漫画国編

(BR230/05/phase:00) 漫画国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
人が生きてきた記憶を人生と呼ぶのなら、国が生きてきた記憶を歴史と呼ぶ。
人が「記憶」する事にさしたる労力は必要ない。
意識せずとも自然に記憶は蓄積されていくものだ。
しかし国はそうはいかない。
国が「記憶」するには歴史を編纂する作業が必要になる。
その過程に編纂者の恣意が入り込むのも歴史の特徴であるが、
この国にはそもそも編纂者自体が存在しなかった。
後世に自らの生きてきた証を残す、そういった意図を彼らは持たなかったのだ。
彼らにとっては「現在」どうするかが全てであり、「過去」の記憶にも、「未来」の展望にも興味が無かった。
「過去」とは如何なる努力によっても変えざる事実であり、
「未来」とは現在の積み重ねによって至る場所である。
そう断じた時、最も重要な「現在」以外は不要と言い放つ事も理に適うと言えなくもない。
しかし人は「過去」に学び、「未来」に希望を馳せ生きる。
だからこそ「歴史」を刻むのだ。
試行錯誤の積み重ねを放棄した彼らを、刹那の時に生きる思慮浅き者達と謗る者が出るのも無理は無かろう。
事実彼らは長く統一した国家を形成する事を拒み続け、戦乱に明け暮れていたのだから。
そんな彼らを外の者達は侮蔑の意を込めこう呼んだ。
「万」の「我」を持つ者達の国、万我国と。



国を作る、そう決めた時、後に最古の四人と呼ばれる猛将の一人「犯蛇牢音(パンタローネ)」が提案する。
「蔑称をそのまま国号とするのはいかがなものか」と。
その時同じく最古の四人の一人である「阿屡烈奇異埜(アルレッキーノ)」はこう答えたそうだ。
「俺は気に入っているが、そこまで言うのなら字だけでも変えたらどうだ」

これが漫画国誕生秘話である。秘密にしたくなるのも無理は無い。


(BR230/05/phase:01) 漫画国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
宙に浮かぶ城、サザンクロスが漫画国の王都とされている。
されている、とはっきりしないのは漫画国が正式に王都としている都市が無いせいだ。
このサザンクロスにしても、都というよりは浮遊要塞といった方がより適切であろう。
外観を全く考慮していない剥き出しの岩肌、人の顔を模したと思われる前面部、
近寄る者を拒む無数の突起は、海産物を思わせる。

そんな城の一角で、漫画国を支える十数人の重鎮達が一同に介していた。
つい先日、軍師が失われてからはこういった会議では「栄簾(エース)」が会議の進行役を担っている。
「皆に急遽集まってもらったのは他でもない、ボイドがGRに侵攻を開始した件についてです」
純朴そうな風貌を持ち、温和な顔立ちをする彼の表情は、常に無い程の怒りに満ちていた。
「皆の忌憚無い意見を聞く前に、私の意見を述べさせてもらいます………見捨てましょう、全力で。絶縁状叩きつけるぐらいの勢いで!」
そう言ってテーブルに拳を叩きつける。
彼の怒りも当然だろう、ボイドは今回の侵攻を同胞にすら伝えず、勝手に単独で行ったのだから。
GRの国力を考えればありえない行為だ。
しかも開戦理由は、伝え聞く所によると「嫁探し」の為と公言して憚らぬという。
ライダー国からドットーレと共に戻るなりこんな知らせを聞かされれば、腹が立たぬ方がおかしい。

逆立つ鬣のような髪、見上げんばかりの巨躯と、ただそこに居るだけで圧倒されるような覇気を持つ男、
アルレッキーノはそんなエースの様子を見ていない。
「コロンビーヌ、ボイドがGRに戦を仕掛けたというのは本当か?」
そう問われたのは銀の髪と透き通るような清廉さを持つ女性「弧論美意濡(コロンビーヌ)」である。
「そうみたいね。GR側は迎撃に戦姫まで出してるって話よ」
二人の問答を聞いてため息をつくのはパンタローネだ。
アルレッキーノに負けず劣らぬ巨躯を持ち、奇妙としか形容しようの無い衣装を身につける。
右腕と左腕の太さに差があるのは、そこに仕込んだ刃のせいだ。
これに、対面の席でにやにや笑いながら議事の進行を見守っているドットーレを合わせ、漫画国の誇る最古の四人と称する。
いずれも劣らぬ武勇の持ち主であり、漫画国建国当時からの古強者である。
アルレッキーノは相貌を崩し、その口元からは堪えきれぬ声が漏れる。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である。
彼はそれを体現するかのごとく獰猛に笑う。

