(BR230/05/phase:05) 書き手ロワ国
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書き手ロワ国――中立を掲げるこの国にある情報が齎された。
「これは!?」
その日、書き手ロワ国の外交を担当するネームレスの元に一つの報が届いた。
曰く「此度の漫画国のGR国への侵攻の理由はボイド将軍がお姉さまを嫁に欲したからだ」というものだった。
「ボイド将軍! ロリ好きとは耳にしていたが、まさか侵攻理由が嫁取りだったとは……」
ネームレスは少しの間考え込むと、方策を携え廊下へと出た。
向かった先は空気王いると思しき――調理場だった。
なぜ調理場なのか?
理由は……今日の空気王はカレー作りに余念がなかったからだ。
野球が始まるのはもう少し時間があるので今の間に新たなカレーを作っているのだ。
そして予想通り調理場でカレー作りに勤しんでいる空気王にネームレスは声をかける。
「空気王殿、やはりここにいましたか」
「おお、ネームレスの旦那。いいところに来てくれたな。
新作のカレーなんだが、試食してみてくれ」
「ではお言葉に甘えて……」
空気王に勧められるままにネームレスは新作のカレーを食べ始めた。
その様子を空気王は固唾を飲んで見守っている。
「どうだ、ネームレスの旦那」
「いいですね、これは。スパイスがよく効いていて程よい刺激を与えてくれます。絶品ですよ」
「よし! 改良を加えた甲斐があったぜ。
さっそく新商品として――」
「いえ、それは時期尚早です。
この間の新作カレーはまだ売れ行きが若干伸びていますし。
それにこの味ならもう少し暑くなってからの方が売れますね」
「なるほど、じゃあその線でいこうか」
空気王は新作カレーの出来にかなりご満悦であった。
野球とカレーと娘をこよなく愛する空気王。
なんだか微笑ましい。
「ところでネームレスの旦那は用があったんじゃ」
「ああ、そうでした。実は新しく鉄鉱脈を発見して開発計画を作成してきたので、そのお目通しをしてもらいたくてね。
今から着手すれば、鉄の製造が上がって収益が3割ほど増しますよ」
「また発掘か。いや、助かるよ。さすがは書き手ロワ国三本柱の一人なだけはあるな」
ネームレスはこれまでにもその力で数多くの鉱山や遺跡の発掘を手がけてきた。
この様々な資源も書き手ロワ国の貴重な収入源となっていた。
「いえいえ、僕なんて空気王殿やヨッミー殿に比べてずば抜けた実力もないのにこんな地位まで戴いて光栄ですよ」
「謙遜も程々にしとけよ。それと発掘なら旦那がずば抜けているよ」
「お褒めの言葉感謝します。
あ、もう一つ。5日ほど暇が欲しいのですが、よろしいでしょうか」
「ん? また情報収集か。マメだねえ」
これまでもネームレスが国を離れる事はしばしばあった。
その理由はだいたいいつも一緒だった。
つまりは情報収集。
部下に任せておけばいいのだが、どういう訳かたびたび自分から各国にお忍びで出かけている。
そしてなぜかどこに行っても「古き泉のネームレス」とばれる事はなかった。
基本変装するが何より他の人に比べて地味で目立たないと、ネームレスは自分で思っているんだが真相ははっきりしていない。
「ええ、まもなく大規模な戦争が始まるのは確かです。
我が国は中立の立場を取る事を選びましたが、無事に戦乱を生き抜くには情報は必要です。
なので、各国を回って直にこの目で情報を得たいと思った次第です」
「なるほど、分かった。しっかり見てきてくれ」
「はい、仰せのままに」
空気王の許可も得てネームレスは手早く旅支度を整える。
その手際は慣れたものだった。
準備が整って出発する段になって、ネームレスはヨッミーの元へ向かった。
「あ、ヨッミー殿」
「ん? なんであるか」
「実は例の件の経過報告をしておこうと思いまして」
「おお、あれの事であるか。で、経過はどうであるか」
「一応順調です。ただ、実戦で使えるかは未知数ですね。帰ったらまた報告します」
