見渡す限りの平原、そこに一人の青年が佇んでいた。
その背後に、眼球のような異形の魔物が前触れなく現れる。
「ご苦労さん」
魔物に驚きもせず青年は声をかけ――同時にその魔物の姿が虚空へと消えていく。
青年はしばらく瞳を閉じていたかと思うと、一瞬眉を顰めて歩き出す。
その先には……小さな集落が存在した。
(BR230/05/phase:01) なのロワ民族
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かつて、一つの部族が存在した。
その者達は他の民とは少し違い、元々外の大陸からやってきた。
LS国に伝わる白き悪魔との関わりが深いとも聞くが、双方の話しは聞けば聞くほどずれていき別人ではないかという説もある。
それゆえの独特な雰囲気に回りの民は注目していたが、本人たちはほとんど交流を持とうとしていなかった……一部を除いて。
リリカル龍騎、GX、メビウス……
この三人は積極的に他者とのコミュニケーションを図り、自分達をこの大陸の空気に馴染ませようと動いていた。
多少ぎこちないところはありながら、それでうまくやっていけていた……
しかし、その日常は長くは続かない。
元いた故郷で発覚した一人の人間の罪。
それは部族全体へと影響を与え、一度は全員が故郷へと戻ることになるほどの大事件となった。
……これもまた、一部の人間を除いて。
「はぁ、別に知らない仲というわけでもないですし、人手もほしいところですから構いませんけど」
「助かるぜ」
あまり故郷で顔を出していなかったGXはこの事件の時も帰りづらく、
親友となっていたアニジャと共に、ロボロワ共和国の復興作業を手伝いながら大陸に留まることとなる。
それ故だろうか、新たに戻ってきた部族たちとは今一空気が合わなかった。
終わクロ……リリカル龍騎に代わりなのロワ部族を纏めあげる長である。
彼は自分達部族の意見は積極的に取り入れてくれたが、リリカル龍騎のように他の民との強い交流は求めようとしなかった。
決して悪い環境ではないし、部族も纏っている。
だからこそ――彼は何か居づらさを感じていた。
(BR230/05/phase:02) なのロワ民族
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「長、お話が」
なのロワ族を纏め上げる終わクロの宿、そこへGXは足を踏み入れる。
それをオールバックの美形の男が出迎えた。
「何の用だ?」
「漫画ロワ国が動いた、GR国との戦争だ」
「……そうか」
それだけ言い、終わクロは興味なさ気に視線をはずす。
「そうか、じゃないでしょう! 漫画ロワ国とは私やメビウスも交流があります!」
「貴方たち個人では、だ。部族全体を巻き込むわけにはいかない」
「くっ……だけど!」
「そこまでだよ、GX」
「反目殿……!」
反目、部族のNo.2であり、故郷でもその治安維持を一手に引き受けていた女性だ。
その青髪と白い鉢巻という、この集落に住んでいる少女とよく似た容姿から「反目のスバル」と呼ばれ親しまれている。
「私達は今、この大陸の者達に干渉するほどの力はないよ。それはGXも分かってるよね?」
「……ならば、何故俺たちはここにいる。誰とも関わらず、誰とも触れ合わず、いったい何のために!」
「今は機じゃない、ただそれだけだよ」
「――っ、わかった、なら俺個人で動く、それなら文句はないな!」
反論を待たず、GXは外へと駆け出し――丁度そこにいた一人の人物とぶつかる。
「いっつー……」
「そんなに急いで、どうしたんです?」
「め、メビウス!」
目の前にいたのは一人の好青年。
メビウス、GXも詳細は知らないが漫画ロワ国に姿を変えて住んでいると聞いている。
「なんて、実は聞いていたんですけどね。僕もついていきますよ」
「メビウス、いいのか?」
「漫画ロワ国は僕にとって大切な場所ですから。けど、GXはどうするんです? 確かアニジャさんは、GR国の紅蟹公を……」
「ああ、何だかんだで漫画ロワ国と同盟を組んでるらしい。妹者ー☆とか言いながら前線に出て行きかねないな」
何故この集落にいた人間が他国の情勢について知っているのか?
それについて彼の力を知っているメビウスは疑問に思わない。
話しながらGXはカードを三枚取り出し地面へと並べる。
「少し離れててくれ……二体のモンスターを生贄に、GXが命じる。現れろ! 暗黒騎士ガイア!」
GXの声に応え、カードから漆黒の馬と騎士が召喚される。
これが彼の力、召喚術。
特殊なカードを扱い魔物を呼び出す……各国には彼が呼び出した偵察用のモンスターが常に配置されている。
漆黒の騎士に対し、更に二枚のカードを向ける。
「融合を発動、カース・オブ・ドラゴンと融合し……竜騎士ガイアよ、来い!」
三枚のカードが融合し、新たな一枚のカードとなりそこから骨組のような竜が漆黒の騎士を乗せて現れる。
お見事、と思いながらメビウスはGXへ視線を移すが、GXの顔色はあまりよくない。
「大丈夫ですか?」
「流石に上級モンスターは厳しいかな……ま、飛んでくだけだし問題ないさ」
強力なモンスターほど呼び出すのに負担がかかる、
それはこの大陸全土にかけられているという、人の力を制限する呪術のせいである。
偵察や移動程度ならさほど問題ないが、戦闘などは極短時間しか使えないだろう、
聞くところによればこの制限を取り払う方法も存在するそうだが、他国に詳しいGXでさえその詳しい方法は知らない。
「漫画ロワ国まで飛ばすぞ」
「ロボロワ国へは行かなくていいんですか?」
「……いいさ、あいつならどうせ堪えられなくなって紅蟹公の下に現れる」
予想ではなく、断定。
それができるほど、彼とアニジャは互いを理解し合っていた。
ただ、GXは知ってしまっている、紅蟹公も確かにアニジャのことを大切な存在と想っている、それは間違いない。
だが――それは結局兄妹愛、多少その域を超えているようにも見えなくもないが、アニジャが想っている愛とはわずかにずれる。
「……メビウス、あんたならどうする? 報われない想いにしがみついたままの親友がいたら、さ」
「突然難しい事を聞きますね……正直なところ、答えられる問いではないですよ」
「だよな……悪い、忘れてくれ」
アニジャは紅蟹公に入れ込みすぎている、それは一国のトップとして致命的だ。
……いや、なら他の国のトップはどうなんだ、と聞かれるとどこも首を捻らなくてはならないのだが。
GXの心情としては、親友でありアニジャが統べるロボロワ国にはこのまま良い方向へと進んでほしい。
だが、そのためには危うすぎるのだ、今のアニジャでは。
「……いっそのこと、消し去るか? 紅蟹公を……」
「GX、何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
戦場へ向かい空を駆ける二人の異民族。
一人は純粋に恩を返そうと。
もう一人は親友への強すぎる想いによって、歪みを抱えながら。
たった二人の介入――それがどう影響するか、それは、彼等の信仰する白きエース・オブ・エースのみが知っている……
最終更新:2009年04月24日 19:41