過去編 書き手ロワ国の漆黒姫(後編)

(BR230/01/phase:05) 書き手ロワ国
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それから、三日の時が過ぎた。その間特にトラブルも起こらず、漆黒姫も少しずつ書き手ロワ国になじんでいった。
しかしその日の朝、事件は起きた。

「あ、おはようございます、漆黒姫。」
「ん~、おはようございます、かがみん姫。」

目をこすりながら、漆黒姫はかがみんに挨拶を返す。今二人は、朝食のため食堂に向かっているところである。

「今日の朝ご飯はなんでしょうね。ここの料理はシンプルですがおいしいので好きです。」
「姫にそう言ってもらえると、料理を作っている皆さんも喜びますよ。」

談笑をしながら、二人は食堂に入る。
既にそこには、朝食をとるすべての人間が揃っていた。
空気王とみWikiはもとより、昨日泊まり込みで仕事をしていたネームレスとヨッミーの姿もある。

「よし、全員揃ったな。じゃ、料理持ってきてくれ。」
「はい、ただいま。」

空気王の指示に従い、メイドが料理を運んでくる。その姿を見たとたん、空気王の表情が険しくなった。

「?」

その理由を漆黒姫が理解できぬうちに、空気王はテーブルの上にあったナイフをメイドに投げつける。
メイドは驚愕を顔に浮かべ、それを回避した。

「な、何をなさるんですか、空気王様!」
「空気王様、ねえ…。おまえさんは自分のことをマスターと呼んでたはずだが?」
「え?」
「自分の眼力を嘗めるなよ。そんな邪悪な空気まき散らしておいて、だまし通せると思ったのかよ。
とっとと正体現しな、偽物。」
「ふん、馬鹿なやつだ…。気づかなければ、料理に盛った毒で楽に死ねたものを!」

メイドの声が、不気味なものに変質する。それに合わせるように、その姿も変化していく。
瞬く間に、見目麗しき少女はおぞましき怪物へと変化を遂げていた。

「フハハハハハハ!俺の名はヘビ獣人!貴様ら、覚悟…ぐはっ!!」

台詞を最後まで言い終わらぬうちに、ヘビ獣人がのけぞる。
ヨッミーが撃った銃弾が命中したのである。

「ふむ、この程度の銃では致命傷を与えられないか…。やはり各国の武将クラスに対抗するには、さらなる威力が…。
いや、そうすると汎用性が…。」
「貴様ぁーッ!他怪人が話している途中で攻撃してくるとは何事だ!」

腐っても、ヘビ獣人も騎乗士の国の住人。お約束にはうるさい。

「敵地に乗り込んでおいて、ベラベラしゃべってるあんたが悪いのよ。
それともあんた、まさか自分は怪人だから死なないとか考えてる?」

ヘビ獣人の言葉には耳を貸さず、愛用の槍・激戦を構えてかがみんが間合いを詰める。
その顔つきは、既に「闘将」としてのそれに変わっている。

「やかましい!くたばれ!」
「死ぬのは貴様だ!」

互いに突進し、交錯する両者。ヘビ獣人の肉がえぐられ、かがみんの頬に赤い線が引かれる。

「チッ、仕留め損ねたか…。」

頬を塗らす自らの血を、手の甲で拭うかがみん。その下からあらわになった傷口は、瞬く間にふさがっていく。
彼女の持つ激戦は、ただの槍ではない。持ち主の肉体的損傷を高速で修復する、レアリティAAクラスの特殊な武器である。
だから、かがみんにとってこの程度の傷はどうということはない。
だが、これに過剰反応を見せる男が一人。

「て~め~え~…。うちの娘に何してくれてんだよ…!」

重度の親バカ、空気王。彼が目の前で娘を傷つけられて、おとなしくしているはずがない。
アニロワ国でいう「ラッドの前で死なないと言う」、ギャルゲロワ国で言う「太一の前にエイリアン」というやつである。

「覚悟しろよ、ヘビ野郎!生まれてきたことを後悔させてやるぜ!」

懐から円盤状の物体を取り出した空気王は、それを流れるような仕草で自分の頭に突き刺す。
それが完全に頭の中に収まると、彼の背後に山吹色の体をした屈強な人影が姿を現した。

