渡し、武器になりそうなものを探すが、全く見当たらない。
このままでは殺られる・・・。
そういえば、何故、Kは自分のフリをして参加してくれと言ったんだ?
Kとして参加する事で何か特典でもあるのか?
今の私みたいに命を狙われるとしても。
このツアーの話をKとした時、
「帰りに【封筒】を貰ってきてくれ。運ちゃんに言えばわかるから。但し、中は絶対に見ないでくれよ。ちょっと恥ずかしいものだからさ」
と言っていたのをふと思い出した。
他の参加者も【何か】の為に、このツアーに参加していたのか?
最後の目的地まで到達したのは先程までバスに乗っていた10名。
目の前で爆発に巻き込まれたリア充カップルを含めて、
消えた20名は同じように殺されてしまったのか・・。あの一つ前の席に座っていた可愛いおねえさんも・・・。
頭の中で色々考えている間にも、黒ずくめの男はどんどん距離を縮めてくる。
私はその度に移動して一定の距離を保とうとする。
黒ずくめの男が登場してから数分、スタッフルームからの増援がでてくる感じはない。
恐らく、スタッフルールの中には誰もいなくて、逃げ込んで鍵をかければ若干の時間稼ぎにはなりそうだ。
うまくいけば、外に出られるかもしれない。
近くに大きめな壷があるのを発見した私は、黒ずくめの男にバレないように壷を持ち、
床にたたきつけた。
ガシャーン!
黒ずくめの男は驚いて、持っていた刃物を落としてしまったようだ。チャンスだ!
私はスタッフルームに向かって走り出し、中に入り込んで鍵をかける事に成功した。
しかし、黒ずくめの男がドアを蹴って破壊しようとしている。時間はあまりない。
部屋中を見渡すと、部屋の隅に非常口が!
机の上には何故か木刀が置かれていたので、無いよりはましかと木刀持って非常口から外へ。
他の参加者達はどうなったのかわからないが、とりあえずバスに戻ろう。
外にも黒ずくめの男の仲間がいるかもしれないので、壁伝いに目立たないようにバスの方へ戻ろうとしたら、
自転車に乗った「ミニスカサンタコスのおねえさん」がバスとは反対方向に向かっていくのを発見。
つい、目で追ってしまって、バスの方へ視線を向けた瞬間!!!
ぎゃーーーーっ><・・!!
見知らぬ男が目の前に居たのだ。きっと、黒ずくめの男達の仲間だろう。
これでおしまいか・・・と、その場に座り込んでしまった私。
「ったく、失礼な奴だな。人の顔見て、腰抜かすなんて・・」
そう言って、男はバスの方に歩いていく。もしかして、バスツアーの参加者なのか?
私も慌ててバスに乗り込む。一番後ろの席に先程の男はいた。
運転手と添乗員は不在のようだ。私は先程の無礼を詫び、骨董品店で襲われた事を話した。
この男も同じように襲われてたのだが、黒ずくめの男をぶちのめして戻ってきたと笑いながら話してくれた。
彼はYという名前で、私と同じく別人の代理で来ていて、最後に【封筒】を受け取れと言われたようだ。
どうやら、このバスツアーは【封筒】を手に入れるのが目的らしい。
もしも【封筒】が一つならば、私はYと戦わなくてはいけない事になるのか。勝てる可能性はゼロだ・・。
しばらくして、運転手と添乗員が戻ってきたようだ。彼らは私達を見て驚いている。
これは何かあるな・・。私はそう思った。
出発時刻となり、バスは出発した。結局、戻ってこれたのは私とYだけ。
そのまま1時間ほどかけて、バスは朝の集合場所まで戻ってきた。
添乗員と運転手が「ちょっと準備しますのでそのまま待っていて下さい」と言って先に下りて行った。
「準備が出来ましたので、降りてきていいですよ」と添乗員が言う。
まずは、Yが降りていき、添乗員に「封筒をくれ」と言った。
添乗員は【黒い封筒】と【赤い封筒】を差し出して「お好きな方をどうぞ」と言う。
Yは【赤い封筒】を受け取って、笑顔で去っていった。
ふぅ~、助かった・・。もしYと戦う事になっていたら間違いなく負けていただろう。
次は私の番だ。残っているのは【黒い封筒】で、これを受け取ってKの家へ持っていけば全てが終わる。
但し、まだ油断はできない。一度命を狙われているので、いきなり襲われる可能性もある。
私はお土産天国で拾った木刀を持ち、恐る恐るバスを降りていく。
特に襲い掛かってくる感じはなかったので、Kに言われていた通り、
添乗員ではなく隣に立っていた運転手に「封筒をくれ」と言った。
運転手は【白い封筒】を渡してきた。あれ?先程の【黒い封筒】ではないのか。
運転手と添乗員は「お疲れ様でした。気をつけてお帰りください」と見送ってくれた。
彼らはあの黒ずくめの男の仲間ではないのか?
約束通り、封筒を手に入れた私はKの住んでいるアパートに直行した。
ロサンゼルスに出張中で留守なのは知っているので、ポストの中にある鍵を取り出し、中に入る。
そして、受け取った【白い封筒】を机の上において、鍵をかけ、鍵をポストの中に戻し、帰宅した。
あれから3日後。
Kがロサンゼルスのコンビニで強盗に襲われて命を落としたという連絡を受けたのだが、
その連絡を受ける数時間前、昨日起こった殺人事件のニュースを見ていた私は愕然とした。
「あの時、Yが持って帰った【赤い封筒】がある・・」
表側に変なマークが書かれていたので、はっきりと覚えている。Kのアパートにある【白い封筒】にも。
とあるアパートの一室で男性2人の惨殺体が発見され、この【赤い封筒】があったそうだ。
その中には2枚の紙が入っていて、1枚は血で滲んで読めなくなっていたが、もう1枚にはこう書かれていた。
「約束が守られなかったので、誓約書に従って2名の命を貰い受けます」
私は【白い封筒】の中身が気になり、Kのアパートに行って、机の上に置いた封筒を開けてみた。
中には1枚の紙が入っていて、こう書かれていた。
「残念ながら失格です。誓約書に従って1名の命を貰い受けます」
─ 終 ─
最終更新:2015年01月03日 01:02