「 で か し た 」

彼の反応を予想出来たのは、同じく最古の四人であるパンタローネ、コロンビーヌ、ドットーレの三人のみ。
エースを含む他の皆はただ困惑するばかりだ。


漫画国は幾つもの集落の集まりであり、それぞれの代表者が話し合って全てを決める合議制をとっている。
ある意味王の集まりという見方も出来なくもない。
トラブルが発生し、サザンクロスでの話し合いで解決しない場合は集落同士の戦にて決着を着ける。
こんな合議制では、より武力を有する者の発言権が増すのは当然である。
制度だけを見るならば、明日にも瓦解してもおかしくはない漫画国が、
辛うじて国の体裁を保っていられるのは、最古の四人が相互不可侵を決め込んでいるせいであろう。
最強の四人が組んでいるのだ、そんな彼らに意見出来る者はそう多くは無い。
その数少ない人物の一人であるエースは、温厚な人柄から皆の調整役に回る事が多い。
問題なのは残る一人、ボイドである。
万の我を持つ国らしい自由きままな性格で、気の向くままに戦を起こしては後始末もせず去っていく。
彼が引き起こし、漫画国中を巻き込んだ「大乱戦」と呼ばれる戦はまだ記憶に新しいだろう。
今回の件も彼らしいといえなくもないが「他国を巻き込むな」という不文律を破った彼への風当たりは強い。

会議が始るなりエースが彼の不支持を表明し、アルレッキーノは彼の行動を容認するといった珍しい事態となった為、他の者は口を開けなくなる。
このままエース対アルレッキーノなどという事になっては、それこそGRとの戦どころではなくなってしまう。
睨みあう二人の間に入ったのは、ドットーレだった。
「まあそういきり立つなよエース。ボイちゃんだって考え無しに突っ込んだ訳じゃ無いだろ」
きっ、とそちらを睨み返すエース。
「いいえ! 彼に考えなんてありませんよ! ボイドさんはいつもいつもいつもいつもそうやって好き勝手やって……『舞姫こなた殺害事件』の後始末だって、私がどれだけ苦労したと思ってるんですか!」
気色ばむエースに、コロンビーヌが控えめに意見する。
「この際、ボイドに考えがあるかどうかはどうでもいいでしょう。それよりも問題なのはGRがいきなり主力を迎撃に出して来た事よ」

アニロワ、GR、漫画の三国はそれぞれがお互いに隣接しあっている。
その三国の内、アニロワとGRは深い絆で結ばれた同盟関係にある。
それ故好戦的な漫画国もそのどちらかに牙を剥く事は無かったのだ。

コロンビーヌは語る。
GRが惜しげもなく主力を差し向けてきたのは、アニロワを信頼しての事。
だとすれば、対GR戦線にはこちらも相応の布陣で応じ無ければ、逆侵攻を受ける可能性もあると。
そこでコロンビーヌは彼女の隣にちょこんと座る少女に問いかける。
「つかさ、貴女ならどうする?」
書類と睨めっこをしながら話を聞いていたつかさは、不意の問いかけに書類を落としてしまい、わたわたとそれを拾い集める。
「す、すみません! えと、……えっと……」
彼女の名は「川田つかさ」。漫画国では珍しい元絵本作家である。
ペンネーム「◆wivGPSoRoE」で知られる彼女は、悲恋を描いた代表作「笑顔」がコロンビーヌの目に止まり、数少ない文官として召抱えられている。
「アニロワに隙を見せない意味でも、パンタローネさんとコロンビーヌさん、エースさんの三人が残って、ドットーレさんとアルレッキーノさんの二人で援軍に行って一戦してすぐ引くのが……いいかなって……」
そこで勢い良く席を立つ男が居る。
「いえ! お二方が出るまでもありません! 援軍は是非この『反逆者(トリーズナー)』めにお任せを!」

