騎乗士の国 三銃士

(BR230/05/phase:07) 騎乗士の国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 赤い大地で舞う砂埃を流されはぼんやりと見つめ、ため息を突く。
 降り注ぐ日差しは強く、五月なのに汗ばんでしまう。
 大通りには行商人がいき通い、先日漆黒姫が襲われたとはとても見えなかった。
(そういえば姫は今頃ギャグ将軍さんに絞られているのかな?)
 もしそうなら、災難だと思う。
 いくらこの国の治安が悪いとは言え、珍しい果物に惹かれて外へ無防備で出る姫の気持ちが流されには分かるからだ。
 常に臨戦態勢、これは割りと疲れる。
 平然としているカイザやエースが異常なのだ。
 彼の二人は常時戦場の心構えを持つ漫画ロワ国の武将でもある。
 カイザはこちら出身で、前大戦から戦い続けていたから理解もできる。
 その彼に平然とついていくエースには驚きと尊敬の念を抱いていた。
 カイザはこの国では有名な武将である。
 山を二つに砕いたとか、戦闘の余波で四方数キロメートルを灰燼に化したとか、海の上を走ったとか、宇宙空間を裸で泳いでいたとか、宇宙服一つで大気圏突入したとか、逸話には事欠かない。
 もちろん、脚色はされている。本人が聞けば、鼻で笑っただろう。
 思考を進めながら、流されは自分の鎧『ファイズ』を召還するファイズギアを見つめる。

 四本のベルト―― この国に伝わる宝具の中で、もっとも有名であり、汎用性があり、また呪いの強い宝具たち ――は特殊な位置にある。
 勇者が使ったとされる『ファイズ』『オーガ』は人気があり、英雄の証とまでされている。
 忌み嫌われているのは、カイザ……いや、仮面ライダー書き手が使う『カイザ』及び誰も使われていない『デルタ』だ。
 事実、カイザギアは死人を出している。
 仮面ライダー書き手がまとうまで、何人もの人間がカイザギアに挑戦し、灰となって消え去った。
 資格者以外を拒絶するオーガギアやファイズギアとは違う。
 もたらすものは濃厚な死。
 ゆえに彼の宝具は『金の悪魔(カイザ)』の名をつけられているのだ。

 そのカイザギアと兄弟機のファイズ。
 当初はこの宝具を自分に与えられたのは驚いた。
 基本能力は四本のベルトでは一番低いものの、拡張性が高く、今は行方不明となっている宝輪『ファイズアクセル』と宝銃剣『ファイズブラスター』を使うことができる。
 宝輪『ファイズアクセル』は音を越える速さを与え、稲妻のごとく敵を討つ。
 宝銃剣『ファイズブラスター』はファイズの鎧を赤く染め、炎のごとく灼熱の刃で山をも斬ることができるらしい。

 まさに伝説。
 その力を流されは渇望する。
 市街を見渡すと、焼け焦げた跡、杖を突いた怪我人、半壊した建物が見える。
 流されは怒りを覚え、テロリストに対し苛立つ。
 もともと不毛の大地を開拓して作ったとはいえ、そこで安住する人々が傷つく様を見るのは、流されにとっては耐え難いことだ。
 流されが自分でも気づかないほど厳しい顔をしていると、横ぎる影が現れた。
 とっさにファイズフォンを掴むも、現れた影に安堵する。
 黒い長髪……いや、伸ばしたまままとめることのない髪形、太い眉にヒョウを思わせる鋭い瞳。
 動物の皮を使ったような柄ジャケットを羽織る野性味の溢れた男。
 彼は流されと同じく、騎乗士の国の新しい武将であった。


「餌付けさん。どうしました?」
「流され、怖い顔していた」
 子供のような純真な瞳に射抜かれ、流されはハッとした。
 自分は物騒な考えをしていたようだ、と自省する。
「すいません。餌付けさん」
「流され、友達。気にするな」
 手と手を組み合わせてひっくり返しながら流されの眼前へ向ける。
 彼の親愛の情の証だ。その様子に微笑ましくなる。
 お互い騎乗士の国に仕えて日が浅い。同期といってもいい存在ゆえに気心がしている。
 もう一人、AJがいれば三人の新人武将が揃うわけだが。
 彼にはどっちかというと、とっつきにくい印象がある。真面目な流されとは相性が悪い部類だ。なぜか餌付けとは気が合うらしい。
 顔をあわせるのが少し気が重い、そう考えながら、流されは餌付けと並び見回りを再開した。


