ロボロワ国――過去

(BR229/12/phase:??) ロボロワ共和国 
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――これは漫画国とGR国が戦争になるより遥か前、ロボロワ国と漫画国が同盟を組む頃の話――

「ふやー……☆」

小柄な身体には不釣合いなほど大きなベッドで寝ながら、可愛らしい声をあげる少女のような少年が一人。
紅蟹公をモデルとしたぬいぐるみを抱えながら夢の世界へ旅立っているアニジャ大統領である。
性別関係なしに悩殺できそうな光景だが、たった今部屋に入ってきた女性は感情の欠片も見せずにアニジャへ呼びかける。

「アニジャ様、起床の時間です」
「ぅー……? ぁ、ぎんがー……おはよー……☆」
「おはようございます」

――現在不覚にも想像してしまった書き手が萌え狂っております、しばらくお待ちください――

「……?」
「どうしたの?」
「いえ、何か気配を感じた気がしたのですが……気のせいだったようです」
「ギンガが勘違いなんて珍しいねー」

ギンガ=ナカジマ、アニジャの近衛兵兼世話係となっている「機人部隊」の長である。
ロボロワ国の住人のほとんどは生体ベースだが機械の身体を持った者だ。
その中でも戦闘向けに調整された者達が機人部隊、もしくは兵として起用される。
無論アニジャ自身もその例外ではなく、その姿とは裏腹に大の男にも負けない力を秘めている。

「今日の仕事は楽だといいなー☆」
「そういうことは口にしない方がいいかと」
「ぇー? いいじゃん、ギンガ達しかいないんだしー☆」

ウッカリデスと対面していた時とはまったく違う、砕けまくった口調。
この口調を聞けるのは彼が心から信頼を置いている者達だけだ、紅蟹公と一緒の場合は例外になる可能性もあるが。

「ノーヴェ、チンク、おはよー」
「ああ、おはよう……ございます」
「まったく、相変わらず気の抜けた顔をしている」

赤毛の少女と、アニジャと瓜二つの少女の二人が出迎えてくる。
ノーヴェとチンク、機人部隊の二人だ。
軽く挨拶をかわしながら席へと座り――同時に書類の束が机に置かれた。

「えっと、今日……本日分の書類、です」
「あはは、ノーヴェ、ボク達だけなんだから無理に敬語使わなくていいよー」
「……慣れとかねぇと面倒なんだよ」

吐き捨てるように言うノーヴェに微笑み、同時に机に大量に置かれた資料に顔を引きつらせる。

「本日分だ、今日中に目を通しておいてくれ」
「ち、チンク? これ、全部……?」
「全てではないぞ、追加があるかもしれないからな」
「えーと、でも何かいつもの3倍近くー」
「自業自得だ、最近漫画国との交流が増えているだろう、そのせいで余計な問題も起きてしまっている」

そっくりな顔に半目で睨まれながら、救いを求めるかのような目で見つめ返す。


「あ、あの、少し手伝――」
「それでは失礼する、新しく入った将の鍛錬をせねばならないからな……あのネギは本当に何でできているんだ? ナイフの刃が通らないとは」
「ギンガー……」
「後で紅茶をお持ちします、ご公務頑張ってください」
「の、ノーヴェー……」
「あ、あー、そういやゼロと戦時の隊列についての打ち合わせが……」

露骨に視線をはずし次々と退室していく。
自分達が公務を手を出すわけにはいかないのだが、側にいたら遂手を貸してしまいかねない。
一人残されたアニジャは涙目になりながらひたすら書類と格闘するのだった、南無。


ドットーレ、もといカイザはロボロワ共和国を歩きながら何ともいえない居心地の悪さを感じていた。
漫画国の使者として来たのはよいが、アニジャとの対面では独特の雰囲気に毒気を抜かれ、更にはこの国自体も彼の肌には今一合っていない。

「平和すぎる」

ライダー国は愚か、漫画国と比べてもこの国は平和なのだ。
住民同士が欠点を支えあい、長所を褒めあい、皆が笑顔で過ごしている。
荒くれ者との戦いの毎日であったカイザにとって、この国はまさに未知の存在だ。

