※アップローダーにあげられていたものの転載です。
文化祭が終わり、2週間ほどがすぎたある日。いつもどおりの朝。
「おーっす」
そんな中、今日は澪と別々に登校してきた律がHRまであと10分というやや遅めの時間に教室に入ってきた。
「おはよーりっちゃ…」
いつもどおり、挨拶をかわそうとした唯の挨拶が途中で止まる。
「な…なんだよ。やっぱり変か?この髪型」
「そんなことないよ~。いつもと違ってきりっとした感じだねっ」
そんな律はトレードマークのカチューシャをつけず、前髪をおろしていた。その髪型に見慣れていないクラスメイトから戸惑いと、若干の黄色い声が上がっていた。
「おはよう、律。…なんで今日はカチューシャつけてないんだ?」
唯との会話が聞こえたのか、澪が近づいてくる。そして幼馴染の髪型が違うことに疑問を投げかけた。
「い、いやぁ…、実は昨日の夜…聡が踏んで壊しちゃってさ…」
ちょっと目線を泳がせながら、たどたどしく理由を述べる。
「?でもお前、予備というか、何本か持ってただろ?」
「あ、あー…そういえばさぁ!聡の奴、踏んづたもんだからさ足にそれが刺さって血がぶしゃっと…」
「わー!聞こえない聞こえなーい!!」
身振り付きでおおげさに説明すると案の定、澪は耳を塞いで自分の席に戻った。
その後、HRが終わり。授業の間や昼休みなどにクラスメイトからいろいろ聞かれたが、放課後には見慣れたのかそんな質問もなくなっていた。
「さーってと、じゃぁ、部室いこうよりっちゃん!」
「ん、あ、あぁ、そうだなー…」
眠いのだろうか、普段の快活さが消え、気怠そうにそう答える律。
「りっちゃん!」
「…んー?」
「イケメンだね☆」
「うーれしくねぇー」
茶番にも、あんまり乗り気でない。
「りつー、そろそろ部室いくぞー。今日は合わせやるんだから」
「んー…そうだったな…」
「…はやくいくぞ!もうムギも梓もいってるんだから!」
「わわ、わかったよう…今日の合わせのために練習してて、ちょっと寝不足なんだよ」
「おぉ~さすがりっちゃん隊員。地味に真面目ですな」
「地味にってなんだよこぬやろーう」
そんなことを喋り合いながら、三人は足早に部室に向かった。
「おいーっす」
「あ、先輩方、おつかれさ「あ~ずにゃあああん!」
いつもどおり、梓に挨拶がわりのハグをかます唯。
「ん~今日は昼休みとかで宿題やってたから一日のあずにゃん分が足りなかったんだよ~」
ぐりぐり
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり
「ん~…も、もう、やめてくだふぁいよ~…」
「よしよーし、いいこいいこ~よーしゃよしゃよしゃ」
まるで犬のようになでられる梓。
「おーいそれくらいにしといてやれ、唯」
「むっふう。今日のあずにゃん分補給は完了したよ!」
「あーはいはい。んじゃぁ、ちゃちゃっと合わせちまおうぜー」
「ほいほーい」
~♪
3曲ほど連続で合わせ、一息ついたところで。
「律?なんか、いつもより音の力が足りてない感じがするんだけど…」
と、澪が疑問を口にした。
「そ、そんなことはないよーん!ちょっと前髪がうっとおしくていつもみたいに暴れられないのさ!!」
そう笑い飛ばそうとする姿にも、澪は違和感を覚えていた。幼馴染の勘のようなものである。
「あ、りっちゃん、わたしヘアゴムあるよー。使う?」
「えっ」
唯が何気なくした提案。前髪が邪魔ならくくればいいじゃなーい。というごく普通の提案。
