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651 :軽音部員♪:2012/06/19(火) 02:04:41 ID:WcnXakq60

長い目のをまた一つ

「地下鉄(アンダーグラウンド)に乗って」

由あって引っ越すことになってしまった
国内だけれども結構離れているところへ

「これで・・・よしっと」

荷物は全て・・・いや、全てじゃないけれど殆ど引越し業者に持っていってもらう

「ギター・・・自分でもっていくべきだったかなぁ」

きっと昔だったら迷わず自分で持っていっただろう
途中でどんなに苦労したとしても

つまり私はかつてよりは所謂常識人になったのかもしれない
けれどなんだかそれが寂しい

暫くお世話になったアパートの一室に一礼して足を進める
駅へ行くのだ


「ここももう暫く来れないのかな・・・」

見慣れた地下鉄への入口、改札、ホーム
そんなものがいちいち感傷的に私の目に映る

少しばかり物憂げに居ると電車はあっという間にやってきてしまった

ここから終着駅まで、20分くらいだろうか


次駅に到着すると―――

偶然にも唯先輩が乗り合わせてきた
と言っても先に気がついたのは先輩で

「あ、あずにゃん!」

「その呼び名は・・・、いえ、お久しぶりです。唯先輩」

「横座ってもいい?」

「いいですよ」

かつてと全く変わらない様子で・・・と思ったけれど
一応座っていいか聞いてきたりする所に昔との違いを感じる

「随分・・・かわりましたね」

「ほえ?何が?」

いや、変わってないのかな・・・
けれどどこか遠慮するところにやはり変わったことを感じさせられる

かつてはもうちょっと遠慮して欲しいと思っていたのに
今では逆にその遠慮に淋しさを覚える

「あずにゃん、今日はどこへ行くの?」

「実は・・・引越しするので新幹線の駅まで行くんです」

「えっ!引越ししちゃうの!?」

「はい・・・」

先輩たちには引越し後に伝えるつもりであった
だって引越し前に何か言われたら引越しできなくなっちゃうから

「そんなぁ~もっと前に言ってくれればよかったのにぃ」

「いろいろ忙しかったので・・・ごめんなさい」

なんで嘘ついちゃうんだろう

「ま、そうだよね」

「あずにゃんももう社会人だもんね」

「それは・・・まだ分からないです・・・」

「ううん、もう立派な社会人だよ!ちゃんと自分で働いて、暮らしてるし」

「そういえば・・・唯先輩はどうしてるんですか?」

「へへんっ私もちゃんと働いてるんだよ!」

「そうですか」

「あーまたそっけない反応―!」

唯先輩が悔しそうに言う
あ、これ懐かしいな

「あ・・・次降りなきゃ」

「あずにゃん、ちゃんと住所教えてね!」

「あと電話番号と、メアドと」

「メアドは変えませんよ」

「あっ!そうだった!」

そうこうしている内にドアが開く

「それじゃあずにゃん!健闘を祈るよ!」

「健闘ですか・・・」

思わず微笑を浮かべてしまう
唯先輩も微笑を返してくる

あぁ・・・やっぱり変わってないのかな


うとうとしてきた
どうせ終着駅だから・・・寝てしまっても多分大丈夫

目をつぶって止まったり動いたりするのを感じていると

「お、あずさじゃないか。久しぶりだな」

聞き覚えのある声

「あ・・・」

「どうだ、元気にしてるか?」

澪先輩だった

「あ・・・っごめんなさい」

「いや、いいんだぞゆっくりしてて」

「こっちこそごめんな、眠いところに声かけちゃって」

恥ずかしさで顔が赤らむ

その端麗な、いかにも仕事の出来る人、という澪先輩の容姿を見るとより赤らんでしまう

「先輩、座らなくていいんですか?」

652 :軽音部員♪:2012/06/19(火) 02:18:21 ID:WcnXakq60

「ん、次の駅だから大丈夫」

「そうですか・・・」

「ところで、どこ行くんだ?」

さっきと同じ話をする
少し驚いている様子だったけれどもすぐに理由を察したようで

「淋しいだろうけれど・・・いや、淋しいはずだけど」

「いつでも連絡くれよ。待ってるからな」

「ありがとうございます!」

「あとあっちでもちゃんと友達は作っておけよ」

「人脈は大事だからな」

「はい!」

社会慣れしているというかこの落ち着いた雰囲気、変わっていない
今でもまだ憧れてしまう

少しして駅に到着する

「あ・・・降りなきゃ」

「それじゃ、しっかりな」

「はい、本当に有難うございます!」

ドアが閉まって一礼する
顔を上げると澪先輩が笑ってこっちに手を振って流れて行くのが見えた

すっかり目が冴えてしまってなんとなく車内を見渡していると・・・
車輛をつなぐ入口からムギ先輩が入ってきた

「あ・・・先輩!」

「あら、梓ちゃん。こんなところで会うなんて奇遇ねー」

「横、いいかしら?」

「は、はい!いいですよ!」

ムギ先輩がゆっくりと私の横に腰掛ける
いい匂いが漂ってくる

「先輩、今日はどうされたんですか」

「私ね、地下鉄に一回乗ってみたかったの」

ああ、この人はお嬢様だった
なんだかすっかりそういう立場を忘れてしまっていたけれど

部で一番華があった先輩
