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316 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:06:04 ID:Wrpgvjh.0

最近、私の梓の様子がおかしい。


疑惑が確信に変わったのは3回連続でデートの約束を断られた時。

付き合い始めてからというもの、私と梓は似たり寄ったりの生来の寂しんぼで
毎晩の電話と週末の夜を過ごすデートはお互いの栄養剤よろしく、
この半年余り欠かさずやり取りしてきた。


ただ、ここのところ電話をかけても話し中のことが多かったから気にはなってたんだ。

やり場のない恋慕だけが募り、えうえうと待ち受け画面の梓を眺めつつ、
足はパタパタ、頭は枕に突っ伏していた。

気付けばいつも彼女のことを考えている。
そうやって桃色の堂々巡りをしているうちに私はある事象に思い当った。



  はぁ……。あずさぁ。さみしいよ。。
  明日のデートだって私ん中では完璧な計画を立てていたのに。明日も…。明日…。

  ――…ん、あれ?まてよ…?
   そういえば、梓の都合が悪い日に限って寮から姿を消すのがいるな…。


  ムギ。
  『お家の用事なの~』と言えばそれ以上追及したことはなかったが。
  確かにここ最近、土曜の夜を私たちと過ごしていない。
  ……。



一度、頭に浮かんだ疑念は簡単に消えてはくれない。

恋人と親友に対する猜疑心とそんなことはない、考えてはいけないという
道徳心との狭間で揉みくちゃにされながら、訳も分からないままその日は眠りにおちた。



317 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:10:43 ID:Wrpgvjh.0

翌朝、薄れゆく黒に頭を擡げながら私は時計を見やった。6時40分…か。
休日の私にしては上出来な時間だが、如何せん肉体的にも精神的にも疲弊している。

本当だったら今日は3週間ぶりの邂逅。灰色の湿ったため息が漏れる。
鈍い陽光が差し込む部屋。気だるい空気の中で私は思考を繰り返す。

そうしているうちにみんなが起きてきた。日中はバンドの練習がある。



夕方。道化師の仮面を被って今日も一日が終わる。

HTTのりっちゃんは明るくお調子者だが、一方で 田井中律はといえば、
とてもじゃないがそんな気分ではない。
けれども部屋に戻るまでの私は、みんなのりっちゃんなのだ。沈んでなんかいられない。


1日練がある日はその日の夕食をみんな(…といっても梓は居ないが)で外食する
という半ば習慣と化した行事に足を向ける。
今日は中華だよ!、と唯が目を輝かせて言ったところでその人が口を開く。


「みんなごめんね。私、今日も家の用事があるからここまでなの」
「えー、ムギちゃんまたぁ?」
「しょうがないよ唯。ムギだっていろいろあるんだから」
「ごめんなさいね。またみんなで行きましょう」

そう言ってムギは駅の方へ歩いていった。


「しょうがない。今日は3人で行こうか」「そだねー」

そうやって3人はそろそろと歩く。店の扉に手をかけたところで私が立ち止まる。
「…。ごめん、やっぱ私 食欲ないからパスするわ」 「えっ…ちょ、りっちゃん!!?」

踵を返し、ムギと同じ方向へと駆ける。
後ろから私を呼ぶ2人の声がしたが、今は構ってられない。



318 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:12:34 ID:Wrpgvjh.0

何も考えられない頭のまま駅の入り口に私は吸い込まれる。
券売機に諭吉をねじ込んで、小さなパスポートをひったくる。

肩で息をしながら階段を駆け上がると、今まさに笛を鳴らそうとする車掌の姿があった。


休日の夕餉時。人も疎らな車内に立って辺りを見渡してみる。

(…げっ!ムギいるじゃん…)
期せずして同じ車両に乗り込んでしまったらしい。安堵半分焦燥半分といったところか。
幸いにもムギは本を読んだりメールをしたりで周囲に意識がいく風ではなかった。