「あれは…まさか、噂に聞くスタンド!?」


スタンド
一部の人間のみが使えると言われる、ビジョンを持った生命エネルギー。
基本的に人の姿をしているが、それ以外の姿のものも数多く確認されている。
その多くは、物理法則を超越した能力を持っている。
漫画ロワ国にはスタンドを「泥素九」と呼ばれる円盤状の物体に封じる技術が存在するが、その実態は門外不出とされ知る者はほとんどいない。
なおスタンドを初めて身につけた人間はジョジョロワ国の「素鍛(す・たん)」という武術家だとされており、
彼を開祖とする武術「素鍛道」が転じて「スタンド」の名の由来になったといわれている。
民明書房刊「ミジンコでもわかるスタンドのすべて」より引用


「…えーと、みWikiさん、突然何を?」
「はっ!す、すいません!つい癖で解説を!」
「はあ…。」

かすかにほのぼの空間を発生させる漆黒姫とみWikiだが、それには目もくれず空気王は突撃する。

「クレイジーダイヤモンド!打ち砕けぇぇぇぇぇ!!」

空気王の雄叫びに呼応し、スタンド…クレイジーダイヤモンドが拳を繰り出す。
回避しようとするヘビ獣人だが、間に合わず。左の頬にパンチを食らう。
その時点で、もはや彼の敗北は決まっていた。一撃でも食らって動きを止めてしまえば、後はパワー型スタンドお得意のラッシュの餌食となるだけである。

「ドラララララララララララララララララララララララララララララララララ!」

雨霰の如く、拳が浴びせられる。なんとかそのラッシュに耐えきったヘビ獣人だが、全身至る所が特大の悲鳴を上げていた。

「くそっ、ここはいったん逃げて…。」

ほうほうの体で、その場から逃げ出そうとするヘビ獣人。
だが彼が脱出する前に、外から入ってきた人影が出入り口をふさぐ。

「ふ…ふふ…さっきはよくもやってくれたわね、ヘビさん…。」

そこに立っていた人物。それは、先程までヘビ獣人が化けていたメイドだった。


「馬鹿な!貴様、体の半分を食ってやったのになぜ生きている!」
「ああ、死ぬところだったさ!吸血鬼の生命力とファウードの回復液がなければね!」
「吸血鬼…だと…?なんでそんなやつが、ここでメイドなんてやってるんだ…。」
「そんなの私の勝手だ!それよりさっきのお返しさせろこの野郎ーっ!」

ヘビ獣人の体を、思い切り蹴りつける吸血鬼メイド(ちなみに、名前はアセロラという)。
ヘビ獣人の体は天井まで上昇し、そこに激突。そして落下して、今度は床にたたきつけられる。

「チッ、アセロラが倒しちまったか。自分がとどめ刺したかったんだけどな。」

あからさまに不満を見せながら、空気王はスタンドを引っ込めた。

「あー…。なんか私、出しゃばりすぎでした?」
「いや、気にするな。けど、メイド服の修繕代と回復液の代金は給料から引いておくから。
あ、あと天井の修理費も。」
「やっぱり怒ってるー!!」
「いえ、あれが普通です。」
「父さん、お金の問題はシビアだからねえ…。」

そんなこんなで、どたばたコメディ的に事件が終息に向かうかと思われたそのとき…。

「フフフ…俺を倒しただけで終わりだと思うなよ…。」

死んだと思われていたヘビ獣人が、突然口を開いた。

「てめえ、まだ息があったか…。それで、終わりじゃないってのはどういう意味だ。」
「くく…わざわざ教えてやると思うか…?
この作戦が二面同時進行で、俺が貴様らを暗殺すると同時に別働隊が球場を破壊する計画だったなんてことをな…。」
「いや、思いっきり言ってるけど。」

凍り付く、その場の空気。

「し、しまった!」
「あー、とりあえず貴重な情報をくれたことには感謝しよう。だから…。
死んどけボケナス!!」

再びスタンドを出現させた空気王が、渾身の力を込めた拳をヘビ獣人に叩き込む。
その一撃で、ヘビ獣人は今度こそ息絶えた。

「ははは…朝飯ぶち壊して、娘に怪我させて、挙げ句の果てに球場破壊だ?
どこまで俺を怒らせば気が済むんだよ、アハハハハ!!」
「ま、まあ、まずは落ち着こうよ、父さん。目が完全にいっちゃってるから。」