 見回りを終了し、ギャグ将軍と待ち合わせをしている場所へと足を向ける。
 テラスにテーブルが並ぶ、老舗の喫茶店『Amigo』……いや、

「「「いらっしゃいませ、ご主人様!!」」」

 "メイド喫茶”『Amigo』。
 店長の立花藤兵衛を持つ騎乗士の国で有名な店。
 コーヒーが美味いことと、騎乗士の国中の綺麗どころを集めたことで有名なのだが、なぜこの店が騎乗士の国で栄えているかは、七不思議の一つである。
 国営のメイド喫茶なのに、テロリストの標的にもならない。不思議な場所であった。
 まあ、国営のメイド喫茶なんて奇妙以外何者でもないが、ギャグ将軍の趣味だと流されは考えている。
 本当はこのメイド喫茶、開いたのは仮面ライダー書き手、カイザだったりするのだが。
 まあ、それはさておき、流されは奥へと入っていく。
 青いメイド衣装に派手なメイク、アップにした黒い髪にメイドキャップをつける二十台半ばの女性に目を留める。
「あら~、流されさん、いらっしゃ~い!」
「なにしているんですか。ギャグ将軍さん」
「えーん☆ 今の私をサービスって愛を込めて呼んでくれないと、泣・い・ち・ゃ・う・ぞ☆」
「…………勘弁してください。サービスさん」
「いい子いい子。なでなで」
 サービス……ことギャグ将軍Verスマートレディーが流されの頭をなでる。
 ギャグ将軍は七色の声と姿を持つ。サービスモードもその一つだ。
 噂では、空中元素固定装置というものを持っているとかいないとか。
 とにかく、その姿は変幻自在。真の姿を見たものは、子供たちを除けばカイザやまとめキングのみ。
 ため息を流されがついていると、隣にいた餌付けの姿が見えない。どこに行ったか疑問を持つ。
「もー☆ 餌付けさんは行動が早いですねー☆ VIPルームにちゃんとご飯が置いてありますから、あっちにいきますよ」
「ガウ?」
 肉を見つけて目を光らせる餌付けの襟を掴んで、サービスは進む。
 VIPルームと呼ばれる、武将専用の部屋へと。流されは能天気な二人を見て頭痛を感じ、嘆きたくなった。
 ちょっと軽すぎないだろうか? 二人の組み合わせを見ると、いつも抱く不安を抱えて、流されは進む。


「い、いらっしゃいませー、ご主人様」
 闇その2、彼女は入ってきた客に、転へと向け続けていた笑顔を向ける。
 割と苦痛だったが、これも転のためだと思えば苦にもならない。
(そうよ、転様のためなら、火の中水の中、お尻を触られようとも……)


「へへ、姉ちゃんいい胸しているね」
「いや~~~!!」
 ゴキッ!っと鈍い激突音が店内に響く。ただ、声をかけられただけなのに。
 武将が集まるこの店にて情報を集めようとした闇その2、彼女の苦行は続く。
 セクハラにも免疫のない乙女として。
 転のために、グランザイラスを使い、騎乗士の国を混乱に叩き込むために。
「お前、何やってんだァァァァァァ!!」
「はわわ、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!」
 ……騎乗士の国が大丈夫っぽいのは、気のせいだろう。
 危機が訪れているといえば、訪れているのだから。
 多分、おそらく、もしかして。