目立たないように、群衆に擬態するように。それは日中の何時間より長く感じた。


居心地の悪いゆりかごが懐かしい名を告げる。ムギが席を離れドアの前に立つ。

私は彼女にバレないようにこっそりと尾行することにした。

(…って、こんなことしてどうすんだよ私ぃぃ…)
逡巡を繰り返しながらも親友をつけ回す。私の中の良心という何かが軋む。
それでも私は歩を休めない。


しばらくすると、繁華街の入口あたりでムギは立ち止った。待ち合わせをしているらしい。
すると、立て看板の影に身をひそめる私を横目に、5分と経たないうちに相手が現れた。


「お待たせしてすみませんムギ先輩。
 夢中になってたら時間を忘れちゃうくらいのめり込んでました」



319 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:16:38 ID:Wrpgvjh.0

ああ、間違いない。この声はアイツだ。

見てわからなかったのはドレスアップしてたから。
思わず息することを忘れるくらい、大人っぽくて綺麗で、
それでいて可愛らしい衣装に身を包んだ梓。

ちょっとした化粧がいじらしい。
いつもの髪を下し、後ろで軽く纏めたそれがよく似合っている。

私は梓に見惚れていた。と同時に、なんで?という強い憤りが沸いてくる。


「それじゃあ行きましょうか。梓ちゃん?」「はい」


手を取って2人は夜の街に消えていった。ホテルが立ち並ぶ通りに。
私はすっかり追いかける気力をなくし、そのまま鈍行に乗って寮に戻った。


何も口にせず、私は布団に倒れ込む。

嗚呼このまま羽毛に潰されて消えてしまいたい。惨めだ。
夏だというのに頭まですっぽりと掛け布団に籠り、人知れず朝まで泣きはらした。
羽毛は軽かった。



明くる日は日曜だったので昼まで寝ていた。
途中、澪が起こしに来たり、唯が茶化しに来たりしたが
私は寝ているフリを決め込んでいた。

誰にも顔を見せたくない。
明日には元に戻るから。
明日はきっとりっちゃんでいられるから。

そう言い聞かせながら、時間だけが走り去る。

布団からのそのそと這い出た時には、もう寮には誰もいないようだった。
コップ一杯の水をゴクゴクと空にし、白い伽藍堂の中
私は天を仰いでただそこに佇んでいる。



320 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:19:31 ID:Wrpgvjh.0

ピピピ…と携帯が着信をつげる。梓からだ。
いつもなら2コールと待たずに通話ボタンに飛びつくのに、
その日は何故か出られなかった。

声が聞きたいと思いつつも、聞きたくはなかった。
梓の優しい声を聞いたらりっちゃんがりっちゃんでいられなくなるから。

そのあとメールが来ていたが適当に返して再び枕に頭をなげうった。



次に目が覚めたのは5時だった。夕焼けだと思ったそれは綺麗な朝焼けだ。
十分に寝たはずなのに瞼が重い。いや、腫れぼったくなっているだけだ。

(…まっずいなぁ。今日、学校あんのに。)


いつもよりアイメイクをバッチリとキメて、ドアを開ける。よし、今日も元気なりっちゃんだ。



…とはいかなかった。

どうやら私は表面を取り繕っても行動にボロが出てくるらしい。
ボーっとしていたら唯に擽られるし、歩いて躓きそうになったら澪に抱きとめられた。
やっぱり梓のこと気にしてるのかな。

なんだか鎮めたはずの感情が再燃してきた。と、その時。


「りっちゃん。今日はなんだか元気がないのね?何かあったの?」


私の恋人と密会していたその子が心配げに青く語りかける。



321 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:22:35 ID:Wrpgvjh.0

「…っ!?な、なんでもないよ。ムギ。そんなこと…ないよ」 「そう?」
「ところでさ…ムギ。一昨日の用は…済んだのか?」
「へっ!?あ、うん。お蔭さまで、ね?」 「そうか」
「ねぇ、りっちゃん?」 「なに?」
「週末、時間取れないかしら?」 「なんで?」
「会って欲しい人が…いるの」


私たちに似つかわしくない、必要最低限の言葉だけで交わされるキャッチボール。
人…恐らく梓、のことだろう。ムギからなのか?それとも梓から…?
と、少し考えたところで思考を止める。