「分かったのである。では気をつけて行くのである」
例の件が何かはまた別の時に語られるだろう。
(BR230/05/phase:04) ギャルゲロワ国
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GR国では現在漫画国と臨戦状態に入っている。
そのような状況下で行われる事の一つに物資の調達が挙げられる。
物資がなければ戦う事は困難だが、GR国民は皆快く協力してくれるので物資不足の心配はほとんどなかった。
そしてその調達配分を考えるのも宰相の任に就く孤高の黒き書き手の仕事の一つであった。
「はい、確かにあなたの店の割り当てはこれで完了ですね。ご協力感謝します」
「いえ、そんな。GR国で店を出させている者として当然の事です」
今孤高の目の前にいるのはGR国で売り上げ上位3番目辺りに位置する『よろず屋・ハイルド』の店主である古河渚。
『よろず屋・ハイルド』が創業されたのはそれほど古くなく、短い間でここまで大きくなったのは初代店主のハイルドに依るところが大きいと言われている。
開店当初から品揃えは良く、頼めばほとんどの品物が手に入るというのが大きな売りだ。
そのハイルドは店が軌道に乗って安定しだすと、開店当初から付き従ってきた古河渚にその座を明け渡し旅に出たという。
「ええ、そう言ってもらえてGR国の宰相としてうれしい限りです」
「どうも。あ、そうでした。宰相様に渡す商品があったんです。
えーと、こちらが注文されていた『ガラムマサラ』です」
「それは、どうもわざわざ。遣いの者に取りに行かせてもよかったのに」
「いえいえ、これも当店のサービスの一環と思ってください」
終始和やかな雰囲気で手続きを終えて渚はアカイシロを後にした。
城から伸びる大通りには様々な店が並び、人通りも多い。
『よろず屋・ハイルド』は大通りに面した所にあり、立地条件はなかなかいい。
店の広さにも余裕があり、上位3位につけるのも納得できる店構えである。
「お帰りなさい店主」
店先には一人の従業員が渚を出迎えていた。
彼女の名前は深優・グリーア。
この『よろず屋・ハイルド』で経理を担当していて、渚と並ぶ重要な役割を担っている人物だ。
現在この二人が実質この店の中心人物である。
「深優さん、私がいない間お店を任せてしまってすいませんでした」
「いえ、必要な事でしたから店主が気に病む事はありません」
『よろず屋・ハイルド』は今日も繁盛していた。
◇
『だんご だんご だんご だんご だんご だんご 大家族~』
軽快な調べを楽しみつつ街中を歩く一人の眼鏡をかけた端正な顔立ちの青年。
彼を気にする者は一人もいない。
彼の耳には聴器(イヤホン)があるが、微妙に音漏れしていたりする。
『Angel's dew まるで楽園から堕ちる小さな雫~』
曲調が変わり彼もまた耳に入る先程とは違った楽曲を楽しむ。
灰色がかった上着を羽織り、黒っぽい帽子を被って、音楽を聴きながら往来を散策する青年に住人は然して何も思わない。
国民の気質が穏やかなのがよくわかる。
不意に青年は脇道に逸れ、裏通りへと入っていった。
目的地までの近道を知っているのか、その足取りに迷いはない。
「この2曲もいいですけど、やはり――」
そう呟いて青年は音楽を流す機械をいじってお気に入りの曲を聴き口ずさんだ。
「僕はいつでも傍にいる どんな時でも傍にいる この世の全てが敵だって 君だけの盾になる~
いつしか涙は明日を灯す 奇跡の太陽に もう行こう 護るものがあるなら~
……やはり『祈り(Pray)』は最高ですね」
彼の名は古き泉のネームレス。
書き手ロワ国の外交担当であり、ただいま密かに各国の情勢を調査中の身であった。
5日ゆえ行動範囲は限定されるが、それでもだいたいの国は回って後はこのGR国だけであった。
そうこうしているうちに目的の店に着いた。
もう閉店の時間なのか大通りに面したその店は明日に備えて店の整理をしていた。
「ひさしぶりですね」
「お待ちしておりました」
