(BR230/01/phase:01) 書き手ロワ国
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それは戦乱が巻き起こる、数ヶ月前のこと…。
書き手ロワ国へ向かう山道を、一台の馬車が登っていく。
その馬車に乗っているのは、まだ幼いながらも騎乗士の国で名を馳せる武将・漆黒姫。
騎乗士の国の内政も安定に向かっている今、彼女は留学という形で書き手ロワ国に赴くことになったのである。
「漆黒姫、もう少しで書き手ロワ国に到着いたします。今しばらくのご辛抱を。」
「はい。」
御者の呼びかけに、はつらつとした声で漆黒姫は答える。
(書き手ロワ国かあ…。平和なところとは聞いているけど、どんな国なのかなあ…。)
まだ見ぬ目的地に、思いを馳せる漆黒姫。だがその思考は、馬車の外から上がった悲鳴に中断を余儀なくされる。
「どうしました、御者さん!」
急いで馬車から飛び出す漆黒姫。彼女がそこで見たものは、剣で全身をめった刺しにされた御者と、それを取り囲む黒ずくめの男たちだった。
「姫…逃げてくだ…さい…。」
口から血と共にその言葉を吐き出し、御者はそれきり動かなくなった。
「ろくな護衛も付けないとは…。他国に行けば安全とでも思っていたか?」
黒い集団の背後から、甲冑を身に纏った男が姿を現す。怪人、マッハアキレスだ。
「あなた方は、騎乗士の国の…。ここまで追ってきていたのですか…。」
「漆黒姫の首、もらった!やれ、手下ども!」
マッハアキレスの号令で、手下たちが一斉に襲いかかる…かに思えたそのとき。
紅の炎が、彼らを襲った。
『イイイイイイイイイイッ!?』
炎は、容赦なく男たちの体を焼く。
男たちは奇声をあげてもがき苦しみ、やがて死んでいった。
「な…何者だ!」
予想外の事態に、狼狽するマッハアキレス。その前に現れたのは、自分の身長ほどもある槍を携えた藤色の髪の少女だった。
「その方は我が国の客人。貴様らごときには指一本触れさせぬ。これ以上死人を出したくなかったら、とっとと失せろ!」
「あなたは…。」
漆黒姫は聞いていた。書き手ロワ国で軍事を司っているのは、うら若き少女であると。
曰く「災いを振りまく女神」、曰く「炎の戦乙女」、曰く「不死身の槍使い」。
曰く「闘将」。
「屑どもにはもったいないが、名乗ってやろう。我が名はかがみん。書き手ロワ国将軍筆頭、かがみんなり!」
「屑どもだと…。小娘がえらそうに!」
かがみんの口上に、マッハアキレスは怒りをあらわにする。
「手下どもよ、漆黒姫の前にあの小娘を殺してしまえ!」
「イー!」
生き残った5,6人の男たちが、我先にとかがみんに襲いかかる。
だが、かがみんはまったくうろたえない。
「よくもまあ、ここまでチームワークのかけらもない攻撃が出来るものだ。逆に感心する。」
淡々と呟き、かがみんは槍を振るう。頭蓋を砕き、心臓を貫く。
一振りごとに、確実に相手の命を奪っていく。
そして、かがみんに一撃たりとも浴びせることなく、男たちは全員息絶えた。
「ぐぐぐ、おのれ…。」
「後は貴様だけだ、屑の親玉。」
体を震わせるマッハアキレスに、かがみんは無表情で槍の矛先を向ける。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」
激情に任せて突進する、マッハアキレス。マッハの名を冠するだけのことはあり、その速度は凡人にはついていけぬほど速い。
だがかがみんはそれを見切り、カウンターで突きを叩き込む。
「がはぁっ!」
「一撃では死なないか…。さすがは親玉、と言っておこう。だが…不愉快だ。」
眉間にしわを寄せながら、かがみんは倒れたマッハアキレスの頭をわしづかみにする。
「これ以上息をするな。我が国自慢の清浄な空気が汚れる。」
かがみんの右手から生じる炎。それがマッハアキレスの体を、瞬く間に焼き尽くしていく。
「があああああああ!!」
断末魔の悲鳴を残し、マッハアキレスは消し炭となった。
(槍一本で、あそこまで圧倒的な戦いを…。「闘将」かがみん姫…。噂以上の人だ…。)
戦いの一部始終を見ていた(正確には、助太刀に入ろうとしたがその余地がなかった)漆黒姫は、素直に感想を漏らす。
その彼女に、かがみんはすたすたと近づいていく。