彼女の方を向かずにただ「わかった」なんて、気のない言葉を放った。
きっと私は行かないだろう。行ったらきっと辛くなる。



「じゃあ、またね」と言って彼女は講義塔の方に消えていった。
次の講義があるのもお構いなしに私はベンチに腰掛け、
流れゆく雲を眺めていることしかできなかった。



それからの日はあっという間に過ぎていった。

火曜日以降の私の表面上の様子は、日常のそれにだんだん近づいていった。
初日こそ私の異変を察知していた澪たちも徐々に気づかなくなっていった。
それでいいんだ。

そうするうちに約束の日が来ていた。
私は寮の庭にある芝生に寝転がる。青々しい緑が気持ちいい。



322 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:24:52 ID:Wrpgvjh.0

今日は私とムギに用事があるのでバンド練はない。
唯は昼寝、澪は作詞に専念したいからといって一人で海に出かけたらしい。

今日はいい天気だなー、と眩しいばかりの蒼穹と白眉を見つめていたら
真紅に声をかけられた。


「こんなところに寝たら汚れちゃうわ、りっちゃん」
そこに投げておいた私の鞄についた芝をぽんぽんと払いながら言う。

「そろそろ出ようと思うのだけど、いっしょに行きましょう?りっちゃん」
「あー、私ちょっと寄るトコあるから先 行ってて?」
「じゃあ、終わるまで待つわ」 「いいって!ムギは準備とかあるんじゃないか?」
「え、あ…うん、そうね」


何の…かはわからないが。なんとか言いくるめて出て行ってもらった。
(…そのドレスとても似合ってるよ、ムギ。)

私はこれからムギから逃げる。梓から逃げる。


駅に着いた私は英世と引き換えにペラペラの切符を受け取る。
待ち合わせは桜ケ丘のホテル・ニュー・グランド壽。
のろのろと階段を上って反対方向へ向かう電車に乗った。


がたんごとん。
これでいいのだ。これで…いいのだ。
がたんごとん。



1時間としないうちに終点にたどりつく。雲の流れが速い。

あてどもなくふらふらと彷徨って、小さな公園を見つけた。
ここはどこだろう。どこでもいいや。

ふと、時計に視線を落とす。待ち合わせの時間を過ぎようとしていた。



323 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:26:32 ID:Wrpgvjh.0

ひとけのない公園でブランコを一人占めする。携帯の電源は切っておいた。
どこにも焦点を合わさずに、ただただブランコを漕ぎ続ける。

きーこ。きーこ。
孤独がこだまする。時間だけが過ぎ、辺りはもう深い紺に染められていた。



遠くから聞こえる雷鳴が私を嘲う。
ハハハ。こりゃ嫌われたな。ムギにも梓にも。
もしかしたら唯や澪も、私のことが嫌いだったかもしれない。
私と梓が付き合ってしまったから。大切な後輩を取り、大事な幼馴染に背を向けて。
自業自得だ。恋人も親友も信じられなかった自分の。

普段考えもしないような、ネガティブな思考だけが輪廻する。
やがて、ぽつぽつと冷たい槍が私を穿ち始める。



秋口だというのに肌を突き刺すような寒さ。夜だし、雨降ってるし…な。
私なんてこのまま凍えてしまえばいいんだ。闇に飲まれてしまえばいいんだ。
惨めさが心を蝕んで、ぎゅっと目をつぶって身を小さくする。


