『葉鍵魯和国』
古代における、大陸の覇者に最も近いとされていた国家である。
僅か六ヶ月という異例の速度で大陸北部を制圧し、強大な軍事力を擁し、人材も豊富に揃い、まさに磐石とも言うべき大国であった。
『黄泉売巨人(YGBR)国』や『怒黎魅(どれみ)国』等と共に三国鼎立を為し、激しく覇権を争っていたのだが、
初代皇帝が没し、二代目を迎えたころから異変が始まる。
後に国家転覆の発端となる『頭顔(
ズガン)事件』、家臣間の派閥抗争、クーデター騒ぎ……
加えて外部からの異民族の侵入などにより、疲弊していた葉鍵国がこれに対抗することはできなかった。
各方面の異民族に侵略された葉鍵国は、一度滅ぶことになる。
その内の生き残った皇族は、辺境へと落ち延びて、時を待ち――
――BR暦226年、群雄割拠の時代に突入したころに、一つの軍勢が旗を上げた。
『葉鍵当立』
葉鍵、当に立つべし。
この言葉をスローガンに、嘗ての栄光を、悲願の大陸統一を果たすべく、
北部の異民族地域に逃れ、雌伏を余儀なくされてきた葉鍵国の子孫達が立ち上がった。
その勢いはかつての葉鍵国を思わせる程に凄まじく、僅か数ヶ月で近隣諸国を制圧し、一気に北部の一大群雄としてのし上がった。
しかし、その勢いもここまでであった。
元々異民族との混成部隊が中核を為す葉鍵軍は、その武将達も多種多様である。
当然領土が広がり、決めるべき事が多くなると意見も対立を始める。
かつて散々悩まされた派閥抗争が再び激化していったのである。
統治についての対立、軍事についての対立、外交についての対立……気がつけば、重なる抗争に愛想をつかし、幾多もの将星達が野に下っていた。
ようやく意見をまとめ、抗争が収まった頃には……
かつて圧倒的な差をつけていたはずのアニロワ国やGR国と、逆に国力の差を広げられていた。
既に、葉鍵は北部の小国に過ぎなかったのである。
しかし、それでも尚夢を捨てきれぬ一部の家臣団が懸命に尽力し、国の崩壊だけは食い止めた。
二度の過ちを経て、葉鍵の将の志は一つになっていたのだ。
そして、ようやく国の内情も安定してきたBR暦230年初春――
(BR230/05/phase:01) 葉鍵国
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陀夜文(だよもん)――現葉鍵国(葉鍵魯和国との差別化を図る為、便宜上ハカロワ3としておく)の帝都。
北方特有の寒々とした空。色褪せた大地。
豊穣とは決して言えない地域ながらも、そこに住む人々は逞しく生きていた。
街では商売に魂を燃やす人間が自らの商品をこれでもかと高く掲げ、その価値を主張している。
その傍らでは旅芸人が人形劇を披露したり、工房では刀鍛冶が己の仕事に精を費やし、
警備の兵士が犯罪はないかと見回り、子供達が遊んでいる。
生に満ち、溌剌とした人間の姿である。
そんな街中を、一人の男が楽しげに歩いていた。
周辺の人間と比べて背が高く顔の輪郭も細いせいかひょろりとした印象を受けるが、
がっしりとした二の腕がそうではないことを主張している。
男の名は『驚愕宴(サプライズパーティ)』。ハカロワ3の内政や外交、異民族との折衝を手がける人間であり、
一方でB-4方面(西部方面)の軍事も担当する多才な人物である。
普段、彼はあまり喋らない寡黙な人間なのだが、一時期崩壊しかけた内部を取りまとめていたのも彼であり、絶対的な信頼を寄せられている。
「……にぎやかで、いいことですな」
口の端に笑みを吊り上げ、サプライズは言った。
時々、彼は自身の目で街の巡察に出て、実情を確かめる。
単に人間観察が好きという趣味が高じてそうなったのであるが、これがまた敬愛の念を集める結果となっている。
まあ、今日は巡察だけではない。他国と友好関係を結ぶべく使者となっていた同僚の帰りを待っているのだ。
ゆっくりと正門へと歩きながら、サプライズは人材について懸念していた。
安定してきたとはいえ、他国に比べれば絶対的に数が足りない。
特に急務とするのが武勇を誇る猛将の獲得である。