「申し訳ありませんでした、漆黒姫。我々の領土内でこのような暴挙を許してしまい…。」
「いえ、かがみん様は悪くないのですよ。謝られても困ります。」
「私の名前をご存じでしたか。光栄です。」
「ええ、前々から聞き及んでいました。けど、さっき名乗りをあげていましたからそうでなくてもわかりますよ?」
「あ…。」
漆黒姫の指摘に、頬を赤く染めるかがみん。
こういう表情を見てると、どんなに強くてもこの人も女の子なんだなあ、と漆黒姫は思う。
「と、とにかく、ここからは私が城まで御案内いたします。」
「よろしくお願いします。ですがその前に…。」
「なんでしょう…。」
「彼を弔ってあげてもよろしいですか?」
漆黒姫の視線の先。そこには、無惨に命を落とした御者の姿があった。
「もちろんです。私も手伝いましょう。」
「ありがとうございます。」
早速、亡骸を抱える漆黒姫。全身各所に穴を空けられた無惨な姿を見て、漆黒姫は思う。
(平和と言われる国に来てさえ、僕たちの国の人間は戦いをやめられないのですか…。
ギャグ将軍、仮面ライダー書き手さん、僕はどうしたら…。)
どこまでも青く晴れた空の下、それでも漆黒姫の心は陰鬱だった。
(BR230/01/phase:02) 書き手ロワ国
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書き手ロワ国の城、ラピュタ。
その中で王座に座るのはこの国の君主、空気王。
上等な素材で作られた華美な衣装を身につけているが、その顔に輝きはなし。
「重い、暑い、動きづらい…。」
思わず、本音をこぼす空気王。今は君主などという仕事に就いていても、元は各地を旅する行商人。
売るならともかく、自分で着るならまず優先すべきは動きやすさ。見た目など二の次なのである。
「我慢してください。城にいるのが我々だけならTシャツだろうがジャージだろうが文句は言いませんが…。
他国の重鎮、しかも古い王家の血を引く方をお迎えするんです。こちらもそれなりの格好でないと。」
すぐ隣に立つネームレスが、空気王をなだめる。
「いや、わかってる、わかってるんだぜ、旦那。ただ、長年の慣れってもんがあるからさ。
ここまで急激に環境が変わるとなあ…。」
「まあ、それはわからないでもないですね。自分もついこの前まではただの風来坊でしたから。」
「今時、風来坊なんて言うか?」
「言いませんねえ、たぶん。」
ハッハッハ、と朗らかに笑う二人。
「それにしても、遅いな…。」
「確かに、そろそろ到着してもおかしくない時間ですが…。まあ、多少の遅れはよくあることで…。」
「まさか、かがみんの身に何か!ええい、こうしてられるか!」
即座に王座から立ち上がり、走り出そうとする空気王。しかし、その襟をネームレスがつかんで止める。
「落ち着いてください。うちの国で単体での戦闘力が最強なのはかがみん姫ですよ。
あの人が負けるなんてまずありません。というか、もし負けたらうちの国は滅亡したも同然ですから。」
「だが、万が一ということが…。」
「やれやれ、空気王の親バカは見事なぐらいであるな。」
「見てないであなたも止めてください、ヨッミー殿!」
「いや、自分はそういうのは得意ではないのである。ネームレスに一任する。」
「得意とかそういう次元の話じゃないでしょうが!だいたい、あなたもいい加減落ち着いてください、空気王!」
完全などたばた劇の舞台と貸した王座の間。
そこへ、一人のメイドが入ってくる。
「空気王様、漆黒姫様がかがみん姫様と共に到着…って、何をやっておられるんですか?」
「おお、戻ったか!いや、こっちのことは気にするな。早くここに通せ。」
「はい。」
きびすを返して部屋を出て行くメイドを、空気王は安堵の表情で見送る。
「今、『到着した』じゃなくて『戻った』って言いましたよね。」
「うむ、明らかに客人より自分の娘を重視しているのである。」
「聞こえてるぞー、二人とも。」
さすがに、顔を引きつらせる空気王であった。
数分後、王座の間には漆黒姫とかがみんの姿があった。
「お初にお目にかかります、空気王様。自分は騎乗士の国が将軍の一人、漆黒と申します。
このたび…。」
「あー、いいよ、堅苦しい挨拶は。そういうの好きじゃないんだ。」