どれだけの時間が経っただろう。
もう何も感じられないな、と意識を手放そうとしたその時、力強く体を揺さぶられた。
と同時に、耳を劈くようなあり得ない声を聞いた。



「バカ律!なんで来てくれなかったの!?」



324 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:30:09 ID:Wrpgvjh.0

「あ…ず、さ…?」
「心配したんだから!電話しても出ないし、最近なんだか素っ気ないし!
 私 何かしたっけ…って夜も眠れなくて」

涙を溜めながら彼女は激昂する。でも、なんだろう。すっごく安心した。

「私、律にな、、に゙があ…っだ、だたら、、う…ぅ゙…ひっく…ぐぇ……ふっ…」
「ごめん。ごめんな。ごめん、あずさ」

気付いたら私の頬を雨とは違うものが濡らしていた。
お互いの息が治まるまで抱擁は続く。



落ち着きを取り戻すと腕の中の梓が言った。
「…せんぱいに、見てもらいたいものがあります」



喉がじんじんとする。返事をすることなく梓に手を引かれる。
梓も私も、不思議と口を利くことはなかった。

よく見ると梓はあの日見た一張羅。だがところどころ衣装はほつれ、全身を濡らし、
綺麗だった髪もボサボサになっている。
不安と後悔の念が襲ってきたが、はぐれないようきつく結ばれた掌がただ嬉しかった。


知らない駅前の商店街。
今まさにシャッターを下ろそうとする小さな楽器屋の店主に梓が駆け寄る。
頭を二度三度下げて、大きなタオルを2枚持ってこっちに戻ってきた。


「入るよ」


また手を引かれる。ギターやドラムのあるフロアではなく、
中古のアップライトピアノの前に連れられた。

訳も分からず目を丸くしていると、梓が優しく笑ってみせた。



325 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:38:08 ID:Wrpgvjh.0

「本当はね、ちゃんとした場所で、グランドピアノで聴かせてあげたかったんだけどね」


また笑って、梓は目の前の鍵盤を叩き始めた。
ギタリストであるはずの彼女は、驚くほど流麗にメロディを奏でている。
私に語りかけてくれているような、心がぼうっと暖かくなるような。


―――
――


「てへへ、ちょっと間違えちゃったです」


虹色が泡沫となって消える。
白と黒の絨毯から手を離し、梓が舌をちろっと出してはにかむ。


「びっくりしました?律先輩」
5分に満たない小さな小さな演奏会が終わり、私は可愛らしいピアニストに飛びついた。


「せ、先輩!抱きつく前にそれ、拭いてくださいよぉ!」
知らないうちに噎び泣いていたらしい。
そうは言いつつも、梓は私をしっかり抱きとめて背中をぽんぽんと撫でてくれた。


帰り際、店主に『いい演奏だったね』と言われると彼女はまた頬を赤らめていた。
駅へと向かう道すがら、私はここ数日の気持ちと謝罪を吐露した。


どうやらいろいろと勘違いがあったようだ。

  梓は私にサプライズがしたくてムギに相談した。
  音楽のプレゼントをムギは提案した。

  ギターでやっても驚かないから、とまごつく。
  すると、ムギはピアノ演奏を挙げ、アレンジはおろか練習にも快く付き合ってくれた。

  練習場所はムギのお家が経営するホテルのラウンジ。
  思い返してみると確かに筋が通っていた。


恥ずかしさと嬉しさから顔を隠していると、隣にいた梓が抱きついてきた。


「サプライズもいいですけど、…やっぱり、こうして触れあってる方がいいですね♪」


梓も私も生来の寂しんぼだからだな。
そう言ってどちらからともなく唇を軽く重ね合わせた。2人は朱に染まる。

霽月が微笑んだ。そんな気がした。



326 :軽音部員♪:2011/10/01(土) 08:41:52 ID:Wrpgvjh.0

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長々と書きましたが、話自体はよくあるような感じですみません。
梓が弾いてくれたのはたぶんこんな感じです ⇒http://www.nicovideo.jp/watch/sm15760183

ぶっちゃけこれのためにSS作りました。
本当はりっちゃんの誕生日に投下するつもりだったのですが色々あってこうなりました。

それでは、お目汚し・お耳汚し、失礼しました。

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 律「そういやなんで私の居場所わかったの?」

 梓「ああ、それはムギ先輩の携帯のGPSで」

 律「ムギの?なんで?」

 紬「りっちゃん、もしかしたら来ないと思ったから
   芝を払ってあげた時に鞄の外ポッケにね…」

 律梓「」

 紬「やっぱり息ぴったりね。あなたたち」ニコ





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最終更新:2011年12月17日 01:58