店先にいた店員――深優は声をかけてきたネームレスに気が付くと恭しい態度で返事を返した。
そしてネームレスが何の気兼ねもなく店の中に入っていくと、店主――渚が出迎えてくれた。
「お久しぶりです、ハイルドさん」
書き手ロワ国外交担当「古き泉のネームレス」またの名をよろず屋初代店主「ハイルド」とも言った。
幼き頃からの放浪経験を生かし、ネームレスは独自にGR国に店を構えていた。
当初の目的はGR国での情報収集の拠点としてこの店を作ったのだが、思いの外繁盛したので商売にも力を注いだ結果現状に至る。
最初はこの店が成功するか分からなかったので書き手ロワ国にはこの事は伏せてやってきたが、結局言わないままここまできていた。
だが店は上手く軌道に乗り、店の収益のいくらかは書き手ロワ国の収益になっていたりする。
つまり古河渚と深優・グリーアはネームレス直属の諜報員であった。
またアニロワ国と騎乗士の国にも一人ずつネームレス直属の諜報員は配置されている。
「いつもの部屋は空いていますから、いつでも始められます」
「ああ、ありがとう」
事前に来訪する事は伝えていたので準備は整っていた。
今からする事はなるべく静かな場所がいいからだ。
2階に上がり目的の場所に向かうネームレス。
その部屋は奥の方に位置していて、夜になるにつれて賑やかになる町の喧騒とは一線を画していた。
「では始めますか」
そう言ってネームレスは精神を集中させると、ここに来た最大の目的を果たそうとする。
「骨でも宝でも情報でも拾い尽くしてみせましょう、『無限の猟犬バスカヴィル』」
そう宣言すると、彼の周りに突如黒い犬のような物体が次々と出現した。
その黒い犬は壁をすり抜けて夜の街へと散っていった。
『無限の猟犬バスカヴィル』
これこそがネームレスの持つ特異な能力であった。
黒い犬(便宜上こう称する)を出現させ探索に充てるというものだ。
黒い犬は何かを探し出す習性があるらしく発掘や探索といった場面において有用であった。
ネームレスが生きてこられたのもこの能力によるところが大きい。
目的のものを発見したり、発掘に先んじて調査に向かわせたりと使い道はいろいろだ。
反面、犬自体に戦闘能力が皆無というより犬はその性質上霊のようなもので何かに触れる事は出来なかった。
犬が見聞きしたものはある程度までなら把握できるという利点もあるが、長時間は疲れる、勘のいい人なら犬に気付くなどの欠点もある。
あくまで発掘調査や情報収集に特化した特異な能力であった。
「なるほど」
ネームレスはひとしきり探索を終えると、知り得た情報をまとめていく。
これで本来の目的である情報収集も粗方終わった事になる。
あとは二人にGR国の様子を改めて聞けば終了だ。
『無限の猟犬バスカヴィル』だけでは細かいところは知り得ないからだ。
早速二人を交えての密談が執り行われる。
「となると、やはり現状は――」
「はい。武官と文官は意見が対立したままです」
「古来より武官と文官が争う事は珍しくありませんが、気まずい状況なのは国中がなんとなく薄らと感じ取っています」
「魔王LXの動向は?」
「どうやら本気でGR国内で援助を行うようです。
すいません。さすがに国政の中枢に関する事だけにこれ以上は……」
「いや、それだけでも十分ですよ、渚。
深優、そちらからは?」
「先日、複数の国民が空を飛ぶ物体が漫画国に降り立ったという噂を耳に致しました。
探ってみると、どうやらなのロワ民族から漫画国への援軍らしいです」
二人から聞いた情報と自分の持つ情報とを照らし合わせ、ネームレスは今後の方策を構築していく。
「やはりLS教団とスパロワ国とニコロワ国の動きが読めませんね。
『無限の猟犬バスカヴィル』で多少探りを入れても詳しい事は何一つ掴めませんでしたし、不気味ですね」
LS教団もスパロワ国もニコロワ国も表立っての動きはないようだが、それがかえって不気味に感じられてしまう。
漫画国ぐらいなら分かり易いとも思うが、どうしようもなかった。
先の一戦で負けたものの漫画国の力はまだまだであるし、GR国も増援を要請されたらしい。
