梓が恐い。
比喩的な表現でも、冗談でも、ましてや幻覚でもない。というか幻覚だったらどんなに良かったか。
彼女はさっきから鋭い眼光を私に飛ばしているのだ。そう、これでもかというくらいに。
私に穴が開いてしまいそうだ。
「梓、そんなに律を睨みつけてどうしたんだ?」
「何でもないです」
何でもないのなら、いい加減その形相をやめてほしいんだけど。
梓の鬼の様な形相にびくびくしていると、隣に座っていた唯が私の耳に顔を寄せてきた。
「……(りっちゃん、あずにゃんに何したの!)」
「……(別に何もしてね──っ!)」
背筋に寒気が走る。
その元凶は言わずともがな、梓である。彼女の眼光はさらに鋭くなり、それに比例するように私のお腹はキリキリ痛みだした。うう……
「……(ゆ、唯……私お腹が痛くなってきた)」
「……(仕方ないなぁ、りっちゃん、ケーキ奢ってね?)」
「澪ちゃん。今日の部活は終わりにしようよ。私腹減っちゃて~」
「そ、そうだな。そうしようか。な、ムギ?」
「そ、そうね。そうしましょう」
いつもは反対する澪までもが唯の意見に同意した。これで今の梓がどれだけ怖いか分かっただろ?
それからほどなくして、部室には私と梓だけになった。そこでも梓は無言。そして私の方を見なくなった。とても気まずい。
何が原因だってんだよ。
「…………」
「…………律先輩」
「はい、なんでしょう」
一秒が一時間にも感じられる沈黙の中、先に口を開いたのは梓だった。
「昨日、唯先輩と一緒にいましたよね」
まあ、確かに一緒にいたけど、それがどうかしたのか?
「浮気……」
「は、はぁ!?」
梓は相変わらず不機嫌そうに、そう呟いた。
ちょっと待って、え、なに。ってことは私が昨日、唯と一緒にいたから機嫌が悪いのか。私が唯と浮気したと思って?
「ぶっ、ふはは」
「な、何がおかしいんですか!」
何がおかしいかって? そりゃお前、
「私、憂ちゃんへのプレゼント選び手伝ってただけだし」
「え?」
「私が好きなのは梓だけだよ」
そういうと梓は「な、何言ってるんですか!」と顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
もう、本当に、
「可愛いなあ! このヤロウ」
「ちょ、抱き着かないでください!」
「…………」
「あ、いや、ちょっとだけなら……いいです、よ?」
「っ! あずさああああ愛してる!」
「ひゃっ、ちょっと何処触って! やっ」
─ヤキモチやきな彼女─
最終更新:2011年07月23日 16:54