先輩達の卒業式から数日。
事前に連絡をうけていた私は部室で彼女の到着を待っていた。
長椅子に座りどれだけ経っただろう。
ノックもなく開かれた扉の音に、ぼんやりと泳がせていた視線が導かれる。
「よっ、待たせたか」
「はい、少しだけ」
「おいおい、そこは嘘でも今来たところですって言ってくれないと」
律先輩は苦笑いを浮かべながら歩みを進め、少し間を開けて私の隣に座った。
「ところで、今日はどういった用事ですか」
「ああ、実は梓に渡したいものがあってな」
「渡したいもの、ですか」
私の疑問に答えんとばかりに、律先輩はカバンから小さな紙袋を探るとこちらへ差し出した。
「はい、これ」
「あ、ありがとうございます」
差し出した両手に置くように紙袋が渡された。
手にしたそれはとてもとても軽かった。
「中見てもいいですか」
「もちろん」
シールで簡単な封がされた紙袋の口を開き、その内側に目を通す。
私が中に入っていた物を認識すると同時に律先輩の言葉が耳に届いた。
「同じ場所にはいられなくなるけど、せめて気持ちだけでも一緒にいられたらってそれ選んだんだ。いつもとはいわないから、たまにでも使ってくれると嬉しいかな」
律先輩から告げられた、紙袋の中身に込められた想い。
それに応えるべく、私は感謝と共に一つ約束をした。
「ありがとうございます。大事な時には必ず着けさせてもらいますね。律先輩が一緒にいてくれたら、何でもできる気がしますから」
――時は流れ四月。
先輩達は大学、私は三年生そして軽音部部長としての生活が始まった。
これからへの決意を胸に教室へ入り、目に飛び込んだ親友と挨拶を交わす。
「憂、純、おはよ!」
「おはよう、梓ちゃん」
「おはよ。朝から元気いっぱいだねえ」
「今日から三年生だし頑張らなきゃなと思ってね」
「ふーん。あれ? ねえ梓」
純の注意が私の結んだ髪へ向けられた。
そこには、あの日律先輩と交わした約束。
「ヘアゴム変えたの? この色のヘアゴムって今までしたことなかったよね」
「ああこれ? ちょっとイメージと違うかもしれないけど、似合ってるかな? 綺麗な黄色でしょ」
終わり
最終更新:2011年12月09日 15:37