上品で、いい匂いがして・・・どこか抜けていたけれど
とても素敵な先輩

「あの通路の中、凄かったわ~」

車輛と車輛をつなぐ通路のことを言っているようであった

「初めて・・・なんですか?」

「ええ・・・普段電車に乗せてもらえなかったから」

「合宿とかで乗ったときには・・・?」

「梓ちゃん!」

653 :軽音部員♪:2012/06/19(火) 02:19:57 ID:WcnXakq60

「は、はい!」

「だって・・・恥ずかしいじゃない」

「へ、へぇ!?」

「だって一人でいちいち喜んでたらね、変に思われちゃうでしょ?」

「た、確かに・・・」

「だから、ね?」

相変わらずちょっと分からない人だ
そこが可愛いんだけれども

「ところで梓ちゃん、もしかして・・・どこか遠いところに行ってしまうの?」

「へ・・・どうして・・・」

「だって顔にそう書いてあるわよ」

私、いつのまにそんな表情してたのかなぁ

「は、はい・・・実は」

また説明をする
ムギ先輩もすぐに私の心中を把握してしまったようで

「遠くへ一人行くって淋しいものね・・・」

「けれど大丈夫よ!梓ちゃんにとっていい経験になるわ」

「ありがとうございます」

「きっとまたそこで素敵な思い出ができるわよ」

「だから、元気をだして」

「先輩・・・」

「ふふ、梓ちゃんなら大丈夫」

「それじゃ・・・私、次の駅で降りちゃうけど」

「大丈夫だから、心配しないでね」

「はい!」

ムギ先輩はゆっくり降りると小さく手を降ってくる
こちらも手を振返してそれに答える

あと数駅で終着駅だ


次の駅は乗換駅
人がいっぱい降りてまばらになったかと思うとまた人がいっぱい乗ってくる
そんな中に

「おお、梓じゃないか!」

あぁ・・・この先輩か

「よっこらせっと」

何も言わずどかっと横に腰掛ける
もう少し遠慮してくださいよ

「いやー久しぶりだなー」

「最近どうよーちゃんとやってるのー?」

654 :軽音部員♪:2012/06/19(火) 02:23:02 ID:WcnXakq60

「あの・・・もう少し静かに」

「はいはい、ごめんごめんって」

この先輩は遠慮がなさすぎる
本当に部長だったの疑わしい位に

「ところでこれからどこ行くんだ?」

4回目の説明
流石にすこし疲れてある程度省いて話すと

「どうして私に連絡しないんだよー」

駄目だ、分かってもらえない

「それは・・・忙しかったからです」

「忙しいってもメールの一通ぐらいはいいだろー」

「忘れてたんです!」

あ・・・いけない嘘言っちゃったかな・・・

「・・・そうか・・・いや、悪かった」

「あの」

「いや、いいって。もう昔の関係じゃないもんな・・・なんか・・・ごめん」

「なんだか今でも昔の関係のまんまだと思っちゃって」

「そんな」

「いいって」

暫く沈黙が続く

どうすればいいんだろ

駅に到着する
横の座席が浮き上がって

「それじゃ、ここで降りるから。まぁ頑張れよ」

「・・・」

「じゃ」

「まって」

腕を掴む

「梓・・・」

何も言わずに座席に戻ってくる

「ごめんなさい・・・本当は・・・淋しいから」

「行っちゃう前に先輩方になにか言われたら・・・行けなくなっちゃうから・・・」

「だから・・・」

「よしよし。分かった」

「ごめんな、こんな鈍い先輩で」

「うぅ・・・」

頭を優しく撫でてくれる

655 :軽音部員♪:2012/06/19(火) 02:24:34 ID:WcnXakq60

本当は優しくしてもらいたくないのに
行けなくなっちゃうのに

本当に遠慮の無い先輩

「さて・・・次だよな?」

「はい・・・」

「おっけ。了解」

駅に到着しドアが開くと先輩が手を引いていってくれる

そのまま改札前に行くと

「あっいけね・・・ごめん、ちょっと待ってて」

先輩は乗越精算機の方へ駆けていった

「いや、ごめんごめん」

「こちらこそ・・・ごめんなさい・・・余計な出費をさせてしまって」

「なーに、こんなのなんでもないって」

そのまま新幹線の改札口まで一緒に歩いていく

「それじゃ・・・ここで」

「うん、そうだな」

「いやー新幹線代があれば一緒に行けるんだけどな」

「今オケラで・・・へへ」

「一人で行けますから!」

「はいはい。ごめんごめん」

「それじゃ・・・しっかりな」

不意に抱きしめられる
いい匂いで頭がくらくらする

「ほら、しっかりしてくれなきゃ困るぞー」

「は、はい」

「よし!それでいいぞー!」

また頭を撫でられる

「ちょっと・・・恥ずかしいです」

「なにー可愛い後輩が遠くへ行っちゃうんだ。今のうちにこうしてよく味わっておかないとなぁ」

「もうっ///」

「うん、堪能した」

「梓なら大丈夫。胸張って行ってこい」

「先輩に言われなくたって・・・胸張って行きます!」

「うんうん、分かった」

「それでは・・・また今度です。先輩」

「また今度な」

大きく手を振る先輩を後ろに見つつ列車の待つホームへと向かった




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最終更新:2012年06月23日 23:42