「信頼、か……」

温い考えだ。
力なき者に誰もついていきなどしない、信頼などと言っているアニジャでさえ、その身には相応の力を持っているとカイザは感じていた。
だが――

「綺麗だな、ここの空気は」


「うー……喉、渇いたー……」

ギンガが持ってきたポットを傾ける……中身はすでに空だ。

「ぁぅー、そういえば今日って満月だっけ……」

まだ昼過ぎだから月など出てはいないが、空を見上げる。
どんよりと曇っている、雨が降るほどではなさそうだが、日光は完全に遮られていた。

「……ダメダメ、ウチの国民に手を出すなんて――」

首を振って自らの内に湧き出す欲求を振り払おうとし……あることに気づく。

「そういや、いたっけ……『人間』が」

その数十分後、ギンガが入った部屋にアニジャの姿はなかった。



「ん?」

カイザの目の前に翼を持った青髪の少女が降り立つ。
ゴスロリとでも言うべき服を着たその幼く見える少女は、満面の笑みを浮かべながらカイザへと一歩、二歩と歩み寄る。

「見つけたー☆」
「何だ、俺に用か?」

問いかけながら後ろ手に宝具を取り出し変身のためのコードを入力していく。
カイザは気づいている、目の前の少女が見た目からは想像できないほどの力を持っていることに。

「あのねー☆ とっても喉が渇いてるから、飲みたいんだー☆」
「……何をだ?」

『9』

「あのね――」

『1』

「あなたの――」

『3』

「――血!」
「変身!」

カイザの予想さえ超える速度で迫る少女の爪をギリギリで回避し、同時に宝具を纏う。
続けざまに繰り出される爪を、足を次々と捌きながら後ろへと下がる。

「うー☆ 早く飲ませてよぉー☆」
「その程度の力で調子に乗るな!」

叫びながら強引に少女の腹を殴りつける。
宝具の力は堪えきれるものではなく、少女は吹き飛ばされ近くの壁へと叩き付けれられてしまう。
だが、険しい顔つき――仮面で見えないがそれは置いておく――なのはカイザの方だ。
今の一撃、並の人間ならそれだけで死んでしまう可能性すらあるほど力を込めていた、他国領土だからといって敵を倒すことに躊躇などしない。
しかし、少女は多少よろめきながらもあっさりと立ち上がり、軽く咳き込みながら悠長に服の汚れを叩き落としている。

「吸血鬼ってのは、どこの奴もやっかいなものだ」
「ぅー、喉渇いてるだけなのにー……大人しく吸われてよー」
「従わせたければそれ相応の力を見せるんだな……消えろ」

―― EXCEED CHARGE ――

呟きながら、カイザの右足から黄金のエネルギーが放たれ少女の身体を束縛する。
突然の事に困惑する少女目掛けて跳躍し、両足を――

「動けるだと!?」
「本気でいくよーーー☆ 神槍『スピア・ザ――」
「ちぃ!」
「グングニル』!」


少女の手に突如現れた巨大な光の槍が放たれる。
その槍とカイザの蹴り、ゴルドスマッシュが激突し――双方が逆方向へと吹き飛ばされる。

「互角……いや、押されたか……!?」
「ぅぅー……痛いー……」

予想外の事にわずかに動揺し、姿勢が崩れた分カイザの技の威力が削られてしまった。ダメージが大きい。
少女の方はといえば、流石にそれなりのダメージはあったようではあるがまだやれそうだ。
カイザが体勢を立て直す間に、再び光の槍が生み出され――そのまま倒れる。

「なんだと……?」
「あぅー……疲れたー……」
「……何なんだ、こいつは」

目を回してばたんきゅー状態になっている少女を見下ろし、カイザは頭を抑える。
止めを刺すのは簡単だが、すでに抵抗する力は残っていなさそうだ。他国領土というリスクを背負ってまで殺す必要はないだろう。
放って帰ることを決め変身を解いた直後、ギンガがやってきて少女を見つけると急いで抱き上げた。

「おい、何なんだそいつは」
「客人……申し訳ありません、もしやこの少女に襲われたのでしょうか」
「ああ……」

カイザの答えを聞いたと同時に、ギンガは少女を抱いたまま深く頭を下げる。

「申し訳ありません、謝ってすむ問題ではありませんが、アニジャ様にも訳があることをご理解していただきたく――」
「待て、アニジャだと……この女がアニジャ大統領だというのか?」
「はい」

ギンガの表情は変わらない、彼女がふざけた嘘など言うタイプでないことはわかる。
ならば目の前のこの少女は本当にアニジャなのだろう。
……と、理解はしても納得はできない。