「今日は気分がいい、どうせならこのメニュー全部持ってこい!」
「「「さすがAJさーん!!」」」
 黄色い歓声の中、豪快な注文をする長髪の色男が一人。
 白いスーツを着こなし、ホストのような印象を持つ面長の優男だ。
 騎乗士の国の武将が一人、AJである。
 実力は新人ながらも折り紙付であるが、騎乗士の国では女遊びが激しいとの噂である。
 他の武将、とくに流されからは白い目で見られているが、本人は意に介することはない。
「またですか。AJさん……」
「ん? お前か、流され。人生は一度っきりだ。楽しまなきゃ、損だろ?」
「今がどういう状況か、分かっているのか?」
 険悪な空気が流されとAJの間に流れる。
 AJを取り囲んでいたメイド服のウェイトレスたちも状況を察して離れていく。
 その様子を見て、AJはため息を吐いて流されをねめつけた。
「おいおい、人が楽しんでいたのに邪魔するか? 普通。空気くらい読め」
「俺たちはギャグ将軍さんにパトロールの結果を報告をするためにここに来たんです。
遊ぶためではないでしょう!」
「だから、俺はお前たちが来るのを待っていただろ? 待つ間、楽しんでなにが悪い?」
「そういう問題じゃ!」
「スト――ップ!! 喧嘩もここまでですよー!! プンプン☆!」
 サービスの制止を耳にしても、二人はにらみ合いをやめない。
 深く深く呆れのため息を吐いたサービスの後ろで、餌付けは並べられていく料理に手をつけていた。
「ガウ? 流され、AJ、喰うか? 美味いぞ!」
 差し出された食べかけの料理を前に、AJが笑う。
 そのままポン、と餌付けの肩を叩いて、席を立ち上がった。
「餌付け、好きなだけ食べろ。俺のおごりだ。じゃあな、流され」
「どこに行くんですか? AJさん」
「俺がいうべきことはないぜ。特に怪しいもんはなかった。じゃあな」
 手の平をひらひらふって、AJが去っていく。
 彼の宝具が特殊なのは認めるが、流されはその態度が不快だった。
 厳しい視線を送る流されを、マイペースな餌付けを、自由奔放なAJを見つめて、ギャグ将軍はため息を吐いた。




(BR230/05/phase:08) 騎乗士の国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 そよ風が窓より入り、ギャグ将軍の体感温度を下げてくれる。
 いつもの金の鎧に身を包み、コーヒーを口元に運んでいた。
 彼女はメイド喫茶での報告を聞き終えて、、執務のために彼女の仕事部屋へと戻ってきたのだ。
 その瞬間、彼女の通信機器が甲高い電子音を鳴らした。
 相手はカイザ、内容はボイドの腕の話。
『…………と、いうことでボイちゃん用に義手を送ってくれ』
「うむ、最高の義手を送ってやろうぞ。我ら、女性研究員部隊の力をもっての!!」
『ああ、出来るだけ趣味の悪いのを頼む』
「任せるがよい」
 その一言で、声は途絶えた。騎乗士の国と戦隊の国に広がる通信機器、『携帯電話』。
 宝具として活用されているファイズフォン、カイザフォンからデータを取り、通信機能のみに特化した騎乗士の国の開発物だ。
 これにより、騎乗士の国は通信機器は優れているのだが、『電波』が届かない場所ではただの機械でしかない。
 しかも、都合よく電波の中継地点がある場所は限られている。
 よって、全ての国に普及するほどではない機械だ。
「ふむ、ボイドよ。わが騎乗士の国の技術の結晶、くれてやるわ!
ハハハッハハハハッハハハハハハハッハハハハハハッハハハハハッハ! にょろーん」
 こうして、ボイドに義手が送られることになる。
 漫画国将軍、ボイドの命運は……尽きたのかも知れない。


(BR230/05/phase:09) 騎乗士の国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 パトロールをライオ部隊に任せ、一人街をぶらつくAJ。
 流れる人を見ながら、彼の視線は一定だった。
 商売人が物を売っている商店街。しかし、一つ脇道へと入れば、ゴミ溜めのようなスラム街が見える。
 ギャグ将軍やカイザが気づいている、この国のこぼれてしまう人々。
 少数の幸せのために犠牲になった人々。
 親もなく、施設にもいけなくなった、この国の犠牲者たち。
 なにも、テロリストたちのせいだけではない。
 国を続けていく上で、どうしても出てしまう人たち。
 騎乗士の国も栄えてきたが、こうしたスラム街は消えることはない。
 ギャルゲ国やアニロワ国、意外なことだが力が全ての漫画国などの大国にはこの手の掃き溜めはない。
 たいてい、そういった掃き溜めは国内でなく、毒吐き神殿所へと移ることになるのだ。
 騎乗士の国では、なぜか移らずに、国へと残りながら国へ不満を抱えて居座る馬鹿が多い。
 それがテロリストだが、ある噂を得てAJはこの路地へと入ったのだ。
「おい、ここからは通行禁止だぜ」
 AJは声をかけてくる男の顔に裏拳を一発叩き込む。
 気色ばむ周囲を前に、悠然とした態度を隠さない。
「ここに宝具の違法取引がされていることは知っている」