完全に怒りの臨界点を突破してしまった空気王を、かがみんをなだめる。
しかし、彼女の気遣いを台無しにするような事態が、さらに一同を襲う。

「た、大変です!」
「どうした、みWiki!」
「漆黒姫が飛び出していってしまいました~!」
「なんだとぉ!?」
「おそらく、いてもたってもいられず球場へ向かったのでしょうね…。」
「冷静に推察してる場合かよ、ネームレスの旦那!客人に何かあっちゃ、騎乗士の国に申し訳が立たないぜ!」
「任せるのである!こんなこともあろうかと!」
「おお!何か策があるのか、ヨッミーの旦那!」
「うむ、こっちに来るのである。」

一行はヨッミーが案内するままに食堂をあとにし、そのまま城の中を歩く。
やがてたどり着いたのは、特殊兵器の保管庫であった。

「スパロワ国から入手したこの新型バイク、ワルキューレ!
細かい調整により最大速度は元のスペックの115%にまで高めてあるのである!」
「ずいぶん中途半端な数字ね…。」
「何を言うか、我が娘よ。機械技術では他国の50年先を行くスパロワ国!
そこの兵器を15%もアップさせるというのが、どれだけ大変か!」
「へー、そういうものなんだ…。」
「おっと、のんびり話してる場合じゃなかった!早いところ漆黒姫に追いつかないと!」

思いだしたように言うと、空気王はワルキューレに飛び乗る。

「ちょっと待ってください、空気王殿!まさかあなた自ら行かれるつもりですか!」
「そうだけど?」
「いけません!先程とは事情が違うんです!王自ら危険な場所に赴くなど…。」
「だからって、じっとしていられるか!あの球場は自分の夢だ!
それが危ないってのに、他人に任せられるかよ!」
「しかし…。」
「諦めるのである、ネームレス。この人は一度言い出したらめったなことでは意見を変えないのである。」
「ヨッミー殿…。」
「かがみん姫、おぬしもついていくのである。娘がいれば、王も無理はしないのである。」
「オッケー、ヨッミーさん。さあ、父さん。行きましょう。」

ヨッミーの言葉を受け、かがみんも空気王と同じような仕草でバイクの後ろに乗った。

「しょうがないな…。振り落とされるなよ、かがみん!」
「了解!」

かがみんにヘルメットをかぶせると、空気王はエンジンを起動させた。

「さあ…。行くぜ行くぜ行くぜ!」


(BR230/01/phase:06) 書き手ロワ国
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城から数百メートル離れた上空。
漆黒姫は、相棒であるモンスター・ドラグブラッカーに捕まり空を進んでいた。

(あの怪人は騎乗士の国の住人…。僕がここに来なければ、空気王様たちに迷惑がかかることはなかったかもしれない…。
せめて、球場を守るぐらいはしないと!)

強い決意を胸に、なおも進む漆黒姫。やがて、上空からでもはっきりと確認できる大きな施設が見えてきた。
完成したばかりの、国立KuKio球場である。
そしてその近くには、怪人に率いられる黒ずくめの男たちの姿が見える。

(まだ破壊活動は始まってない…。ギリギリ間に合ったか!)

ドラグブラッカーに、高度を下げるよう頼む漆黒姫。
みるみるうちに景色が大きくなっていき、やがてその両足が大地を捉える。

「待ちなさい、あなたたち!この国で暴れることは、僕が許しません!」

怪人たちの注意を惹きつけるため、漆黒姫は大見得を切る。

「漆黒姫…。ヘビ獣人のやつはしくじったか…。まあいい、このズ・バヅー・ズが手柄を独占できるというものだ。」

そう告げると同時に、リーダー格の怪人が右手を上げる。
それを合図に、部下たちは一斉に漆黒姫に襲いかかる。

「行くよ、ドラグブラッカー!変身!」

漆黒姫が、カードデッキを取り出しチケット売り場の窓ガラスに向けてかざす。
その瞬間、漆黒の鎧が出現し、彼の体を包み込む。

これが、漆黒姫が戦うための姿。人呼んで、「リュウガ」。

「あなたたちの好きにはさせない、行くぞ!」

こちらに殺到する男たちの群れに、自ら突っ込んでいく漆黒姫。
一見すると多勢に無勢だが、個々の戦闘力ではリュウガの方がはるかに上である。

「やあ!」

リュウガが拳を一度突き出せば、五人が吹き飛ぶ。

「とう!」

リュウガが蹴りを一度放てば、五人が吹き飛ぶ。
ものの数分で、黒い男たちは一人残らず倒されていた。

「さすがだな、漆黒姫。だが、リュウガには使用時間の制限があるはず。あと何分保つ?」
「それが狙いですか…。ですが、無駄です。たとえ残り時間が10秒でも、仮面ライダーは悪には負けない!」