漆黒姫の口上を、空気王は無遠慮に遮る。ネームレスににらみつけられるが、彼は意に介さない。
「ギャグ将軍から連絡はもらってる。我が書き手ロワ国は君を歓迎しよう、漆黒姫。
気に入ったのなら何ヶ月でも何年でもいていいぜ?」
「はい、ありがとうございます。」
「まあ、今日のところはつかれてるだろうから、ゆっくり休んでくれ。
真面目な話は明日以降だ。かがみん、用意した部屋まで案内してやってくれ。」
「かしこまりました、父さ…父上。さあ、参りましょう、漆黒姫。」
「はい。」
先導するかがみんに従い、漆黒姫は王座の間を出て行く。
その姿が完全に見えなくなったのを確認すると、ネームレスは空気王に向かって口を開いた。
「まったく、はらはらさせないでくださいよ…。客人の口上を遮るなんて…。」
「はいはい、悪かったよ。けど、どうしても苦手なんだって、ああいうのは。」
「まあ、向こうから何か言われたわけでもないので良しとしましょう。
それはそうと、何故今回の留学を受け入れられたのですか?」
「何故って…。特に断る理由もなかったからだけど?」
「ああ、そうですか…。」
実にシンプルな答えに、ネームレスは軽く脱力する。
「まあ、受け入れたからには最大限に活用するさ。騎乗士の国の軍事についてもいろいろ聞いておきたいしな。」
「うむ、商業国家とはいえ、我が国の軍事レベルは最低水準であるからな。」
「我々三人に将としての能力はなし…。かがみん姫一人に頼っているのが現状ですからね…。」
王の言葉に、うなずきながら同意する二人。
「まあ、それはあくまでついでなんだけどな。」
「と、言うと…?」
「あの子に少しでも安らぎの時間を与えたかったのさ。考えても見ろ。
裕福な家庭で不自由なく育つはずだった子供が、戦場に立って何十人も人を殺してきてるんだぜ?
いくら心が強くたって、そうとう参ってるはずだ。一応、この国はあちらさんより数段治安がいいからな。
いい骨休めになってくれることを期待するよ。」
「なるほど、そういう考えがおありでしたか。」
「王は親バカなだけでなく、子供全般に甘いのであるな。」
「悪いか。言っておくが、別に性的な意味で好きなわけじゃないからな。」
「わかってますよ。幼女に欲情する大人なんて、そうたくさんいるわけないじゃないですか。」
「そうだよなあ、ハッハッハ。」
陽気に笑う、空気王とネームレス。その光景を見ながら、ヨッミーは思う。
(それはひょっとしてギャグで言っているのか…?)
(BR230/01/phase:03) 書き手ロワ国
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「それじゃあ、漆黒姫。こちらの部屋を使ってくださいね。」
「うわあ、ずいぶん立派な部屋じゃないですか。本当に使っていいのですか?」
「ええ、どのみちここには私たち家族と住み込みのメイドさんや執事さん数人しか住んでませんしね。
部屋なんていくらでも余ってるんですよ。
あ、そうだ。後でみWikiを紹介しますね。今、急用で出かけてますけど、夜までには帰ってくるはず…えっと、どうしました?」
自分をじっと見つめる漆黒姫の視線に気づき、かがみんは言葉を途切れさせる。
「ああ、いえ…。先程までと口調が全然違うな、と思いまして。」
「え?ああ、気になりましたか。戦場では相手を威嚇するために、ああいう強い口調を使っているのですよ。
こっちの方が素の口調で…。お気に障りましたか?」
「いえ、とんでもない。むしろ、敬語を使っていただなかなくてもいいぐらいなのですよ。」
「いや、それはさすがに…。」
断ろうとしたかがみんだったが、漆黒姫の純粋な瞳の前に押し負ける。
「では、もう少し親睦を深められたら…ということで…。」
「約束ですよ?」
顔をほころばせる漆黒姫に、思わずときめいてしまうかがみん。
そのとき彼女の中に、ちょっとしたいたずら心が芽生えた。
「そうだ!親睦を深めるために、一緒にお風呂に入りませんか?夕食の前に身だしなみを整えなければいけませんし。」
「ええ!?お風呂ですか?さ、さすがにそれは…。」
漆黒姫の顔が、みるみる赤く染まっていく。だが、それはかがみんの嗜虐心をくすぐることにしかならない。
「まあまあ、裸の付き合いってことで…。」
