律先輩と付き合い始めて、一つ分かったことがある。
この人は案外嘘が苦手なんだと。
月の光すら入ってこない部屋には吸い込まれそうな暗闇が広がる。
生まれたままの姿で二人きり、音一つない空間に身を置く。
好きな人とようやく結ばれたのに、私は悲しみに心を痛めていた。
「好きだよ、梓」
嘘つき、そう呟きそうになる口を慌てて止めた。
私を見つめるその瞳の奥に映っているのは、私でないことぐらい知っている。
律先輩は私の髪の毛を手で梳かすと、そっと口づけを一つ落としてくれた。
「梓の髪、長くて本当に綺麗」
褒められているはずなのに、その言葉が心に突き刺さる。
律先輩が私の髪に触れているとき、その胸中には誰の姿があるのだろうか。
そんなことを考えていると、胸を締め付けられるような苦しさに襲われる。
律先輩の体に顔を押しつけて必死に涙を堪えた。
「愛してる」
律先輩は腕の中に私を包み込んで強く抱きしめる。
その一言は、私に伝えようとしているのか、それとも自分に言い聞かせているのか分からない。
でも、どっちでもいいんだ。
私は律先輩が好きだから。
あの人の代わりでも構わないぐらい愛しているから。
きっと律先輩はまだ私に感づかれていないとでも思っているだろう。
そうしてまた、好きという言葉を繰り返していくのだろう。
「私もですよ」
律先輩と付き合い始めて、一つ分かったことがある。
好きな人に好きと言われて、悲しいことがあるのだと。
最終更新:2011年09月06日 14:25