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カチューシャを外し、長い前髪をはらりと垂らす。
数回右手で弄びまとまりを持たせると、あなたは私と正対し、次は梓の番だと目で訴える。

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それはあなたの部屋へ何度目に訪れたときだったか。
初めはたまに普段と違う姿で過ごしてみようというあなたの思いつきのはずだった。
だけど、その日の後々の行為が、『髪を下ろす』という振る舞いに今では違う意味を持たせていた。

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あなたの眼差しに誘われ、私は纏めた髪へと手を伸ばす。
結びをほどくと、拘束から解放されたうしろ髪が重力に従い直線を描く。

たまに、日本人形みたいだと揶揄される長い黒髪へ、あなたはその指を導く。
右手で私の髪を梳かしながら、本当に綺麗な髪だなとあなたはいつも褒めてくれる。
そのまっすぐな言葉が何だかとても恥ずかしく、私はつい目を伏せてしまう。

髪を愛でるあなた。うつむいたままの私。
そんな時間がどれだけ経ったか。
私の髪からあなたの手が離された。
飛び立った指はすぐに私の頬へと舞い降りる。
それは次のステップへと進むサイン。

声なきメッセージに視線を上げる。
そこにはいつもの快活な姿とは違う、慈愛に満ちた表情を浮かべるあなたがいて。
今度は思わずあなたから目を離すことができなくなる。

じわりじわりとつまるあなたとの間合い。
息遣いが聞こえるほどに近づくと、あなたはいつも私の名前をささやく。
けれど私は何も言わない、何も言えない。
あなたにこの身をまかせているから。

数センチの空隙は、あなたによってゼロになる。
あなたとの距離がなくなって より強く感じる私とは違う女の子の香り。
ほんの少しだけ深く空気を胸に送り、あなたの匂いを深く記憶に刻み込む。

肺が、心が、口内が、私の全てがあなたで満たされる。

時間にして数十秒。
あなたがなくした距離は、またあなたによってつくられる。
互いを激しく求め合った証拠を示すかのように、妖艶に光る二人を繋ぐ透明な糸。
それがぷつりと切れると、再びあなたは私の名前を呼ぶ。
だけどそのニュアンスはさっきと違っていて。
それは一線を越える直前の、確認にも似たささやき。

あなたに全てを委ねます。
その意を込めて、愛しい二文字の名前をつぶやく。

私の想いを受け止めたあなたは、その指で衣擦れの音を紡ぎだす。
その音へ私の嬌声が重なるまでに、そう長い時間はかからなかった。


終わり




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最終更新:2011年07月23日 17:45