しかし、何故か律の表情は凍りついてしまうのだった。
「ま、まぁ、澪先輩!音がちゃんとあってるならいいじゃないですか!」
突然、今まで静かだった梓がなにかを言おうとした澪を遮った。
「梓ちゃん?どうしたの?そんなに焦って」
「へ?あ、焦ってなんかいませんよ!?はい!」
と、言う梓の声は上ずっており説得力はなかった。
「ん~?なんだかあずにゃんも変だね~…そういえば!」
「えっ!?」
何かを思い出したかのように唯が手を打つ。
「今日学校内であずにゃんと会うのはみんな初めてのはず…なのに!」
「なのに?」
「この前髪をおろしたりっちゃんを見てもあずにゃんはなんの反応も示さなかった!」
「…!!!」
梓と律が、うつむいたまま、冷や汗を流した。まるで名探偵に自分のトリックを破られていく犯人のようだ。
「そして今!りっちゃんはあきらかに!おでこを見せるのを嫌がっている!」
ばばーん。ムギがキーボードからそれっぽい音を出す。
「おい、ムギ…」
「一度SEやってみたかったの~」
「つまり!」
ビクッと、肩を震わす容疑者二人。
「りっちゃんとあずにゃんはなにか秘密を、人に見られたくない秘密を隠している…!そう、他でもない、りっちゃんのおでこに!!」
最後に、ふんす!と気合を入れて満面の笑みで二人を見やる。
「どうどう?この推理は!」
「…なるほど、そう考えれば今日律があんまり騒がなかったのも納得がいく」
「前髪がめくれてしまわないようにしてたってこと?」
「あぁ、そう考えればつじつまが合うな…りつ~?あずさぁ~?」
唯の推理に合点がいった澪が律をにらむ。
「な…なんだよ…!」
「なんですか…」
その顔はいつもの凛々しい見目麗しい澪ではなく、まさにデンジャラスクイーン秋山・ミーオーであった。
「私と律のあいだに隠しごとはしないって、約束したよなぁ?」
「な、なんでそんなに怒ってるんだよ!」
ドラムの椅子に座ったまま、気持ち後ろに逃げつつ反論する律。
「…心配だったんだぞ!朝からなんか元気ないし家で何かあったのか、それともまた風邪でもひいたのかって…!!何かあってもお前は自分からは喋らないからっ…!!」
「澪…」
今にも泣きそうな勢いで律にそう問い詰める澪に、律の態度も変わった。
「…ごめんな、澪。なんか、いらない心配かけちゃったみたいで…。なんでもないんだ、ホント」
「…ホント?」
くしゃりと、髪の毛を手でなでる。
「うん、だから今日はかえ「捕まえたっ♪」えっ」
座り込んだ澪。
ドラムの椅子に腰掛けたまま頭を撫でる律。
を、後ろからがっちりホールドするムギ。
と、さらに梓をがっちりホールドする唯。
「ちょちょちょちょちょおおおお!!!?」
「さぁ!澪ちゃん今よ!」
「え、え、なにこれ」
突然の犯人の逮捕劇に戸惑いを隠せない澪。
「ふっふふ。あんな幼馴染のいい話で!なぁなぁにしてしまおうだなんて!お天道様が許しても!この琴吹紬が許さないわ!!」
「なんのキャラだよ!?離せっ…うわムギつよい!!!」
もともと座った姿勢だったためか、身動きができなくなる律。
「み、澪は、私が嫌がることなんてしないよな!?な!?」
「律」
「はいぃ!!」
「これで今までのチャラにしてやるから!」
「澪しゃあああああんんんんん!!!」
ばさっ。きゅっ。
好奇心に負けたのか。それとも本気で仕返しだったのか。澪は手馴れた手つきで唯からいつの間にか受け取ったヘアゴムで律の前髪を結んでしまった。
「……!!!!」
そこには、いつもの、おでこを出した律の顔。しかし。
しかし!