「てめえ……」
「返してもらうぞ。その力」
 AJが呟くと同時に、腰にライダーベルトが顕在する。伝説の、2号ライダーのベルトと、それは酷似していた。
 風車が回り、刹那の間で身体に黒いライダースーツと緑の強化アーマーを一瞬で装着。
 ゆっくりと、どこからか取り出したヘルメットをAJは被る。

 ―― 騎乗士の国、そして少数だが、ロボロワ共和国、漫画国には、ライダーや改造人間の血を引いている者の中には『変身態』を持つものがいる。
 ―― AJは伝説の勇者、イチモンジの血を引く系列だが、変身までは至れなかった。
 ―― それで出来たのが、宝具『ホッパー2号』。量産型初代ライダーの試作品の宝具の片割れ。
 ―― ベルトを展開、『ホッパー2号』を纏い、ヘルメットを被ることによって、AJに眠る『変身能力』が引き出されていく。
 ―― 宝具と『変身能力』両方を掛け合わせた新しい変身システム。
 ―― その力で戦う男が武将AJであった。

 カチャリ、とクラッシャーをAJはマスクと接続し、紅の瞳が輝く。
 ホッパーの名に相応しく、バッタを模した伝説の初代ライダー二人と酷似した姿で、AJは目の前で変身していくテロリストたちに立ち向かう。
 単独行動、援軍も期待が出来ない。酷くリスクが高く、死ぬかもしれない命令以外での戦い。
 だがその宝具は、AJにとってそれだけの価値があった。


「くそっ!」
 流されが必死に駆け、テロリストが暴れているという場所へ急ぐ。
 旧したらば法廷所が狙われているらしい。
 あの場所は、新しく出来たギャグ将軍管理のしたらば法廷所があるため、象徴のような存在だがあそこが消えてしまうと修復費にいくらかかるのか。
 そして、その周囲に住んでいる人たちへの被害を考えると、流されの怒りが溢れる。
 現場に到着した流されの瞳に、驚愕の色が宿る。
 硝煙のにおいがする現場には、黒焦げた人々の死体。
 燃え盛る建物に、逃げ惑う人々。
 その人を背中から襲う怪人や黒タイツの戦闘員。
 腹に剣が突き刺さったまま絶命している、部下のライオトルーパーたち。
 空から襲撃してくる火炎コンドルを前に、流されは怒りに任せるままファイズフォンの電子音を三回押す。
 漏れる英雄の電子音。
 気づいた怪人たちを睨みつけ、流されはその呪文を怒りを持って唱えた。

「変身!!」

 ―― Complete ――

 赤いフォトンブラッドのエネルギーが、血脈のように流されの身体を包み込む。
 黒い強化スーツが形成され、その上に銀の鎧が炎の赤を反射して生まれる。
 黄金のバイザーに、φの字の仮面を持って、流されは火炎コンドルに向かって突撃をした。
「来たな! 仮面ライダー!!」
「うるさい!!」


 火炎コンドルの右頬を加減なく殴りつけ、五メートルほど吹き飛ばす。
 四方から迫る戦闘員に、回転蹴りで一掃。
 瞬時に体勢を整えてパンチングユニット、ファイズショットを構える。
 走るファイズのエナジーを持って、火炎コンドルを流されは見据えた。
 地面を蹴ると同時に、疾風のごとく突進で右腕を火炎コンドルへと叩き込む。
 いや、叩き込む直前、流されと火炎コンドルの間に、大柄な影が遮る。砲弾が激突した轟音が、広間に響いた。
 たしかな手ごたえを感じたものの、目の前の影は小揺るぎもしない。
 ファイヤーコング……目の前の怪人は厚い胸板でグランインパクトを防いだのだ。
「甘いな、仮面ライダー!!」
 ファイヤーコングの鋼鉄の腕が流されの鳩尾を打ち抜く。
 今度は流されが壁へと叩きつけられた。
「オネンネにはまだ早いぜ、仮面ライダー!」
 火炎コンドルが炎を吐き出し、ファイズの身が焼かれる。
 たまらず、銃型武器フォンブラスターで対抗するが、今度はファイヤーコングが前に出て銃弾を弾く。
 空を飛んできた火炎コンドルが流されを掴んだ。
 抵抗をしようとする流されを、ファイヤーコングの右拳が胸板を殴り、痛みで中断される。
「このまま空から落としてやる!」
 言葉どおり、火炎コンドルが空へ急上昇。地上が小さく見える。
 ここから落ちれば助からないだろう。
「命ごいをしろ。そうすれば助けてやる!」
 せめて、こいつだけは。流されは最後の決意で、その顔を殴りつける。
 鼻の骨が折れる音と、身体が落下していく浮遊感に包まれ、このまま死ぬのか、と今までの出来事を思い出した。
(カイザさん……すいません。俺は……)
 広がる絶望。流されには、死が迫る運命しか見えなかった。