というより、武に秀でたのが現在の皇帝である『混沌帝(The god of chaos)』しかいないのだ。
とは言え、小国である以上他の大国に比べて人材獲得がままならぬのも事実。
だからこそ、他国と同盟を結び一時的にしろ補強しなければならないのだが……
「……まあ、努力はしているのですがね」
サプライズも本来は内政が主な仕事なのだが、人材の不足により軍事も担当せざるを得ない状況になっている。
もう一人の同僚もそうだ。「戦争の指揮って、苦手なのに」と時々愚痴っている。
とはいえ、下手なわけではないからこそB-10方面(南部方面)の指揮も任されているのだが。
「……ん」
門番に命じ、正門を開けさせ、同僚の帰りを待つ。
場外は荒涼とした風景が続いており、お世辞にも豊かとは言えない。
農耕、治水、まだまだやるべきことは山ほどある――と、いつの間にか内政の事を考えている自分に、サプライズは苦笑する。
「……来たか」
そのまま待つこと数時間。一通りこれからの内政や外交について考えを巡らせた頃に、同僚の姿が見えた。
「や、やぁ……ただいま~……サプライズ君」
「お帰り。……その様子だとまたタイーホされたみたいだな」
「違うよ! タイーホ『されかけた』の! ……無実の罪だよ、まったく」
ぷんすかと腕を振りながら怒っている少女は地味子。主にこちらも内政を担当し、混沌帝の秘書も務めている。
どちらかと言えば異民族の懐柔を主な任務とするサプライズとは違い、地味子は主に他国との交渉を主な任務とする。
彼女のお陰で一応は近隣諸国とは概ね友好関係にあるのだが……容姿が特にまずいわけでもないのに、毎回タイーホされかけてはトラブルになっている。
特にライダー国におけるその割合は高く、実際牢につながれた事もあるらしい。
「……で、どうだった」
「うん、GR国を見てきたけど……あれは、なんと言うか、昔のウチに似てる」
「……あそこもか」
「まあ、まだ表立ってはいないけど。というか、武闘派と文官で意見が合ってないみたい。
君主さんもどことなくのんびり屋っぽいし。……ウチの陛下と同じだよ、はぁ……」
自らが仕える混沌帝のことを思い出しているのか、地味子は眉を顰めている。
あれはのんびり、ではなく気ままと言うべきだとサプライズは思ったが、どちらにしろ苦労は同じなので何も言わないことにした。
現在の皇帝である混沌帝は、とにかく『楽』を求める。
楽しければどんな国にでも戦いを挑むし、かと思えば内政に尽力して僅か一年で荒れ果てた土地を再興させたこともある。
一方で珍しい動物や貴重な財宝の収集に国を上げて望んだり、半年くらい家出して旅に出たこともある。
要するに、楽しいことだと思えば鉄砲玉のようにピューンと飛んでいくのだ。
最近では芸夢(ゲーム)に凝っているらしく国中から芸夢を買い集めては夜通しプレイしているらしい。仕事しろ。
だがしかし、あらゆる才覚を持ち、部下に対する命令も的確なうえ判断も優れていることから、決して暗愚ではない。
天才が故の独特の余裕――取り敢えず、地味子とサプライズはそのように見解をまとめることにした。
「さて、帰ったら来週予告も書かなくちゃね」
地味子はうー、と腕を伸ばしながら呟く。
来週予告、とは前年から始めた、所謂仕事のノルマを設定したもので全員分を書き上げている。
「……一ついいか」
「うん?」
「流言も頼む」
「どこに?」
「……漫画国だ」
「りょーかい。あることないこと書き上げてくるよ」
ニヤリ、と地味子が笑う。計略、謀略なども地味子の担当だった。特に、煽動などを得意としている。
詳しくは言わなかったが、狙いは分かっている筈だろう。GRと漫画を争わせ、両国を疲弊させる。
その隙を突いて、拡大を試みる。
あくまでも、統一が宿願なのだ。
「……もう一つ」
「え、これ以上仕事は……」
「お前、そんな危ない目だからタイーホされるんだ」
「……ほっといてよ!」
悪だくみをしているときの彼女の目は、最早犯罪者級の危なさである。タイーホされるのも当然だった。
「だから、実際にタイーホされたのはライダー国のときだけだって!
