アットウィキロゴ
72 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:13:08 ID:OglRtBoo0
上にロミジュリネタがあったので
少し長いです


梓「ロミオとジュリエット」

「梓、何拗ねてるんだよ」

学校からの帰り道。私の態度がぶしつけだったのか、律先輩は痺れを切らした声でそう尋ねた。
怒っているというより、膨れてどうしようもない恋人を宥めているような感じだ。
私が黙ったままでいると、手を頭の後ろで組んで欠伸なんかしている。

こういうときに無理に話をすると、私がますます不機嫌になることを心得ている。
付き合いが長いと、私の面倒くさい性格の扱いにも慣れてくるのだろうか。

折しも短い秋がもう過ぎ去ろうというころ。
私と律先輩の間を冷たい風が通りすぎていった。



ロミオとジュリエット。
シェークスピアの生み出した、世界的な悲劇だ。
でも、花の女子高生の間ではむしろ、心を打つ恋愛物語として語られる。
大抵の場合は、「純愛モノ」として。

そのロミオとジュリエットを律先輩のクラスが学園祭の演劇としてやることになった。
ロミオ役には澪先輩が選ばれた。これは順当な結果だろう。
美人で格好良くて頼れる澪先輩をおいて、ロミオ役に適任な人はいない。

一番の問題は、ヒロインのジュリエット役に律先輩が選ばれたということだ。
本当に予想外のことだった。
私の中で律先輩は、ジュリエットとは対極の位置にいたから。


それを部室で知らされたとき、私の心に複雑な感情が湧き上がってきた。
純愛モノのロミジュリを、律先輩と澪先輩が?
女子高生なら誰もが憧れるヒーローとヒロインを二人が演じる?
このモヤモヤとした気持ちは何だろう……

「律先輩がジュリエットだなんて……ぷっ」
「中野ぉ!」

その場は冗談を言うことで何とか乗り切ることができた。
律先輩のフォローで空気が悪くなることも避けられた。
でも、いつまでたっても私の心は晴れなかった。


73 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:14:39 ID:OglRtBoo0
そして、今日の放課後のことだ。
先輩たちは、劇の練習のため部活に遅れるという連絡があった。
私はその間、教室で憂に話し相手になってもらっていた。

「軽音部にだってライブがあるんだけどな」
「まあまあ、クラスの出し物だって大事じゃない」
「それはそうだけど……」

三年生の先輩が最近クラスの劇に掛かりっきりで寂しい。
私が最近不機嫌なのは、それが大きな理由だ。
でも、実はもう一つ大きな原因がある。

律先輩は最近台本合わせだと言って、ずっと澪先輩に付きっきりだ。
学校でも家でも、二人して特訓している。
恐らく誰もいないところで、互いに愛を伝えるセリフを口にし合っているのだろう。

恋人としては当然、気になって仕方がない。
十年以上の付き合いのある幼なじみで、お互いの良いところも悪いところも理解し合っている関係の二人が密室で愛を伝え合っているのだ。
たとえ演技だとしても、あまり気分のいいものではない。

「梓ちゃん、劇の練習覗いてみない?」

塞ぎこんだ私を見かねたのか、憂が提案した。
澪先輩と律先輩のロミジュリ……見たくもあり、見たくなくもある。
じっと悩み続ける私の手を、憂が引っ張った。

「ちょ、ちょっと憂?」
「行こうよ、ね?」

その笑顔は反則だ、と思った。


74 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:16:58 ID:OglRtBoo0
私と憂が見学に行ったとき、ちょうど衣装を着ての通しが行われていた。
その衣装は高校生の演劇にしては必要以上に立派で、製作者の熱の入れようが見て取れる。

「ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」

ロミオに扮した澪先輩は言葉を失うぐらい格好良くて、そして律先輩は――

「律さん、すごくきれい……」

思わずため息をついてしまうほど美人だった。

澪先輩と律先輩。
息ぴったりの演技で、姿格好といい二人の身長差といい、二人ともハマり役で。
端から見ると、ロミオとジュリエットそのものだった。

「律さんと澪さん、すごくお似合いだよね」

憂に悪気はない。
私と律先輩が付き合っていることを知らないのだ。

それに、二人の演技を見ていれば誰もが同じ感想を持つことは明らかだった。
実際、クラスの先輩方は一斉に口を揃えていた。

「やっぱり澪ちゃんがロミオなら、ジュリエットはりっちゃんしかいないよね」
「本当、恋人同士かってぐらい息が合ってるし」

先輩方にも悪気はない。
私と律先輩が付き合っていることは軽音部の中だけの秘密だから。
親友の憂も、純も知らない。
いつかは話すつもりだが、まだ軽音部員以外には内緒にしておこうっていう律先輩との約束。

だから、仕方ない。
先輩方が口々に律先輩と澪先輩を冷やかそうと。

だけど、面白くない。

……律先輩の恋人は私なのに!