 ―― ……れ

 その声が、バイクの排気音と共に聞こえなければ。

「流され! 掴まれ!!」

 AJが、彼愛用の新サイクロン号に乗って右手を差し出してきた。後輪には餌付けも乗っている。
 思わず、流されはAJの右手を掴む。ガッシと、二人の右手は繋がった。
 勢い、餌付けがAJより流されの身体を掴んで、引き上げさらに後ろに跨る。
 そのまま民家の屋根を新サイクロンは火花を散らせてドリフトし、衝撃を逃す。
 白い蒸気を纏い、AJが下にいる二人の怪人を睨みつけた。
「流され、まだいけるな?」
「ああ……もちろんだ!」
 流されの返答に安心したような笑みをAJは浮かべ、何かを放り投げる。
 受け取った流されは、それを見つめて驚いた。ファイズアクセル……ファイズの力となる、宝輪だ。
「こ、これは……」
「流され。AJは徹夜でそれを探していた。餌付け、知っている」
 流されはハッとしてAJの顔を見ると、傷がついている様子が見て取れた。
 目の下の隈は濃く、寝不足であることを示している。
 バツの悪そうな表情をしているAJを前に、彼を嫌っていた自分を流されは恥じた。
「おい、行くぞ。餌付け、俺たちも変身だ」
「ああ、まかせろ」
 二人がバイクに降り立ち、確かな正義の怒りを持って、眼下の敵を睨みつける。

 AJのベルトの風車が回り、2号ライダーの強化スーツを一瞬で身にまとう。
 赤い瞳を持つ仮面を深くかぶり、銀のクラッシャーを装着する。
 カチャリ、AJは己の身体が鋼鉄の意志で力が溢れることを自覚、両腕を右方向に突き出す。
 そのまま半円を描いて、天を介し、左側に力瘤を作るようなポーズをとる。
 赤いマフラーが風になびいて、仮面ライダー2号が姿を現せた。



「う~、アーマーゾーン!!」
 餌付けが叫ぶと同時に、瞳が赤くなって、まだら模様が身体に浮き上がる。
 そのまま身体を強化骨格が包み、鋭利な突起物が腕に生えた。
 マダラオオトカゲをモチーフにした仮面が、鋭い牙を持って餌付けの顔を包み込む。
 仮面ライダーアマゾン、英雄といわれた伝説の戦士の血筋を引くもの、それが餌付けであった。

「く、怯むな!!」
 火炎コンドルが命令を下すが、三人の仮面ライダーの進軍は止まらない。
 AJの四方を戦闘員が取り囲み、同時に殴りかかる。
 刹那、AJの身体がコマのように高速回転をして、戦闘員たちの顔を蹴り飛ばす。
 AJは勢いそのまま、ストレートで壁ごと戦闘員を砕いた。