「ちょ、ちょっと、かがみん姫!」
いやがる漆黒姫を、かがみんは無理矢理風呂場に引きずっていく。
数分後、彼女は信じられないものを目の当たりにするのであった。
「ええええええええええ!?」
◇ ◇ ◇
「今、かがみんの声が聞こえなかったか?」
「空耳か勘違いですよ、父上。いつも私たちのことばかり考えていらっしゃるから、そんな風に聞こえるんです。
それにあの子がここまで聞こえる声をあげるなんて、せいぜいゴキブリが出た時ぐらいですよ。」
「むう…。みWikiの言うとおりだといいんだが…。それでも心配だ…。」
ここは空気王の執務室。現在、彼は予定より早く帰ってきたみWikiと共に、内政関係の仕事を処理していた。
「ところで、先程の話は本当ですか?漆黒姫が実は男性だというのは…。」
「ああ、本当だよ?割と知られてる話だと思ったんだが、みWikiが知らないとは意外だったな。」
「外見は女の子にしか見えないのですけどねえ…。」
傍らに置いてある漆黒姫のブロマイド写真を見ながら、呟くみWiki。
ちなみに、5枚セット・250ルルーシュで販売中。
(1ルルーシュは現在の価値で約1円。)
「それにしても、何故男の子なのに姫と呼ばれているのですか?」
「ああ、あの子は元々騎乗士の国の近くにあった小国の王家に生まれた跡継ぎでな。
その王家では、男子は成人するまで女子として育てるってしきたりがあったんだよ。」
「そんな人が、どうして他国の将軍に?」
「簡単な話だ。滅ぼされたんだよ、母国が。
騎乗士の国から流れ込んだ悪党どもが反乱を起こして、王と王妃は死亡。
漆黒姫だけがドットーレ…いや、あそこじゃ仮面ライダー書き手か…。
とにかく、あの旦那に救出されたんだ。」
「辛い…人生ですね…。」
「そうだな。けど、おまえたちだってそうだろう。
自分もそこそこの苦労はしてきたし、ネームレスの旦那やヨッミーの旦那にもそれなりの過去があるみたいだしなあ。
結構苦労人多いぞ、この国。まあ、そんな国だからこそ、あの子のことをどうにか出来るんじゃないかと思ってるんだが…。」
「そうだといいですね。」
一瞬の沈黙。それを挟んで、再び空気王が口を開く。
「さて、ちょっと雑談が長くなったか…。仕事に戻らないとな。」
「あら?私の担当分は話している間に終わりましたけど?」
「嘘ぉっ!?優秀すぎるぜ、みWikiちゃんよ…。」
目を丸くして驚く空気王を見て、みWikiは思わずクスリと笑いを漏らす。
「頑張ってください、父上。お茶でも淹れてきますね。」
「ああ、済まないな。」
父の言葉に柔和な笑みで返し、部屋を出るみWiki。
すると、ちょうど廊下を歩いていたかがみんと、彼女に手を引かれる漆黒姫に鉢合わせする。
しかし何故か、漆黒姫は半泣きで顔を真っ赤にしていた。
「かがみんさん…。あなたまさか、漆黒姫に何か失礼なことを…。」
挨拶も忘れて、みWikiはかがみんをにらみつける。とはいっても、元々童顔なので迫力はないに等しいが。
「や、やだなあ…。そんなわけないじゃない。そうですよね、漆黒姫?」
同意を求められ、コクリとうなずく漆黒姫。ただし、やっぱり半泣きのままである。
「うーん、それならいいんですけど…。」
一応は納得したものの、何があったのかわからないみWikiは首をかしげる。
「初めて見ちゃった、あれ…。」
かがみんのそんなつぶやきも、みWikiの耳には届いていなかった。
(BR230/01/phase:04) 書き手ロワ国
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その日の深夜。
「あー、何でこう拡声器は売り上げ伸びないかねえ…。」
空気王は、未だ終わらぬ仕事に頭をフル稼働させていた。
とはいえ、さすがに残る仕事はわずかになっていたが。
そこへ、扉をノックする音が響く。
「父さん、私だけど。入っていい?」
「かがみんか。入っていいぞー。」
部屋の主の許可を得て、かがみんはドアを開け部屋の中に足を踏み入れる。
「漆黒姫、もう寝たわよ。」
「おう、ご苦労さん。悪いな、世話役任せて。ギャグ将軍から直々にご指名でよ。」
「別にかまわないけど、なんで私なのかしらね。」
「あの人の考えは、自分たちみたいな若造には神でも乗り移らない限りわからねえよ。