「説明してもらえるか」
「はい、着いて来ていただけますか」


アニジャの寝室、そこでカイザはチンクからアニジャ大統領について説明を受けていた。

「吸血鬼に襲われたのはわかる、漫画とアニロワ国にも有名なのがいるからな」
「孤城の主か、確かにあれを思ってくれれば判りやすい」

孤城の主、アニロワ国と漫画国を中心にパロロワ大陸全土を恐怖で振るい上がらせた伝説の吸血鬼である。
何度撃たれ、切り裂かれても、そのたびに再生し闘争を求め続ける姿に人々はただ恐怖していた。
今ではアニロワ国のどこかに厳重に封じられているらしい。

「アニジャ様を襲った吸血鬼の名はレミリア=スカーレット、LS国に住み着いている奴だ」
「ほう……」

孤城の主に比べれば知名度は下がるが、それでも有名な吸血鬼。
絶対的なカリスマを持つ、気まぐれなお嬢様。
LS国の近辺に潜伏し、時折ふらっと外を出歩いては人間の血を吸って飢えを満たす。
吸血鬼に血を吸われ死んだ者はその僕の吸血鬼となる、というのは子供でも知っていることだ。


「LS国の吸血鬼がわざわざここまで、か。何か狙われる理由が?」
「意識を失う直前に聞こえましたが……気まぐれだそうです」
「アニジャ様、大丈夫か?」

頭を押さえながらアニジャは半身を起こし、近寄るチンクを片手で制する。

「申し訳ありませんカイザ殿、取り返しのつかないことを……」
「そんなことはどうでもいいんだが。続きを聞かせてもらいたいな」

謝罪などカイザには興味がない、むしろアニジャも力を持っていたことに満足をしていたぐらいだ。
その言葉に今だ吸血鬼の少女の姿のまま、きょとんとカイザを見つめ、苦笑しながら口を開く。

「レミリアに襲われたのは、この国が形となってすぐの事でした。私を狙ったのも、この国まで来たのも彼女の気まぐれ、それだけだそうです」
「……迷惑な話だ」
「それがレミリア=スカーレット、だそうですよ」

確かに迷惑ですが。と肩をすくめる。
一度殺された相手に対する態度としては随分と軽い、
これが僕になるということかとカイザは納得しそうになるが、アニジャは首を振ってそれを否定する。

「確かに吸血はされましたけど……これも気まぐれの一種なんでしょうかね、死には至らなかったんですよ」
「……だが、吸血鬼にはなったんだろう?」
「その辺り、よくわからないんですよね……彼女の僕ではない、けど吸血鬼……その吸血鬼化も随分中途半端なんです。
 満月の日ぐらいしか吸血衝動も湧きませんし、スペルカード……あ、最後に使った光の槍です。あれも万全の状態でせいぜい二発が限界」
「確かにそれは、中途半端だな」
「……将軍の血筋のせいじゃないか、なんて説もありますが」

とてつもない説得力だった。

「まあ、そんな中途半端なこともありまして、いつもは輸血用の血液を混ぜたケーキや紅茶で耐えてました」
「なるほどな、この国に純粋な人間、血液は存在しなかったから抑えられてたわけか」

カイザの言葉を静かに肯定。
誤魔化し続けていたところに人間であるカイザがやってきたため、衝動に耐え切れず暴走してしまったのだろう。

「で? 今は大丈夫なのか」
「あ、あはは……実は結構頑張ってます」
「……このナイフはお前のか? 借りるぞ」
「む、そうだが……変な真似は考えるなよ」

チンクの持っていた投げナイフを一本手に取り、おもむろに右手で刃の部分を強く握り締める。
二人が驚愕している間にアニジャに近づき、血の流れる右手を口元に押し付けた。
アニジャは唐突すぎる展開に目を白黒させ――湧き上がる吸血衝動に耐え切れずその手に貪りつく。
傷口に牙を立てられカイザの顔がわずかに歪む、そのことに気も止めず、ただひたすら湧き上がる血を吸い続ける。
チンクはどうするべきかわからず、ただその光景を見つめることしかできない。

「んっ……く……はぁっ……かい、ざ殿、どうして」
「……落ち着いたようだな」
「私は不完全な吸血鬼です……何がどう作用するかわからないんですよ……」

例え少量でも、カイザの身体に変化を与えかねない、
アニジャは向こう見ずな行動を責めるように睨むが、関係ないといった様子でカイザは口を開く。

「俺はお前を認めたくない」
「え……?」
「この世は力だ、力でこそ治め、守り、砕くことができる。だというのにその力をわざわざしまうお前を、俺は認めない」
「貴様、何を――」