「ケケー!!」

 獣のごときの叫び声と共に、戦闘員の身体が四散する。
 アマゾンと化した餌付けの鋭い引っかきに、次々と戦闘員が引き裂かれていく。
 血飛沫に濡れながらも、餌付けの赤い複眼は火炎コンドルを見つめている。
 まずい、火炎コンドルがそう判断して、上昇する。今ならまだ逃げることが出来る。
「ケー!!」
 餌付けが咆哮一閃、雑居ビルの間を、壁を蹴って跳躍する。
 驚愕していた火炎コンドルの一瞬の隙を突いて、餌付けは高度を同じくした。
 火炎コンドルの目の前で餌付けの腕が振るわれる。
 火炎コンドルの左肩より、血が盛大に吹き出た。痛みが、熱さが火炎コンドルの左肩より湧き出る。
 落下する二人、餌付けは慌てふためいている火炎コンドルの残った右腕に噛み付き、街路樹の枝に手をかけて、落下の衝撃を吸収する。
 そのまま火炎コンドルを地面へと叩きつけて、クッション代わりに踏みつけた。
「グエッ」
 呻く火炎コンドルは、確かに目撃をする。
 目を光らせ、右腕を横凪に振るう餌付けを。身体が影によって暗く中、餌付けの瞳だけが、爛々と赤く輝いていた。
 スッと、餌付けの右腕がスライドし終えると同時に、火炎コンドルの視線が空に向けられる。
 青い空に雲が浮かんでおり、いつもの浮遊感に包まれていた。しかし、火炎コンドルの身体に力が入らない。
 ドン、と地面に激突したとき、火炎コンドルは自分の身体を目撃する。
 餌付けに、馬乗りされた首のない自分の身体を。
 それが、火炎コンドルの見た最後の風景だった。


 流されは戦闘員を振り払い、ファイヤーコングの眼前へと立つ。
 ファイズに変身した武将を前にしても、ファイヤーコングは余裕を崩さない。
「フフフ……仮面ライダー。俺の『猿渡拳』の餌食にしてやる」
「そうはさせない。俺の、仲間の力、簡単にはやらせない!!」
 流されが叫んで、ファイズフォンに装着されているミッションメモリーを引き抜き、ファイズポインターを右足へとセットする。
 ファイズアクセルのミッションメモリーへと換装しようとした瞬間、ファイヤーコングの鋭い拳が突き出される。
 辛うじて流されは避けて、膝蹴りを鳩尾へと打ち込む。
「痒いわ!!」
 ファイヤーコングは構えを崩さず、手刀で咽を突き、流されは怯む。
 たたみかけるように拳の連打が迫り、辛うじて流されは捌いていく。
「くははは! 死ね、仮面ライダー!!」
 怪我の痛みさえなければ、弱気が流されの心を支配していく。
 しかし、戦闘員が凄い勢いでファイヤーコングの連撃を邪魔をした。
 戦闘員を抱えてよろめくファイヤーコング。飛んできた先には、ライダー投げの体制でいるAJ。
 AJに流されは感謝しながら、ファイズアクセルのミッションメモリーをセット、赤いフォトンブラッドのラインが、銀色に瞬く。


 黄のバイザーが赤へと変わり、胸の装甲が可変、肩部へと移動する。

 ―― Reformation ――

 ファイズ・アクセルフォーム。
 ゼクト系宝具のクロックアップと同じく、音速を駆ける形態。
 流されはゆっくりとなった世界の中、ひたすら地面を蹴る。
 跳躍、右足を向け、赤い三角錐のエネルギーを、時間が許す限り撃つ。
 無数の赤い三角錐のエネルギーが、赤い花びらのごとくファイヤーコングを中心に咲き誇る。
 ファイズは地面を蹴って、赤いエネルギーへと飛び込んでいく。
 一発、二発、三発とファイヤーコングに穴を開ける。
 風すらも、雲すらも、舞い落ちる埃すらも、今は流されの手の中。
 世界を手にした流されに恐れるものは何もない。