考えるだけ無駄ってもんだ。」
「なんか、すごい言われようねえ…。」
苦笑いを浮かべながら、かがみんは空いている椅子に腰を下ろす。
「ところで父さん、なんで漆黒姫が男の子だって教えてくれなかったのよ!」
「え?なんだよ、おまえも知らなかったのか?」
「五大美姫の一人に入ってるのが男だなんて、普通考えないわよ!」
「アニジャさんも性別不明だけどな。おかげで、なんて呼べばいいかわからん。」
「男もどっちかわかんないのも入ってるなんて…。これ選んだ人間は何考えてるのよ…。」
うんざりとした表情を見せ、かがみんはため息をつく。
「なんだ、女の方がよかったのか?」
「いや、なんでそうなるのよ。」
「だっておまえ、パヤパヤとか好きだろ?」
「ちょ…!何言い出すのよ、父さん!そんな話どこから…。」
焦るかがみんに対し、空気王は引き出しから一冊の本を取り出して見せた。
「この前、おまえの部屋を掃除してたメイドがベッドの下でこんなものを見つけたんだが。」
「ああー!無くなったと思ったら…い、いや、違った。なにかなー、それは。」
「今更取り繕ったって遅いわ。しかし、愛媛×閣下の同人誌って、よくこんなもん見つけてきたな。」
「くっ…。足がつかないよう、ネームレスさんに頼んでニコ連で買ってきてもらったのに…。」
「そこまでして読みたいか。」
「別にいいじゃない、あくまで趣味なんだから!二次元とリアルは別よ!
本気で女の子しか愛せないとか、そういうんじゃないんだから!」
「あー、わかったわかった。とりあえず落ち着け。」
ムキになる娘を前にして、空気王は苦笑いを浮かべる。
「まあ、そういうことなら…。漆黒姫婿にもらうか?趣味と実益兼ねられるんじゃねえの?」
「ちょ、どこからそんな結論が…。」
「世話役としてずっとそばにいたら、そういう関係になるかもしれねえだろ。
案外、将軍の狙いもそれだったりしてな。」
「もう、からかうのもいいかげんにしてよ…。」
「あはは、怒った顔もかわいいなー♪」
親バカモード全開で、娘の頭をなでる空気王。ちなみに、本人は満面の笑みである。
「だいたい、ひとのこと言う前に父さんはどうなのよ!浮いた話全然聞かないけど?」
「まあ、自分もいずれは嫁もらいたいけど、少なくともこの国が軌道に乗るまでは無理だな。
忙しくてそれどころじゃねえ…。どっかに暇をもてあましてる王様でもいたら、是非とも変わってもらいたいね。
そんなのいないだろうけど。」
ちなみにその頃、ギャルゲロワ国のお姉さまは暇をもてあましてこたつでゲームをプレイ中。
しかし、空気王にそれを知る術はない。
「もしお嫁さんがもらえなかったら、私がお父さんと結婚してあげようか?」
「そういう発言が許されるのはせいぜい10才ぐらいまでだろ。
だいたい、自分はお子様を異性として見てない。」
「何よ、せっかく喜んでくれると思ったのに。」
「あはは、そりゃ気持ちは嬉しいけどな。そんなことより、もう寝ろ。明日も早いんだろ?」
「はーい。それじゃあ父さん、お休みなさい。」
「おう、お休み。」
素直に空気王の言葉に従うかがみん。彼女が部屋を出るのを見届け、空気王は仕事に戻る。
「しかし、しんどいなあ…。あー、野球やりたい…。」
(BR230/01/phase:04) 書き手ロワ国
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翌日、漆黒姫はかがみんの案内で、書き手国の中を見て回っていた。
ちなみに一応お忍びであるので、漆黒姫は男装(というのも変だが)している。
「さあ、着きましたよ。ここが我が国を象徴する場所、カニパニー市場です!」
「うわあ、すごい活気ですねえ!」
見渡す限りの人、人、人。予想を上回る光景に、漆黒姫は驚きと期待の入り交じった声をあげる。
「今日はここでお昼を買いましょう。予算は一人1000ルルーシュです。」
「はい!でも、1000ルルーシュって…。ずいぶん庶民的な金額ですね。」
「うちの親は元商人ですから。必要以上のお金は使わせてくれないんですよ。」
苦笑いを浮かべながら、かがみんは漆黒姫の手を取って人混みの中に入っていく。
「おや、姫様じゃないか!久し振りだね!」
「お久しぶりです、おじさん!」