若々しい気に満ち溢れた細身の青年トリーズナー。
兵糧輸送を担当していた頃の彼は「◆bnuNxUeVnw」と言う名で、堅実で実直な後方担当員であった。
しかし彼は兵糧輸送担当で生涯を終える気は無かった。
静かに実績を重ね、それを持って前線への配置移動を申請したが、その申請が却下された時、彼の反逆が始った。
集落同士の戦闘に突如として単騎で乱入。
密かに磨いていた牙「絶影」を用い、これを壊滅すると、偶々そこに居合わせたボイドへと襲い掛かったのだ。
奮戦むなしく倒れる彼にボイドは問うた。
「何故俺に挑む?」
体は動かねど反逆の意は尽きぬ。そう言わんばかりに目を爛々と輝かせ彼は答えた。
「この国で反逆に理由が必要か?」
その返事をボイドは大層気に入り、以後彼の漫画国武官任官に尽力したという。

つかさ、トリーズナー共に集落の長ではなく漫画国直轄の官である。
この様に中央集権を進めるべく、人材を集めるよう指示しているのは他ならぬ最古の四人達である。
国という形を、彼等なりに作り上げて行こうとしているのであろう。


こうした若手が会議の席で発言を許されるのも漫画国の気風だ。
エースは彼等の発言を元に、戦力の振り分けを考え始めるが、そこで再度コロンビーヌが口を開く。
「ねえ、一つ聞いていいエース?」
「はい?」
「敵の味方は、敵よね」
「はぁ、それは概ねそういう事が多いでしょうけど……」
次に発言するのはパンタローネだ。
「では次の質問だ。ならばGRが敵なら、その同盟国たるアニロワも敵になるな?」
「は、はぁ……」
笑いを堪えながらドットーレが続く。
「クックック……三つ目だ。俺達が、敵を前にして黙っていられると思うか?」
「…………」
腕を組み、まっすぐにエースを見つめるアルレッキーノ。
「思わんよなぁ。なら、俺達がどうするかはすぐに解ると思うが」
エースの顔からすーっと血の気が引いていく。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ……まさか……」
エースの反応を待たずトリーズナーに声をかけるアルレッキーノ。
「トリーズナー、お前はGRとアニロワどっちとやりたい? 好きな方を選ばせてやるぞ」
会議室中に歓声が上がる。
皆口々にどちらの戦線に加わりたいかを主張し、最早誰一人としてエースの話など聞いてはいない。
周辺国家では飛びぬけた戦力を誇るアニロワ、GR。この両国を相手に最古の四人は、二正面作戦を敢行すると言っているのだ。
そんな馬鹿げた話でありながら、止める者はエースのみ。
誰しもがこぞって大戦への参陣を望んでいる。
彼等の常軌を逸した選択は、漫画国に古くから伝わる言葉に基づいている。


『 狂気の沙汰ほど、面白い 』


それを国家レベルで体現してしまうのだから、この国の在り様が如何に偏っているかわかるというものだ。
既に議題は誰が何処に攻め込むかに移ってしまっている会議を他所に、エースは頭痛を堪えながらつかさの側に行き、小声で訊ねる。
「……これやっちゃったらどうなるか、つかささんわかるかい?」
こうしてエースがつかさに泣きつくのもこれが初めてではないので、つかさは前もって頭の中で纏めていた考えを述べる。
「えっとですね、そもそも私達は内政に向かないじゃないですか」
「そりゃ、まあ、そうだけど……」
「でしたら現状を続けていてはジリ貧だったと思うんですよ。幾らなんでもアニロワやGRの軍師さん相手に謀略戦は分が悪すぎますから」
「む、むう……」
「ですから現時点で攻撃に出るのは決して間違いではないと思うんですね。それでですね、戦の予想ですけど……」
周辺地図を広げながらつかさはエースに説明する。
「アニロワとGRに私達が全力で攻め込めば、きっと両国共に他の国境が疎かになると思うんですよ。それは友好国であるロボや騎乗士にとって絶好の機会になるでしょう」
そう言われると、何となくだが悪い策では無い気になってくる。
しかし、一点だけエースには解せない点があった。
「連中の国境が疎かになるのはいいとして、それ以上にウチの国境がガラ空きにならないか?」
つかさはあははーと笑って頭を掻く。
「それは諦めるしかありませんねー」
「そんなあっさり諦めんなああああああああ!」
何かを思いついたようにぽんと手を叩くつかさ。
「そうです、私の実家神社なんで、お参りしてきましょう。どうか攻められませんようにって」
「実家関係ないだろ! 神頼みしか残って無いってどんな策だよそれ!」
喚くエースに困ったのか、つかさは小首を傾げ、頬に指を当てる。
「でも、ここで中途半端に人残してもあんまり意味無いと思うんですよ……何処の国もまさか本国がら空きにしてるとは思わないでしょうし、ここは全員で攻めちゃいましょう」
「攻めちゃいましょうじゃないって! 空城の計ならぬ空国の計ってどんだけ無茶すんだよ俺達は!」
またもぽんと手を叩くつかさ。
「あ、それ良い名ですね。では作戦名『空国の計』って事でみんなにお知らせして……」
「作戦名はどうでもいいから打開策考えてくれええええええええええ!!」