「あ、梓ちゃん?」

憂が震えた声で話しかけてくる。

「すごく怖い顔してるよ?」
「そ、そう? 何でもないよ?」

苦笑いで誤魔化した私に、憂も微妙な笑顔で返した。


75 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:18:32 ID:OglRtBoo0
「ふぅ、今のは中々良かったな澪!」
「ふふ、特訓の成果だな」

一通り演技を終えた二人に、先輩方が駆け寄る。

「すごいよ二人とも! いつの間にこんなに上手くなったの?」
「いや、ちょいと秘密の特訓を……な、澪?」
「実は律の家で毎日練習してたんだ」
「てことは、二人っきりで愛を囁き合って……?」

教室に響き渡るような黄色い喚声。

「幼なじみの二人が密室でロミジュリを……」
「これは何かあるわね」

聞きたくないのに耳に入ってくる言葉。
何も考えたくないのに、頭が勝手に理解する。

「今のりっちゃんと澪ちゃん、本当の恋人みたい」
「こ、こらっ! 変なこと言うなよ!」

律先輩、そんな風に顔を赤らめないでよ。
もっとちゃんと否定してよ。

「もう二人とも付き合っちゃえばいいのに」

誰がその言葉を言ったかなんて覚えていない。
律先輩と澪先輩がどんな反応をしたのかも知らない。

気づけば私は憂の手を引っ張って、自分の教室に向かっていた。


76 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:24:39 ID:OglRtBoo0


冷たい風が肌を突き刺した。

相変わらず私は無言のままだし、律先輩も深く聞き出そうとしない。

私は律先輩と少し距離を空けて歩く。
意図的にというより、自然にそうなった結果だ。

律先輩は私より歩幅が大きい。
いつもは私がちょっとだけ速く歩いて、律先輩に合わせている。

私が完全に自分のペースで歩いたら、律先輩とは差が開いてしまうのだ。
お互いがお互い、自分の調子でいたら、どんどん距離は空いていく。

律先輩は気づかずに前を歩いていく。
このまま律先輩が気づかなかったら……?
私とだんだん離れていって、慌てて追いかけても、もう追いつけなくなる?

そして、視線の先には澪先輩がいて。
律先輩は私に見せたことがないようなとびきりの笑顔で、嬉しそうに澪先輩の手を取って……私を置いて、去っていく?

そんなのやだよ、律せんぱい。

目に何かが溜まってくる。頭が痛い。
それ以上に、心が痛い。

律先輩、律せんぱい、りつせんぱい……


77 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:26:25 ID:OglRtBoo0
「あずさ!」

律先輩の顔がすぐ目の前にあった。

「遅いぞ、何やってんだ」
「な、何でもないです!」

律先輩の方から近づいてきてくれた。
律先輩はちゃんと気づいてくれた。
それが嬉しい。嬉しいけど、あまのじゃくな私はキツい態度を取ってしまう。

「せっかく久々の二人きりなのに、冷たいなあ」
「そ、そうですよ。今日は澪先輩の所に行かなくていいんですか?」
「うん。大体練習はできたし、特訓はもうおしまい」

律先輩はあっけらかんと答える。
悩んでいる私が馬鹿らしいほどの口ぶりだ。
そのまま、困惑する私の手を取る。

「だからさ、梓。今日は遊びに行こうぜ?」

答えを聞くまでもなく、私の手を引っ張って歩いていく。

「ちょっと律先輩!?」
「いいからいいから。今日は私に付き合えよ」

何でも許してしまえそうな屈託のない笑顔を浮かべて、律先輩は私を中心街へ連れ出した。
普段は私の気持ちを何より大事にするのに、呆れるほどの強引さだ。

いつもなら叱っているだろうか。
でも今は、それがむしろ優しさに感じられた。


78 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:28:33 ID:OglRtBoo0
次の日。
朝一番に教室で会った憂は、何やら悪戯っぽく笑っている。

「おはよう、憂。昨日はごめんね」
「ううん、いいのよ梓ちゃん。それより……」

憂は私に耳打ちする。

「昨日、律さんと手つないでた?」

私は、顔を真っ赤にして飛び上がってしまった。

「どど、どうしてそれを!?」
「お姉ちゃんと買い物に行ったとき、偶然」
「……そっか」

頭を抱えて座り込む。
不覚だった。町中で手をつないでいれば、誰かに見られるのは当たり前だ。
見られたのが憂だったのが、むしろ幸いというべきか。

「梓ちゃん、律さんと付き合ってるの?」

その顔は、わざわざ答えなくても分かってるはずだ。
心の中で突っ込みを入れつつ、小さく頷いた。
まあ、憂になら知られても大丈夫か。

「そっか、だからあのときお姉ちゃん」
「……唯先輩、何か言ったの?」
「まあまあ、そういじけないの」

憂はよしよしと私の頭を撫でる。
そういえば最近律先輩になでなでしてもらってないな、と今になって気がついた。

「……お姉ちゃんね」

憂は無垢な笑顔を浮かべた。

「律さんと梓ちゃん、何だかロミオとジュリエットみたいって」


79 :軽音部員♪:2011/03/11(金) 02:30:49 ID:OglRtBoo0


「ふ~んふ~ん」
「今日はご機嫌だな梓。鼻歌なんか歌っちゃって」

昨日と同じ帰り道。私の隣を律先輩が歩く。
私の手を握って、離さない。

澪先輩の前ではあんなにおしとやかだった律先輩が、私の隣では凛としている。
今の律先輩を見たら、誰もが「格好良い」という感想を持つだろう。

「りーつせんぱーいっ」
「おっと、急にどうしたんだよ梓」

私の小さな体は律先輩の腕の中にもすっぽりと収まる。
子供っぽい体型はコンプレックスだけど、こういうときは律先輩の暖かさを感じられて嬉しい。

「頭、撫でてください」
「何だよ、やけに甘えるなあ」
「えへへっ」

私はロミオにはなれない。
体型も顔つきも、まるでかけ離れている。
それに、澪先輩以上にロミオが似合う人なんていないだろう。

澪先輩がロミオなら、ジュリエットは律先輩しかいない。
昨日の演技を見ていても、これまでの関係を考えても、心の底からそう思わざるを得ない。
けれども……

「律先輩、大好き」

ロミオが律先輩なら、ジュリエットは私しかいないんです。


Fin




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年03月15日 23:26