「その心意気やよし!だが、一人で無理する必要はないぜ、漆黒の旦那!」

そこへ到着する、一台のバイク。降り立つのは、この国の君主と姫。

「よその国に土足で上がり込んで好き放題するようなやつは…この空気王が直々に裁く!」

凶悪な笑みを浮かべ、空気王はズ・バヅー・ズを指さして吠える。

「空気王にかがみん姫…。この国の中心人物がのこのこと来てくれるとはな。
貴様ら全員始末すれば、俺の名声はどれだけのものになるか…。」
「外道が一人前の口を…。」

嫌悪感をあらわにし、激戦を構えるかがみん。だが、空気王はそれを制止する。

「まあ、ここは自分に任せてくれや。たまにはかっこいいところ見せないとな!」

そう言うと、空気王は懐から何かを取り出す。
それは、漆黒姫が持っていたのとそっくりなカードデッキだった。

「変身!」
「え!?」


漆黒姫は、驚きを隠せなかった。空気王の体を覆う鎧、それは今漆黒姫が装着しているリュウガの鎧とうり二つだったのだ。
違うのは、空気王の鎧は赤を基調としているという点だけ。
その名は、「龍騎」。大戦の中で行方不明となった、「リュウガ」と対を為す宝具である。

「空気王様、なぜあなたが…。」
「話はあとだ!そっちの変身時間、残り少ないんだろ?一気に決めるぞ!」
「は、はい!」

迫力に押され、思わず肯定の言葉を返す漆黒姫。

「リュウガの能力は、龍騎とほぼ一緒だったよな!必殺技同時攻撃で行こうぜ!」
「わかりました!」

『FINAL BENT』
『FINAL BENT』

リュウガと龍騎に同じカードがセットされ、同じ音声が響く。
そしてうり二つの二体の龍が出現し、二人のライダーと共に宙を舞う。

『ダブルドラゴンライダーキック!!』

赤と黒、二つの炎がズ・バヅー・ズを貫き、焼き尽くす。

「馬鹿な…こんな…あっけなすぎるぅぅぅぅぅぅ!!」

断末魔の声をあげ、ズ・バヅー・ズは爆発四散した。

「ふう…。」

変身を解除し、漆黒姫は安堵の溜め息を漏らす。空気王も同じように、龍騎の変身を解除していた。

「よっしゃ、タイミングばっちり!きれいに決まったな!」
「ええ。」

空気王が指しだした手を、漆黒姫はしっかりとつかむ。

「お疲れ様、二人とも。しかし、今回なんのために来たのよ私…。」
「まあ、いいじゃないか。父親の働く姿が見られたってことで。」
「毎日見てるんだけど…。というか、テロリストと戦うのは王様の仕事じゃないでしょう…。」

仲良くじゃれ合う、空気王とかがみん。
その光景に和みかけた漆黒姫だったが、大切なことを思い出し空気王に話しかける。

「あの、空気王様…。」
「んー?どうした?」
「お願いがあります。あなたが持っているその龍騎のデッキ、元は我が騎乗士の国の宝具であったのが、戦争の混乱で行方知らずになったもの。
どうか我が国に返還を…。」
「なるほどね。当然の言い分だな。」
「では…。」
「だが断る。」

空気王の口から発せられたのは、はっきりとした拒絶の言葉。

「え…?なぜです!」
「これは何も盗んできたわけじゃない。きちんとした取引で入手したものだ。
それを無償で他者に引き渡すというのは、これを自分に渡してくれた人間に対して失礼になる。」
「ですが、それが元々騎乗士の国の所有物であったということははっきりしています!
ならばそれを返してもらうのは、当然の権利です!」
「違うな。元の持ち主が誰であれ、これは法に則った手続きで自分の手に渡った。
今の所有権は自分にある。」
「それでは道理が通りません!」
「いや、これが商売人にとっての道理だ。
それが君の道理とぶつかるというのなら、どちらかが妥協するしかない。
そして、自分に妥協する気は全くない。」
「くっ…。」

