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梓は澪の豊かで艶やかな黒髪を、ドライヤーを当てながら梳かしてゆく。
一方、律は澪の爪を研磨していた。
侍らせている二人のメイドを労うように、主人である澪が凛とした声を響かせた。
「梓、律。ありがとう。もういいよ。
下がってくれて構わない」
澪の言葉を受けて、梓はドライヤーを止めた。
「そうですね。あまり熱風当ててると、折角美しいお嬢さまの髪が痛んじゃいますし」
「ふふっ、梓は上手だな」
澪は上機嫌に微笑み、梓の髪を撫でてくれた。
「じゃあお嬢様、私達一旦失礼しまーす。
また何か用があったら呼んで下さいね」
律が一礼しながら言葉を挟んできた。
澪は手を止め、律に言葉を向けた。
「ああ、律もお疲れ様」
梓も律に倣って一礼すると、二人揃って部屋を出た。
キッチンに入った途端、律に髪を撫でられた。
「わっ、律先輩……吃驚するじゃないですか」
律の方が先輩メイドに当たる為、梓は先輩という敬称を彼女に用いている。
「ごめんごめん」
謝りつつも、律は撫でる手を止めなかった。
「さては、さっき澪先輩が私の髪を撫でたからですか?
それで嫉妬ですか?嬉しい事やってくれますね、律先輩っ」
髪を擽る愛撫の心地好さに、目を細めながら梓は言った。
「嫉妬ってワケじゃないけど……。ちょっとモヤモヤしたかな。
梓の髪は私のもの。だから、ちょっとね」
「嬉しい事言ってくれますね」
その時、テーブルの上に置かれたタイヤキを捉えた。
「確保ー」
梓は置いてあったタイヤキを摘んで齧り付いた。
「怒られんぞー」
律は呆れたような面持ちだった。
「お嬢様はカロリーを非常に気にしてらっしゃいますから。
これは忠誠心の現れですよ。それにどうせバレやしませんよ。
律先輩もどうですか?」
「いや、忠誠心っていうのは、バレなくても食べないことだと思うぞ」
律の言う事は尤もだったが、梓は含み笑いと共に言葉を返した。
「ぷっ。よく言いますね。
バレないっていう理由で、私とこんな関係続けてるくせに。
お嬢様ったら嫉妬深いから、バレたらさぁ大変ですよ。
タイヤキの摘み食いがバレる事なんて、
私達の関係がバレる事に比べたら些事です些事」
二人の主人である澪は、メイド間恋愛を禁じていた。
それだけならまだしも、律は澪のお気に入りだった。
より露骨な言い方をすれば、律は夜伽の担当も務めている。
「確かに私達の関係は、お嬢様に対する裏切りかもな。
でもさ、そういう罪に塗れた愛だからこそ」
律は梓を抱きすくめてから、言葉を続けた。
「燃えるんだよね」
「ええ、障害が多いほど、私達の結束は固くなりますから」
梓も肯定を返す。
隠れて食べるタイヤキは甘くて美味しかった。
隠れて貪る愛も、酸味と苦味を交えつつも蕩ける甘さを醸しだす。
──味覚のカクテル。
それに酔う二人は、危険すら情熱で燃やし尽くして囁いた。
身を焦がす愛を──
最終更新:2011年08月28日 22:15