つまり……両軍の主力が国境に集中する事態になりえるかもしれないのだ。
「二人に頼みたい事があります」
それを踏まえてネームレスは二人に指示する。
もしかしたら破滅の道につながるかもしれないが、やはり最悪の事態よりはマシだと思えた。
「この戦乱の発端はボイド将軍がお姉さまを嫁にもらいたいという欲求が大元です。
そしてそれを見た他の国も自国の思惑を胸に行動を開始しています。
特にLS教団がどうにも怪しく見えて仕方ありません。
そして僕が思う最悪の事態は……お姉さまの拉致です。
ボイド将軍なら下手したらやりかねませんからね」
もしお姉さまが拉致されればGR国にかつてない激震が走り、おそらくそれを奇貨として他国が攻めよせてくる事は必至だ。
それだけは避けたいところであった。
もしそうなれば国家間のバランスが崩れ、未曾有の大戦乱の時代に突入するからだ。
そうなれば書き手ロワ国とて無事でいられる保証はない。
……実際の理由は別なのだが。
「もしお姉さまが拉致されそうになったら、できる限り阻止してください。
連絡を受ければ、僕も駆けつけるようにはするつもりです。
そして……もしも阻止が無理でお姉さまが国外へ連れ去られると判断したら……こちらで拉致してください」
つまり誰かに奪われるならこちらで奪って匿おうという考えだ――もちろんすぐにGR国に送り返すが。
ネームレス自身にお姉さまを独占したい欲求がないのかと言えばそうではない――むしろ独占したい。
だがそれは許されないと自ら律していた。
お姉さまにはお姉さまの人生がある、無理やり押しつけるのはナンセンスと考えているからだ。
よって軍勢で以て大挙して侵攻するボイド将軍の行動は野蛮だと心中思っている。
(僕はいつまでもお姉さまにとっての古泉君でいたいと思っています。
ま、こんなこと言っても意味が分からないかもしれませんがね。
僕が古泉という名を普段使わないのも、お姉さまだけに使ってほしい……そう思っているからなんですよ。
ふ、なにげに馬鹿ですね僕も……)
それからしばらく会議は続き、今後の対策が立てられたところでネームレスは朝の霧に紛れて帰国の途についた。
(BR230/05/phase:06) 書き手ロワ国
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帰国したネームレスはその足でまず空気王の元へ向かった。
もちろん今回の調査で知り得た事を報告するためである。
「これが今回知り得た情報です。とりあえずは各国ともに動静の見極めが難しいです。
今度はより一層情報を集めて事に当たる必要があると僕は考えます」
「ああ同感だ」
「もしかしたら国外に出る回数が増えるかもしれませんが、それはご了承ください。
僕にできる事は精々発掘と情報収集ぐらいですしね」
「おい、それって結構重要だぞ。
よし、会議だ。ヨッミーの旦那を呼んできてくれ。
自分は眉目秀麗――」
「はいはい、かがみん姫とみWiki姫は任せましたよ」
空気王の親バカ発言は放っておくと何時間も続く事をネームレスは身を以て知らされていた。
退避も兼ねてすぐさまヨッミーを呼びに行った。
「ん、ネームレスお帰りなのである。首尾はどうであった?」
「ヨッミー殿、それはこれから行われる会議で教えます……という事で、会議室に行きましょうか」
「承知したのである。ところでネームレスよ」
「なんですか。妙に真剣な感じで……」
「時には自分に素直になっても罰は当たらないと思うのである。
もっと自分を大切にした方がいいぞ」
どことなくハッとさせられる言葉だ。
ヨッミーはたまにこういう的のど真ん中を打つ言葉が出る。
名前通りネームレスの心でも読んだのだろうか。
「ふう、忠告はありがたく受け取っておきますね」
「よろしい」
中立を宣言する書き手ロワ国。
小国なれど懸命に動乱を生き抜こうとする努力はいかなる結果を齎すのだろうか。
最終更新:2009年04月24日 21:46