神聖LS教団編2

(BR230/05/phase:04) 神聖LS教団
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夜の帳が下りた、閑かな教会。
閉ざされた部屋。外部の者を立ち入らせぬ聖域。
数人の少年少女が、そこで楽しげに言葉を交わしていた。
楽しげな笑顔と陽気な仕草で?
いいえ。
愉しげな笑顔と狡猾な仕草で。

まるで晩餐を思わせる長テーブルには大きな地図が広げられていた。
その上には無数の駒が並んでいる。
つい先程動かされた新たな配置が少女達を驚かせていた。
「くすくす。皆はどう思うかしら、この動きを」
漫画国の上から、全ての駒が動き出していたその配置を。

浴衣姿の少女、温泉少女は少し眉を顰めただけだった。
内政を担当する彼女にとって、他国とはいえ一切の内政を捨てたこの行為は暴挙としか思えない。
だが、その横で同じく内政を担当する深淵大司教は感嘆を洩らした。
「彼らにとっては、悪くない手だわ」
「…………ええ、そうね」
温泉少女も渋々と追随して頷いた。

空国の計。
自国の戦力を全て吐き出して突撃する後先はおろか勝算さえ考えない自殺的な暴挙。
だが。
「正面衝突が起きない冷戦になれば、漫画国は徐々に衰退していたでしょう。
 漫画国は何れ打って出る必要がありました。
 流石に国を丸々空けるのは無謀が過ぎますけれど、悪手ではありません」
JZARTの言葉に枢機卿666も同意する。
「そう、唯一の居城空中要塞サザンクロスは本隊と一緒に侵攻しているのだからね。
 最前線で本隊に守られて。何よりこの作戦は、単純明快すぎて絡め取る術がない」
666は楽しげな笑みを浮かべて、訊ねた。
「教皇。あなたはこれも予測していたのかな?」
教皇は闇の中でゆっくりと口元を歪めて、返した。
「数ある可能性の一つとしては、有り得るかも知れないと思っていたわ」
続けて言った。
「でもまさか、本当に実行するとは思いもしなかったけれど。
 これは最も勝率が高く、同時に最も敗北する危険が高い戦略なのだから」

空国の計。それ即ち、文字通りの総力戦。
本来、国の盛衰は勝ち負けのみに非ず。
他国の傀儡にされたとしても、その結果として逆に発展する事も有る。
負けて衰退しても滅びるとは限らない。いずれ流れは変わるやもしれない。
国の盛衰は頂点と最下位などという単純な物にはなりえない。
何より国というものが抱える数万数百万の人命が選択を阻害する。
民の事を第一に思うならば、勝機の薄い賭など愚行に他ならない。
だが漫画国は迷うこと無く賭に出た。
正に狂気の沙汰。

そう、この乱世に覇権を称えられるのは狂気の沙汰に踏み込める者だけだ。
同じく狂気に足を踏み入れたアニロワ国のドSなどに抗する唯一の選択肢だ。
そしてLS国は――。


「では我々はどうするのかな? この隙に漫画国に攻め入るかい?」
枢機卿666の皮肉げな言葉に教皇ボマーは笑う。
「まさか。漫画国に敵対しコソ泥に身をやつしてまであの土地を得る価値は無いでしょう?
 いいえ、それ所か……私達は領土さえも必要としない」
少女の顔面が別の生き物かと思うほど歪に歪み吊り上がる口元が笑みを作る。
「そんなものは布教で手に入れれば良いだけよ」

――前提の時点から違っていた。
神聖LS教団は国ではなく宗教なのだ。
勢力の拡大が止まっているのもその規模で抑えた方が効率的だったからに過ぎない。
LS教の教えに従う信者の立つ場所がその領土。
教えの広がりこそがその侵略。その側面から見れば。
「漫画国なんて既に私達の教えが浸透しつつ有る国に過ぎない」

  曰く――雌は歳若きをもって由とする。

その一言。
そのたった一言こそがLS教団の侵略だった。
もちろんその一言で傀儡と為せるほど人は甘くない。国家は温くない。
だがそこには攻め込む為の――否、取り込み為の橋頭堡が既に築かれていたのだ。

「でも、私達の教えを否定する国も在る」
ぽつりと大司教温泉少女が呟いた。教皇ボマーは頷く。
「そうね。その為に侵略して勝ち取りたいものも有るわ。各国の技術。兵器。優秀な人材達。
 それじゃまずは、何を手に入れれば良いかしら?」
大司教、深淵が言った。
「――五姫を手に入れるのよ」
会議室に一拍の緊張が走った。