いつもとあきらかに違うところがあった。
律のおでこの、やや生え際近く若干右。
そこには、ほんのり赤い小さいなにかの跡が出来ていた。
「あああああ……」
がっくりと、うなだれる梓。
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ!」
その跡がすぐに何か理解したムギ。
「六回…いや、そんなことはどうでもいい!」
ツッコミを忘れない澪。一人を除いて三者三様であった。
「律、赤くなってるけど打ったのか?」
「!そうそう、そうんだんよ!昨日梓が転んでむったんを私にさ~…」
「そ、そうなんですよー!すみませんでした律先輩~」
「キスマーク、だね?」
澪の出した助け舟に乗り込もうとした矢先に唯魚雷が直撃し沈没する戦艦田井中野。
「キスマークっ!!!!?」
ぼん、という効果音が出そうなほどに瞬時に顔が真っ赤になった澪が思わず叫ぶ。
「りつ!キスだって!!相手は誰なんだ!!そんなのパパが許しませんからね!!!」
「おちついて澪ちゃん!りっちゃんのパパは男よ!」
「お前も落ち着けムギ!」
ぎゃぁぎゃぁとにわかに騒ぎ出す部室を沈めたのはまたしても唯魚雷だった。
「今までの流れから察するに、そのマークをつけたのはあずにゃんだね?」
びしっ。部室という空間に亀裂が入る。
「ゆゆゆゆゆゆゆいしゃんなにをおっしゃいますかああああ!!!?」
「そそそそそそそうですよゆいせんぱいいいいいいいいいい!!!?」
「おう、息ピッタリ」
「りつうううう!!!?」
「うわあああああ!!!!」
先程まで思考が暴走していた澪が復活し、律に詰め寄る。
「あずさか!梓にカラダを許したのか!!!そうなのかりつううううう」
「ち、ちがうよ!むしろ梓の方から強引に…!」
「あー!何言ってやがるですか!!『梓…いいかな…』って先に誘ってきたのは律先輩でしょう!妙にいい声出して!!」
「なにぃー!!それを言うなら梓だって私の膝に座って思いっきりおでこに吸い付きやがって!!」
「あぅ、だって声出ちゃいますし!!ほかに思いつかなかったんですよぉ!!!」
「おい、お前ら」
さっきよりさらに冷静になった澪の声が二人のやり取りを遮る。…冷静というよりは冷酷に近い声ではあったが。
「よし、ちょっと整理しましょう。まず、りっちゃんのオデコのキスマークは梓ちゃんがつけた」
「う、は、はい」
「そしてどうやらりっちゃんと梓ちゃんはキス以上のことをしている」
かぁ、と澪に並んで正座させられた二人が赤くなる。
「それ以上のこと?」
「唯は知らなくていいぞー」
「聞きたいことと言いたいことはいろいろあるけれど…」
んー、と少し考える仕草をするムギ。律と梓は気が気でないのかうつむいたまま少し震えているようだった。顔はおそらく真っ赤だろう。
「じゃぁ、まず。どこまでやったの?」
「うぇっ!?」
いきなり核心である。
「あー…それはそのー…言わなきゃダメ?」
「ダメです♪」「ダメだ」「だめだよ!」
三人から一斉射撃を浴びる戦艦律。再び轟沈。合掌。
「えーと…あー…うー…その、最後まで、は、やった…よ…」
「キマシタワー!!!!!」
「ムギうるさい」
最後まで、という単語に興奮したムギがガタッと立ち上がり右腕を天高く突き上げつつ祝詞を叫んだ。
「しかし、律と梓が付き合ってたとはなー…。なんで黙ってたんだ?」
ツッコミをしたおかげか若干冷静になった(?)澪がそう咎める。
「いやー、ほらバンド内で恋愛して、さ。関係がギクシャクとかしたら嫌だし…。」
少し気まずそうに、律が告げる。
「…それだけじゃないんだろ」
「うぐ」
「どうせ律のことだ、『女同士で付き合ってるなんて知れたら私はともかく梓が何を言われるかわかったもんじゃない』とか言ったんだろ?」
「澪先輩、一字一句違ってません」
「ぐぬぬ…」
少し、寂しそうな顔をする澪。
「…わかるよ、律の考えることは」
「…ごめん、な」
「?」
―――
結局今日は(も)練習にならず、落ち着いたところで解散ということになった。
帰り道。いつもどおり二人きりになる律と澪。ただ、いつもより、今までより、少し距離があった。
「……なぁ、りつ」
「……なに、みお」
少し気まずい沈黙を先に破ったのは澪だった。笑顔を取り繕ってはいるがややぎこちない。
「梓とは、いつから?」
「…文化祭の、終わったあと。梓から告白された」
歩く速度を落とさず前を向いたままふうん、とつぶやく。
「好き、だったんだな。梓のこと」
「あぁ。堂々というのも恥ずかしいけどな」
歩く速度を落とさず前を向いたままへへっ、とつぶやく。
「じゃぁ」
澪が少し速度を上げ、前にあゆみ出ると、くるりと律の方を向く。
「梓のこと、大事にしろよっ」
夕日の逆光で見えなかったがその目には涙が溜まっているようにみえた。
それでも、確かに澪は笑顔でそう言った。
―つづく?
最終更新:2013年02月01日 13:47