かくして空前絶後の二正面作戦、空国の計は実施されるのだった。


GRにはエースとドットーレが向い、残るアルレッキーノ、パンタローネ、コロンビーヌはアニロワを攻める。
漫画国には他にも武官が数多居る。
スクライド、シルベストリ、オルセン、BDN等々挙げればキリが無い。
それら全てが此度の戦に参陣する。こんな大戦は数年ぶりであろう。
しかも相手はかの大国アニロワにGRである、これで興奮するなという方が無理だ。
結局良い案も思いつかなかったエースは、しかし出陣の準備だけは整える。
武器糧食の手配をてきぱきと済ませると、同じく出陣準備に余念の無いドットーレの元に赴く。
「こんな馬鹿な策うまく行くんですかね……」
「失敗して攻め取られたのなら、また取り返せばいいだけだ」
漫画国唯一の居城であるサザンクロスはアニロワ攻撃に出陣する予定だ。
ならば取られて困るような物も無いとのドットーレの主張に、エースは納得する気になれない。
外交努力によって他国との関係改善に努めてきた彼にとって、今回の作戦はひどく納得のいかないものだったのだ。
「何、心配するな。一応手は打っておいてある。それに……」
「なんです?」
ドットーレはエースの胸を強く小突く。
「何だかんだ言いながら、お前も戦が楽しみでしょうがないという顔をしているぞ」
口をへの字に曲げるエース。
「出て……ますか。隠してたつもりなんですけど……ね」
「クックックックック……ボイちゃんに貸しを作る絶好の機会だ、これを見逃す手は無い」
「既に全滅してなければいいんですが。その時はせいぜい笑い者にしてあげましょう」
肩を叩きあって笑う二人。
エースも又、武を奮う事を至上の喜びとする漫画国の武人であったのだ。



(BR230/05/phase:02) 漫画国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
なのロワ国より馳せ参じたGXとメビウスは、サザンクロスが浮いていたはずの場所で呆然とそれを見つめていた。
空中要塞サザンクロスの定位置直下には幾つか事務用の建物が存在する。
その一室に、デカデカとその紙は貼り付けられていた。

『 メビウス、GXへ、現在全軍で出張っているので、残る全権預けるから何とか他国との外交にて凌ぐべし
          俺の名を出しても構わんから、LSやロボや騎乗士が攻めてこないよう頑張れ

                                ドットーレより  』

油を差して無い機械仕掛けの人形のように、ぎこちない様で隣のGXに問いかけるメビウス。
「……いいのか、これ?」
「一応漫画国でも官位持ってるから……理屈上はやれなくもない……けど」
メビウスはGXの両肩をがっしと掴む。
「本当にか! いいのかこんなんで! 俺達一応客将扱いじゃないのか! 一国の外交任されるとかありえんだろ!」
「そうは言っても漫画国の将でこんな大戦見逃す人居ないでしょうから、私達しか残ってないと思うのですが」
「意味がわかんないって! どうなってんだよ漫画国は!」
「信頼されてんだかどうでもいいだけなんだか。とりあえず、漫画に来たーって気にはなってきましたよ」
頭を抱えて蹲るメビウス。
「……こちらに向かってる旨、ドットーレさんに連絡するよーな真似するんじゃなかった……」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月24日 19:43
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。