五姫とは、この大陸中にその美貌を謳われる五人の姫を指す。
ギャルゲロワ国の女王、その仁徳を民に慕われるお姉さまその人。
ギャルゲロワ国の甲殻機動隊を率いる右将軍にして、騎乗手国君主の娘でもある紅蟹公。
ギャルゲロワ国の獣人武者部隊を率いる左将軍、狗武者姫。ちなみに温泉好き。
騎乗士国の「リュウガ」を纏う若き武将、純真な心を称えられる漆黒姫。実は男だという。
ロボロワ国の大統領にして騎乗士国将軍の子、紅蟹公の兄であるアニジャ大統領。
アニジャ大統領は兄と呼ばれるものの性別不詳であるが、それを引いても男が入る、
五姫という呼び名には首を傾げざるをえない奇妙な顔並びである。
だが問題はそんな事ではない。

「大きく出ましたね。当面の目標にしては随分と高いハードルです」
JZARTの言葉通り、五姫を手に入れるというのは並大抵の事ではない。
国のトップが二人、他の三人も勇猛響き渡る猛将である。
「ギャルゲロワの三人を手に入れれば、アニジャ大統領を釣る事は容易いわ。
 前線に出て来うる漆黒姫を手に入れれば、ほら、これで五姫が手に入った」
それは、ギャルゲロワ国を乗っ取るという事に近しい。
「判っているのかい? 手に入れてもそれが角の立つ手段であれば……」
「騎乗士国とロボロワ国を敵に回す事になる。漫画国とアニロワ国も付いてくるわね」
深淵大司教はいけしゃあしゃあとそう答える。
それはLS国の終焉を意味する。
いくらLS教団が宗教だとはいえ、信者を根絶やしにされれば滅亡だ。
失敗すればそれだけで教団を滅ぼしかねない危険な橋。
「そこまでして彼女達を求める理由は……聖人計画かしら?」
教皇の言葉に深淵は頷く。
「ええ。聖人計画の第二段階。聖人『降霊』計画の為よ」


「悪魔なのは」「教祖タバサ」「偽悪のエヴァ」「誤殺のトリエラ」「性悪ヴィクトリア」、加えて「誤解の一休」。
LS教団の教義を体現する五聖女一聖人。
「聖人計画第一段階、聖人『召喚』計画は順調に進んでいるわ。
 だけど召喚では維持しておける時間が短すぎる。
 長期間世界に定着させようと思うなら、寄り代に降ろさなければならない。
 寄り代はその血統を引く者か、あるいは聖なる存在――」
聖女「性悪ヴィクトリア」の末裔たる深淵は狡猾な笑みを浮かべた。
「そう、例えば五姫と呼ばれ信仰にも等しい憧憬を集めている人間にね」

だから深淵は五姫を求めるのだという。
「そうしなければ、最後に笑う国は私達ではなくなってしまうわ。
 特に、スパロワ国に勝たせるわけにはいかない」
アニロワ国。あるいはスパロワ国。
絶大なる国力を誇るアニロワか、最強の軍事力を持つスパロワか。
それが深淵の睨む、最後に笑わんとする黒幕だった。
狡猾な策略を数えないのは、その両国共当然の様に策略を張り巡らしている為だ。
加えて、スパロワ国に至ってはこの国に四天王の一人を客将として送り、技術を与えている。
その力を他国にばらまく程の余裕があるのだ。
しかも少女に対して厳しいといわれるスパロワ国を、LS教団は最終的最大の敵と目していた。
対するLS教団には、他国と正面から鬩ぎ合う戦力が無い。
あるのは神の教えと、暗鬱なまでに妄執じみた大司教全てが紡ぐ策略の網。
LS教団の策略家は軍師のみに非ず、大司教以上のほぼ全員である。

「ですが、どうやって?」
JZARTの問いに答えたのは枢機卿666だった。
「簡単な事だよ。ギャルゲロワ国を滅びに誘導すれば良い」
歪んだ笑みを浮かべて言う。
「このままギャルゲロワ国の領土を漫画国に蹂躙させれば良い。
 もし仮に撃退できたとしても被害が出るのは避けられないだろう。
 決戦の激突時ともなれば――『お姉さまが一時的に行方不明』くらいはなるかもね。
 それを横から“保護”するのさ。ギャルゲロワ国再建の為に」
「すぐに元の国に帰さない理由は?」
「引き止める手段は幾らでも有るさ。対外的には怪我をしたと言っても良い。
 移動しようのない天災に閉ざされた街に置いても良いし、護衛をつけると言っても良い。
 もちろん我々の教義に帰依して頂ければ一番だ。
 しかし降霊を済ませてしまえば、引き止める必要さえ無くなるのだろう? 深淵大司教」
深淵は含み笑いを零して、答えた。
「ええ。彼女達が自らの支配権を取り戻そうとも、LS教体現者の遺志が残るなら十分だわ。
 その行動は回り回って必ず私達の助けになるはずよ」

皆が頷き、視線が教皇へと集中した。
教皇は頷き、今度こそ文字通り童女のような笑顔を浮かべて言った。
「では当面の目的はそれで行くのですよ、にぱー」

少女達は具体的にどう動くかを語り始める。
会議が終わるにはその後しばらく掛かった。

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最終更新:2009年04月24日 19:47
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