というか! 本当に何もしてないのにー!」
地味子の空しい響きが、まだ寒さの残る空に木霊した。
(BR230/05/phase:02) 葉鍵国
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お姉さま
ユニークな誤字脱字に定評のある人。
普段こそダメ君主の甲斐性なしであるが心に秘めたるは憂国の志と熱き信念。
その一方で愛に飢えており優しく包み込んでくれる包容力のある男性を求めているらしい。
でも変態。だがそれがいい!!!
いやっほぉぉぉぉぉぉう!!! お姉さま最高ーーーーーーー!!!!
バトルマスター
変態のくせに自分はノーマルだと言い張ることに定評のある人。
先陣を切って敵に乗り込んでいくがあれは実は自分と対等に戦えるいい男を探しているからだとか。
自身が変態であるので多少の性格の歪みは許容できる。
また、幼女に対しても感心があり後々炉利昏(ロリコン)同盟を結成しようと企んでいるらしい。
要するにパヤパヤ。えっ、パヤパヤってなにか? パヤパヤはパヤパヤよ。いやー不潔ぅ!
蟹座氏
L5になるとヤンデレになることに定評のある人。
戦いが大好きで三度の飯よりも好き。もちろん夜の戦いも(ry
なお、余談であるがかつて黄金の道(シャイニングロード)なるものを用いて
書き手ロワ国に一瞬で辿り着き、現地の住民を驚かせたことは記憶に新しい。
いやっほぉぉぉぉぉぉぉう!!! 蟹座の雫最高ーーーーーーーーー!!!
また重度の部羅昏(ブラコン)との噂もある。お兄ちゃん大好きらしい。
………
……
…
「とまあ、取り敢えずこの三人に関してはこれでいいかな?」
「……まあまあだな」
「ちぇ、割と漫画の人達に受けやすい文面にしてみたのにな」
そう言いながらも、地味子の顔は満足そうだ。やはり地味な作業をしているときの彼女は凛々しい。
「……なんか言った?」
「いや」
恐ろしい女だ。きっとお姉さまあたりが呼べば即座にホイホイされるに違いない、と思いながらサプライズは首を振る。
「ま、とにかく漫画の連中はこれでホイホイされてくれると思うよ。何せ君主さんのBOIDが超がつくほどのロリコンだからねー。
こんな娘さんだと知れば飛んでって奪おうとするでしょ。
志保ちゃんニュースとか723ニュースとか文々。新聞とかいう触れ込みで持ってけば大丈夫だと思うよ。
勇猛な連中だけど、猪な人が多いもんね」
地味子の上げた新聞社の名前に一抹の不安を覚えたサプライズだったが、失敗はあるまい、と踏んで頷く。
「それで、バトルマスターに関してはいいのか」
「ん?」
「調べの上では我らの同族に当たっていることは承知しているはずだ。それを……」
「私情は捨てる。昨日の味方が今日の敵になるなんてよくあることでしょ? 遠い親戚のマスターなら、尚更」
「なら、いいが」
「嫌なら止めるよ?」
「冗談を」
かなり昔の話だ。現在のバトルマスターと地味子、サプライズ、混沌帝の先祖はそれぞれ血縁関係にあったらしい。
故に僅かながらでも繋がりはある。サプライズは地味子が気に病んでないか気になって尋ねたのだが、杞憂であったようだ。
「続けてくれ。後はうっかり侍に……というか、残りの女性武将全員だな」
「……はいはい。そっちこそ、調練頼むよ? なんせ陛下、だらだら涙流しながらオオカミって芸夢やってたし……期待できないよ?」
「分かっている。……岸田洋一の血を舐めるな」
「うわ、怖い目。内政が得意とか言っといて、戦い方はエグいんだもんなぁ……あんたの方がタイーホされそうなのに……ぶつぶつ」
なにやら文句を言っている風な地味子だったが、問題はない、とサプライズは判断してその場を立ち去った。
この煽り文が、GR国と漫画国の争いを引き起こす切欠になるのだが――果たして、運命がどう変わるのか。
それは誰にも分からない。
最終更新:2009年04月24日 19:39