先程までの空気はどこへやら、険悪ムードが漂う二人。
見かねて、かがみんが仲裁に入る。

「まあまあ、二人とも落ち着いて…。父さんも、子供相手に本気で口げんかしない!」
「別に喧嘩してるつもりはないんだが…。まあ、かがみんがそう言うならこれ以上はやめようか…。
とりあえず、自分にこれを手放すつもりはない。それだけは言っておく。」
「どうしても、ですか…。」
「ああ。何がなんでも取り返したいなら、せめてあと3年したらまた来い。
今の漆黒の旦那じゃ、経験不足で相手にならないって。」


そう言うと、空気王は他の二人に背を向けて歩き出す。

「ちょっと、どこ行くのよ父さん!」
「一応、被害が出てないか確認してから帰るわ。おまえらは先に帰っておけ。
漆黒の旦那ならバイクの運転できるだろ?」
「ええ、一応は…。」
「それじゃ、よろしく。」

振り向くこともなく、空気王はその場を去っていく。
そして、残されたのは二人。

「ごめんなさいね、漆黒姫。うちの父さん、仕事のことになるとやたら頑固で…。」
「いえ、別にかがみん姫が謝ることではないのですよ。
空気王様の言っていることも、納得は出来ませんが理解は出来るのです。」
「そう言っていただけると助かるんですけどね…。」

つい、苦笑いを浮かべるかがみん。

「それより、ちょっと気になることがあるのですが…。」
「なんです?」
「空気王様、僕のことをさっきから『漆黒の旦那』と呼んでいるのです。
昨日までは『漆黒姫』だったのに…。一体、どういうことなんでしょう?」
「ああ、そんなことですか。」

かがみんの苦笑が、微笑に変わる。

「旦那っていうのは、父さんが実力を認めた男の人に対して使う敬称なんですよ。
ちなみに、女の人の場合は姐さんです。
つまり、父さんは漆黒姫のことを一人前の男として認めたんですよ。」
「一人前…ですか。」

漆黒姫の顔が、わずかにほころぶ。

「嬉しそうですね。」
「はい!嬉しいです!」
「あはは、素直ですねえ、漆黒姫は。」

再び訪れる、和やかな空気。
1月の朝にしては暖かな風が、二人の頬をなでていった。


(BR230/04/phase:01) 書き手ロワ国
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あの戦いから三ヶ月。その後、書き手ロワ国に大きな事件はなく、漆黒姫も穏やかな日々を過ごしていた。
しかし、安息の日々は長くは続かなかった。
情報収集のために騎乗士の国に赴いたネームレスが、かの国の治安が再び悪化しつつあるという報告を持ち帰ったのである。
それを知って、黙っていられる漆黒姫ではなかった。
即座に荷物をまとめ、騎乗士の国への帰還を決意したのである。

そして、出発の日。漆黒姫は城の前で、空気王たちの見送りを受けていた。

「寂しくなるねえ…。向こうでも頑張るんだぜ、漆黒の旦那。」
「何かあったら、すぐに連絡するのよ、漆黒くん。私に出来ることだったら、なんでも協力するから。」
「私も、影ながら応援してますね。」
「空気王様、かがみん姫、みWiki姫、ありがとうございます。
では、僕はこれで…。またいつかお会いしましょう!」

深々と頭を下げてから、漆黒姫は後ろで待っていた馬車に向かう。
ちょうど仮面ライダー書き手から発注を受けていたバイク・サイドバッシャーが完成したため、それを運搬する馬車に便乗することになったのだ。

(書き手ロワ国…。国の雰囲気そのものも、住んでいる人たちも、本当に素晴らしかった…。)

馬車の中で揺られながら、漆黒姫は思う。

(いつか騎乗士の国も、あんな国にしなければ…。そのために、僕は戦い続けよう…。民を守り、国を守る仮面ライダーとして!)

新たな決意を胸に、少年は本来の居場所へと戻る。
果たして、書き手ロワ国での生活は彼にどんな影響を及ぼしたのか。
それを語る者は、まだいない。

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最終更新:2009年04月24日 22:34
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