「こんにちは、かがみん姫。今日はデートかい?」
「あはは、そのようなもんですよ。」
「なんだか…ずいぶん溶け込んでますね、かがみん姫。」
「ここはうちの家族も普通に買い物に来ますからね。」
「え!?あの…王族が…ですか?」
「そうですよ?」
何故そんな当たり前のことを聞くのか、と言わんばかりに、かがみんは首をかしげる。
それを見て、漆黒姫は思う。
この国、いろいろとすごい、と。
◇ ◇ ◇
市場でパンとお茶を買った二人は、見晴らしのいい丘の上でそれを食していた。
風もなく、1月としては暖かい日差しが二人を照らす。
「この国は、平和なのですね…。」
「ふえ?」
食事中に、ふいに呟く漆黒姫。予想だにしていなかったかがみんは、パンを口に詰めたまま間抜けな声を漏らす。
「王族が一般市民と同じように街で買い物をして、市民もそれを当たり前のこととして受け入れている…。
騎乗士の国では考えられないことです。」
「まあ、平和なのはたしかですけど…。それだけじゃありませんよ。
この国はいろんな国から集まってきた人たちの寄せ集めです。
だから基本的に、人を差別することはない。
私たちも、単に『王家』という仕事をしているだけの一般市民なんですよ。」
「それは…この国独自の文化ですね。騎乗士の国に限らず、他の国ではそういう考え方は出来ないと思います。」
「まあ、そんな空気の国じゃなかったら私みたいなのがお姫様なんてやれませんから。」
「え…?」
「漆黒姫はご存じですか?私と父さん…空気王が血がつながってないというのを。」
「はい。ですがそれだけで姫としてふさわしくないということには…。」
「それだけじゃないんです…。私、実の親に捨てられたんですよ…。」
まるで謀ったかのように、突然北風が丘の上に吹きすさぶ。
漆黒姫の顔がこわばったのはその風の冷たさ故か、それとも他の理由か。
「私は生まれつき、異能の力を持つ人間でした。そのために両親に恐れられ、スラムに捨てられたみたいなんです。
まあ私自身はそのときのことを覚えてなくて、最近父さんが手に入れた道具を使って知ったんですけど。」
微笑を浮かべながら、かがみんは伸ばした右手の先に炎をともしてみせる。
「異能の存在、ですか…。」
漆黒姫は、その存在を知っている。騎乗士の国には、自らの姿を異形のものに変化させられる武将が何人もいた。
他国には、「スタンド」「アルター」「念能力」と呼称される力を持った超能力者が大勢いるという。
しかし、異能の者たちが珍しくないのは戦場に限ってのこと。
一般の人々にとっては、異能力者は自分たちと違う存在、畏怖の対象なのだ。
変身態を持つ騎乗士の国の将がそれを宝具の力と偽っているのも、民に偏見を抱かせない為の処置である。
「そんなわけで、私はスラム街で育ったんです。生きる為に、いろいろ悪いこともしてきましたよ。
実は今の父さんと出会ったのも、スラムに迷い込んだ父さんを私が強盗目的で襲ったのが最初なんです。」
「なるほど。それで空気王様がかがみん姫を返り討ちにして『もうこんなことはやめなさい』という感じで…。」
「いえ、私が一方的にボコりました。」
「ええー!?」
予想とは異なるのにも程がある返答に、思わず漆黒姫は素っ頓狂な声をあげる。
「まあ、その後いろいろあって父さんやみWikiと一緒に旅するようになって…。
そしてこの国に居着くようになって、今では姫って呼ばれてるわけです。」
「いろいろの部分がすごく気になるのですが…。」
「まあ、そんな人間が姫なんてやってるんです。上下の差がないに等しいのも当然で…。ッ!?」
「どうかしましたか、かがみん姫。」
「いえ、気のせいか…?とりあえず、そろそろ行きましょうか、漆黒姫。
パンも食べ終わりましたし。」
「…? わかりました。」
首をかしげながら、かがみんについてその場を後にする漆黒姫。
やがて二人がいなくなると、数十m離れた草むらから怪しい影たちが飛び出した。
「この距離から俺たちの気配を感じ取るとは…。さすがはマッハアキレスを倒しただけのことはある。」
「何、マッハアキレスなど俺たちの中では一番の小物…。所詮俺たちの計画の中では、やつもただの小娘に過ぎんさ…。」
最後に陰湿な笑みを残し、影はどこかへと消えていった。
最終更新:2009年04月24日 22:05