 ―― 3…… ――

 四発、ファイヤーコングの胸に風穴が開く。
 五発、脇腹を抉り、六発、左足を引き千切る。

 ―― 2…… ――

 七発、ファイヤーコングの右肩を砕く。
 八発、背中より腹を貫いて、九発、頭目掛けて最期の蹴りを放つ。

 ―― 1……Complete ――

 ファイヤーコングを貫いて、地面を削りながら勢いを流されは殺す。
 銀のラインが赤へと戻り、展開していた装甲が元に戻る。
 たった十秒の激闘。しかし、確かに流されの身体に神速の速さをもたらせた。
(これが……ファイズアクセル……)
 AJを見ると、親指を立てている。頷く流されは仮面の下で笑顔を浮かべていた。
「ま、まだだぁぁ!!」
 流されは声に驚き、振り向くとファイヤーコングが青い炎に包まれながらも、辛うじて耐えていた。
 残されたクリムゾンスマッシュのエネルギーは使えて一発。
 仕留めねば、そう思う流されの傍に、AJが並ぶ。
「おい、流され。アレをやるぞ」
「……あなたとですか?」
「嫌か?」
「いいや……悪くない」
 フッ、とお互いに微笑んだ気配を感じて、それぞれの瞳でファイヤーコングを捉える。
 流されとAJは並んで跳躍、ファイズポインターより最後のエネルギーが発射される。
「ぐぅ!」
 もはや、ファイヤーコングに弾き飛ばす力は残っていない。
 とはいえ、一人なら、流されだけならファイヤーコングは耐えてしまうだろう。
 だが、今は隣にAJが、相棒がいる。

「「ライダァァァァァァァァ!」」

 二人の右足が、ファイヤーコングに向けて、身体が矢のごとく放たれる。
 風を越え、音を越え、二人の蹴りが音速の勢いを得る。

「「ダブゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥ!!」」

 伝説のダブルライダーが使い、未だに大技として伝わる必殺の一撃。
 正義を貫く、系譜たちの友情の証。

「「キィィィィィィィックゥゥゥゥゥゥ!!!」」

 ファイズと二号ライダーの力を持った蹴りを、二人分の正義をこめた蹴りを、流されとAJが放つ。
 爆発音のように響く轟音。
 蹴りの衝撃波が地面に、壁にヒビを作り、ファイヤーコングを打ち上げた。
 花火のごとく、爆発が広がる。
 正義の一撃、ファイヤーコングに最期の言葉を残す暇すら、与えなかった。




 派手に散るファイヤーコングがいた地点を見上げ、AJは消火の済んだ広場を見回す。
 自分たちが助けた少年が手を振って、軽く右手を上げて応え、振り返る。
 こちらを申し訳なさそうに見つめる流されを見て、AJはため息を吐いた。
「別にお前のためにファイズアクセルを手に入れたわけじゃない。
俺が楽に戦えるようになるために、手に入れただけだ」
「それじゃ俺の気がすまない!」
「俺が知るか。勝手に言っていろ」
 言い捨てて、AJは離れる。また、メイド喫茶へと足を運ぶために。
 しかし、AJの後ろを流されはついてくる。
「ついてくんな、気持ち悪い」
「別に向かう場所が一緒なだけさ」
「そうかい、お前、友達いないだろ?」
「そういう君こそ。俺たち以外に友達いないだろ?」
 流されの反撃に、AJはフッと微笑んで、右腕を上げる。
「またな」
 その言葉を聞いた流されは、ああ、と返してAJと別れる。
 二人が見ているものは、確かめるまでもなく一緒だった。


 AJがファイズアクセルを手に入れたのは、あのメイド喫茶のおかげだ。
 カイザが―― 当時はまだ仮面ライダー書き手と名乗っていたが ――あのメイド喫茶を国営で開いたのは、情報を集めやすくするためだ。
 ウェイトレスはほとんど、聞き込みの達人である。
 諜報員として訓練も受けた者もいた。
 カイザが反逆者の居場所を突き止めたり、または情報を集めたりする特定の場所が、メイド喫茶なのだ。
 まあ、誰もそんな店が国にとって重要な施設だと気づく可能性は低いだろうというのが理由だが、AJはカイザと将軍の趣味だと疑っている。
 とはいえ、秘密警察と共に諜報組織を任されたAJとしては活用しない手はない。
 いずれファイズブラスターも手に入れる。
 しかし、カイザに秘密警察を任されたとはいえ、AJはいまいちカイザを信用し切れていない。
 かつての、英雄としての彼なら全面的に信頼を寄せただろう。
 今のカイザは、濃厚な血の臭いがする。ギャルゲ国と漫画国の戦争に反対しないのも、何かたくらみがあるのではないか、疑っている。
 もし、カイザがこの国のためにならないことをするのなら、この手で倒す。裏切り者の汚名を受けても。
 なぜなら――

(俺はこの国が、好きだからな)

 AJ、彼は仮面ライダー2号の力を引き継ぐ者。
 正義を、国を愛する心は、流されにも負けなかった。

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最終更新:2009年04月24日 21:50
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