春。始まりと終わりの季節。
新たな出会いの前には切ない別れがある。
卒業証書を受け取って号泣する先輩。
先生と、仲間と、思い出話に花を咲かせる。
先輩たちにとって、今日は門出の日。
それぞれが自分の道に向かって、新たな一歩を踏み出す。
私はそれを見送る。
お祝いの気持ちと言葉を伝える。
大好きなあなたと離れなければならない。
切ない別れの日。
「確保ーっ!!」
私の高校生活はその一言で始まった。
あなたにいきなり抱きつかれて、訳も分からないまま自己紹介をさせられて。
気がついたら、軽音部の一員になっていた。
それからもう二年が経つ。
不真面目で怠け者で、部長なのに率先してサボるような人だけど。
本当はみんなのことを……私のことを誰よりも考えてくれる、優しい人。
軽音部のムードメーカーで、私たちをぐいぐい引っ張ってくれたリーダー。
そんなあなたに、私はいつの間にか惹かれていた。
私に後輩がいないことをすごく気にしてくれて。
どんな悩みも相談に乗ってくれた。
辛いときや苦しいときは、その胸を借りた。
後輩がいないのは寂しかったけれど。
こんなに優しい先輩がいて、幸せだった。
あなたが優しいのは部長だからですか。
私はただの後輩なのでしょうか。
そんなことを聞いても、鈍感なあなたは意味を分かってくれないだろうし。
分かったとしても、ずるいあなたははぐらかしてしまうだろう。
だからこの思いは、ずっと心の奥底に仕舞ってきたんです。
「あずにゃん、ここにいたんだね」
「探したわよ」
卒業証書片手に、目を赤くした先輩たち。
そこにあなたの姿はない。
「あいつは今部室にいるよ」
部室に一人で何をしているのだろう。
「私たち、先生に用事があるの」
「先に梓、行っててくれないか」
多分、これが最後のチャンス。
特別な日にも、部室は姿を変えない。
私たちが部活を続けていた、その日の姿を留めている。
唯一の後輩のトンちゃん。
その水槽を眺めている、あなたの姿。
私に気がつくと、ゆっくりと近づいてきて。
そしてすっぽり、腕の中に収めてしまった。
「……確保」
その胸に体を預ける。
私の居場所を感じる。
あなたの体は温かい。
「一人にさせちゃって、ごめんな」
やっぱり鈍感な人。
私の気持ちを弄ぶだけ弄んで、まるで気づいていない。
あなたがそんな人だなんてこと、ずっと前から分かってる。
「大丈夫です」
後輩がいなくても何とかやっていく。
あなたが残した軽音部は、私が何とかして続けていく。
私、頑張ります。やってやります。
だから、その代わりと言っては何ですが。
「律先輩」
言わせてください。
Fin
最終更新:2011年07月23日 19:41