91 :軽音部員♪:2010/11/29(月) 06:01:47 ID:IB4zhi4Y0
「もう秋も終わりかな」
色づいた落ち葉を踏みしめながらひとりつぶやく。
部屋へ注がれる陽射しに誘われて散歩へと繰り出したが、肌を撫でる風はさすがに冬の訪れを感じさせる。
こんなときには温かな食べ物が恋しくなる。
次に見つけた店で何か買うかな、なんてことを思っていると、一軒のたい焼き屋とその店の前で何か考え込む梓が目に入った。
「何やってんだ、たい焼き屋の前で」
「えっ、あ、こんにちは、律先輩」
呼びかけに慌てた様子で答える梓。
近づいてくる私に気づかないほど、何を真剣に思案していたのだろう。
「あ、もしかして金がないのか」
「いえ、そういうわけじゃないです……けど……」
私の閃いた仮説を否定するも梓は何故か真相を言いよどんでいる。
「ふうん。まあいいや、せっかくだからおごってやるよ。おっちゃん、たい焼き二つね」
「え、悪いですよ」
急いで財布を取り出そうとする梓を手で制する。
「いいのいいの、こういうときは先輩の顔を立てとくものよ」
「すみません。ではごちそうになります」
梓の謝意を耳にしながら、おっちゃんから紙袋を受け取る。
「んー、行儀はよくないけど温かいうちに食べちゃいたいしな」
たい焼き屋の目の前にあるガードレールに二人並んで腰を預ける。
美味そうに食べて客寄せするからおっちゃんには少しだけ大目に見てもらおう。
袋からたい焼きをひとつ取り出し梓へと差し出す。
「はい」
「ありがとうございます。では、いただきます」
二人同時にたい焼きを口にする。
「美味い! おっちゃん、いい仕事してるねえ」
「お、ありがとう! もっと周りに宣伝しちゃってよ!」
敢えて周りに聞こえるように大きめの声で味を褒めたたえる。
おっちゃんもノリがよく、もっともっとと私をはやしたてる。
「ちょ、律先輩恥ずかしいですよ」
「まあそう言うなって。店の前で食べさせてもらってるんだから客寄せパンダにもならないと。おっちゃんもああ言ってるし。それに実際美味いだろ?」
「それはそうですけど……」
おかしくはない私の言い分に梓は返す言葉がないようだった。
腑に落ちない表情でたい焼きを口へ運んでいる。
ここら辺は私と梓のキャラの違いなんだろうな。
92 :軽音部員♪:2010/11/29(月) 06:04:27 ID:IB4zhi4Y0
「ところで、私に気づかないくらい熟考してたけど何を悩んでたんだ?」
私から投げかけられた疑問に、梓は少し顔を赤らめた。
「えっと、今日はしっかりお昼ごはんを食べたんです。なので……」
「ああ、ここでたい焼き買うと食べ過ぎになるかもって考えてたのか」
なんとまあ女の子らしい悩みだこと。
それにしても、こんな――と言っちゃ梓に悪いが――悩みを告げるのも恥ずかしがって赤くなるなんてホント可愛いな。
それじゃ、私がひとつ妙案を出してやりますか。
「いいこと教えてやろう。体温を高めに保てば、えーと、基礎代謝だっけ、それが上がって太りにくくなるらしいぞ」
「聞いたことはありますけど、体温上げるのってどうすればいいんですかね」
梓から問いかけを号砲に、一気に鼻が触れそうな距離まで顔を近づける。
突然のことに梓は驚きの表情を見せたまま金縛りにあっている。
「こうすんだよ」
一言ささやき、梓との距離をゼロにする。
お互いの唇に伝わる柔らかな感触。
ゆっくり顔を離すと、おそらくさっきとは違った理由で梓の頬が染まっていた。
「どうだ、体温上がっただろ」
「……はい、ドキドキしてます」
上気した眼差しのまま、梓は私の袖を掴んできた。
「あの……もっと……」
どうやら梓のスイッチが入ってしまったようだ。
私もつきあってやりたいとは思うが、いかんせんここは……
「お嬢ちゃんたち、熱いねえ」
たい焼き屋の真ん前だ。
おっちゃんの冷やかしが私たちに飛んでくる。
さすがにここから先を見せるのはまずい、というか二度と外を出歩けなくなる。
「……ハハ、悪いねおっちゃん。たい焼き美味かったよ」
詫びと賛辞の言葉を残し、私は梓の手を引いてその場をあとにする。
「ほら行くぞ、今は誰も家にいないからうちに来い」
「はい……優しくしてください」
梓はついさっき私の行動を『恥ずかしい』とたしなめたとは思えないくらい恥ずかしいセリフをこぼした。
私がまいた種とはいえ梓がここまでなるとは思わなかった。
梓が心配していたたい焼きのカロリーは、どうやらこれから我が家で消費することになりそうだ。
終わり
誤字脱字は脳内補完でお願いします。
- いいねぇこれ。
やられたい -- (りっちゃん大好き) 2011-09-08 13:18:17
最終更新:2011年01月26日 17:46