思わず立ち上がるチンクを再び手で制する。


「……私にはそれが正しいかわからない、それと同様に、間違っているのかもわかりません」
「ならば実際にその力を振るえ、誤魔化すだと? ふざけるな。その力を手にしたこと、その全てを偶然で片付ける気か」
「……」
「それは逃げだ、突然武器を渡され持て余す子供と同じだ、血が必要ならばいくらでも飲むがいい、力と向き合え、出なければ俺はお前と同盟など組む気にはならない」
「なっ、同盟を組むと持ちかけてきたのはそもそもそちらだろう!」
「チンク、何度も言わせないで」

三度チンクが止められ、アニジャは真っ直ぐにカイザを見つめ――その首に牙を立てる。
……立てただけで血を吸おうとはしない。
カイザも意図が掴めずアニジャに問いかける。

「何の、つもりだ?」
「時が来れば力を振るうと誓いましょう、貴方への詫びととってください」
「……」
「ですが、今後血は吸いません。ただの自己満足ととってもらって構いません。ですが、この思いは貫き通す」
「多少はマシになったか、だが、その中途半端な覚悟は命取りになりかねないことを――」
「承知してます」

強い口調で遮る。
正面から見つめてくるその瞳には、強い『力』が込められていた。

「……いいだろう、お前の力、見させてもらう」
「……ええ、真に認められるよう、頑張らせていただきます」

わずかに笑みを浮かべ、互いに拳を合わせる。

……こうして、漫画国とロボロワ共和国の同盟は結ばれる。

(BR230/05/phase:05) ロボロワ共和国
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「……もう半年前ですか、月日は早いですね」

窓際で同盟を組んだ頃を思い出し、物思いに耽る。
その窓へと一人の少女が飛んできた。

「アニジャ様ー」
「ミックミク氏、偵察結果ですか?」

水色のツインテールをしたその少女はミックミク。
空を飛べ、他国の偵察を主に行っている――独特な発音は愛嬌だ。

「漫画国の第一陣ガ撤退しまシたー」
「ふむ、攻め手の初手がはずしましたか。きつそうですね……GR国の武将は?」
「バトルマスターでシター」
「流石……ですが、一人とは妙ですね。いも――紅蟹公は出てないんですか?」
「ハイー、伝令に数名戻っテマしたけドー」


ミクの報告を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。
前線に出ていないということは紅蟹公に怪我はない、その事はアニジャにとってこの戦争の結末などより遥かに重要なことだ。

「それではすみませんミク氏、逐次報告を願えますか」
「りょーカイでスー」

敬礼し、ふよふよと再び戦場の方向へと飛んでいった。
一息つき、部屋へ戻ろうと足を向け――止まる。

「妹者が戦場に出ていない……? 主戦力であるはずなのに……
 まさか病気で戦えないとか!? ああ、もしかしたら何か重大な事件に巻き込まれているとか!?」

紅蟹公のことを考え出した途端、突如うろたえまくる。
想像だけでこうなるのだから、もし負傷したなどと報告を受けたらGR国に飛び出しかねないだろう。
――訂正、すでに飛び出そうとしている。

「ああもう、こんなところで待ってられないー! 待ってて妹者、今からそっちへ――」
「行くなぁ!」

吸血鬼の姿になってまで窓から飛び立とうとするアニジャを、絶妙なタイミングでウッカリデスが叩き落す。
若干涙目になりながらウッカリデスを睨むが、ウッカリデスとて一国の将、その程度で怯みはしない。

「ううー☆ 妹者のところに行くんだから邪魔しないでー!」
「一国の主がいきなり敵国に飛び込んでいってどうするんです! 国民との信頼はどうなったんですか!?」
「ぁうー、妹者が危険なのにじっとなんてしてられないー!」
「前線に出てないんでしょう、心配いりませんよ! まったく、どうして私がお目付け役になっているんだか……」

思わず愚痴るウッカリデス。
機人部隊と言えば「楽になる」と各々自分達の事に専念している。
一応客将の自分に任せるとは、本当にこの国の人間は警戒心というものが無いようだ。

「ほら、まだ仕事が残っているでしょう!」
「あーうー、妹者ー!」

襟首を掴まれ引っ張られていく。
ロボロワ共和国は、今日も平和である……

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最終更新:2009年04月24日 21:49
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