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「……おーい、梓?梓ってばー」

何度呼びかけても、意地っ張りな後輩は返事をしてくれない。
何を怒っているのか、まったく分からない私は、やれやれと梓の隣に腰を下ろした。

もうすぐ卒業のある日のこと。
部室の窓から見える桜の木も、あと少しで満開だ。
きっと綺麗に咲いてくれるんだろうなあ、なんて考えていると、隣の梓が小さく
咳き込んだ。

「梓、風邪?」
「……違います」

お、やっと答えてくれた。
まだぶすっとした声だったけど、嬉しかった。

「もうすぐ私たち卒業なんだから。卒業式の日、絶対休むなよー」

手を伸ばし、梓の頭をくしゃくしゃ撫でる。
こうやって梓の頭を撫でることも、卒業すれば出来なくなると思うと何となく、
ずっとこのままでいたくなる。

「……なあ、梓」
「なんですか」

膝に顔を埋めながら、梓は私の方に顔を向けた。
「何怒ってんの」と訊ねると、「知らないです」と顔を背ける。

「私たちがいなくて寂しいの?」

梓の肩がぴくりと震えた。
私は梓の頭を撫で続ける。
暫くしてから、梓は「違います」と小さな声で答えた。

「じゃあ何で」
「……最近、先輩たちが、私を置いて帰っちゃうから……でも別に怒ってるわけ
じゃないですし……」

人は風邪を引いたら弱気になっちゃうってよく言うけど、実際そうなのかも。
梓の泣き声に、私は少しだけ笑ってしまった。
ばっと顔を上げた梓の額に手を置くと、やっぱり熱かった。

「熱、あるじゃん。どうして帰んなかったの?」
「……律先輩、来るかなって思ったから」

待ってたんです、熱のせいでか、潤んだ瞳で言った梓。
「そっか」と梓から手を離そうとすると、その手を掴まれそのまま梓の熱い額に
押し付けられた。

「先輩の手、冷たいから……気持ち良いんです」
「……そっか」

何だか変な態勢だけど仕方無い。
この態勢で「私も梓に会いたかったから来ちゃった」なんて言えるわけもなく。
だから黙っていることにした。

梓の熱いくらいの熱を、いつまでも感じていたかった。



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最終更新:2011年05月18日 20:41